「過ぎ去った青春の残り香」の力。

12月26日(火)
12:00 某ホテルの寿司店「K」で、母と従姉妹の娘(これを「従姉妹半」と呼ぶのか?)とランチ。相変わらず光物から注文を始めるが、海胆の段に為ると、板さんが今日はバフンウニとムラサキウニが有ると云う。バフンウニは「馬糞海胆」と書く様に、当然見た目が「馬糞」に似ている為の呼び名だが、この馬糞と云う名称を変える動きが有ると云う。馬糞海胆を「赤海胆」、紫海胆を「白海胆」と呼ぶ方向らしいが、これは例えば東京神田の由緒有る地名がドンドン減り、「東西南北」を頭に付けたりして単に分かり易くする為だけの土地名変更に酷似して居る。全く世の中「由来」とか「情緒」とか、「歴史」を何だと心得ているのだろう?


12月27日(水)
10:00 二代に渡ってお付き合いの有る歯科医院で、今年最後の歯のチェック。この歯科医院は、嘗てふと気が付くと皇族のメンバーや政治家、或いは古典芸能の役者等の顔が見えた、知る人ぞ知る歯医者さん。数年前に残念ながらご逝去されたこの歯科医院の先代は稀に見る美男子で、一緒に神楽坂の石畳を歩いて居ると、何処からとも無く粋で鯔背な女性達が出て来て、「あらセンセ、今日はウチに寄って呉れないんですか?」と聞かれる事数限り無かった事が思い出される。当代の若先生が僕と年が近く、共通の友人も多くて、気安い。此処なら嫌な歯のクリーニングも、我慢出来様モノだ。

11:30 部屋の大掃除。元来掃除好きの僕だが、この部屋を1人でやるのはかなり大変…然し部屋に対する7月以来の感謝を込めて、頑張る。

16:00 青山の「誰もして居ない時計」店に向かい、予々欲しくて仕方の無かったセイコー1973年作の腕時計を購入する。この時計はLEDが開発された直後に出された、「グランド・セイコー」の上を行く高級ラインのシリーズのモノで、ブルーのグラデーションのバックにシンプルで品の有る文字盤、漢字に拠る曜日と数字の日付、赤の点滅ライト、そしてまるでダイヤモンドの様に美しく斜めにカットされたガラス…何て品の有る、レトロな、美しい、そして「誰もして居ない時計」なのだろう!購入後、暫く店のオーナーD氏とギークに就て語らい、店を後にする…嗚呼、至福!

18:00 僕が毎年歌舞伎町のおばあちゃん中華「玉蘭(ギョクラン)」で開催して居る、若手アート系忘年会「玉蘭(タマラン)会」の準備の為に店へ。今回幹事的に手伝って呉れる能研究者のR君、同僚のCさん等が集まり、席順等を決める。今年は何と45人の出席者が見込まれて居て、過去最多人数。某大物アーティストや文化官僚も来場する…どうなる事やら。

19:00 「タマラン会」がスタート…が、7時からだと告知しても流石のアート系、時間通りに来る者など殆ど居ない(笑)。三々五々集まって来たのは、アーティストやギャラリスト、建築家、キュレーターや研究者、古典芸能者、ミュージシャン、美術メディア迄、もうグシャグシャだが個性派揃い。そして大物現代美術家S氏の乾杯の音頭で始まった会は、酒池肉林(肉林、は無い:笑)の様相を呈しながらも大盛り上がりでした!おばあちゃんも元気で良かった!

22:30 有志でカラオケの2次会に繰り出すと、人数が多くて全員入る部屋が空いておらず、2部屋に分かれて入り、行ったり来たりするが、何と隣の部屋にS氏のグループが来て居て、結局20名以上が経過カラオケに来た事に為る…好きだなぁ、皆(笑)。が、その3部屋は同じ店舗内、客も元同じグループだったにも関わらず、全く異なる世界を呈して居て、一部屋は「昭和歌謡」部屋、一部屋は「イマドキ・カラオケ」、そしてもう一部屋は「全く歌を歌わず、食って語る」部屋で有った(笑)。

27:00 やっと解散…皆さん、今年もお疲れ様でした!


12月29日(金)
20:00 最近知り合った音楽家と、代官山「A」でディナー。クラシックのみならず、ジャニーズやロック・ミュージシャンのコンサート・ツアーでも弾くと云う彼女は、小柄だが恐ろしい食欲の持ち主で、次々と料理を平らげる。食後は下のクレープ屋でデザート。嗚呼、良く食べた〜。


12月30日(土)
12:00 代官山「O」に向かい、お正月用に注文して有ったビーフシチューやホタテのマリネ、カレー等をピックアップする。ムッシュからお土産に頂いた「牛肉の佃煮」が超嬉しい。今年もお世話になりました!

14:00 今晩の「歌会」に一緒に行く友人チェリストと青山で待ち合わせ、「B」で2種類のガレットをシェアしての遅いランチを頂く。音楽のみならず数多の話で盛り上がり、結局6時近く迄話して仕舞う。

18:00 また腹が減って来たので、「歌会前に、サクッと」と云う事で蕎麦屋「K」に行くが満席。仕方無く隣の焼肉「M」へ行くと、7時迄なら大丈夫だと云うので、45分間のタイムリミットで食べ始めるが、恐らく日本でも指折りの早食いで有る我らには没問題(モウマンタイ)で、確りと満腹感を得る(笑)。

19:30 チェリストと、現代美術家S氏主宰の歌会@箕輪「S」へ。毎年恒例のこの「アートVS建築」歌合戦は、S氏をリーダーとする「アートチーム」とI氏をリーダーとする「建築家チーム」が、この店の衣装室でコスプレをし、有名編集者T氏の司会の下で昭和歌謡カラオケバトルを繰り広げると云う、もうとても世界的にその道で名の知れた人達とは思えない(笑)、50人に垂んとする芸達者オンパレードの大宴会で有る。さて我ら「アート・チーム」にはリーダーS氏の他、サザンを歌うイケメン画伯Y氏や作風と真逆なブルーハーツを必ず歌うアーティストS氏、百恵ちゃんを歌った小説家Aさん、そしてコレクターやギャラリストが各々コスプレをしての熱唱。そんな中僕は長髪のヅラとサングラスを付け、井上陽水の名曲「傘がない」の替え歌「金がない・江之浦バージョン」(笑)を、S氏のカッコいいバック・コーラスと共に歌う…ウケました!最後の全員参加コーナーは、アートチームはお揃いのTシャツを着ての「いい湯だな」、建築チームは「マツケンサンバ」ならぬ「ケンチクサンバ」でシメ。いやー、この会も毎年パワーアップして行くのが凄い…そう、「過ぎ去った青春の残り香」の力は侮れないのだ(笑)。


12月31日(日)
12:00 実家に昨日取って来たシチュー等を届け、母と年越し讃岐饂飩を食べる。その後、自宅で正月に使うお茶碗を選定…悩んだ末に結局黄伊羅保にし、持ち帰る。

17:00 家に戻り、久し振りに黄伊羅保で一服。この茶碗は少し歪んで居る所が魅力で、抹茶の緑が映える。こう云う時の一服は限りなく美味しい。

21:00 鐘撞きをする為に訪ねて来た友人と、年越し蕎麦を食べようと決めるが、何処に出掛けて良いか分からないので、結局「どん兵衛」にする。然し日本のカップ麺のクオリティは高く、出汁が美味い。

23:30 谷中の禅堂に行き、除夜の鐘を撞く。H住職にもご挨拶するが、少々お太りに為られたか。今年は余りに色々有り過ぎたので、特に死や別離、散財の気を煩悩と共に葬り去る。


1月1日(月)
0:00 謹賀新年。


今年もこのトウキョウ・アート・ダイアリー、何卒宜しくお願い奉りまする。


ーお知らせー
*日本陶磁協会発行「陶説」778号(2018年1月号)内「あの人に会いたい」第5回で、16ページに渡りインタビューを掲載して頂きました。ご興味のある方は是非御一読下さい。詳しくは日本陶磁協会(tosetsu@j-ceramic.jp)迄。

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。