「謎の屋上建築」と「オークション・スニーク」。

坂東三津五郎丈が入院した。

本当に心配なニュースで、新聞に拠ると脾臓に腫瘍が有るそうだが、1日も早く完治して復帰して頂きたい。三津五郎丈の確実で剽軽な演技、そして素晴らしい舞踊は今の歌舞伎界に欠かせない物だ…ガンバレ、大和屋!

さて、最高に素晴らしい気候のニューヨークに戻って来た訳だが、アパートに着いて久々に窓の外を眺めると、何時もの光景の中に一風変わった「物」が眼に入って来た。

それは筆者のアパートの窓から真っ正面、2ブロック南に在る、嘗て「メルセデス・ベンツ」の低層ビルの販売所の駐車場だった屋上に建造中の、云ってみれば「宇宙船の発着基地」の様にSFチックな建造物で、しかし良く見ると、大きなライトが高いシャフトに数多く設置され、舞台の敷板の様な物も運ばれているので、何かのステージかも知れない…ウーム、この建造物、一体何だろう?

と、首を傾げながらも、日本を発つ朝上野へ買いに走った、小中高の同級生T君のやって居る「うさぎや」のどら焼きを届けに、夜には早速プーさんことジャズピアニストの菊地雅章氏を訪ね、去年のライヴ映像(→⇨http://m.youtube.com/watch?v=jxmR-A-lssM&desktop_uri=%2Fwatch%3Fv%3DjxmR-A-lssM)を一緒に観て、旧交を暖める。

そして仕事の方はと云うと、オークション・カタログも刷り上がって全世界の顧客に届き、そろそろ「コンディション・リポート」の請求や「テレフォン・ビッド」(電話入札)、「アブセンティー・ビッド」(事前書面入札)の依頼が舞い込んで来て居る。

と云う事で、今日はその9月18日開催の「日本・韓国美術セール」のハイライトをご紹介しよう(→http://www.christies.com/sales/japanese-and-korean-art-new-york-september-2013/)。

先ずは屏風から…トップ・ロットは、17世紀初頭・桃山時代の「南蛮屏風」六曲一隻(70万−90万ドル)。鹿島出版会「南蛮屏風」や最近出た「南蛮屏風集成」にも「土佐派」として所載が有る作品で、半双ながら魅力的な作品だ。が、実は「南蛮屏風」はもう1点出品されて居て、此方は17世紀後半の町絵師集団に拠る、より風俗画的な六曲一双(30万−40万ドル)で、色の残りも良い楽しい作品。

また、北斎の押絵貼六曲一双屏風(20ー30万ドル)も捨て難い。左隻は狂言の演目を描いて居るが、この屏風の右隻は、どう見ても「スパイダーマン」にしか見えない「烏天狗」や、「三味線ロック」して居る「蝦蟇仙人」等を配した、謂わば「神仙図」のパロディ画…北斎の「アメコミ」振りが偲ばれる(笑)。

今回は、屏風以外の絵画・軸物も充実して居て、鎌倉仏画、室町期の前島宗佑「立花図」や一休宗純の墨蹟から、琳派北斎の肉筆扇面画帖(25-30万ドル)や写楽の肉筆版下絵等も出品されるが、その中でも写楽の版下絵(30-40万ドル)は、当時大人気だった少年力士「大童山」と谷風を描いた、昔から有名な相撲絵だ。

元来この作品は、寛政7年正月に写楽が忽然と姿を消したが故に、一度も摺られる事の無かった全10枚の相撲版下絵の内の1枚で、他の9枚は当時の大浮世絵商小林文七の元に有り、関東大震災で消失して仕舞う…が、この1枚だけは、史上最大のフランス人浮世絵コレクター、アンリ・ヴェヴェールの元に残された為に被災を免れた、写楽の「生の筆致」を観る事の出来る、貴重且つ運命的な作品なので有る。

そして工芸作品はと云うと、此方もバラエティに富んだラインナップ。

楽茶碗や釜等の茶道具、「姫籠」等の漆工品を始めとし、宝永年間の年記に因って「鳴滝窯」最晩年の制作と判る、原三溪旧蔵尾形乾山の「錆絵松図四方皿」2枚組(10万-15万ドル)も名品。また、藤原期の男神像や家型埴輪、甲冑もクオリティが高く、明治工芸の分野でも柴田是真の最高級漆絵画帖、駒井の超絶技巧象嵌大皿や象彦風書棚、蛇や伊勢海老の自在金具迄、選り取り見取り。

また韓国美術セクションは、今回は少々大人しいラインナップだが、それでも李朝染付筆筒(15万-18万ドル)やキム・ワンキの大作(60万-80万ドル)等が出品される。

注目の下見会は9月13日(金)からだが、14日(土)1時からは、日本クラブ主催の筆者に拠る「ギャラリー・レクチャー」が開催されるので、ご興味の有る方は日本クラブ(212-581-2223:担当金津さん)迄、お問い合わせ下さい。

等と云って居たら、家から見える「謎の屋上建築物」の正体がアパートのコンシエルジュから知らされた。

それは「MTVアワード」のステージでも「モーター・ショウ」の舞台でも無く、はたまた「ファッション・ウィーク」(メルセデス・ベンツが故に)の会場でも無い、何と9月から始まる新しいテレビのプライムタイム・クイズショウ、「The Million Second Quiz」のセットなので有った!

しかし、流石ニューヨーク…野外の、しかも空きビルの屋上に、あんな大掛かりで「スペーシー(宇宙的)」な建造物を、「クイズ番組」の為だけに建てて仕舞うとは…番組が始まる前に、早く双眼鏡を買わなければ(笑)!


◎筆者に拠るレクチャーのお知らせ
●「特別展 京都洛中洛外図と障壁画の美ー里帰りした龍安寺襖絵をめぐって」
日時:2013年11月16日(土)、15:30-17:00
場所:朝日カルチャーセンター新宿教室
講座サイト:http://www.asahiculture.com/LES/detail.asp?CNO=220110&userflg=0

詳しくは、朝日カルチャーセンター新宿教室:03-3344-1941迄。
皆様のご参加をお待ちして居ります!