骨折り損の…。

「有言不実行」の代名詞で有る安倍晋三が勝って仕舞い、「言論の自由」の真の意味も知らない新潮45の様な雑誌が平気で出版される(新潮45があの杉田擁護論文掲載を「言論の自由を守る為」と言い訳するなら、現代社会で適用されて居る「差別用語規制」を全撤廃する運動を、直ちに立ち上げるべきだ…悔しかったらやってみろ!)、見栄とカネの日本…「終わってる感」有り過ぎで、最近帰国した事を後悔し始めて居るが、いやいやアメリカも同じ。

「淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし」を信じたいが、これ如何に…然し日本と云う国は、首相然り何かの会長然り、何故ここ迄「任期」を設けたくないのだろうか?

そんな中現代美術家杉本博司氏が、日本美術史に興味の有る方なら垂涎且つロマンティック極まりないプロジェクトを遂行する為の、クラウド・ファンディングを行なっている。そのプロジェクトとは、「杉本博司と探す!安土城図屏風プロジェクト」(→https://www.makuake.com/project/sugimotohiroshi)。

この「安土城図屏風」は、僕も死ぬ迄に是非共観てみたい屏風なのだが(拙ダイアリー:「OMEN:前兆」前・後編参照→http://d.hatena.ne.jp/art-alien/20110930/1317403774)、若しかしたら夢が叶うかも知れない!何卒皆さんのご支援を、お願い致します!


と云う事で、今日も先ずは恒例のアート覚書から…。


ー展覧会ー
・「没後50年 藤田嗣治展」@東京都美術館:藤田が死んで50年と聞くと、所謂「近代絵画」の時代も遠く為った気がする。その50年を記念しての大回顧展だが、流石見処が多い。作品は初期から晩年迄満遍無く出品されて居るが、僕が最も気に為ったのは矢張り初期作品。例えば芸大在学中の作品「婦人像」は、岡田三郎助風で美しいし、グリやブラックを彷彿とさせるパリ到着後直ぐのキュビズム作品は、今迄の僕の藤田像を一変させる。そして、お馴染みの白バック作品に至る迄の作風の変遷とその道程は、アーティストの苦悩と成功の道の典型と云えると思う。然し村上隆と云う作家は本当に藤田に似ている…「日本に愛されたい」と云う意味で。

・「Hyper Landscape 超えてゆく風景 梅沢和木 X TAKU OBATA」@ワタリウム美術館:梅ラボとブレイクダンサーでも有るOBATAのコラボ展。梅ラボ作品は相変わらず凄まじい情報量だが、その中でもMIHO MUSEUM所蔵の曾我蕭白の「虹」の作品、「富士・三保松原図屏風」をモティーフにした「彼方クロニクル此方」が迫力満点でスゴい。またKUBOTAの作品は古典的な楠一木造りの彫刻で、何故か「HIPHOP神像」(笑)とでも呼びたく為る。この情報過多の展覧会では、或る意味観覧者が眼の遣り場に困ると云うか、視点が定まらない気がするのだが、実際自分の眼が止まった箇所が「自分に与えられた情報」と考えれば、作品自体が情報を選択して鑑賞者に与えて居るとも云えると思う。必見の展覧会だ!

・「禅僧の交流 墨蹟と水墨画を楽しむ」@根津美術館:室町期の墨蹟と水墨画を中心とするシブい展覧会だが、雪舟、雪村、周文、芸愛等名品揃いで学びが多い。然し日本と云う国は、長い間本当に中国に憧れて居たんだなぁと思う。戦後のアメリカ愛が廃れた今日この頃、今度こそ日本人は日本愛へと向かうだろうか…?


ー音楽会ー
・「ロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団辻井伸行 特別演奏会」@サントリーホール:日本とスウェーデンの外交150年記念のコンサート。この日の曲目は、ムンクテル「交響的絵画『砕ける波』」、ベートーヴェン「ピアノ・コンチェルト5番『皇帝』」、そしてチャイコフスキー交響曲第5番」。さてこのオーケストラは上手いのだが、如何せん音がデカい…そしてそれは辻井の弾く「皇帝」でも同様で、辻井もオケも演奏が良かっただけに、其処だけが残念だった。


以上…と云う事で、今回はたったこれしか藝術報告が無いのだが、それには理由がある…人生初の「骨折」をしたからだ。

それは今を去る事9月頭…某現代美術家のお宅を訪ね、自らの手料理をご馳走に為り、帰り際に茶室に案内された時の事だった。その茶室は玄関から石が敷かれて居るのだが、話が盛り上がりながら歩いて居る最中右足を見事に右側に踏み外し、足の甲を痛めて仕舞った。そしてその日は脚を引摺って帰ったのだが、みるみる内に腫れ上がり、翌朝病院に行くと足の甲の右側の骨折が発覚…何てこった(涙)。

という事で、腫れた足を固めた松葉杖生活が始まり、会社へも顧客の所へも行けず、家でメールと電話、作品調査等の仕事をするが、夜は何処へも行けず暇なので、此処ぞとばかり私的「DVDフェス」を開催。なので、此処からはその「私的フェス」で観たDVDの話を。


・「座頭市」:2003年ヴェネチア映画祭銀獅子賞の、北野たけし監督版。子母沢寛の原作の素晴らしさ、そして勝新太郎の名演を超える事は出来なかろうとタカを括って居たのだが、豈図らんや、エンターテイメント性抜群で、どんでん返し的ラストには爽快感さえ覚える。面白かった!

・「蜘蛛巣城」:「今迄何度観たか?」な黒澤明の1957年の大名作だが、実際何度観ても素晴らしい。ご存知の通り本作はシェイクスピアの「マクベス」を基にした話だが、その後の同様な企画の映画・舞台の何れも本作を凌ぐ事は出来ずに居て、それは何故なら原作からの「藝術的翻訳」が表面的で無く、素晴らしいからだ。そして劇中、美術品は「本物」を使い(山田五十鈴の抱える「根来瓶子」を見よ!)、矢も実際に射る…全ての面で「本物」の持つ凄さを再確認した。

「乱」:黒澤作品をもう一本…1985年、黒澤最後の時代劇映画だ。英国アカデミー賞外国語映画賞、全米映画批評家協会賞作品賞、米アカデミー賞衣装デザイン賞等を獲った本作は、「リア王」と毛利元就の「三子教訓状」がテーマの大作で、「蜘蛛巣城」に勝るとも劣らぬシェイクスピアの芸術的翻訳も上首尾。僕は何時も黒澤の映画に出て来る役柄に「黒澤本人」を見るのだが、本作でも仲代達矢演じる主人公秀虎は間違い無く黒澤の分身で有り、それが余りにも露骨であるが故に、より黒澤的な作品に為って居ると思う。配役の中では原田美枝子のエロティシズムが凄く、原田や風吹ジュン、田中裕子や高橋恵子秋吉久美子樋口可南子等の色香漂う「大人の女優」が最近居なくなったなぁと、熟く思う。そしてそれは男優にも云える事で、本作での隆大介、或いは夏八木勲等の「面魂」の有る役者をもっと見たい。

TVシリーズ探偵物語」全27話:1979-1980年放映の、松田優作主演ドラマ。小鷹信光に拠るコミカルでハードボイルドな原案、SHOGUNに拠るテーマ曲「Bad City」、挿入歌に使われた中島みゆきの「アザミ嬢のララバイ」やアリスの「遠くで汽笛を聞きながら」等の音楽、「工藤ちゃ〜ん」と出て来る成田三樹夫や、後に甲斐よしひろ夫人と為った超可愛い竹田かほり等の個性派俳優陣、ヴィスコンティを語る骨董屋や、僕も散々行った懐かしい原宿のカフェバー「Zest」を根城とする情報屋等のキャラ、その全てがカッコ良く面白い。然し今回一番ビックリしたのは、第1話「聖女が街にやって来た」内で、我が母校のG学園の中高校舎、チャペル内部、小学校のグランド迄ふんだんにロケに使われて居た事だった!クスリ系・下ネタ系・差別系のセリフも多く、今ならとてもゴールデンで放映出来る内容では無いのだが、当時でもカトリック系お坊ちゃん校(僕はカトリックでもお坊ちゃんでも無いが)が良く貸したものだと思う…而も「修道女」の出て来る第1話でだ!(笑)

・「野獣死すべし」:久し振りに観た、村川透監督の1980年角川映画作品。大藪春彦の原作も昔読んだが、ホボホボ違う作品と云っても良いだろうが、全編に流れるショパンと奇妙なアート感、田邊エージェンシー夫人と為ったアンニュイな小林麻美、そして良くモノマネをした、忘れもしないワシントン・アーヴィングの「リップ・ヴァン・ウィンクル」の挿話(「何だ、浦島太郎じゃん…」と当時思った:笑)等、当時斬新だった映像記憶が蘇る。「戦争カメラマン」と云う職業も、この映画で当時初めて知ったのだが、「戦争狂気」を考えたのも、本作と「ディアハンター」だった事を思い出す。

・「遊戯シリーズ」三部作:上と同じ松田優作主演の3作、即ち「最も危険な遊戯」「殺人遊戯」「死亡遊戯」。殺し屋モノなのだが、超ハードボイルドな第3作目を除き、前作2作にはコミカルなシーンも有って、これは「探偵物語」にも出て来るのだが、劇中台詞で「人間の証明」や草刈正雄を持ち出しての他の角川映画へのオマージュや、ダジャレっぽいジョークも多数出て来るのも面白い。

・「蘇る金狼」:角川1979年、村川透監督作品。然し、此処まで松田優作を観続けると流石にワンパターンだが、ヤクに溺れる風吹ジュンの色気、劇中主人公が乗るカウンタック等のスーパーカーは、時代感抜群で格好良い。ラストは「野獣死すべし」と同様に主人公が襲われるのだが(死んだかどうか分からないが)、「バブルっぽい『無常感』」が泣かせる。

・「心中天網島」:ご存知近松門左衛門原作の、ATG1969年篠田正浩監督作品。脚本は篠田、富岡多恵子、そして何と音楽を担当した武満徹!何よりも岩下志麻の美しさが白眉だが、それに付けても本作はATGらしい実験溢れる映画で、黒子が劇中に登場する所や、現代からいきなり江戸時代へと移行する所、勘亭流っぽい書や浮世絵が多用されるセット等、見処も多い。モノクロームの画面も美しい…大画面で観たい一作だ。

・「豪姫」:1992年勅使河原宏作品、主演は豪姫を宮沢りえ古田織部仲代達矢が演じる。勅使河原の大名作「利休」の或る意味後日譚だが、残念ながら作品としての出来は遠く及ばない…残念。

・「他人の顔」:引き続き、勅使河原宏監督の1966年度作品。主演は仲代達矢京マチ子平幹二朗、原作は安部公房。僕は今でも安部公房ノーベル文学賞に値する作家だと思って居るが、「砂の女」共々、勅使河原テイストにピッタリ来る原作だと思う。そして劇中流れる、武満徹に拠る「ワルツ」(→https://www.youtube.com/watch?v=6GTlkrwz9Cg)の旋律も秀逸で、恐らくは武満の映画音楽の中でも最も美しい曲の一つと云って良いだろう。今平野啓一郎氏が提唱して居る「分人主義」を感じさせる処も興味深いし、脚本、構成や映像、美しい生田悦子、そして室内インテリア等の美術もかなり良く、大好きな映画だ。

・「落とし穴」:もう一本勅使河原作品で、これも安部公房原作の1962年作品。こちらは音楽は武満では無く、一柳慧高橋悠治、主演は井川比佐志と田中邦衛佐藤慶佐々木すみ江等。不条理劇の極みの様な作品だが、殺された主人公が幽霊と為って出て来る処等は或る種ユーモラスで、機知を感じる…流石、安部公房。映画としてはまぁまぁ。

・「Nobuyuki Tsujii in 13th Van Cliburn International Piano Competition」:音楽ドキュメンタリー監督ピーター・ローゼンに拠る、2009年にフォートワースで開催された、第13回ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールのドキュメント・フィルム。辻井伸行を含むファイナリストを中心に、コンクール・スケジュールに沿って撮られた非常に良く出来た作品で、本作を見るとコンテスタント達の性格の違い、心理状況等が手に取る様に判る。そんな中でも、辻井のショパンのピアノ協奏曲の演奏と、受賞者発表の最後の最後に辻井の名が呼ばれ、壇上でクライバーンが辻井を優しく抱擁するシーンは、涙無くして観れない。そして、辻井より上手いピアニストは世界に幾らでも居るだろうが、彼が奏でる音楽が「音楽自体が、人間に対する神からのギフト」で有るが判る…人間がピアノを弾く限り。

・「サクリファイス」:もう何回か観た、アンドレイ・タルコフスキー監督の1986年作品。遺作で有る。カンヌで賞を幾つか獲った名作だが、果たして妥当だっただろうか?確かに美しい作品だし、テーマとしても名作には違いないだろう…が、結果として遺作に為ったとしても、このテーマを54歳と云う若さで映画にするのは、如何にも早過ぎたのでは無かろうか?「死を予感させる」作品…これも結果論で観る度にそう思って仕舞うのだが、55歳の僕には深さがイマイチなのだ。

「太陽」アレクサンドル・ソクーロフ監督の2005年度作品で、サンクトペルブルグ国際映画祭グランプリ。はてさて、こんな形で昭和天皇を描いた作品が嘗て有っただろうか?コミカルで、気さくで、心細く、神経質で、チャップリンに似てると称される天皇。然し「人間宣言」とは実際そう云う事な訳で、微笑ましいと思う。そして本作を観ると、劇中の全てが「史実」かどうかはもうどうでも良くて、只々本作に最後に、皇后役の桃井かおりイッセー尾形扮する天皇を引っ張るシーンが何とも可愛く、これが「史実」で有って欲しいと思った僕は不敬罪だろうか?最後に云って置くが、僕は自他共に認める愛国者で、而も「天皇制」賛成派ですから…念の為(笑)。

・「タイマーズスペシャルエディション」:CDとカップリングされた、忌野清志郎のそっくりさん(笑)率いる覆面バンドのライブDVD。久し振りにこのDVDを引っ張り出して来たのには理由が有って、それは某作家氏が、彼等が「夜ヒット」に出た際のYoutubeを僕に送って来たからだった。何しろこの時のタイマーズはファンの間では伝説に為って居て、それは彼等の「原発賛成音頭」が某FM局で放送禁止に為った事への抗議として、「偽善者」と云うナンバーをリハーサル時とは全く異なる、そのFM局を貶しめす歌詞と放送禁止用語連発して、「生放送」で生演奏したからだ!さて、今観返してもタイマーズは本当にカッコ良い…曲も「タイマーズのテーマ」から「偽善者」、「メルトダウン」「イモ」等、心スッキリする曲ばかり。今時こんな気骨の有るロッカーも居ない…嗚呼、清志郎が生きてたらなぁ(涙)。

・「愛と哀しみのボレロ」:久し振りに観たクロード・ルルーシュ監督の1981年度作品だが、本当に素晴らしい!「縒り縄方式」の脚本、ヌレエフやグレン・ミラーカラヤンをモデルにした役柄、ジェラルディン・チャップリン等の俳優陣、そして何よりも本作最後にジョルジュ・ドンに拠って踊られるベジャール振付の「ボレロ」…この映画でベジャールを知った僕は、この後日本で行われた「ボレロ」の公演を観に走ったのだった。全てが優美で深い、3世代を跨ぐ大河ロマン作品の極み…こう云う壮大な映画は、今の日本では絶対に撮れないに違いない。


こんなDVDを観て居る間に、仕事の方は色々進展・変化が有り、僕の会社でのポジションも激変を遂げたのだが、文字通り「骨折り損のくたびれ儲け」に為らなければ良いが(笑)。


ーお知らせー

主婦と生活社の書籍「時間を、整える」(→http://www.shufu.co.jp/books/detail/978-4-391-64148-6)に、僕の「インターステラー理論」が取材されて居ます。ご興味のある方は御笑覧下さい。

*僕が昨年出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで視聴出来ます。見逃した方は是非!→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

最後は「南洲遺訓」で。

8月も気が付けば、もう後1週間弱…と言う訳で、今回は今月経験した「藝術覚書」を。


ーアートー
・棚田康司「全裸と布」@ミズマ・アート・ギャラリー:棚田康司の新作展はキリスト教彫刻、或いは日本の神像を思わせる程、何故か知らねど「神聖さ」をも感じさせる一木造りの女性裸体木彫群。大作も良いが、彩色された女神像群の様に見える女性のバストアップの彫刻シリーズが魅力的…ウーム、欲しいっ!

・「ルーブル美術館展 肖像芸術ー人は人をどう表現してきたか」@国立新美術館:僕は個人的に西洋肖像画に興味が強くて、古くはハンス・メムリンクラファエロ、ベラスケスやアングルから、ベーコン、フロイド迄大好きな画家も多いが、本展には絵画のみならず立体作品も有って楽しい。その中でも、例えばブルボン・ヴァンドームの凄惨且つ美しい石彫「ブルボン公爵夫人」や、アングルの「オルレアン公」、ゴヤの「メングラーナ男爵」やラメの「ナポレオン1世像」等が僕のハートを鷲掴み(笑)。

・「Audio Architecture:音のアーキテクチャ展」@21_21 Design Sight:コーネリウスこと小山田圭吾が作曲した新曲を、9人のアーティストが「翻訳」するのだが、音楽を「構造体」として解析する体験型の展覧会。展覧会自体は少々僕には難しかったが、然しコーネリウスはカッコイイ。

・「特別展 金剛宗家の能面と能装束」@三井記念美術館三井記念美術館美術館には、金剛家旧蔵の能面54面が収蔵されて居るが、その中の白眉は秀吉が所持したと云う、龍右衛門作の「花の小面」。そして本展では同じく金剛家蔵のこれも秀吉所持、「雪の小面」が展示される。秀吉は龍右衛門作の小面「雪月花」3面所持したと云われるが、「月」は行方不明…が、こう云った機会に現れるかも知れない。然し金剛宗家の面のコレクションには、使われてこその「色気」の有る作品が多いが、「雪の小面」以外にも、日光作の「父ノ尉」や龍右衛門「金春小面」、河内作「孫次郎」や檜垣本「深曲」、満照の「蝉丸」や越智「痩男」等、素晴らしい作ばかり…必見の展覧会だ!

・アニメサザエさん展「お祭りサザエさん」@長谷川町子美術館:猛暑の中桜新町まで足を運び、「サザエさん」研究家とご一緒した初の長谷川町子美術館来訪…そして驚くべき展覧会&イヴェントを其処で体験した(笑)。さてお馴染みテレビアニメの「サザエさん」、その冒頭でサザエさんが全国各地を旅して居るのを、ご存知の方も多いのでは無いか?本展は、その中でサザエさんが経験したお祭りやイヴェントを紹介する展覧会だが、何しろレクチャー有り、希少ハガキの当たる大興奮のジャンケン大会有り、サザエさんグッズが貰える射的や輪投げ、そして何と自分の作った家をサザエさんの住む「あさひが丘」に建てられると云う、「花沢不動産あさひが丘分譲」(笑)等、もうファンには堪らない企画ばかりだが、ファンで無くとも十分楽しめた!帰りには近所の通称サザエさんカフェ、「Lien de Sazaesan」で一服。コーヒーと、オモシロメニューの中から「波平さん焼き(小倉)」を頂く。ホッコリとした良い午後でした。

・「藤田嗣治」@Galerie Tamenaga Tokyo :藤田没後50年、そして本画廊の開廊50周年を記念しての展覧会。作家と交流の有った画廊初代が収集した油彩・素描等、女性像を中心とした40点が展示されるが、豈図らんやー番僕の胸を打ったのは、1939年作の「空の上の空中戦」だった。藤田の戦争画は近美でも展示されたのを観て居るが、この美しい「戦争画」には藤田の美的センスが溢れる。小品の多い展覧会だが、藤田の日常の「息」が感じられる展覧会だと思う。都美館も早く行かねば!

・「Defacement」@The Club:ニューヨーク・ベースのアマンダ・シュミットをゲスト・キュレーターに迎えた本展は、12人の作家作品でアートに「新たな意味」を付加する。展示作の内僕が特に気に入ったのは、実はリヒターやウォーホルでは無くベティ・トンプキンズで、ラファエロやベラスケスの名作を汚し、改変するそのアゲレッシヴネスに興味を持った。汚しても美しく有るアートは素晴らしい。

・「桑田卓郎展 湯呑とコップ」@柿傳ギャラリー:Kosaku Kanechika所属のアーティスト、桑田卓郎の展覧会。メタリックを基調とした新感覚の作品群は新鮮で、然し「良いなぁ」と思った作品は既に完売(涙)…が、「非売品」の青白磁の茶碗が美しく、欲しく為る。売ってくれないかぁ?


ー舞台ー
・「歌舞伎座百三十周年 八月納涼歌舞伎 第二部」@歌舞伎座:真夏の三部制の第2部、目玉は猿之助演出・脚本の、「再伊勢参 YJKT (またいくの こりないめんめん、と読むらしい:笑)東海道中膝栗毛」。去年公演された作品の第2弾だが、流石猿之助の脚本は面白く、現代テイストを加えながらも確り歌舞伎に為って居て、かなり面白い!役者も猿之助幸四郎が頑張り、中車は遣り過ぎ感が否めないが、團子と染五郎がそれをカバー…新作歌舞伎の中では、出色の出来と思いました。

・「コーラスライン」@シアター・オーブ:天才振付師+演出家マイケル・ベネットと作曲家マーヴィン・ハムリッシュに拠る、この驚くべきミュージカル「コーラスライン」をニューヨークで初めて観たのは僕の学生時代、ニューヨークにレギュラーに行き始めた80年代前半だったと思う。僕はこの舞台。そして数年後に公開されたリチャード・アッテンボロー監督の映画版に拠って、こう云うミュージカルを作れるアメリカと云う国を理解し、心から好きに為ったと云っても過言では無い。今回久し振りにこの舞台を観て、個性の尊重と差別の撤廃を叫び、地味なラインダンサーにライトを当てた革新的なこの舞台が、今から40年以上前に初演された事、そしてオフ・オフ・ブロードウェイから始まって、「Cats」に抜かれる迄の最長ロングラン記録を立てた事が、如何にスゴい事か再確認した。そして素晴らしい芸術は、何度観ても素晴らしいし飽きない、と云う事も。ダンスや歌のレヴェルは高いし、「One」を始めとする音楽もキャッチーで素晴らしい。そしてこれは脚本の勝利で有り、普遍性の勝利でも有る。嗚呼、泣ける…また映画版が観たくなった。

・「亀井俊雄五十回忌追善 葛野流十五世宗家継承披露 第十回広忠の会」@観世能楽堂:昨年より葛野流大鼓宗家を継承した、亀井広忠師の会。時間の経った今回が継承記念会と為ったのは、シテ方五流派宗家の出演を実現する為だったとの事で、番組を見ても万全の体制だと云う事が良く分かる豪華な出演者、そして演目だった。先ずは梅若実・大槻文蔵・観世銕之丞の三師に拠る、刀を差し白式尉の面を付けない、珍しい「翁 弓矢立合」。千歳には片山九郎右衛門、三番叟は野村萬斎両師と云う超豪華版だったが、亀井師もオリンピックの決まった萬斎師も気合十分で、この曲は「翁」と云うよりは「三番叟」で有った。次は金春宗家による「高砂」…僕が八十一世金春憲和師の舞を観るのは初めてだったが、未だこれからか。その後は辰巳満次郎師と櫻間右陣師の一調ニ番と、宝生宗家の舞囃子「安宅」…和英宗家は貫禄が出て来た。その後は金剛宗家と梅若実師の一調、友枝昭世師の舞囃子「融」、梅若万三郎+観世喜正両師の「江口」を経て、トリはこの日のメイン・イヴェント、観世宗家の「道成寺」だ!観世宗家の迫力ある舞、宝生欣也師のワキ(近年益々亡きお父様に似て来た)、坂口貴信師の鐘後見もカッコ良かったが、然し何度観てもこの「道成寺」はそのサスペンス感、物語とモティーフ、緊張感、乱拍子、其れ等全てが魅力的な、謂わば「能のディズニーランド」(笑)。「コーラスライン」と同様に、脚本と演出の素晴らしい「エヴァーグリーン」は、何度経験しても素晴らしい。広忠師も新宗家として、そして観客も大満足だったで有ろう、濃厚な公演でした。

・益田正洋ギター・リサイタル「Torroba!」@近江楽堂:友人のクラシック・ギタリスト、益田君のリサイタルへ。今回はドミンゴも愛したと云うスペインの近代作曲家、フェデリコ・モレーノ=トローバの曲を中心とするラインナップ。美しい旋律と情熱的なリズムは、益田君のギターに合って居て、程良い大きさのホールに響く。特に最後の2曲、若書きの「ノクトゥルノ」と「ソナチネ」は特に良かった。これらも収録された、今出て居る益田君のCD「モレーノ=トローバ作品集」も必聴だ!

・「佳名会」@観世能楽堂:前日に個人会「広忠の会」を開催した、亀井広忠師のお弟子さん達に拠る素人会だが、大鼓以外はシテ方から囃子方迄プロなのだから贅沢とも云えるし、プロと素人とが一緒に演れる事も、能は矢張り素晴らしい古典芸能だ。今回は広忠師の弟子で、能楽と日本庭園の若き研究者R君が、何と観世銕之丞師の舞囃子「通盛」で打つとの事で、これは見逃せぬ!と拝見。R君の黒紋付姿は様に為って居て、大鼓も確り音が出て居り中々だった。出番後広忠師の弟君の小鼓D宗家から、「孫一さんは大鼓に向いて居ると思われるので、来年この会に出られるのを楽しみにしております」とのメールを受け取った…有難きお言葉ですが、熟考させて頂きます(笑)。

・JAPON dance project 2018 + 新国立劇場バレエ団「夏ノ夜ノ夢」@新国立劇場:友人が舞台美術を担当したダンス公演を観に。原作はお馴染みシェイクスピアだが、僕に取って今も忘れられない「(真)夏の夜の夢」は、ピーター・ブルック演出のモノで、その昔セゾン劇場で観た「テンペスト」と共に、彼の才能を推して知るべし作品だった。さて今回はモダン・ダンス的バレエ作品に為って居るのだが、前半は例えばピナ・バウシュを思わせる振り付けも少々古臭く感じ、尺が長過ぎるとも感じる。休憩後の後半は一転した展開と為り面白かったが、バレエが無ければ山海塾風でも有り、僕にはシェイクスピアを題材とした意味も今一つ分から無かった(僕の理解不足かも知れないが…)。ウーム…あれなら全体で1時間位の構成の方が、ピリッとしたと思うし、態態「シェイクスピア」を謳わず、オリジナルで良かったのでは?観るべき箇所も有ったので、「古典の広げ過ぎた新解釈」よりオリジナルの作品を観てみたい、と云うのが正直な感想。美術の方は、光の反射と映り込みを意識したシンプルな作りで好感が持てた。


ーその他ー
・大美正札会@大阪美術倶楽部:僕は東京美術倶楽部の正札会にはもう何回も行って居て、「正札会」と云う位だから、大阪発祥のモノだと勝手に思って居たのだが、何と大阪では今回が初めてとの事!4000点が並んだ姿は壮観だが、観るのも大変。ひとつ「いい茶碗だなぁ…」と思った高麗茶碗が、聞くとT商店の出品だったのは宜なるかな…僕の眼も利いて来たかなぁ?(笑)

金足農業高校@第100回全国高校野球選手権大会:今回の金足農高の大活躍は、僕の母が秋田出身と云う事も有って、僕を久方振りにテレビでの高校野球観戦へと向かわせた。第一回大会以来103年振りの秋田勢の決勝進出は、其れ迄の秋田県出身者だけの彼等の頑張りと共に、日本国中を応援させるに相応しい感動を伴ったが、結果は惨敗。相手の大阪桐蔭のメンバーを見れば、セミプロ対アマチュアみたいなモノで、そもそもの戦力と選手層が大きく違うし、当然エース吉田投手の疲れも有っただろうが、残念至極で有った。さて、そんな試合後には色々と批判や意見が上がって来て、その1つは吉田投手が1人で800球以上投げた事に対する批判だ。或る解説者や元政治家は「彼の野球人生をダメにして仕舞う」「それを防ぐ為には、100球限度制度を設けるべきだ」等、アホ臭い事を平気で云って居るのだが、果たしてそうだろうか?先ず「100球限度制度」は選手層の厚い学校だけに云える事で、大阪桐蔭みたく他校に行けばエース級が3人位居るチームと異なり、金農にみたいに2番手ピッチャーすら儘ならぬチームにすれば、エースが100球投げた後に滅多打ちされる事、必然…つまり、先ずは高校間の選手戦力の格差を廃し、元来の地元選手中心に戻す事が先決では無いか。また、優勝し二度目の春夏連覇をした大阪桐蔭よりも、負けた金足農の方に取材や報道が多いのは可笑しい、と云う批判も可笑しい。全国からセミプロ級選手を揃え、春夏連覇を二度もしそうなチームを、田舎の地元出身者だけの公立農業高校が決勝で倒そうとした事、負けても其処迄来た事の方が、読者視聴者には感動的だからだ。何でそんな単純な事を素直に考えられないのか、全く分からん。そして最後にもう一言…吉田投手が「炎天下で投げ過ぎて、彼の野球人生が終わって仕舞ったらどうする?」と云う愚問に就てだ。先ず彼がインタビューで語った様に、「どんな天候や状況でも故障しない様に、練習して来た」んだろうし、こんな事を云う人は一度しか無い人生、「ぶっ壊れても良いから遣り通したい」と思った事が無いに違いないし、人生一度でもスポットライトを浴びた事が無かったに違いない。「100球制度」を設けても全投手が田中将大に為れるとは限らないし、最後まで自分が遣り通したと云う実感を人生で得る事も無い。壊れる人は壊れるし、壊れない人は壊れない…これは人生に於ける如何なる仕事でも一緒で、一番大事な事は「最後迄遣り通す事」では無かろうか?

茶杓作り@K大学AO入試:今年も僕が客員教授をして居る美大の、夏のAO入試に立ち会った。この「茶杓作り」の試験も今年で3年目に為るが、毎年18歳の子供達が作る茶杓と、その制作姿勢に驚かされる。茶杓師の指導の下、2日間で茶杓本体と筒を竹から削り出し、銘を考えて筒に墨書する。そして最後は茶室で我等教師が講評した後、実際に自分の茶杓を使って茶を掬い、隣の学生に一服点てて上げると云う「試験」なのだが、もう殆ど「体験講座」に近い。そして、その過程でも子供達の個性が茶杓や銘に如実に見えて非常に面白く、今年も中国や韓国からの留学生も居たにも関わらず、本来ライヴァルで有る所の受験生達は、初日はお互い余り口も利かずに居ても、2日目の朝とも為ると謂わば「工房」の様相を呈し始めるのが面白い。僕も今年も3本目の茶杓を作ったのだが、濃いお茶の好きな僕は、一度に大量の茶を掬える様に櫂先を大きくするので、今回も銘は「パワーシャベル」とした(笑)。


「ボランティアの師匠」と呼ばれる尾畠春夫さんが、行方不明の二歳男児発見した件に僕は大感動!この人は73歳だそうで、何と山根元日本ボクシング協会会長と同い年…同じ73歳でもこんなに違うのか!と思わざるを得ないが、この人の「人」としての凄さは、僕に宮沢賢治の「雨ニモマケズ」と以下に掲げる「南洲遺訓」を思い出させる。


命モイラズ、名モイラズ、
官位モ金モイラヌ人ハ、始末二困ルモノ也
此ノ始末二困ル人ナラデハ、
困難ヲ共ニシテ国家ノ大業ハ成シ得ラレヌ也。


そして僕は、こんな政治家が一人も居ない今の日本に絶望する…今更「薩長同盟」を語る時代錯誤総理と石破氏の討論会ですら、早々に実現しなさそうな、今の日本に。


ーお知らせー
主婦と生活社の書籍「時間を、整える」(→http://www.shufu.co.jp/books/detail/978-4-391-64148-6)に、僕の「インターステラー理論」が取材されて居ます。ご興味のある方は御笑覧下さい。

*僕が昨年出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで視聴出来ます。見逃した方は是非!→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

1+1+1=0.5?

7月18日(水)
10:00 電話会議。然し何度やっても、英語での電話会議は苦手だ。人の顔を見て話せば、その顔つきや息遣い、或いは身振り手振りでより理解が深まるが、例えば英国或いは香港訛りの強い人や、早口の人等の意見を耳だけで聞いて理解し、コメントするのは未だに難しい。

13:00 顧客に見せる為に、古美術商に仏教彫刻の大名品を借りに行く。ウーム、何度観ても素晴らしい!このタイプは中々市場に無く、見つけるのに手間取ったので是非共売りたい。平安時代ってやっぱり良いなぁ…。

14:00 その作品を撮影する。矢張り良い作品は立体的で陰影を持ったイメージが必要だ。こう云う時に、広告代理店時代の経験がモノを云う訳だが、バブル時代に典型的な、ブラックな会社員経験も貴重と云う事か(笑)。

19:00 同僚と自由が丘に向かい、もう20年以上の付き合いの有る日本戦後美術のコレクター氏と和食ディナー。さて今を去る事20年以上前、僕が嘗て日本に勤務して居た頃に、クリスティーズの現代美術オークションにレギュラーで出て居た日本人作家と云えば、今の様に草間・奈良・村上・杉本等では無く、菅井汲や岡田謙三、荒川修作、そして河原温だった。その中でも河原作品は、昔も今も高額商品しか出ない「イヴニング・セール」に出ているのだからスゴい。そして当時、今マーケットを席巻して居る草間や白髪一雄、李禹煥等は、250万円も有ればかなり大きい作品が買えたのだから、市場の変化とは恐ろしい。そんな中、僕は幸いにもニューヨークで「ジョン・D」の夫人だったブランシェット・ロックフェラーの日本戦後美術コレクションの売り立てを経験し、其処で斎藤義重や山口長男、長谷川三郎や猪熊弦一郎、オノサトトシノブや堂本尚郎を知り、斎藤と山口を特に好きに為った。そしてこの晩お会いした顧客は、菅井や山口等の名品を沢山持って居らしたので、当時色々な事を教わったりしたのだが、この日も昔の様にお互い好きな戦後アーティストの話で盛り上がり、誠に嬉しいひと時と為りました。


7月19日(木)
11:30 修復家に会い、某作品の修復をお願いする。この方は「神の手」と云っても過言では無い腕の持ち主。然しこれだけ修復技術が進むと、その内修復がされて居るかどうか誰も判断が出来なく為り、修復の有無が作品の価格に与える影響も無くなるのでは無いか?

14:00 某美術館学芸課長と面談。或る企画を相談する。

15:30 六本木の顧客を訪ね序でに、久門剛史「トンネル」展@オオタ・ファイン・アーツを拝見。「円」と「ズレ」を楽しむ。

16:00 階下の顧客を訪ね、古美術四方山話…そう、この四方山話こそが重要なのだ。


7月20日(金)
9:30 香港のボスと電話会議。今年のクリスティーズの半期売り上げは史上最高らしいが、僕の仕事は今の所絶好調とは云えない。

12:30 久し振りに会う親友Iとランチ。この年に為ると、全く利害関係の無い学生時代の親友の有難さが身に染みる。「検診結果」が話題の中心だとしても、だ…(笑)。

17:30 打ち合わせを兼ねて某美術商を訪ね、箱紐の修理と仕覆を頼んで居た茶碗を受け取る。このお茶碗は、僕の持ち物の中でも来歴も含めて大事な作品で、秋冬にこの茶碗で飲むお抹茶は何物にも代え難い。嗚呼、早く秋にならないかなぁ…。

20:00 山へ貢物に行くと食事をする事と為り、これは謂わば完全では無いとしても禊を終えた感じで、漸く心の平安を取り戻す。神に感謝。

23:00 テレビのニュースで「カジノ法案」成立を知る。これで日本は「博打で金を稼ぐ」、所謂ヤクザ国家と為った訳だ。国に拠る金稼ぎのアイディアがこれしか無いかと思うと、絶望せざるを得ない。何の為の官僚、政治家なのだ…知恵の無い官僚や政治家は要らないよ。


7月21日(土)
12:30 音楽家の友人と、青山の「C」でランチ…エスニックな料理を、多種類のオリーブオイルで楽しむ。

14:00 来月で無くなって仕舞う、麻布の茶の湯者の茶室のお別れ茶会に音楽家と訪れ、一服頂く。カジュアルにもフォーマルにも為るこの茶室、失く為るのは本当に惜しい。

15:30 サントリー美術館で開催中の展覧会、「琉球 美の宝庫」展へ。本展を観ると、その色彩や形状から、今更だが琉球が異国だった事が良く分かる。その中でも、国宝琉球王家尚家の「王冠(付簪)」が特に素晴らしい。

17:00 東京画廊BTAPで始まった、NYの友人アーティスト大岩オスカールの展覧会、「光の満ちる銀座」のオープニング・レセプションへ。久し振りに会うオスカールは、相変わらず細くて物静か…とてもあんな大きなキャンバス作品を制作する男には見えない。一点凄く素敵な絵が有って(絵は当に人を顕す!)、超欲しいと思ったのだが、そう云う時に有り勝ちで、既に売れて仕舞って居た…無念。

18:30 オスカールを囲むディナーに出席。有名コレクターT先生や、文化機関のキュレーター女史、美術誌のI編集長や画廊の方々と共に楽しいひと時を過ごす。驚いたのは、画廊のT氏が骨董屋さんの息子さんだった事。で、序でにI編集長に「『古』美術手帖」企画を話す…実現したいなぁ。


7月22日(日)
11:00 この日は、一日中「1人で」部屋の模様替えを試みる。先ずは猛暑の中、書庫にスペースを作る為に書庫の本と本棚の一部を寝室に移す。やって見ると思ったより部屋がスッキリしたので、寝室に本棚を入れる序でにベッドの位置を変え、家中のアートを掛け替え、ダイニング・テーブルを大きくし、其処に焼物を飾る、と云う大模様替えに発展。さあ、新しい1年へ向けて、気分一新だ!


7月23日(月)
18:00 東京都写真美術館に向かい、NYの知人写真家杉浦邦枝さんの展覧会「美しい実験 ニューヨークとの50年」のレセプションへ。杉浦さんの作品は、60年代から現在まで多様化するが、個人的には70年代後半の作品が好きだ。レセプションでは、もうすぐ何とTATE Modernに移られると云うN氏やディーラーO氏、映画監督のS氏やNYの友人達等にも遭遇。


7月24日(火)
10:00 電話会議。デンワカイギ…デンワカイギ…デンワカ…デンワ…デン…。

14:00 猛暑の中刀剣商を訪ね、甲冑一式を拝見する。某大名家伝来の物で、風格の有る作品だ。作品拝見後は、最近の「刀剣女子」ブームの話…然し若い女の子が列を成して、刀剣の展覧会に来る時代が来るとは思わなかった。そして話は現在巡回中の「エヴァンゲリオンと日本刀」展へと続き、これもまた時代の変化を感じさせるが、日本古美術のプロモーションには大きなヒントと為るのでは無いか?

19:00 25年来の古美術界の友人6人で久し振りに集まり、銀座の中華料理店で食事。こんなグループは業界内でも今時珍しいと思うが、僕の他の5人の内1人は老舗骨董店社長、残りの4人は独立して自分の店を持って居て、皆頑張って居て嬉しい。本当はもう1人、今地元で画廊社長をして居る1番若い仲間が居るのだが、残念ながら欠席…彼は今ちょっと大変な時期なのだが、頑張って乗り越えて欲しいと切に願う。

21:30 食事後、上記面子で並木通りに在る飲み屋「M」へ。此処は、この20数年間僕等がもう何回通ったか分からない店なのだが、其処に昔から居る女性が到頭卒業する(笑)との事で、そのお祝いに駆け付けたのだった。そして懐かしい飲み会も終わり、店を出ると、其処で「桂屋さん!」と知らない男性3人組に声を掛けられ、吃驚する。夜の銀座で知らない男3人に声を掛けられる程怖い事は無いが、「何方ですか?」と聞くと、何と彼等は僕が幼稚園から高校迄を過ごした学校の後輩で、僕の同級生で今はその小学校の校長になって居るYと、さっき迄飲んで居たと云う。世間は狭いが、何で会った事も無いのに僕だと分かったのかと問うと、テレビを見たのだそうだ。もう1年半近く前なのに、若い人は記憶力が良い…と云うか、怖い(笑)。


7月25日(水)
9:00 昨日正式発表されたクリスティーズの本年度上半期の業績は、噂通り半期での史上最高売り上げの約30億英ポンド(約4400億円)を記録した。これは前年同期のドルベースで35%アップで、特筆すべきは全バイヤーの27%が「新規顧客」、そして落札率が84%迄上がった事だろう。またライヴ・オークションでのネット参加とオンライン・オンリーセールを含む、「デジタルセール」の売り上げは8800万ポンド(約128億円)にも上り、新時代の到来を感じさせるが、古いタイプのスペシャリストとしては「モノを見ないで」買う人が増える事に、少々危惧を感じる。顧客地図を見ると45%がアメリカ、24%がアジア、そして31%がヨーロッパと為っており、アメリカが36%増、ヨーロッパ・中東・インド・ロシアが4%減、アジアが24%増(何れもポンド・ベース)、そして売上高ベースではアメリカ59%、ヨーロッパ及び中東が29%、アジアが12%と為って居る。またもう少し特徴的な事を報告するならば、メインランド・チャイナの顧客数が24%増加し、アジア全顧客の60%が東洋美術品「以外」のカテゴリーの作品を買って居ると云った所だろうか。然し世界は狭く為り、格差は大きく為る一方。

12:30 仕事上の頼み事をする為、顧客と「C」で鰻ランチ。鰻巻き、いや上手くやって頂きたい。

18:00 デンワカイギデンワカイギデンワカイギ。


7月26日(木)
9:30 ニュースで、オウム死刑囚の残り6人が処刑された事を知る。死刑も絞首刑も全てが古臭いし、残酷だ。而も13人処刑って、不吉だ…祟られても知らないよ。

11:00 神保町の顧客を訪ねがてら、予てから探して居たアルチュール・ランボオ作、小林秀雄訳の「酩酊船」初版限定本を某古書肆で観る。白革貼、木版で擦られたこの本の装丁は青山二郎で、波をイメージしたデザインも誠に美しい。稀に見る状態の良い本だったので、思わず買って仕舞ふ…あはれなり。

12:00 ダッシュで東京駅に駆け込み、新幹線で京都へ。車中では焼売弁当を頂きながら、ローラ・カミング著「消えたベラスケス」を読む。「スリーパー」は、貴方の側に眠って居るかも知れませんぞ!

15:00 京都に着くと、先ずは骨董街の店2軒を訪ね、店内の作品を横目で見ながらの四方山話。

16:00 某店で今回の出張の目玉、京都画派の絵師に拠る大名品屏風一双を観る。某美術館所蔵の姉妹作品と云っても良い墨絵淡彩の屏風だが、迫力満点で魅力的。この絵師の初期作品では無いだろうか?

18:00 その骨董商と食事に行く直前、祇園界隈のカフェで彼とアイスコーヒーを飲んで居ると、道行く人の中に見覚えの有る顔が…良く見ると旧知の古典芸能関係のお家元で、声を掛けると一緒に食事をする事に。花街裏通りの寿司割烹で、骨董談義有り、舞台話有りの楽しい時間を過ごしました。


7月27日(金)
10:00 朝イチで某骨董商を訪ね、粉青沙器を観る。僕は若い頃一時期韓国陶磁器に心酔した事が有って、色々買って勉強したりして居たが、最近は興味が茶碗と仏教美術に移って仕舞った。が、矢張り良い作品にはかなり強烈な魅力が有る。中国陶磁→朝鮮陶磁→日本陶磁→茶碗→仏教美術と、コレクションが変わる日本人コレクターに偶に出会うが、良ーく分かるなぁ、その気持ち(笑)。

13:00 修復を頼んで居た作品が戻って来る。然し、この方の「直し」は神業だ。彼は「ゼロ」(拙ダイアリー:「『神の手を持つ男』への依頼」参照)か?(笑)

14:00 修復された作品を、オフィスで撮影。オフィスが広いと、こう云う事も出来る。

16:30 新宿の柿傳ギャラリーで始まった、「金重有邦に学ぶ 斿工房 食のうつわ展III」へ。お互いの先代からお付き合いの有る備前焼の作家、金重有邦氏のご子息とお弟子さんで構成された斿工房の器は使い易く、その上芸術性も有り、僕も大ファンだ。今回の展示販売も皿から茶碗迄バラエティに富んだ、魅力的な作品ばかり。会場では陶磁協会のM氏や、老舗古美術店のN氏等にもお会いする…斿工房の注目のされ具合が分かると云うモノ。

22:00 ニュースで、自民党杉田議員の問題寄稿を知る。ニューヨークに長く住んで居ると、子供の有る無しや性差別に関するこう云った発言を聞く事自体が稀なので、驚くやら呆れるやら。本当に日本の政治家の世界は狭く、外の世界を知らな過ぎるから、自分の周りだけでイジイジと忖度したり差別したり、世界の人が聞いたら噴飯モノの行動や発言を繰り返すのだ。然し、集団では何事もトップの人格や世界観が下の者に明から様に出るので、この件が発覚直後に党首から注意や撤回要請が杉田議員に出なかった事自体、ヤッパリ感が強い。外務省が何も云わないので僕が云うが、我が国は大量死刑や子供の居ない人や女性への差別、公文書改竄しても無罪、総理が国会で解明すると明言した事件を完璧に無視すると云う、世界にも稀に見る「珍種国家」として、もう既に外国で散々報道されて居るので、海外に渡航する人は「非難」にご注意下さい。


7月28日(土)
13:00 出光美術館で始まった展覧会「『江戸名所図屏風』と都市の華やぎ」を、若手学者と観覧。同館所蔵のこの「江戸名所図屏風」は、小型ながら躍動感溢れる画風の本当に出来の良い屏風で、この時代の都市図に流行ったと思われる「中屏風八曲一双」の形態を取る。それで思い出すのが、嘗て僕が扱い、今は大阪城天守閣に所蔵されて居る「大阪城下図屏風」で、これもまた中屏風八曲一双の体だった。本展ではこの屏風を中心に「阿国歌舞伎図」や各種「遊楽図」、肉筆浮世絵迄を網羅して、江戸の風俗を鑑賞出来る…必見だ。

16:30 久し振りの歌舞伎座へ。この日の夜の部の演し物は「源氏物語」。海老蔵光源氏を演じるお馴染みの演目だが、まさかこれを歌舞伎座でやるとは…が僕の実感。で、今回は個人的意見では有りますが、かなり辛口に為りますので、ご容赦を。さてこの狂言の謳い文句は「歌舞伎・能・オペラ(+映像)の初の融合」らしいが、残念ながら「表面的コラボ」程虚しい物は無く、僕に取っては本舞台も「1+1+1=3」どころか、「1+1+1=0.5」で有った。さて僕の疑問は、1. 劇中突然外国人オペラ歌手が出て来て、外国語でアリアを歌う必然性が分からない、2. 何故海老蔵だけが口語台詞なのだろう?、3. 能とのコラボと云うが、劇中の一部分に能役者を配して舞わせたに過ぎず、結果能役者出演の必然性も分からない、で有る。真のコラボレーションとは、単なる異分野の寄せ集めとは異なるし、妥協で有ってはならない。「1+1=3」で無ければならないと思う。その意味でも若手中堅の能役者には、正直こう云う仕事に使う時間が有るなら、もっともっと能のお稽古に励んで欲しいと思って仕舞った。日本の文化は深く、人生は一度。能は長く、人生は短い。


7月29日(日)
18:30 某美術館副館長、核軍縮専門家のご夫妻と食事。核軍縮の先生の奥様とは初めてお会いしたが、何と某歌舞伎役者とお仕事をされて居り、嘗ては能のお仕事もされて居たとか。皆さんのプライヴェートなお話も色々聞けて、楽しいディナーでした。


7月30日(月)
12:00 今日はクリストファー・ノーランアーノルド・シュワルツェネッガージャン・レノローレンス・フィッシュバーン、そして僕の誕生日…「誕生日『体格』占い」とか有れば、大当たりだ(笑)。なので、母と弟夫妻、音楽家とバースデー・ランチを天麩羅「Y」で。幾つに為っても親は親、子は子、を実感する。

15:30 某所を訪ね、仏教美術系作品の逸品を観る。伝来もかなり良いし、古様な所も望ましいので、これは「彼処」に勧めよう、と心に決める。然しオーナーの方もモノ好き極まりない方なので、モノに就いて一緒に話し始めると何時も時を忘れる…そしてこれは、この仕事の醍醐味でも有る。

17:30 デ・ン・ワ・カ・イ・ギ。

18:00 ネット・ニュースで、東京五輪の開閉会式のチーフ・クリエイティヴ・ディレクターに野村萬斎師が就任した事を知る。オリンピック・パラリンピックの各々の担当者は、映画監督とCMディレクターらしいが、萬斎師が居る事で「トンデモ企画」には為らない気がするし、そう為らない様に期待する。前から云って居る様に、今回の五輪のそもそものテーマは「復興五輪」「平和五輪」で有るのだから(漸く「この言葉」が聞かれる様に為った)、この所の日本での大きな天災の被害を考えると、矢張り此処は「翁」しか無いと思う。五穀豊穣・平和祈念しか今の日本国は発信出来ないのだから。


初老の誕生日の僕は、美味しい料理、プレゼント、音楽、メール、手紙、そして何よりも暖かい気持ちを胸一杯貰い、「GO!GO!」スタートを切る勇気を得た。そして感謝の気持ちと共に、僕の1年がまた始まる。


ーお知らせー
主婦と生活社の書籍「時間を、整える」(→http://www.shufu.co.jp/books/detail/978-4-391-64148-6)に、僕の「インターステラー理論」が取材されて居ます。ご興味のある方は御笑覧下さい。

*僕が昨年出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで視聴出来ます。見逃した方は是非!→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

世が世なら…。

7月2日(月)
14:00 東博で開催される特別展「縄文ー1万年の美の鼓動」のオープニング・レセプションへ。ここ数年骨董業界は「縄文」ブームで、オークションでもアートフェアでも、土器破片から土偶迄かなり高額に為った。そんな中開催された本展には、「ビーナス」達を始め「流石、東博!」のラインナップが揃い、これは大混雑間違い無しの展覧会に為るだろう。そして展覧会の最後のパートには、アーティストや美術評論家等の旧蔵縄文作品セクションが有って、大変に興味深い。岡本太郎や芹沢硑介、濱田庄司等の愛した、或いは所持した遮光器土偶や土器が並ぶが、特に柳宗悦旧蔵(現日本民藝館所蔵)の「岩偶」が、僕に取っては矢張り最も魅力的な作品だ。この岩偶は、元々芹沢硑介が考古学者だった自分の長男から入手したそうで、その後柳が芹沢から譲り受ける際に「民藝館の全作品と交換しても良い」と褒め称えたらしいが、宜なるかな。またその岩偶を入れる為に、柳本人が弟子の丸山太郎に依頼したと云う「卵貼漆収納箱」も素晴らしいので、必見だ!


7月3日(火)
12:00 顧客と日比谷の「B」でランチ。この「B」は、僕が良く行く代官山「A」の支店なのだが、この店に伺うのは初めて。魚介類が中心のメニューは代官山店と変わらず美味しいし、涼しく為れば公園を見下ろすテラスも気持ち良いに違いない。見知った店員さんが居るのも安心。

14:00 重要顧客を訪ねてのミーティング。何事も「そうは問屋が卸さない」のは世の常…さて、どう為る事やら。


7月4日(水)
12:00 久し振りに母と会い、その他2人も加わって紀尾井町の「R」でランチ。「R」が鮨懐石を始めたとの事だったのでそれを頂くが、矢張りこの店のシグナチャーは鮎。

18:30 現代美術家カップル、茶の者カップルと麻布十番の「T」で3世代(40-50-60代)ディナー。美味しい餃子や酢豚、麺を頂いた後は、今月一杯で移転して仕舞う茶の湯者の茶室を訪れ、名残の茶会を催す。禅僧墨蹟に見間違えそうな茶の湯者のご先祖様の一行書や、「出舟」を表した砂張釣船花入、素人には一見土鍋と見間違えられそうな(笑)京焼の水指で設えられた思い出深い茶室に入ると、先ずは濃茶を頂く。茶碗は黒平茶碗で、タップリとした釉が美しく、破れた窓の様に節に穴の空いた武将作の茶杓を用いて茶の湯者に拠って点てられた、香り高い濃茶が映える。薄茶に移ると、大きさも手頃な高麗茶碗、味の有る唐津系の茶碗等が呈され、この茶室の思い出話に花が咲く。結局僕達の話は深夜前迄続き、その帰り際、各々が芳名帳に一言を添えて記名したが、僕は自分の名前と共に「この日」と茶の湯者の未来を祝す為に「独立記念日」と書き添え、思い出深い茶室を後にした。


7月5日(木)
9:00 顧客がオフィスを訪れ、コレクション・セールの提案をする。何とか請け負いたいセールなので、気合いが入る。

14:00 この日の午後はお休みを頂き、オペラシティ・コンサートホールで開催された、エフゲニー・ミハイロフ&ベルリン交響楽団のコンサートへ。余りパッとしないシベリウスフィンランディア」、スメタナモルダウ」の後は、愈々お目当てのラフマニノフピアノ協奏曲第2番」。ミハイロフ のピアノは優しく情熱的で、ラフマニノフの曲に必要な「タメ」も充分に有り、非常に素晴らしい。ラフマニノフの2番は嘗て僕が少年だった頃、ワイセンベルグカラヤンベルリンフィルと競演した、72年録音のEMI盤で知った。このEMI盤は今迄何回聴いたか分からない程、僕に取っては未だに如何なる録音もライヴも凌ぐ事が出来ない名盤なのだ。ミハイロフは、アンコールのチャイコフスキーくるみ割り人形」も素晴らしかったが、オーケストラが優秀だったら尚良かったのに…と悔やみながら初台を後にした。

18:00 音楽会に行った友人と、夕食前に麻布十番商店街を歩いて居ると、向こうから見覚えの有る人が歩いて来て、良く見ると某美術館主任研究員のK氏。何でもお子さんの保育園の帰りだとか…仕事をしながらの子育てとは偉い!その後は友人と焼肉を堪能…「サーロイン・ユッケ」や「肉の炙り握り」、ザブトン、イチボ、「赤身サーロインすき焼き」等を堪能する。極楽、極楽。


7月6日(金)
9:00 テレビで、麻原彰晃を始めとするオウム真理教関係者7人の死刑囚の処刑を知る。突然のニュースだったが、湯河原の別荘検分に行った時にお会いした作家Tさんから頂いた新刊がオウム死刑囚に関する物だったので、余りの偶然に吃驚。僕は若い頃は死刑賛成派だったのだが、年を取るに連れて「死刑」の虚しさと「矛盾」を感じ始め、今は何方かと云うと否定派。当たり前の話だが、重罪者を殺しても被害者が生き返る訳では無いので、「死刑」にする位ならより「命懸けの」社会貢献・社会奉仕的な、例えば原発事故の処理仕事や臓器提供、新薬の臨床実験と云った「命の代償」的贖罪に代替出来ないのだろうか、等と思う。また「何故今?」と云った質問に対する法務大臣の曖昧模糊とした答弁(にすら為って居ない)も、全く理解出来ない。こう云った所を、メディアは国民に代わって徹底的に問うべきでは無いか?本当に日本のメディアはレベルが低く腰抜けで、心底ウンザリする。そして僕は、世界からの死刑執行に対する批判に対する日本国の代表として、執行直後メディアからの問いかけを無視した総理に、その答えを聞きたい…前日死刑執行を報告されても、パーティーで呑んだくれてる位だから、無理だろうけどね。

23:00 ワールドカップ・サッカー「フランスーウルグアイ」戦を観る。「フランスーアルゼンチン」戦でも思ったが、これだけ白熱した良い試合が多いと、日本人7割が肯定する「日本ーポーランド戦」が、今回のワールドカップに於ける「最も『酷く、醜い』試合」だったと思わざるを得ない。然もベルギー戦が素晴らしい試合だっただけに、日本チームは拭い得ない汚点を残した感が強い。そしてあれだけ褒め称えられた西野監督が代わるそうだが、そんな所も日本サッカーの「行き当たりばったり感」満載で、これじゃあ世界では通用しないよ…(嘆)。然しベスト16に行くと「1200万ドル」の賞金が貰えて、グループリーグだと「800万ドル」止まりらしいから、勿論金の為だけじゃ無いんだろうけど、「あんな試合して迄も、決勝トーナメント行きたいのか…」と正直思って仕舞う。何だかなぁ。


7月7日(土)
13:00 行く筈だった京都出張が、大雨の為に延期に為る。祇園近くの古美術商の顧客に拠ると、鴨川の遊歩道も川に同化し、見えない程だとの事。中国地方も人も多く亡くなり、被害甚大の様で心配だ。

18:00 読んで居た「文學界」6月号所載の平野啓一郎の新作、「ある男」を読了。ドキュメンタリーを読む様な感覚で読み進んだ本作は、戸籍交換、在日差別、死刑制度等の社会問題と、そして作者が拘る「弱者」「アイデンティティ」と「愛」に就いて、読者に重く問いかける。他人の人生を理解するのは至難の技だが、実は自分のそれを理解するのもそれと同様に難しい。また同時進行する「愛」の問題も、「社会」と「個」の問題と密接なるが故に、多重性を持って、そして粘着性を持って肥大化して行くのが息苦しい。然しそれでも本作には平野作品に毎回感じられる暖かさが満ちて居て、「前だけを見る」生き方を強く推奨して居る様に思える…それは、未来を生きる事で過去をも変えられるから、に違いない。


7月8日(日)
11:00 久し振りに父の墓参。墓参りをすると、何か贖罪的な感じが有って、気分が良い。帰りのタクシーの中では、身体の細い老齢の運転手に「自分は嘗て、警官と取っ組み合いをする程の「武闘派」だった」と云う話をされたので、ひっそりと彼の顔を見ると、最近の日本人には見る事の出来無い「面魂(つらだましい)」が有ったので敬服する…男の顔は「履歴書」だ!因みに僕の学生時代、友人の女の子の母親が「男の顔は『履歴書』、女の顔は『領収書』なのよ!」と云って居たのを思い出した…どう云う意味だったんだろう?(笑)

12:00 墓参後は実家に行き、母とランチ…久々に食べたローストビーフに舌鼓を打つ。食事の後は2人で「なんでも鑑定団」を観るが、母親の眼が鋭く、真贋そして価格の高低をズバリと当てる。矢張り「数寄者(スキモン)」は違う、と実感。

19:00 どうしても寿司が食べたく為り、結婚式帰りの音楽家を誘って、行き付けの寿司屋「K」で食事。披露宴でフルコースを食べたから、三貫位で良いと云って居た音楽家は、食べる程に食欲が出始めたらしく、結局「前言撤回」と云う言葉では済まされない程の量を食べたので、デザートは抜き、では無くお持ち帰りと為った(笑)。


7月9日(月)
13:30 迎えのタクシーに乗って、箱崎へ。今日からアメリカ出張。

15:30 UAのカウンターでチェックインしようとしたら、何と乗る筈の便に僕の名前が無く、別の都市経由の便に勝手に変更されて居た。驚いて聞くと、僕が行く筈だった都市から出る乗り継ぎ便がキャンセルに為ったかららしい…おいUA、連絡ぐらいしろよ!変更された便の搭乗時間が元々の便より早かったから、乗り遅れそうだったじゃないか!l

17:00 んで、UAに乗り出発したのだが、ANAに乗り馴れて居る身としては、飯は不味いわ、乗務員の対応は悪いわ、映画も音楽も碌でも無いわで、この先が思いやられる程だったが、とは云え長時間のフライト、仕方無く「トゥームレイダー ファースト・ミッション」を観る。この映画はご存知アンジェリーナ・ジョリーの大ヒット作の「前日談」で、「リリーの全て」でアカデミー賞助演女優賞を獲ったアリシア・ヴィキャンデルが、「大富豪に為る前」のレディ・クロフトを演じる。さてその物語は「卑弥呼の墓を探す」冒険譚だったのだが、最近身近な或る人間が、自身の頭痛を以ってして「低気圧が来る」事を当てられる事から「世が世なら、私は卑弥呼!」と宣うのを聞いて居たので、卑弥呼にこそ興味が有ったのだが、映画はソコソコで、実生活の卑弥呼様の方が遥かに面白かった(笑)。

11:00(現地時間)無事乗り継ぎ都市に到着したが、只でさえ乗り継ぎ時間が5時間も有ったのに、乗り継ぎ便の出発が2時間も遅れると云う。こう云うアメリカ航空事情は、そこいらの日本人よりは知って居た筈なのに、帰国1年足らずでもう耐えられない身体に為って仕舞った。然し、勘弁してよ…。

20:00 乗り継ぎ便の機内で、島田雅彦の新作「絶望キャラメル」を読了。青春ノンストップ的エンタメ作品だが、スピード感が溢れて居て一度も飽きない。然し島田氏は何と「純粋ロマンチスト」なのだろう!

22:30 結局東京の家を出てから、ほぼ24時間掛けて大コレクターで有る顧客宅に到着。大自然の中に建てられ、家中がポップ・アートで飾られた豪邸の、通称「ジャスパー・ジョーンズ・ルーム」に通されると、早々にベッドに倒れ込む。部屋中の作品総額を考えると中々寝付けなかったが(涙)、流石に沈没。明日から頑張らねば。


7月10日(火)
7:30 起床…そして「朝起きるとジャスパー作品が目に入り、朝食の為にキッチン・ダイニングへ行くと、リキテンスタインやウェッセルマン、ウォーホルやローゼンクイスト等のポップアーティストの大作を直に観ながら、顧客のお孫さんが作って呉れた朝食を頂くと云う至福」を享受する。

10:00 完璧に保湿された、日本美術がストアされる部屋へと赴き、早速仕事をスタート。今回は買い手顧客の依頼に拠る作品のチェックがメイン。が、作品を観て行く内に、ラックに何気なく置いて有った古い箱が気に為って観て見ると、何とずっと「何処かに有る筈だ!」と探して居た、このコレクション中に於いてクオリティも価格も「ナンバー1」と云っても過言では無い、某大名品軸の旧箱では無いか!吃驚しながら開けると、中からはこの作品の来歴と真贋を完璧にする数々の「極」や展覧会出品記録が出て来て、狂喜乱舞。いつかこの作品をきちんと納めたい。

14:00 今回の訪問のもう一つの目的は、日本美術のハンドリングを此処の管理責任者に教える事。掛軸の巻き方や箱の入れ方、紐の結び方等を教えるが、矢張り興味が有れば外国人でも飲み込みが早い…これで一安心。

19:30 疲労と時差ボケと、久々の腰の鈍痛でダウン。

26:00 この頃から起きたり寝たりの「サイアク時差ボケ」体制に突入。が、メール等の仕事は捗る。が、そうこうしても眠れないので、持って来た朝吹真理子の新作「Timeless」を読み始める事に。固有名詞が非常に多く出て来る不思議な作品だが、人や物の関係の稀薄性が心地よいテンポで語られ、そこはかとないスノッブ感に溢れて居て、読み進むに連れ、何故かその無機質な世界へと引き込まれる。


7月11日(水)
7:30 結局、寝たり起きたりを続けた末に起床。

10:00 再び作業開始。今日は木彫作品を中心にチェックする。然し此処のコレクションは、何度観ても凄い。

19:00 コレクターのお孫さん夫妻のご招待で、満天の星空の下、街に出掛けてのディナー。外に出て見ると、何となく焦げ臭い匂いがしたので、聞いてみると、10日前に起こった山火事が未だ鎮火せず、燃え続けて居るとの事。で、その方面に目を遣ると、何と山腹で燃えて居る炎が見えるでは無いか!そしてレストランに着いてもその匂いは止まず、然し人々はテラスで優雅に食事をして居たりする…何ともシュールな光景だった。

22:00 6人でのディナーが終わる。僕は「ブラッタチーズとビーツのサラダ」と「ベジタブル・ナッツ・カリー」を頂いたのだが、何しろこの食事時間中に、僕が此処数年頑張ってやって来た大仕事が、遠い日本の某所の理事会で承認されるかどうかと云う状況だったので、味もヘッタクレも無い…メンタル弱いんです、僕(涙)。


7月12日(木)
3:00 前の晩も食事から帰って来ると、眠さと疲労で速攻ダベッド・イン。そして相変わらずの時差ボケで夜中に何度も起きて仕舞い、メールをチェックすると、何と待ちに待った「朗報」が!…泣きそうになる。

7:30 お世話になった顧客宅を出て、帰国の途に。車窓から見える山々には、美しく霞が掛かった様に見えるが、それは山火事の煙…早く鎮火します様に。

12:30 行きとは異なる順調且つ正当な乗り換えで、UA帰国便に搭乗。酷いサービスの代わりと云っては何だが、良き映画2本を観る。先ずは去年の封切りの際に見逃して以来、ずっと見たかったクリストファー・ノーラン監督の「ダンケルク」。台詞もかなり少なく、リアルで息をつく間も無いドキュメント風に見せる本作は、特筆すべき映像美に充ちて居る。そして俳優陣も素晴らしく、僕好みの、例えばジェームズ・ダーシーキリアン・マーフィー等も出て居るのだが、彼等の演技も大変リアル。流石大好きなクリストファー・ノーラン、僕とバースデーが同じだけの事は有る(笑)。そしてもう1作は、驚く勿れ、松岡茉優主演の「勝手にふるえてろ」!綿矢りさの原作を大九明子監督が映画化、その監督が担当した脚本も良く出来て居るが、然し何しろ松岡茉優に「見直した」不思議な魅力が有って、世の中この子より可愛かったり綺麗だったりする子は多くとも、その存在感と演技の才能は中々。「万引き家族」も観ないと。


7月13日(金)
15:30 帰国。余りの暑さに失神しそうに為る。

22:00 罪の無い過去の遺物が現れ、大事な人を傷つける。世が世なら、僕なんか呪術で消されて仕舞うだろう。女王への「貢物」をせねば…。


7月14日(土)
11:30 「Tokyo Antique Fair 2018」@東京美術倶楽部へ。このフェアは今年から1フロアに縮小したが、逆に云えば、厳選された「普通の人にも手が届く商品を扱う厳選した業者」達が集う東西古美術展だ。連休初日な所為か、人はそれ程多くなかったが、例えば「K」の南蛮蒔絵櫃や「R」の李朝掻落扁壺、「K」の新羅仏等魅力的作品も有り、楽しめる。日本美術のファンがもっと増えないかなぁ。

15:00 森美術館で開催中の「建築の日本展」を、某学者と再訪。レセプション時には殆ど見れなかった本展、相変わらずの人の多さだったが、非常に良く出来た展覧会だ。再現「待庵」、家形埴輪、フランク・ロイド・ライト丹下健三谷口吉生、そして桂離宮磯崎新の「桂」の書が欲しい(笑)。

21:00 貢物を女王に奉納しに行く。


7月15日(日)
11:00 骨董好きの現代美術家T氏と、アンティーク・フェア再訪。今回はT氏のお供の筈だったのに、「ミイラ取りがミイラになる」を地で行く感じで、そして「神頼み」的に、某店の或る可愛らしい作品に恋して仕舞う。

12:30 T氏と初台に向かい、オペラシティでランチ後、アートギャラリーで始まった「イサム・ノグチー彫刻から身体・庭へー」を一緒に観る。ノグチという作家は、マティスを彷彿とさせるドローイング等を観ると、矢張り西洋人なのだなぁと思うが、例えば今流行りの土偶を思わせる彫刻や、古墳を思わせる庭や公園等を観ると、彼の人生は「自分の中の日本人」を探す一生だったのだろう。僕は個人的には昔から彼の石の作品が好きだが、もし自分が持つなら「マケット」…そして本展で最も気に入った、そして欲しいと思った作品は、「原爆死没者慰霊碑」のマケットだった。「家形埴輪」から想を得た、現在の慰霊碑の設計は丹下健三に拠るモノだが、実は最初は丹下が推薦したノグチの案に決定して居た。が、丹下の師匠等が「日系アメリカ人」で有るノグチに難色を示した為、丹下がノグチ案をモディファイしたのが現在のデザインらしい。展覧されて居るこのノグチ案のマケットは、本当にシンプルで美しく、静謐な感じがする。これが採用されて居れば、「日米協同の血の慰霊の碑」として存在出来たのに…残念で有る。

19:00 再び貢物をしに、山へ。


「クールジャパン」政策が大失敗だとする、或る記事(→https://sp.fnn.jp/posts/00336110HDK)を読んだ。当然だ…首相を筆頭に、日本のクールな部分を全く判って居ない連中がやって居るのだから。然し税金の無駄遣いにも程が有る!

上にも書いたが、今世の中は「縄文ブーム」…これを機に「呪術」や「占星術」を国政や文化行政に復活させるのは如何か?(笑)僕の出番も多くなるだろうし。

何故なら、世が世なら僕は「陰陽師」だからです…(これ、ホント)。


ーお知らせー
主婦と生活社の書籍「時間を、整える」(→http://www.shufu.co.jp/books/detail/978-4-391-64148-6)に、僕の「インターステラー理論」が取材されて居ます。ご興味のある方は御笑覧下さい。

*僕が昨年出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで視聴出来ます。見逃した方は是非!→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

揺蕩わない心。

気が付けば、ダイアリーの更新もひと月出来ずに、7月に為って居た…ので、今日は先月の藝術+α体験を。


ー音楽ー
・「青少年名曲コンサート」@静岡市民文化会館:友人の招待で訪れた、静岡交響楽団の映画音楽+クラシックの音楽会。後半は日本人大好きのドボルザークの「新世界」だったが、前半は「インディ・ジョーンズ」や「ハリー・ポッター」、「スター・ウォーズ」等のジョン・ウィリアムズ作品が中心の映画音楽特集。他には「パイレーツ・オブ・カリビアン」「バック・トゥ・ザ・フューチャー」「ジュラシック・パーク」、そして「ゴッドファーザー・愛のテーマ」だったが、僕の世代からすると「映画音楽コンサート」のライナップも大層変わったなぁ…」と云う感じ。それでも大好きなニーノ・ロータが1曲入って居たのには感謝感激で(笑)、その昔「サウンド・トラック・レコード」コレクターだった僕的には(嗚呼、嘗て渋谷に在った「Sumiya」が懐かしい!)、このニーノ・ロータヘンリー・マンシーニフランシス・レイエンニオ・モリコーネ、そして最近なら坂本龍一のメロディが聴きたい。映画音楽の「美しい旋律」は、今何処…。

高橋悠治「プレイズ・サティ」@代官山ヒルサイド・プラザホール:偶然にも、サティの命日に開かれた音楽会へ。高橋悠治と云うピアニストは、その昔クセナキスの演奏で知ったのだが、何ヶ月か前にバッハを聞いた時には首を捻った物の、今回はサティと云う事で、いそいそと出掛ける。最近高橋はサティの録音を40数年振りにしたそうだが、その甲斐も有ってか、小さいホールで奏でられたサティは、優しくノンビリと、そしてフワッとして居て、バタバタして居た此処数日の気分転換には持って来いだった。然し高橋悠治と云う人は、何ともキャラクターで有る。


ー舞台ー
山海塾「卵を立てることからー卵熱」@世田谷パブリックシアター:砂と水が落ち続ける舞台の中で繰り返される、静寂の歩行。然しここ数年、山海塾の舞台は海外でしか観て居なかった所為か、日本で観る事に違和感が有ったのは、一体何故だろう?日本の風土から産まれたモノでも、日本に合うとは限らないのかも。

・「第三回 三人の会」@観世能楽堂観世流の三派、即ち観世宗家・銕之丞家・梅若實家にそれぞれ「住み込み」弟子入りし学んだシテ方、坂口貴信・谷本健吾・川口晃平の三師に拠る会。今回は坂口師が能「野宮」、川口師が舞囃子「藤戸」、そして谷本師が能「邯鄲」を舞う。三師の舞は何れも良かったが、特に「邯鄲」は僕の大好きな曲で、「一炊の夢」と云う言葉とその夢の中での「もう一つの人生」の物語が魅せる。最後の舞の途中で、態と床を踏み外しそうに為って目が醒める、と云うのも曲として良く出来て居ると思う。その後は美味しい天麩羅を堪能…極楽極楽。


ー映画ー
・「48 yearsー沈黙の独裁者」@熱海国際映画祭:ニューヨーク時代の友人でも有る砂入博史監督の、熱海国際映画祭特別賞受賞作品。東京高裁に拠って再審請求が棄却された、袴田巌さんの48年間の拘禁生活を振り返るドキュメンタリーだが、重苦しくは無く、観て居る内に何故か袴田さんとヘンリー・ダーガーが被って来たのが不思議だった。それは半世紀にも及ぶ拘禁生活中、誰からも「独裁」されずに自分の世界を構築し、自分が世界の「独裁者」に為らざるを得なかった袴田氏の言動が、或る種「アーティスティック」と云えるからかも知れない。砂入監督、特別賞受賞御目出度う!


ー展覧会ー
佐藤允「+10」@Kosaku Kanechika:個人的にも大好きな佐藤允君の新作展は、タイトル通り10作品。彼の個性は画面から溢れ、観る者をその世界へと巻き込み、魅了する。その意味で佐藤君の作品は、小手先でないアートその物と云えると思う。展覧会後は皆でディナーに出向き、最近良くお会いする外国人ながら国文学の権威、C先生等と談笑。

・「人麿影供900年 歌仙と古筆」@出光美術館:歌仙絵の展覧会。会場では前日会ったルーブルアブダビ学芸員とバッタリ会い、子供のお土産にしたいと云うので、玩具店を教える。展覧会の注目は、「佐竹本三十六歌仙」が3本出て居る事で(2本はいつでも観れます)、特に個人蔵の「山部赤人」(7/1で終わり)は必見。その他にも岩佐又兵衛派の歌仙図や、其一の描表装の大名品も見もの。

・「ミケランジェロと理想の身体」@国立西洋美術館:同展レセプションへと向かう。「ミケランジェロ」と銘打っては居るが、実際は彫刻2点だけの出展なので、ギリシャ・ローマ、ルネッサンスの彫刻展と云える。世界で40点しかないミケランジェロの彫刻の貸し出しは難しいにしても、もう少し身体素描等が有ると思って居たので、そこが残念。

・「朝倉優佳展」@コバヤシ画廊:デザイナー山本耀司とのコラボが話題になったアーティストの新作展。具象と抽象の間の大画面に描かれる、大胆な色彩のストロークが力強い。作家は最近博士課程を終了したらしいので、その論文も読んでみたい。

・「ジャケ・ドロー 創業280年特別展」@銀座蔦屋書店Atrium:280年の歴史を持つスイスの時計メーカー、ジャケ・ドローの特別展レセプションへ。今回にこのご招待は、この展覧会の為に中国清朝乾隆帝にも愛されたこの時計の歴史と美術品的価値に就てコメントした為。個人的に江戸時代のからくり人形に興味が有るので、ジャケのオートマタの素晴らしさや、エナメル細密画に驚嘆する。

荒木経惟「恋夢 愛撫」@Taka Ishii Gallery:最近パワハラでアート界を賑わした、荒木の新作展。98点にも及ぶモノクロームは、荒木が標榜する「私小説」で満ちて居るが、問題と為ったモデルとの関係性も匂わせる。

・菅木志雄「放たれた縁在」@The Club:小山登美夫ギャラリー「広げられた自空」と同時開催の菅展。「もの派」の特徴で有る空間と素材は、時として芸術性を失い「ただ在るだけ」に為りかねない…そしてそれは展示スペースにも拠る、のかも知れない。コマーシャル・マーケットでの菅作品が、非常に興味深く為る展覧会。


ー文学ー
幸田文「台所のおと」:国文学者C先生に教えて貰った、「音」に関わる小説を読んでみた。幸田文の小説を読むのは実は初めてで、僕の知識内では幸田露伴の娘で映画「おとうと」の作者だと云う位しか無かったが、市川崑監督・岸恵子主演の映画作品は、貧しくも小さな家族の愛を巧く描いて居て、中々良い作品だった。さて本作は、病に臥す料理人が、その夫の為に台所で料理をする妻の包丁捌きや料理中の「音」で、妻の感情や身の回りの小さな世界を理解すると云う話で、これぞ短編小説と云う名作だった!特に最後の「雨」と「慈姑を揚げる音」を聞き間違える処等は、秀逸…と思ったら、孫の青木玉に拠ると、それは露伴のエピソードだとの事。それでも素晴らしい一編でした!

宮沢賢治セロ弾きのゴーシュ」:最近チェリストと親交が有る所為か、実家に帰った時にふと自室の本棚で見つけ、恐らくは40年以上振りに読んだ。然し、何て厳しくも優しいお話なのだろう!「人は決して1人ぼっちではない」「精進は報われる」と云ったテーマは普遍で、賢治の死の翌年(1934年)に出版されたのだから、80年以上経った今読んでも心が洗われる。毎晩イライラしながら動物達と特訓する様は、賢治自身もチェロを習って居たらしいから、若しかしたら彼自身の経験かも知れない。今度チェリストに、何が一番イラつくか聞いてみようと思う(笑)。

原田マハ「たゆたえども沈まず」:パリ市の標語から用いられたタイトルは、弟テオを主人公として進む、ゴッホ兄弟の物語。ジャポニズムの主役達、林忠正や若井謙三郎、サミュエル・ビングやゴンクール兄弟、ドクター・ガシェ、フィリップ・ビュルティやタンギー爺さん、そして勿論印象派の画家達が登場し、世紀末パリのジャポニザン事情を背景に、其々37歳と33歳でこの世を去ったゴッホ兄弟の葛藤が語られる。浮世絵と印象派は実はとても良く似て居て、新しさ故のアカデミズムからの蔑視を乗り越えて、芸術として認められた経緯が有る。その当時最もカッティング・エッジな「現代美術」の有り様は、今のアーティストにも参考に為るに違いない。


ーその他ー
・「青花の会」:神楽坂で開催された骨董市。4箇所に分かれての開催なので、夕方歩いて廻るのも楽しい。或る店に飾って有った梅原龍三郎の小品に心惹かれ、最後迄悩むが、結局諦める。骨董も人生も「諦め」が肝心な時も有るのだ(笑)。

・第20回国際浮世絵学会春季大会@法政大学:理事を務めて居ながらも忙しさに感けて居て、久し振りの大会へ。今回は公私共に長年お世話に為って居る京都の版画商、「絵草子」の山尾剛さんが学会賞を受賞されたので、本当に嬉しい。浮世絵自体が江戸町人文化の生まれの為か、京都では余り重要視されない中、その反面外国人観光客も多い新門前に店を構えて、上方・江戸に拘らない「日本」文化を長年発信・継承されて来た功績は大きい。山尾さん、御目出度う御座います!

・アダチ伝統木版画技術保存財団理事会@交詢社:僕が理事を務めさせて頂いて居る、財団の理事会へ。事業報告等を聴くが、昨今摺師・彫師の人材が深刻に不足して居る事に危惧を覚える。折角美大で教えて居るのだから、次の授業で生徒達に問いかけてみようと思う。

・別荘訪問:諸般の事情でもう数十年も行って居なかった、湯河原の別荘を母と訪ねる。運転を買って出て頂いた能楽師夫妻と向かったが、住所が分かっては居ても迷う。母の記憶では「某大手出版社の創業者の御宅の向かい」だったのだが、肝心のその御宅が中々見つからず、終いには能楽師さんのお知り合いで、僕も小説を何冊か読んだ事の有る女流作家Tさんに尋ねて、やっと別荘に到着。彼の地は想像通り「廃墟マニア」が萌えそうな程の荒れ放題だったが、能舞台の鏡板や柱が無事で驚く。子供の頃には泳げる程大きかった(と記憶して居た)温泉を引いた岩風呂は小さく見え、叔母が中村外二工務店に頼んだ茶室には物が積まれて居て入れず、検分は次回に延期。複雑な感情の母の涙が印象的だった。

・ワールドカップ・サッカー「日本VSポーランド」:今回の日本代表は確かに頑張っては居るが、巷の6、7割がこの試合の最後の10分間を肯定して居る事が、僕には到底信じられない。先ず以って、「ルールに反して居る訳では無い」「決勝トーナメントに行く事こそが目的」「これは勝負だから」とか云う意見が有るが、それならば引き分けでトーナメントに行けるこの試合、最初から最後までキーパーとバックスの間でずっとパス廻しをして居れば良い事に為る。「勝負事」とはそう云う事では無いし、負けてこそ学ぶ事が有るのが「勝負事」なのだから、精一杯死力を尽くして戦うべきでは無いか。これでベルギー戦で大負けしたならば、只でさえ世界の笑い者が大笑われ者に為るだけだし、この「セコさ」は今の日本を象徴して居る様で本当に苛つく。大体主力6人も変えて「温存」等、最後迄戦う世界のチームに対して烏滸がましい…彼等は最後の10分間、死に物狂いで「1点」を獲りに行くべきだった。サッカーだけで無く如何なる事でも、レヴェルの低い者が己のその低さを心底知る事が出来るのは、自分よりレヴェルの高い者と「全力」で戦って散る時だけなのだし、そして「地位」とは、「実力」が伴わねば却って恥ずかしいモノなのだから。


今夜の日本代表には「ベスト●●」等と云う下らない波に揺蕩わず、頑張って欲しいと思う。


追伸:先程、桂歌丸師匠が亡くなったのを知った。もう20年程前の話だが、僕が友人の骨董商の結婚披露宴に羽織袴姿で出席した時、宴に途中で新郎が「おいおい、君は新婦の友人席で落語家に為ってるぞ!」と云いに来た。それは何故なら、和服姿の僕が「桂、桂」と会場で呼ばれて居たのと、意地の悪い新郎が「向こうに居る和服のアイツ、桂歌『麿』って云う落語家なんだぜ!」と吹聴して居たからだったが、知らぬ間に落語家「桂歌麿」にされた僕は、仕方無く袂から取り出した扇子を開いて酒を飲んだり、今度は畳んで蕎麦を食べて見せたりして、新婦友人席から盛大な拍手を貰ったのだった…。他人とは思えない歌丸師匠のご冥福を、心よりお祈り申し上げます。


ーお知らせー
主婦と生活社の書籍「時間を、整える」(→http://www.shufu.co.jp/books/detail/978-4-391-64148-6)に、僕の「インターステラー理論」が取材されて居ます。ご興味のある方は御笑覧下さい。

*僕が昨年出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで視聴出来ます。見逃した方は是非!→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

「インターステラー理論」のお陰。

5月14日(月)
11:00 僕が審査員を務めた、昨年の「青森トリエンナーレ棟方志功国際版画大賞」の入賞者、山田ひかるさんの展覧会へ。女子高生を主人公にした少々エグいテーマで有ったりもするが、サー・ジョン・エヴァレット・ミレーの名作「オフィーリア」を思わせる墨一色の木版画は、迫力と新しさに充ちる。

21:00 アメリカ出張の為に羽田空港へ。ラウンジでは現代美術ディーラーのM氏にバッタリ会い、四方山話…そろそろニューヨーク進出との話を聞く。未だ精力的なM氏に感動。

23:00 搭乗し、食事中から映画を観ようとするが、ラインナップがイマイチで、仕方なく「嘘」に関わる邦画2本を観る。1本目の「嘘」は、昨年来同業者から「観た?観た?」と聞かれ続けて居た、中井貴一主演の「嘘八百」。利休所持の幻の楽茶碗の贋物を作って売ると云うコンマン・ストーリーだが、映画自体は安っぽく、何て事は無い…が、『文化庁の人間が「大日如来の一件」で、海外流出に厳しくなった』話や、映画の最後で海外オークションに出そうと企む連中の、「早速クリスティーズが食い付いて来ましたで!」と云った台詞には驚く。特に後者には、「おいおい、一体誰の許しを得て社名使ってるんだ?」と云いたい(怒)。2本目は「Tsutaya Creaters’ Program Film 2015」のグランプリ作品、「嘘を愛する女」。ストーリーは在り来たりだと思うが、主演の長澤まさみ高橋一生吉田鋼太郎がそれなりの演技を見せて飽きない。ただ、『「捨てたく為る程の過去」を持つ人間の痛みは、中々本人からは語られず、其れが無い者には非常に判り辛い』と云う現実を突き付けられる。現在の「生」は、如何なる過去だとしても、その過去の「結果」でしか有り得無いのだ。


5月15日(火:アメリカ時間)
10:00 修復家を伴って、顧客宅へ。相変わらずお元気なご夫妻に会えて、嬉しい。

12:00 顧客家族、修復家と寿司ランチへ。然し寿司は、ここ10年で外国でも飛躍的に美味しく為った。このプロジェクト、是非とも上手く行って欲しい…。


5月16日(水:アメリカ時間)
11:30 顧客家族と再びランチ…今日はステーキだ!80歳をとうに越えたクライアントの食欲は旺盛で、毎度思うが「肉を食べる老人」は須らく元気。岩の様な形状の、然し柔らかいステーキを頂きながら、打ち合わせ。帰りには、素敵なアクセサリーのお土産を頂く。

25:30 某都市空港から帰国便に搭乗。帰りの機内では、阿部寛松嶋菜々子主演のミステリー邦画「祈りの幕が下りる時」を観る。プロットは流石に良く出来て居て、面白い。また松嶋菜々子の可愛さは未だ健在で、僕は実は大好きだったドラマ「Sweet Season」以来のファンなのだが、45歳・二児の母としては、かなり上手く年を取って来て居ると思う。


5月18日(金)
5:00 羽田空港到着。深夜に出発し、寝て、明け方に日本に到着、は中々宜しい。

12:30 久し振りに会う顧客と、某大名品に関する打ち合わせランチ@銀座「G」。今年も始まった「パリソワ」を味わう。この大名品は、僕が人生で観た如何なる作品の中でも美しい作品…良い所に嫁入りさせたい。


5月20日(日)
15:30 静嘉堂文庫美術館で、「酒器の美に酔う」展を観る。中国古代青銅器から、朝鮮・日本の酒器を所蔵品から展示する。が、何と云っても目玉は特別出品の国宝「曜変(稲葉)天目」で、3碗全て国宝として存在する曜変天目の中でも、一際派手で美しい。階下で上映されて居たヴィデオも大変良く出来て居て、勉強になる。その後は学芸員の方と懇談。

19:30 ミッドタウンの「U」で、友人とディナー。食事中、向こうの席で結構な大声で話して居る家族が居て、気に為って見ると、何故かその声の主に見覚えが…良く見ると、何と小中高同級生だったKでは無いか!Kはドイツ人とのクォーターで、Kを含めた3兄弟は皆ハンサムで有名だった。在学当時、兄のCは雑誌「メンズクラブ」、弟のCもモデル、そしてKはこれも当時大流行してた雑誌「ポパイ」のモデルで、最近は大層体重も増えた様だが、カメラのCM等にも出て居たのを見た事も有る。Kと一緒に居たのはご家族で、綺麗な奥様に超ハンサム&美人の息子と娘、流石で有る(笑)。さて、僕が通って居た高校は小中高一貫教育の男子校で、だが僕達の降りる駅周辺には有名女子高が三校位在って、僕の惨めな男子校生活はその事に因って、その悲惨さがほんの少し緩和されて居た訳だが、Kに取ってのその三女子高の存在は、僕の眼には飽く迄も「彼の誕生日」の為に有った、と思える程だった。それがどう云う事かと云うと、Kは自分の誕生日が近く為ると、駅のプラットフォームを僕等とチンタラ歩きながら、「そう云えば、もうそろそろ誕生日だなぁ…」と周りに聞こえる程の声で呟く。すると僕等の誰かが「あれ、いつだっけ?」と聞と、「ああ、来週の水曜!」等とKが答える。そしてまた誰かが「おい、K、最近は何か欲しいモノあんの?」と聞くと、「そうだなぁ、『カウチンセーター』かなぁ?」とこれも少し大きい声で答える。そして迎えた次の水曜日の朝、僕等がまた駅のプラットフォームをチンタラ歩いて居ると、女の子が駆け寄って来て、「Kさん、お誕生日おめでとうございます!」と云いながら、ラッピングされたモノをKに渡す。するとそこいらに居た異なる制服を着た女の子達が一斉に、「K君、お誕生日おめでとう!」とカウチンセーターを持って来るのだ!そしてKは恐らくは20着程のカウチンセーターを貰い、僕等が其れ等を持つのを手伝って、登校するので有った…「人生とは不公平だ」と実感した青春の一コマで有る(笑)。


5月21日(月)
11:00 関西の顧客を同僚と訪ね、色々と作品を拝見しながら、某名品を如何に売るか考える。これはマーケティングが必要だ。

16:00 骨董屋さんを訪ねる。仕事中に頂く、良い高麗茶碗での一服はタマラナイ。


5月22日(火)
11:00 久し振りに南蛮文化館に向かい、展示を拝見。南蛮文化館は今年が開館50周年だが、年に2カ月間しか開いて居ない、知る人ぞ知る美術館。収蔵品は屏風や漆器等、誠に素晴らしい南蛮美術の宝庫。Y館長もお元気そうでした。

13:00 新しく中之島に開館した、香雪美術館へ。学芸員の方にご挨拶をすると、早速開館記念展第2弾の「美しき金に心をよせて」へ。有名且つ超可愛い重文「稚児大師像」から始まり、「これ以上に状態の良い『桃山屏風』が有るだろうか?」位に状態の良い、大好きな「レバント戦闘図・世界地図屏風」迄、最初から最後ま迄、「金」三昧。次回の「茶の道にみちびかれ」も楽しみだ!

15:00 奈良へ向かい、奈良博で特別展「国宝 春日大社のすべて」を観る。云う迄も無く素晴らしい展覧会で、特に絵画パートがスゴい。宮曼荼羅、鹿曼荼羅、社寺曼荼羅を含めて、これだけの春日曼荼羅を一度に観るのは中々無いし、僕が人生で2回だけ扱かった「春日宮曼荼羅」の内の1つが出ていたのも嬉しい。季節は桜の散り際、その桜が見える小さな茶室に横たわり、側には美しく優しい女性、床には宮曼荼羅と出来の良い興福寺千体仏、そして大好きなお茶碗で一服頂きながら、西行の歌を口遊み乍ら、逝きたい…と云うのが、僕が死ぬ時の夢の状況。そうは問屋が卸さないだろうなぁ(涙)。

16:00 某氏のご厚意で、某大名品を倉庫で拝見する。出るのは溜息と感謝の言葉ばかり…。

17:00 近鉄奈良駅への帰りの道で、歩道に居た鹿が、何故か急に物凄い勢いで此方に向かって走り出し、驚いた外国人同僚が引っ繰り返って仕舞う。最近鹿の一群が市街を爆走する映像を見たばかりだったが、実際に体験すると恐ろしい。春日の鹿達は、成る程あの速さと勢いで「鹿島神宮」から来たんだから、そりゃ強いわな。


5月23日(水)
12:30 名古屋の方が居らして、青山のフレンチ「R」でランチ。冬に僕が担当する講座の打ち合わせ。この「R」には初めて伺ったのだが、中々に美味しくて、序でに最後にお抹茶が出て来るのが面白い。そのお点前は、宗和流のU宗匠のご指導との事…お茶事でご一緒したのが、もう懐かしく思われる。

15:30 オフィスで顧客に会い、某作品の契約を頂く。この作品はその分野では最もレアなモノで、価格も高いが世界にももう無い。売れるか知らん?

20:00 長年の友人編集者とチェリストと、蛎殻町の寿司屋「K」でディナー。相変わらず美味いK君のお寿司を摘みながら、チェリストの電車&飛行機オタク話で盛り上がる。


5月24日(木)
14:00 仏教美術専門の古美術商を訪ね、仏像等を観る。然し仏教美術とは不思議なモノで、仏教自体に信仰の無い僕でも惹かれるし、例えば藤時代のモノでも、「良くぞ残って来た!」感が他の分野のモノよりも強い…何故だろう?

15:00 ペロタン東京で開催中のDaniel Arshamの展覧会、「Color Shadow」を観る。天然物質から作り出される彫刻は、石膏や金属、そしてブロンズを含む鋳造作品だが、その素材感の無いぬいぐるみ作品が面白い。

15:30 階上の現代美術画廊で、オーナー氏と懇談。美術品の価値とは、価格が全てでは無い…希少性こそ重要かも知れない。

17:30 ウチの舞台を借りて貰って居る観世流喜多流の能役者2人を、母が招いたディナー@「O」へ。若手ながら実力者のこの2人は、将来の能楽界を背負って立つかも知れない。


5月26日(土)
5:30 迎えの車に乗って、香港に行く為羽田空港へ。ラウンジでは某古美術商とばったり。

9:00 全日空便は、映画のラインナップが良く無い…ので、「コード・ブルー」と云う緊急医療モノの連続ドラマを観るが、何とこれにハマる。ガッキーや戸田恵梨香比嘉愛未が可愛いし、有り勝ちとは云え、ストーリーも面白い。元々医療モノのドラマ好きで、このドラマも悪くは無いが、どう頑張っても「白い巨塔」には敵わない。

14:00 香港到着。蒸し暑い。体調優れず。

22:00 今晩のアジア20世紀&現代美術イヴニングセールは、10億4039万香港ドル(約147億円)を売上げ、これは香港でのこの分野での史上最高価格。相変わらずザオ・ウーキーが強く、中国マーケットも強い…まぁ「アジア」と云っても、バスキアやヘリング、ドイグやボカプーア等も出て居たのだけれど。


5月27日(日)
9:30 今回の香港出張は、ほぼほぼ会議とミーティングに明け暮れる予定。その第1弾は、専門家達と今手掛けて居る某コレクションに関する打ち合わせ。数が多いので、どう捌くか?が問題。

10:30 今回の香港には、大阪美術倶楽部の理事の方々20名が研修旅行で居らっしゃるので、そのお出迎え。美術商には元気な人が多い。

11:00 今日のミーティング第2弾、某個人コレクションに関する打ち合わせ。この仕事はマーケティングとタイミングに掛かって居る気がする。

12:30 ミーティング第3弾。在米コレクションの打ち合わせ。二転三転するこの仕事は、然し僕の仕事の集大成に為るやも知れない大仕事。頑張らねば!

17:30 全世界CEOと、初の1:1ミーティング。フランス人で有る彼は、日本的な仕事スタイルに詳しく、例えば「根回し」と云う言葉も知って居る程(笑)。昨年の僕の大仕事や、今やって居る仕事も承知して呉れて居て、一寸嬉しい。

19:00 大阪美術倶楽部の方々20名を招待してのディナー@「D」。この場所は中国及び欧米の現代美術コレクターが作品を飾って居るお洒落な店で、料理はコンテンポラリー・カントニーズ。和気藹々とした、良いディナーでした!


5月28日(月)
10:30 香港での絵最後のミーティング。某コレクションの売却を頑張って来たが、今回のバイヤーとは金額が折り合わず、ギブアップ。残念だが、こんなコレクションは世界広しと云えども他には無いのだから、何時か売れるに違いない!

13:00 香港セールは続くが、別の重要ビジネスの為帰国するので、チェックインしラウンジに入ってムシャムシャ食べて居ると、何処からか「孫一さん!」と云う声が…顔を上げると、其処には友人のアーティストK氏が!K氏はヨーロッパのギャラリー所属で、香港にもアトリエを持ち、クリスティーズのオークションにも作品が出る世界的な作家で、最近はバンドも始めてレーベルも作る勢い。K氏とは、目黒でやった西野達と椹木野衣さんの芸術選奨のお祝い飲み会以来だったが、マネージャーでパートナーのAさんも登場し、嬉しくも偶然な再会でした!

15:00 機内では相変わらず「コードブルー」を観る。観てる内に、ドクターの1人の浅利陽介と云う役者が好きに為って、コメディもシリアスもやれそうなこの役者の、「演技派的演技」の映画を見て観たいと思う。


5月29日(火)
14:00 或る方に招かれ、銀座に在るスイスの超高級腕時計ブランド、「Jaquet Droz」のショウルームへ。このメーカーは1738年の創業と云うから、今年で280年の歴史を持つ。クリスティーズの創業は1766年だから彼方の方が28年程先輩だが、18世紀創業同士と云う事で、何と無く好意を持つ。幾つか作品を見せて貰うが、オートマタやエナメル絵画装飾等も作って居ると云う事で、その技術と美の感覚には、清朝乾隆帝もラッキナンバー「8」のデザインでオーダーしたと云う事実も信用出来る。

19:00 某美術館理事長とそのご友人の一部上場企業の社長氏と、月島で「超下町」ディナー。頂いたのはアジフライ、ハムカツ、マグロユッケ等だったが、軽くサクッと揚げられたアジフライは特に美味く、アジフライ大好物の僕には超ハッピー。


5月30日(水)
16:00 千葉市美術館で始まった、「岡本神草の時代」展のオープニング・レセプションへ。この作家の事は知らなかったが、この大正京都のアーティストは、決して関東には居ないタイプ。浮世絵美人画の流れを汲んでは居るとは思うが、展覧会を観て行くとこのアブナい感じの画風は、幕末大阪の絵師祇園井特を思い出させるし、甲斐庄楠音にも通じる。然し知らない絵師は沢山居る物だ!

18:30 レセプションを終え、総武線快速で帰京。が、東京駅の改札を出る時に、ズボンのポケットに入れて置いた、千葉駅で1万円チャージしたばかりのパスモが無い事に気付く…どうも座席に落としたらしい。慌てて駅員さんに云うと、「乗って来た電車が品川で折り返して居るので、今ホームに戻って折り返しに乗れば、席に有るかも知れない」と云うので、ダッシュでホームに戻ったが、丁度ドアが閉まって仕舞い、満員の乗客を乗せた電車は目前で走り去った。嗚呼、こりゃダメだな…と思い、家に帰ったが、念の為にとJR遺失物センターに連絡したら、何とそれらしき物が届いて居ると云うでは無いか!翌日取りに行く事にする。


5月31日(木)
9:00 「紀州ドンファン死亡」事件を知り、何て「推理小説」っぽい事件かと思う。数十億と云われる資産、本人の死の前にもがき苦しんで死んだ愛犬、3ヶ月前に結婚した55歳年下の妻、家政婦、解剖で分かった覚醒剤の大量摂取、半裸で椅子に座っての死、上階の物音の時刻とと死後硬直の時間差…おいおい、エラリイ・クイーンか?

12:00 今やって居る仕事に関わる某エキスパート氏と、明神下「K」でランチ。この方とはもう長いお付き合いだが、外国の有名美術館のコンサルタントも務める、真のエキスパート。美味しい食事と打ち合わせを堪能する。

18:00 無くしたパスモを受け取りに、東京駅の遺失物お預かりセンターに行く。偶々チャージした時の領収書を持って居たので、その末尾4桁で僕のパスモだと証明され、無事手元に!勿論中身の金額も同じ。然し日本って、信じられない位に、何て親切で誠実な国なのだろう…長い外国生活経験者には、もう涙しか出ない。アメリカだったら有り得ないよ。


気が付けばもう6月…いや、「インターステラー理論」のお陰で「未だ」6月、と云おう。


ーお知らせー
主婦と生活社の書籍「時間を、整える」(→http://www.shufu.co.jp/books/detail/978-4-391-64148-6)に、僕の「インターステラー理論」が取材されて居ます。ご興味のある方は御笑覧下さい。

*僕が昨年出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで視聴出来ます。見逃した方は是非!→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

「熊野(ゆや)」な日々。

4月21日(土)
17:00 某オークションの或るロットが気に為って電話ビッドをするが、儘為らない…残念だった様な、良かった様な(笑)。

19:00 Terada Art Complexのオープニングへ。先ずは3FのURANO…梅津庸一キュレーションのグループ展「共同体について」。梅ラボのキュレーションと有って、自身を含む7人のアーティストの面子も面白いが、残念ながら僕の好みではない。続く山本現代では、小林耕平の個展「あくび・指南」が開催…近年インスタレーション作家として名を挙げて居る小林の作品は、古典落語を基にした物。が、この日の目玉は5FのKosaku Kanechikaで始まった、鈴木親「晴れた日、東京」と「Mirror of Fashion」の2つの写真展だ。パリ在住のファッション・フォトグラファーで有る鈴木の作品は、僕には何故かアートの領域を侵して居る様に見えて、其処こそが興味深い。そして成山画廊とのコラボ企画は、「成山数寄」満載の作品選定で、其処に居るフリークスでさえ美しく愛おしい。必見だ!

20:30 その鈴木・成山両氏をメイン・ゲストに、現代美術家コレクターのS氏やT氏、デザイナーの方やパリのフォトグラファー、そして若くて美しい女優KさんやアーティストS君等と、総勢14名で「T」でディナー…閉店迄盛り上がりました!


4月22日(日)
8:30 朝起きてテレビを付けると、以前舘ひろしが出て居た超ダサい「ハズキ・ルーペ」のCMの新ヴァージョンが!この商品の旧「舘ひろしヴァージョン」は、「娘とパパ」が高級レストランで久し振りに会って食事をする、と云うシチュエーションなのだが(→https://www.youtube.com/watch?v=Wb-FlW4qF0c)、どう見ても「愛人とそのパパ」にしか見えない所がキモい。が、今度の出演者は何と渡辺謙菊川怜と云う「訳あり」コンビで(→https://www.youtube.com/watch?v=wObXLdAjC0w)、もう泣きたく為る位、謙さんも菊川もダサ過ぎる…どうした謙さん、そんなに仕事がないのか?(涙)

9:00 日曜美術館「ヌードがまとうもの〜英国禁断のコレクション」を観る。横浜美術館で開催中の本展、是非とも観に行かねば!だが、番組にいきなり乳首も露わなヌードモデルが登場し、「おいおい、日曜の朝のNHKでか?」と驚く。その上、作家島田雅彦氏が出て来たのにもビックリ…が、良く考えれば今日のテーマにはピッタリか(笑)。久し振りに拝見する島田先生、お元気そうでした。

13:00 国立能楽堂に「観世九皐会別会」を観に。この日のメインの演目は能「戀重荷」と「道成寺」…二曲共僕の大好きな曲で、期待大。この二演目は、双方共「女性の底知れぬ恐ろしさ」を表現して居るので、もう恐怖心無しでは観れない、僕に取っては或る意味「サスペンス・ホラー能」なのだが(笑)、そんな期待は逆の意味で見事に裏切られて仕舞った…。先ずこの日は謡がバラバラで、女性能楽師の声は掻き消されて仕舞うし、間違える地謡も出る始末。そして「道成寺」では、特に乱拍子で小鼓とシテとの間の緊張感に欠け、これは小鼓側の問題かと思うが、致命的。番組全体的にも何処かピリッとした所が無く、大丈夫か?と感じて仕舞う程だった。今後是非とも頑張って頂きたい。


4月24日(火)
10:30 出光美術館で開催中の展覧会、「宋磁ー神秘のやきもの」を観る。宋時代の焼物は中国陶磁器の「美の極致」と云っても過言では無いが、その美しさの大部分は「宋時代」の文化的センスから来る「品の良さ」で、それは日本で云えば平安時代の美術に匹敵するモノだ。青磁白磁・青白磁を代表選手とする、シンプルで壮麗な作品群は必見。

18:30 香港のボスを連れて、森美術館で始まった15周年記念展「建築の日本展:その遺伝子がもたらすもの」の、オープニングレセプション・内覧会へ。然し最近の美術館の「内覧会」とは名ばかりで、物凄い人で溢れ返るケースも多く、何しろこの日も招待客が長蛇の列で開場を待つ始末。「こりゃ、また来なきゃ…」な人出で、展覧会をキチンと内覧出来ずに帰る。美術館にはこの辺に関して、再考を促したい。

20:00 そのフランス人ボスと、神田の弟の店「I」でディナー。久々に打ち解けて話をする。フランス人が苦手と云う人も周りに多いが、哲学的な人が多いので「話せば分かる」事も多いから(笑)。


4月25日(水)
10:30 大雨の中、重要顧客の所へお詫びに。僕の仕事は、感謝を述べるか謝るかの何方かがその大半を占める…はあぁ(嘆)。

15:30 銀座の顧客を訪問し、或る名品に関する打ち合わせ。僕にこの分野の作品が売れるだろうか?

17:00 某ホテルのラウンジにて、僕の永年の夢で有る或る企画に関しての打ち合わせ。江戸を現代に蘇らせるこの企画、何とか実現したい。


4月26日(木)
11:00 今年から名称も変わった、「東京アートアンティーク〜日本橋・京橋美術まつり」へ。先ずは老舗繭山龍泉堂の「土偶展」。ここ数年土偶(及び縄文土器)は大変なブームで値段も高騰、然しその魅力には抗し難い。が、古代モノには何時も真贋の問題が伴い、特に日本では土偶縄文土器の取引の際に、「C14年代測定」のテスト結果等を添えないので(添えれば良いと云う訳では無いが、無いよりは安心出来る気がする)、少々尻込みして仕舞う。その後色々と店を訪ねるが、例えば「花径」では可愛い有元利夫の版画作品に惹かれ、「草友舎」では一瞬古画かと見間違える程に味の有る、不染鉄の観音像に見入る…が、もう売れてた(涙)。

15:00 某コレクションの査定に関する打ち合わせを、オーナーと。是非扱いたいコレクションだ。

18:30チェリストの友人と、焼肉ディナー@銀座「U」。「ザブトン」が余りにも美味すぎて、涙が出そうに為る。

20:00 友人のアーティスト舘鼻則孝氏の、革製品展示注文即売会へ。表参道のスタジオに行くと、新しい皮の香りが購買欲を唆る。僕は彼のトートバッグを愛用して居るのだが、年々まるで日本工芸品の様な味が出て来て、良く為る。今年はリュックが超魅力的。


4月27日(金)
13:00 後輩K君と大阪出張に出掛け、重要クライアントとミーティング。この仕事も早く完結させねば…。

15:00 某古美術商を訪ねて打ち合わせをするが、その時出て来たお茶碗に目が釘付けに為る。「病膏肓に入る」とは、当に骨董数寄に使う言葉だ。然し高麗茶碗とは、何とセクシーなのだろう!


4月28日(土)
13:00 帰国後初めてのゴールデン・ウィークのスタートは、「李朝」展を拝見しに日本橋の「壷中居」へ。伝世の作品で綴られる本展は略完売で、流石朝鮮物の老舗の一言。僕も李朝物は昔から大好きで、嘗ては白磁杯や石箱、華角貼の糸巻等の工芸品も持って居たが、僕が愛玩し今は母の手元に有る三島の扁壺も、実は壷中居来歴のモノ。取り返したいが、敵もさる者引っ掻く者…諦めようか(笑)。

17:00 日本橋の骨董店を巡った後は六本木に向かうと、アートコンプレックスの各ギャラリーを訪問し、ライアン・マッギンレーや高畠依子、榎倉康二等を観る。その後隣のピラミデビルに移り、Kawsをペロタンで観るが、未だにその良さが分からない。国内オークションでもバカ売れと聞くが、一体全体この作家の何処が良いんだろう?

20:00 ホテル内の寿司店「K」で、某美術館関係者と食事。然し美術館内の政治も、外に違わず聞くからに難しそうで、同情する。どの世界も政治に関わらずに生きて行ける事程嬉しい事は無い、と実感。


4月29日(日・みどりの日
10:30 北陸新幹線に乗って、久し振りの金沢へ。今回の目的は、金沢美術倶楽部の百周年を記念した3つの展覧会、則ち「美の力」@石川県美、「Power of Art」@金沢21世紀美術館、「茶事の妙」@金沢市立中村記念美術館を観る為だった。が、その中でも僕の最大の興味は、5年前に根津美術館で開かれた「井戸茶碗展」にも出品されなかった個人蔵、幻の大井戸茶碗「筒井筒」 だ!

13:30 金沢に着くと、早速石川県美の「美の力」展へ。ゴールデンウィークなので大混雑と思いきや、会場の余りの人気の無さと静けさに驚く。そして展覧会はスンバラスィ作品群で、もう溜息の連続…その中でも長次郎黒楽「北野」と赤楽「次郎坊」、奥高麗筒茶碗「子のこ餅」、名越四方釜、井戸茶碗「福嶋」や粉引茶碗「楚白」、斗々屋茶碗「毘沙門堂」等にヨダレが止まらない。

15:30 重厚な展示だった県美を堪能すると、今度は裏の山道を降り、こじんまりとした中村記念美術館で開催中の「茶事の妙」展へ。其処で入場料を払って入ろうとして居ると、後ろから「桂屋さん?」と声が掛かり、驚いて振り向くと何と数日前に京橋骨董祭りでお会いした、某茶道具店の方がお母様といらして居たので有った…世の中、本当に悪い事は出来ない(断言しますが、何もしてません!笑)。そして展覧会の方はと云うと、中々味の有る展示だったのだが、何しろ初めて観る重文大井戸茶碗「筒井筒」に圧倒され、頭がクラクラ。これは僕が今まで観た如何なる井戸茶碗の中でも、最高のモノだと思う。そしてこの茶碗に纏わる有名な話が有って、それは秀吉愛玩のこの茶碗を小姓が落として5つに割って仕舞い、怒った秀吉は小姓を手討ちにしようとするが、其処に居た細川幽斎伊勢物語第二十三段の「筒井つの 井筒にかけし まろがたけ 過ぎにけらしな 妹見ざるまに」を基にした狂歌、「筒井筒 五つにわれし井戸茶碗 咎をば我に 負いにけらしな」を詠み、その場を鎮めたとの逸話。然しこの「筒井筒」、何度観ても素晴らし過ぎる茶碗で、個人的には「喜左衛門」や「細川」よりも優れて居る様に思うし、その風格・品格全てに於いて、最高の茶碗だと思う。そして「個人蔵」で滅多に観る機会が無いと云うのも、この茶碗の価値を高めて居る…「真の名品」は、余り世間の目に晒す物では無い。

19:00 合流した友人と、カウンター割烹の「T」へ。此処は某茶道具商から紹介された何とも云えぬ場所に有る小さな店で、ご主人は大阪の名店「K」で15年以上修行された、ルックスもまるで修行僧の様な方。が、料理は非常に繊細でかなり美味しく、流石金沢の意気を感じる。幸せスグル。


4月30日(月・振替休日)
11:00 東茶屋町へ観光しに。古い遊郭が残るこの街での個人的目玉は、重要文化財の「志摩」…文政2年に建てられたこの建物は、遊興の為の高い天井を持つ、二階建の茶屋だ。良く残って居る物だと思ったが、「現存茶屋として唯一の重文」と云って居たが、「角屋」はどうなるのだ?確かあれも重文では無かったか?

12:30 此方も某茶道具商のご紹介、茶屋町内の寿司屋「M」へ。美味しい季節・地場のネタを、風情の有る店の佇まいで頂く。美味い。ご主人と話すと、近い将来東京に進出するとの事…楽しみだ!

14:00 今回の金沢の最後の目的地、金沢21世紀美術館へ「Power of Art」展を観に。館に着くと物凄い人出に辟易するが、肝心のこの展覧会場には人は疎らで助かる。序でに入り口では、知己の有る茶道具商T氏にもバッタリ。さて会場内は例えば黄瀬戸茶碗「朝比奈」の様な名品も有ったが、出展作品も展示も何処かチグハグな感じで、「売り物」の展示の様に見えて仕舞う所が勿体無い。が、この3館での展示、何しろ気合は伝わった。然し頭に残るのは、何と云っても「筒井筒」…死ぬ迄に一度は茶を飲んでみたいと切望する逸品でした。

15:30 人が多過ぎる21世紀美術館を後にし、兼六園へ…何度来ても良い庭だなぁ。

18:00 今回の金沢旅行最後の食事は、金沢フレンチの「C」で。ご夫婦でやられて居るレストランの味は愛情溢れ、物凄く美味しい。オーセンティックな中にも新しさが宿る、流石のお味でした。

21:00 北陸新幹線で帰京。頭も眼も胃袋も、何と充実した旅だったのだろう…Tさん、今回の金沢グルメ指南、有難うございました!


5月2日(水)
13:00 カレンダー通りの休日の僕だったが、午後は骨董屋さんを廻る。その1人Aさんの所では、自分でももう喉から手が出る位に欲しいと思う、最近見た中では最高級の藤原期の仏像を観るが、世の常で「これ、良いなぁ…」と思う物程高い(涙)。

18:00 久し振りにお会いした、西洋美術のディーラーの方と食事。鉄板焼きを頂くが、70歳を超えて尚お元気でダンディーなお姿に驚く。アートをやる人は若いなぁ。


5月3日(木・憲法記念日
12:30 母と観世能楽堂で、観世喜之家「三代能」を観る。観世喜之師の家と我が家とは、僕の父、叔母2人が先代の喜之先生の弟子だった事、喜正師が学校の後輩な事も有って、お付き合いが長い。連吟「菊慈童」から始まった会は、喜之師の枯れた「鷺」、観世宗家の気合の入った舞囃子「安宅」、そして喜正師が舞う「熊野」へと移る。「熊野」は僕の大好きな曲の1つで(拙ダイアリー:「母の誕生日に『熊野(ゆや)』を思う」参照)、そもそも涙無くしては観れ無いのだが、今回の喜正師の「熊野」は、朗々とした謡に素晴らしい舞の、何とも美しいお能で有った。そして梅若實・観世銕之丞・片山九郎右衛門の三師に拠るお仕舞「三笑」(九郎右衛門師は、近年益々良くなって来て、師は将来観世流を背負って立つと思う)を経て、最後は喜正師の娘さん和歌ちゃんの「合浦」。子供がシテやワキを演じる能に、一流の囃子方が付く…お能のこう云う所が素晴らしい。


5月4日(金・国民の休日
19:00 銀座のステーキハウス「I」で、最近サバティカルから戻られた美術史家H先生、小説家H氏、写真家S氏と食事。今の日本に最も必要な物は何か?…それは「批評」の土壌と、それを実践する勇気だ。


5月6日(日)
16:00 友人と両国に行き、勅使川原三郎の舞台「調べ」@シアターXを観る。本公演は勅使川原とKarasの佐東利穂子が、宮田まゆみの笙の演奏で踊ると云う演目。会場では、最近クラシックコンサートで良くお会いするI先生にバッタリ会い、ビックリ。そして肝心の公演は、正直笙の曲が単調で、少々眠かった。

18:00 公演後は麻布十番に行き、「T」で餃子と担々麺を頂く。此処の餃子は大学生時代から食べて居るが、変わらぬ旨さ。「モチモチー」な食感に歓喜の声を上げる。


5月7日(月)
11:00 理事を務める某財団で、温めて居た企画の打ち合わせ。取り敢えずGOが出て、ヤル気が起きる。

19:00 かいちやう&クラシックギタリストと、久々に青山「D」でディナー。会話中、山口達也の事件以来、僕が「メンバー」と呼ばれて居る事を話すと爆笑されたが、全国の山口姓の方々のご苦労が偲ばれる。

21:00 かいちやうの茶室に場所を変え、お茶を静々と。かいちやうが僕にお茶を出す時に、「孫一さんは、この茶碗に見覚えが有る筈ですよ」と仰るので良く観ると、それは何と僕がもう10年以上前に扱った、和物茶碗では無いか!余りの懐かしさと時を経て再会したご縁、そして在るべき場所に在る為(この茶碗には、かいちやうのご先祖様の箱書が有る)に、存在感を増した姿に感動する。お代わりは、僕がかいちやうに箱書を頼んで居た赤楽茶碗で。そしてその茶碗に付けられた銘は、何と「熊野(ゆや)」…数日前に観た観世喜正師の「熊野」での装束が目に浮かんだ、静かな良い一夜でした。


5月8日(火)
12:00 某美術館長と恒例のランチ@「O」。この日から始まったと云うパリソワとオムライスを堪能しながら、情報交換をする。

14:30 古美術商を訪ね、神道美術の話をたんまりと。最近、数年前に亡くなった某有名美術館長の仏教・神道美術、朝鮮物等のコレクションが市場に出て居て、何れも素晴らしいモノばかりと云う話で盛り上がる。矢張り眼の力は偉大で、それは経済力も必要とする。

17:00 時間が空いたので、ワタリウムで開催中の「理由なき反抗」展を拝見し、その後地下のカフェで和多利さんとお茶。某作家に関する新企画を聞き、興奮する。


5月9日(水)
10:00 その昔父と由縁の有ったご家族のお宅に伺い、お持ちの作品を拝見する。その方は亡き父が大学生だったか助手だったかの当時高校生で、父に1年間英語を教わったそうだ。僕の出たテレビ番組を偶然観て会社に連絡を頂いたとの事だったが、人のご縁とは本当に有り難いものです。

21:00 テレビのニュースで、最近捨てたか捨てなかったかですったもんだして居た、東大食堂の宇佐美圭司作品「きずな」が、結局産廃として電動ノコだかで切られ、破棄されて居た事を知る。全く日本人の芸術に対する民度の低さを露呈する話だが、「誰にも」相談しないで遣って仕舞う事にこそ問題が有ると思う。東大の生協で働いて居る人々の教育・教養レヴェルがどの位かは知らないが、あんな大作を切って捨てて良いかどうか、「誰かに聞くべきでは無いか?」と誰一人も思わなかった事がアンビリーヴァブルで有る。日本の最高学府らしい「東大」、世界の中での取り柄が何か欲しいモノだ。


5月10日(木)
10:00 香港のボスと電話会議。進行中の3つの大仕事に就いて、近況報告。

10:30 今度はグループでの電話会議…カンファレンス・コールのシステムを開発した人間を恨む。

21:00 夜は自宅でゆっくりとしながら、小川洋子の「口笛の上手な白雪姫」を読了。小川洋子の不安な作品は、何時も僕を「非現実的な現実」とでも云うべき不思議な世界へと誘い、何故か「嗚呼、僕だけじゃ無いんだ」と安心させて呉れる。


5月11日(金)
12:00 重要顧客と、「N」で鮨ランチ。この80歳を超えて尚お元気な方と会うと、「俺はまだ若い、頑張らねば」と熟く思う。この方には何時か恩返しをしたい、と切望する方だ。

14:00 神保町に行き、古本屋を巡って或る日本美術に関わる文献を探す。その折、昭和9年に建設社から刊行された青山二郎装丁の「アンドレ・ジイド全集」見つけ、思わず買って仕舞おうかと思うが、状態が余りに悪く断念。僕は小林秀雄作品の青山二郎装丁初版本を実は2冊持って居るのだが、此処迄来ると本ももうアートの領域…だが、価格は非常に求め易くて宜しい。

15:30 以前観た仏像が脳裏から離れず、某古美術商を再訪。夢に迄出て来そうな勢いなので、その晩は家で古い文献をひっくり返して調べ捲る。「ウーム、若しかしたら藤原より一時代前では無いのか?」「来歴は何か有るのか?」…沸々と好奇心が湧き上がり、居ても立っても居られなく為る。良い作品に出会うと、僕は何時もこうなるのだ。


5月12日(土)
9:00 社内メールで、今週ニューヨークで開催されて居た「The Collection of Peggy and David Rockefeller」セールが終了し、総額8億3257万3459ドル(約910億円)を売り上げた事を知る。トップロットはピカソの「Fillette à la Corbeille fleurie」の1億1500万ドルで、個人コレクション・セールとしてのオークション史上最高額と為った売上高も凄いが、何しろこの1000億近い売上金の全てを寄付する所がより凄い…日本じゃとても考えられない。


5月13日(日・母の日)
16:00 ホテル・ニューオータニの寛土里にて開催中の、「前田正博展」を観る。作家ご本人も居らしたので、初めてご挨拶。赤色を使用した水指等が面白い。

18:00 紀尾井町の料亭「R」で、母の日ディナー。食欲旺盛な母と、鮎や季節の料理を楽しむ。


茶碗の銘も偶然だったが、母の日には「熊野」の謡を思い出す…皆様のお母様が、何時迄もお元気で有ります様に。

「老いぬれば さらぬ別れのありといえば いよいよ見まく ほしき君かな」


ーお知らせー
*僕が昨年出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで視聴出来ます。見逃した方は是非!→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。