夢のあとに。

1月6日(土)
15:00 原美術館に行き、この日から始まった展覧会「現代美術に魅せられてー原俊夫による原美術館コレクション展」を観る。館のW女史に拠ると、本展は80歳を超えても尚お元気な原館長が、50年代以降集めた約1000点の収蔵品の中から、館長自らが作品選定・キュレーションをした展覧会との事。その前期にはロスコや李禹煥草間彌生の素晴らしいインスタレーション「自己消滅」や杉本博司の「仏の海」の一部屋等が展示され、見応え充分。国宝をも持つ古美術コレクターの家に生まれた館長が、自身の世代に自身の眼で集めた戦後・現代美術に「コレクターの眼」の真髄を感じられる、後期も待ち遠しい展覧会だ。

19:00 サントリーホールで行われた、テナー歌手ヨナス・カウフマンのコンサートへ。会場では茶道家元や美術史家の方々にもご挨拶したが、席には空席も。コンサートはオーケストラの演奏とカウフマンのアリアが交互に行われる形式で、少々間延び感が有った事を否めないが、カウフマンは歌う度に声も出て来て、流石に素晴らしい。そして「誰も寝てはならぬ」を歌い終えたカウフマンは、その後何と6曲のアンコールに応え、最後の数曲は僕も涙する程感動しました!

21:30 コンサート後は「A」で食事…季節の素材を生かしたイタリアンを堪能するが、特に食前に飲んだ「とちおとめ」のフレッシュ・ジュースが大変な美味で、一気にその日の疲れが吹っ飛ぶ。嗚呼、四季有る日本の料理は世界一だ。


1月7日(日)
11:00 別に出世を望んで居る訳でも無かったが、「出世の神様」と呼ばれる愛宕神社を参拝する。標高27.7mに在る、東京23区内では「最高峰の山」へと登る「出世の石段」は、下から見るとかなり急で、芸能界の人等はこれを駆け上ると出世すると云う謂れも有ると聞く。そして「大丈夫か、俺?」と不安を抱えつつも、勿論駆け上がるのは不可能で普通に歩いて登ったのだが、特に大きく息も切れず登り切れて一安心…俺、未だイケるわ(笑)。その後はオニの様に長い行列に並んで参拝を終え、御神籤を引くと何と大吉…コイツは春から縁起がええわえ!

19:30 六本木の蕎麦屋「H」での、某美術館学芸員T女史を顕彰する「T会」新年会に参加。今回のメンバーはT女史、大手アート・ディーラーO氏らの総勢6人。「H」は嘗てニューヨークのソーホーに在った時に良くお邪魔していた店で、個性的な店主さんが有名。楽しい面子で新年を言祝ぎました。

22:30 そしてこの晩は、実は新年会がもう1つ…と云う訳で、中目黒に移動。其処で待って居たのは、仲の良い現代美術家N氏とK氏、K氏マネージャーのA女史と建築家I氏。新年早々の良い知らせを皆に伝えると、大盛り上がりで寒さも吹き飛ぶ。今年は皆にも良い事が有ります様に!


1月8日(月:成人の日)
9:00 一体何時から成人の日は、1月15日では無くなって仕舞ったのだろうか?…連休だから、まぁいいけど(笑)。

16:30 母、弟夫妻と共に歌舞伎座へ向かい、高麗屋三代の襲名公演「壽初春大歌舞伎」夜の部を観る。今月の狂言は「双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)角力場」、「口上」、「勧進帳」、そして「相生獅子・三人形」。最初の「角力場」は、或る意味非常にタイムリーな演し物だが(笑)、芝翫愛之助双方共上手く楽しめる。「口上」では左團次等が、高麗屋三代が通い、また僕の母校でも有る暁星小学校の級長の話を持ち出して、客席を沸かせる。新白鸚は級長だったらしいのだが、僕も万年副級長だったので、制服の肩に縫い付ける金糸の腕章を懐かしく思い出した。幕間には皆で上階の「K」でお弁当を頂く。お能もそうだが、歌舞伎も幕間が短か過ぎて満足に食事が出来ない…何とか為らない物か?が、「K」のお弁当は流石美味しく、偶々隣にの席には米国人日本文化研究者のR先生が居らして、新年のご挨拶も。幕間後の目玉の「勧進帳」は、新幸四郎の力が入り過ぎて居て、観る方もかなり疲れる。また弁慶の知的部分が見受けられ無かったのが、少々残念…何しろ幸四郎もこれから、これから。そんな中、余りにも立派な大播磨の冨樫と新染五郎の凛とした姿、芝翫愛之助の山伏は見応え充分で有った。最後の舞踊は、鴈治郎が口をほんの少し開けて踊るのが、何時も気に為って仕舞ったが、又五郎が抜群に上手かった。


1月9日(火)
9:00 朝イチから香港と電話会議。課題山積…今年も色々有るんだろうなぁ。

10:30 香港の上司とのサシの電話会議。プライヴェート・セールに関しては良いニュースが…コトヨロです。

12:00 現在某有名週刊誌で連載中の小説の主人公でも有るIT会社のCEO氏と、都内ホテルの天麩羅屋「Y」で会食。余りの多忙さに太られ、食後に数種類の薬を飲まれる氏を心配する…。が、それに付けても此処の天麩羅の美味さよ(笑)。

19:00 六本木「K」でディナー。K夫妻がやって居る古き良き上海のカフェ風の「K」の胡麻平麺は、余りに絶品で思わずお代わりをして仕舞ふ程。キャベツの海老味噌炒めやスペアリブも絶品で、堪らない。


1月10日(水)
12:00 銀座「N」で某美術館関係者とランチをし、或るプロジェクトに関して相談する。食事は何時ものハンバーグ・ランチ…相変わらず、旨し。


1月11日(木)
18:30 九段下の「M」で開かれたIT会社CEOのK氏が主宰する政経塾で、日本美術と日本文化に就いて、90分間講演する。聴講者は政財界や官僚等総勢40人で、「真の国際人とは、自国の文化を正確に外国人に伝えられる人の事」「美術品は文化交流大使」「伝統は革新の連続」等の話を熱心に聴いて頂く。その後はブッフェ形式の会食だったが、質問者に取り囲まれた為余り食べられなかったのが悔しい(涙)。


1月12日(金)
10:30 香港のプライヴェート・セールズ・マネジャーと電話会議。目下僕が手掛けて居る、3つのプロジェクトに関して話す。これ等が完結すれば、この世界での僕のキャリアも終わりに近付く気がする。

19:00 某出版社の方と原宿「M」で会食。実は僕はこの方に、25年程前にお会いして居たらしいのだが、全く覚えて居らず、恥ずかしい思いをする。白子の天麩羅や鴨の厚切り焼、マグロアボカド山かけを頂き、最後はせいろそばでシメ。将来何か仕事に為れば良いのだが…。


1月13日(土)
10:30 今日の午後、今年初めて伺う弓の先生にお渡しする為のお年賀を買いに、日本橋三越へ。地下鉄で行ってみると、開店2分前だったが、地下入り口の前には凄い数の人が。入って見ると、先着順にチューリップの無料プレゼントをして居たので、納得…時間が有れば僕も並んだのに!お年賀には、たねやのお菓子を買う。

13:00 今年初めての弓のお稽古。暫くサボって居たので身体も言う事を聞かず、構えもキツく、直ぐに股関節が痛く為る。その上ただで寒い弓道場なのに、シングル・ディジットの気温の中長袖のシャツを忘れた為の半袖の道着、袴の下は股引も履か無かった為、足袋を履いた足も感覚が無く為る程に寒い。そして清廉な空気の中、久し振りに巻藁に居る弓は時に落ち、構えはぶれ、儘為らない…然し、この歳で物事を習うと云うのは、何と素晴らしい事なのだろう!

17:00 弓道場を後にし、電車を乗り継いで、青山のカフェ「T」へ。此処ではパリ在住フォトグラファーのS氏から、世界のファッション業界四方山話を聞く。この「T」には初めて来たのだが、流石「和」の店らしいメニューが並んで居たので、僕は餡入りココアを選び、冷え切った身体を温める。嗚呼、ブルータスの「あんこ好き。」特集が懐かしい(→拙ダイアリー:「『アート』より『あんこ』」参照)。

21:00 家に戻り、もう何度目かも分からない程大好きな川端の「眠れる美女」を読みながら、フレデリカ・フォン・シュターデフォーレ名歌曲集を聴く。僕はフォーレの「夢のあとに」が大好きなのだが、この「夢のあとに」はパリ音楽院でのフォーレの同僚、ロマン・ビュシーヌの詩に曲を付けた作品。ビュシーヌの詩も素晴らしいのだが、それにも況してフォーレの曲がこの上なく美しく、儚い…そう「人の夢」と書いて「儚い」と読むのだ。


夢は醒めない方が良いかも知れないが、人の夢は醒める…儚さの美しさを知る為に。そして再び夢を見続ける…醒めない夢に出会う為に。


ーお知らせー
*日本陶磁協会発行「陶説」778号(2018年1月号)内「あの人に会いたい」第5回で、16ページに渡りインタビューを掲載して頂きました。ご興味のある方は是非御一読下さい。詳しくは日本陶磁協会(tosetsu@j-ceramic.jp)迄。

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。