「ライヴァル」が必要。

重要な単品プライヴェート・セールの為に来再日したが、残念ながら今の所不発(涙)…また頑張るさ!と、気合いを入れ直す僕は、仕事同様アート活動にも粉骨砕身する(笑)。

展覧会では、三井記念美術館で開催中の「奈良 西大寺叡尊と一門の名宝」で、重文「愛染明王坐像」や国宝十二天の内の「帝釈天像」の「白象」にキュンとしたり、都美の「ブリューゲル バベルの塔」展を観ながら、「『バビル2世』は此処に住んで居るんだよなぁ…」とか思い乍ら、主題歌を口遊んだり。そして関西出張中は、超熱心に観て居た仏像数寄で有名なコピーライターI氏に負けない様に、奈良博で待望の「快慶展」を、また再度訪れた藤田美術館の「ザ・コレクション」では「紫式部絵日記絵詞」や「春日明神影向図」を堪能する。

で、現代美術の方はと云うと、寺田アートコンプレックスのオープニングに向かい、SCAIの白石さん達ギャラリストと久し振りにお話しするが、最も印象的だったのはKosaku Kanechikaで始まった「佐藤允 求愛/Q1」展だ!

佐藤の素晴らしいセルフ・ポートレイト作品群は、激しく、センシィティブで、 観る者の心を引っ掻き回して傷を同調させるが、その波動に強く撃たれた僕は、無性に佐藤作品が欲しく為り、切ない気持ちに為る。展覧会後は皆で金近氏主催のディナーへ行き、佐藤氏を始めとするアーティストや美術誌編集長、コレクター達と歓談し鋭気を養った。

観劇活動の方も相変わらず…歌舞伎座の「團菊祭五月大歌舞伎」夜の部では、菊之助の政岡に感動したり、初舞台の亀三郎の可愛さにニヤニヤしたり。また母の日記念に母親と連れだった、世界的建築家I氏も来られた、多武峰談山神社で開催された「談山能」では、美しい自然の中での幽玄に身を任す。片山九郎右衛門師の「神歌」の謡が、今迄僕が聴いた師の謡の中でも最高に素晴らしく、大感動で有った。

さて、ここからが本題…トランプ政権誕生後の、初のニューヨーク・メイン・セールズが先週開催された。そして政権同様不安一杯の下馬評を覆し、セールはそんな噂はどこ吹く風の素晴らしい結果で終わったのだった!

先ずはサザビーズ…僕のイチオシだったシーレが、何と出品取り消しに為って仕舞うと云う(何故だ?)大波乱の有った、印象派・近代絵画セールの週間売り上げは、2億2309万6125ドル(約245億4000万ドル)で、トップ・ロットはマレーヴィッチの「SUPREMATIST COMPOSITION WITH PLANE IN PROJECTION」で、1200万-1800万ドルのエスティメイトに対して、2116万2500ドル(約23億2760万円)。

そして現代美術の方は、4億1202万9375ドル(約453億2330万円)を売り上げ、トップ・ロットはアーティスト・レコード・プライスを記録した、ゾゾタウン・オーナーの前澤氏が購入したバスキア「UNTITLED」の、何と1億1048万7500ドル(約115億2000万円)!…と云う事で、サザビーズの今週の売り上げは、計6億3512万5500ドル(約698億7000万円)と為った。

対するクリスティーズはと云うと、印象派・近代絵画の総売り上げは3億1858万1500ドル(約350億5000万円)で、トップロットは、ブランクーシの「眠る女神」の5736万7500ドル(約63億円)、次点はピカソがドラ・マールを描いた「座る女、青のドレス」の4504万7500ドル(約49億6000万円)。

また現代美術の方は総額5億1901万9000ドル(約571億円)を売り上げ、トップロットはトゥンブリの大名品「レダと白鳥」の5288万7500ドル(約58億2000万円)、大好きだったベーコンの「ジョージ・ダイヤーの肖像の3つの習作」は次点の5176万7500ドル(約57億円)だった。個人的にはこの2点がこの春のニューヨークのベスト・ペインティングズだと思うので、納得に価格で有った。

結局今回の一週間のメインセールズは、8億3760万500ドル(約921億3600万円)を売り上げたクリスティーズが、「ライヴァル」サザビーズに220億円の差を付け、圧勝したのだった!

で、此処からが本題の本題(笑)。それは機内で観た、非常に興味深いドキュメンタリーの事…「ヴィスコンティ VS フェリーニ」で有る。この映画好きに取っては堪らないドキュメンタリーは、2014年フランス制作作品で、イタリア映画黄金時代を築いた14歳差の2人の天才監督の関係を描く。

然し、これ程何から何まで異なる2人も珍しい。片やルノワールに師事したミラノの伯爵家出身のバイ・セクシャルで、オペラを愛する徹底的なリアリズム追求主義者、片やロッセリーニに学んだ田舎の港町出身の無類の女好きで、サーカス好きな夢想者。またヴィスコンティの撮影現場は学校の様に規律正しく、フェリーニのそれはサーカスの様に混沌…そして、この2人は20年以上お互いに反目し、口を利かなかったと云うから深刻な関係だった。

が、この天才達には共通点も多く、例えば彼らはミケランジェロラファエロの様に、同じ職場「チネチッタ」で同時に撮影をし、(このドキュメンタリーでは往年の美貌の見る影もない)クラウディア・カルディナーレや僕の一番好きな映画音楽家ニーノ・ロータも、両監督共通のフェイヴァリット・アーティストだった。

そんなヴィスコンティフェリーニに、1954年に各々が制作した「夏の嵐」と「道」で映画監督としての評価に差が生まれ、例えばヴィスコンティが「甘い生活」中の貴族のパーティー・シーンを観て、「あれは『監督の眼』で見た物では無い…『使用人の眼』で見た物だ」と云う様な対立状況が生まれるが、僕の生まれた1963年に制作された大名作「山猫」と「8 1/2」(両作共音楽はニーノ・ロータ)で、2人は各々カンヌとアカデミーを制し、この辺から両者の関係性が変わって行く。

その後1970年のイタリア芸術祭で、2人は滔々和解し、ヴィスコンティはインタビュアーからの「ご自身ではどんな映画を観られるのですか?」との問いに、「フェリーニの映画だよ」と応える程、実は相手を尊敬して居た事が語られ、「地獄に堕ちた勇者たち」の撮影後病に倒れたヴィスコンティに、フェリーニは心暖かな手紙を出し、その手紙にヴィスコンティが感動した、と云ったエピソードが綴られる。

そしてこのドキュメンタリーの最後には、これだけ異なった2人が生涯に渡って愛した共通の「2つのモノ」がナレーションで挙げられる…それは「マフラー」と「映画」。ライヴァルの存在とは、何と美しいのだろう!

良き「ライヴァル」とは、正にこう云う関係性を云うのだろうし、芸術家に限らずスポーツ選手でもオークション・ハウスでも、コレクターでも政治家でも、腕を競い、意見を戦わせ、その上で尊敬し合える「良きライヴァル」の居ない者には、自分を良い方向に伸ばす術等無いに違いない…どこかの首相を見れば一目瞭然では無いだろうか…(嘆)。

今、政治家が当てにならない日本に必要なのは、総理や官房長官に対する「メディア」と云う名の「ライヴァル」…日本の大メディアよ、もし我が国を愛しているなら、好い加減立ち上がって闘え!


ーお知らせー
*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://comingbook.honzuki.jp/?detail=9784062924337)が、来たる6月9日に「講談社学術文庫」の一冊として復刊されます。ご興味の有る方は、是非!