芸術と政治に於ける「スクラップ&ビルド」。

先ずは、超嬉しいお目出度いニュースから。

敬愛する現代美術家、西野達氏が文科省芸術選奨文科大臣賞を受賞した!

遅過ぎの感は有るが、達さんの仕事が国から「も」認められたのが、我が事の様に本当に嬉しい!今からお祝いの飲み会が楽しみスグル。達さん、おめでとう御座います!!!!

と云う事で、今日も覚書から。


2月22日(木)
9:00 人間ドック2日目。痛さを堪えてモニターを見ながら、毎年恒例の大腸内視鏡検査を受ける。その最中或る部分に来た時、担当医が「アッ!」と声を上げたので何事かと怖くなるが、何と「アニサキス」が居て、その箇所が腫れて少し出血しているでは無いか。医師に拠るとアニサキスは通常胃酸で死ぬか、若しくは胃にへばりついて激痛を齎すらしいが、大腸まで生き残るのは珍しいとの事。放って置けば腸閉塞も起こしかねなかったらしいのでラッキーだったが、その後の検査では病院中の看護婦さんや検診医達に「桂屋さん、大腸にアニサキス居たんだってー?」と言われ、天然記念物的気分を味わう。

19:00 去年お世話になったNHKプロフェッショナル 仕事の流儀」のTディレクターと久し振りに会い、「I」で食事。放映からもう1年近くなるが、未だに街で声を掛けられたりする。今から思えばT氏も良くぞ1年以上も僕なんかに密着出来たモノだが、それもこれもT氏の人徳が全て。そして1年経って想うのは、この番組のお陰で最大の親孝行が出来た事と、或る人との素晴らしい邂逅が有った事…感謝、感謝である。


2月23日(金)
13:30 大阪美術倶楽部で開催された「大美アートフェア」に向かい、藤田美術館館長藤田清氏の講演会を聴く。美術館のお計らいで関係者席に座るが、何とも面映ゆい。ユーモアを交えた館長のレクチャーは流石で有った!

18:30 北新地のおでん屋で、コレクターS氏、F館長、古美術商T氏の御三方とディナー。御三人は各々三島や唐津等の味の有る酒杯を持ち寄り一献傾けるが、下戸な僕は触らせて貰うだけ。然し美味しいおでんで続く骨董話は楽しスグル。その後は某クラブへ繰り出し、最後はショット・バーで「もう一度」食べて解散。食欲と骨董欲は比例するのだ(笑)。


2月24日(土)
10:00 大阪市某所に在る、大阪のオバチャンの「ゴッド・ハンド・マッサージ」へ。僕の数年に渡った坐骨神経痛はこのオバチャンの手に因って、たった1回の施術で完治したのだが、大阪に仕事に行った折には立ち寄る事にして居る。相変わらず小柄な体格からは信じられない程の強い力、痛さにギャアギャア叫びながら1時間たっぷりと痛めつけられ、スッキリ感を得る。

19:00 東京駅経由で高崎に向かい、今迄食べた中でも最も美味い担々麺を名店「H」で頂くと、群馬交響楽団定期演奏会を聴く為に、高崎音楽センターにダッシュで向かう。群響は日本の地方交響楽団では最も歴史有る楽団で、然も今回は名ヴァイオリ二スト、オーギュスタン・デュメイの弾き振りだから見逃せない。前半はチャイコフスキー「憂鬱なセレナード」、ショーソン「詩曲 作品25」、ラヴェル「ツィガーヌ」(拙ダイアリー:「『香子』と『ツィガーヌ』」参照)で、デュメイの本領発揮…実に美しい演奏だった。後半はベートヴェンの4番、これも群響の弦が壮大で素晴らしかった!


2月25日(日)
14:00 新国立劇場に向かい、高谷史郎/ダムタイプの公演「ST/LL」へ。会場ではS銀行のO氏夫妻や、今回の公演の音楽を坂本教授と担当している原摩利彦氏の弟で、能研究者のR君にもバッタリ。さて舞台の方だが、ダンスも音楽も起承転結、或いはメリハリが余り無く、正直少々ダレる。本公演には女優鶴田真由も出演して居たが、声も出て居らず「何故彼女が?」感も有ったが、如何に?


2月27日(火)
10:00 香港と電話会議。会議、カイギ、かいぎ…。

16:00 染織作品の研究の為に某古美術商を訪ねると、或る有力古美術商コレクターが来て居て、3人で話し始めたら止まらなく為り、肝心の話はお預けに為る(笑)。が、その話の中で、数年前にニューヨークのサザビーズで売られた縄文土偶のアンダービッダーを偶然知る事と為り、雑談の大切さを改めて思い知る。真実は雑談の中や「枠の外」にこそ有るのだ。

19:30 友人が「歌手のバックで演奏するので、映るかも知れない」というので、家に戻りNHK「うたコン」を観る。目を凝らして見ていると「セカオワ」の後ろにそのお姿が!芸能人でも無い個人的に知ってる人をテレビで観ると、興奮するのは何故だろう。


2月28日(水)
13:30 永青文庫で開催中の展覧会、「細川家と中国美術ー名品でたどる中国のやきもの」へ。17年振りと云う本展には、所謂「日本人好み」のモノが並び、特に唐三彩や宋磁に名品が揃う。その中でも個人的白眉は重文「三彩花卉文盤」や「三彩獅子」、定窯「白磁長頸瓶」、そして重文磁州窯「白釉黒花牡丹文瓶」辺りだろうか。然しこの美術館を訪れると、その展示室の落ち着き方に何時も癒されるのだが、藤田美術館の改装を思うと何となく惜しい気がして来るから、人間とは我儘なモノ。日本人の優れた眼で選ばれた東洋古美術は、矢張り日本人的な空間で観るのが最適なのかも知れない、と熟く思ふ。

16:00 某古美術商を訪ね、ここ数年で観た神像の中でも最も素晴らしいモノの一つを見せて貰う。もう時代・クオリティとも最高級で、垂涎の作品…当然、値段も最高級。

19:00 友人と日本橋のしゃぶしゃぶ店「Z」に行き座ると、隣の席から「桂屋さん!」と声が…驚いて振り向くと、引退された大古美術商H氏が!相変わらず大柄なH氏はお元気そうで、エネルギッシュで有った。然し僕は人に偶然良く会うなぁ…。


3月2日(金)
11:00 ニューヨークから来日中のスペシャリストや東京の社員と、翌日顧客へ渡すコレクションのセール・プロポーザルの為のミーティング。誰がどのパートを話すか、どのポイントを強調するか等を話し合う。上手く行けば良いが。

19:00 浜離宮朝日ホールに向かい、ピアニスト高橋悠治のリサイタル「余韻と手移り」を聴く。80歳に為ろうとする高橋は矍鑠として居て、弾く前の各曲説明も枯れて居て面白い。最初のバッハ「組曲 ハ短調」はかなり危なっかしかったが、その後の現代系曲の演奏は、その間合いや雰囲気も含めて流石。音楽会タイトル通り、「余韻」を楽しんだ音楽会だった。


3月3日(土)
14:00 チーム全員で顧客宅に向かい、念入りに作ったプロポーザルを基にセールの提案をする。好印象は与えられた気がするが、結果は如何に?


3月4日(日)
13:00 観世能楽堂での「観世会定期能 三月」を観る。この日は能「巴 替装束」、狂言「寝音曲」、仕舞四曲の後、最後は銕之丞師の「西行桜 脇留」。寺井栄師の「巴」は感動的で「寝音曲」は爆笑、そして僕が大好きな「西行桜」は、この時期人の生の儚さを何時も思わせる…良い番組で有った。

17:30 お能を観た後は母親、友人と「K」でお寿司を摘む。人生で初めてお能を観た友人も僕も、良く寝た後の食欲は満点で(笑)、お寿司後の「スーパー・メロン」と「スーパー・ストロベリー」のショートケーキ2つも、3人でペロッと頂く…いとをかし。


3月5日(月)
11:00 香港のマネジメントチームが来日し、夕方迄会議。マネジメントの連中が我々スペシャリストやビジネス・ゲッターに云う事は、言葉をどんなに変えても唯一つ…「良い作品を取って来い」だけだ。自分でやれない事を人に強制するとは、どう云う事だろう(笑)?況してや、馬だってエサをぶら下げなければ走らないのに。


3月6日(火)
19:00 東京・ニューヨークでもう20年近く知っている寿司職人K君が、日本橋蛎殻町に店を出したと聞き、早速ディナーをしに向かう。昔から丁寧な仕事をするK君の寿司は、相変わらず美味しく、お店も品の有る作り。そしてホールをして居た女性が何と無く怪しく(笑)、聞くと矢張り彼女は最近K君と結婚した奥さんで有った!最初に会った時から、ずっと独立する夢を話していたK君のダブルのお目出度は、我が事の様に嬉しい…おめでとう、K君!


3月7日(水)
11:00 千代田区の高級住宅街の顧客を訪ね、作品拝見。老夫人のお父様が僕の大先輩だと知り、打ち解ける。人に縁有り。

13:00 某古美術誌の取材を受ける。色々話して居る内に、自分がこの業界に25年も居る事実に改めて驚くが、然し良く続いたモンだなぁ…(笑)。


3月8日(木)
9:00 朝の芸能ニュースで、北島三郎の次男が51歳で孤独死し、見つかった時は死後1週間経って居た事を知る。親や親しい友人から「初老」と呼ばれて居る54歳の僕は、つい最近も週末朝寝坊して、友人からのラインに数時間連絡しないで居たら、脳梗塞心筋梗塞で死んだとマジ思われたらしく、連絡取れた途端にマジギレされた経験をしたばかりなので(笑)、他人事では無い。

11:00 K大学のN教授を訪ね、或る日本美術作品に関する意見を伺う。非常に勉強に為るお話をご教授頂き、大感謝。その後は大学の博物館を見学させて頂き、バブル時代は大学にもお金が有ったんだなぁ、と感慨深く拝見する。

14:00 東京国際フォーラムで開催される、「アートフェア東京」のVIPヴューイングへ。このフェアは毎年ニューヨークのアジアン・アート・ウィークと重なって居て、観る事が出来なかったので、実は今回が初めて。さて入場はした物の、現代美術と古美術の双方が出店して居るので、僕は顧客や知人とのご挨拶に忙しく、作品が全く見れない。然しイヴェントとしては盛り上がって居り、その点は良かったと思うが、作品の質はイマイチか…。そんな中、会場では芸術選奨を受賞した達さんとバッタリ会い、お祝いを申し上げ、そしてお互いに「俺らが文科省から賞貰ったり、某政府研究会の委員なったりしてる様じゃ、この国も終わりだな!」と軽口を叩く…達さんのこう云う所が僕は大好きなんだ。達さん、これからも頑張って、日本のアート行政の「スクラップ&ビルド」もやっちゃって下さい!


3月9日(金)
12:00 母親と銀座「G」でランチ。昔懐かしいメニュー「ポワブル・ステーキ」が復活したと聞いたので、早速頂く。美味い。

15:00 某婦人誌の特集号の取材を受ける。オークションや美術品が話題になるのは宜しいが、品良く、面白く、身近に伝えるのは何時でも難しい。現代インテリアと古美術の相性の良さに関する本を出したいなぁ。

17:30 アーツ千代田に赴き、「3331 Art Fair」を観る。有楽町とは全く異なる雰囲気の会場と作品は、逆に眼に新しい。佐藤直樹の「その後の『そこで生えている』」や淺井裕介の作品等色々と興味深かったが、一番眼を惹いたのは地下のバンビナートギャラリーで展示されて居た、内藤京平「Poker-Face」展だった。15世紀フランドルの画家、ヤン・ファン・エイクの作中人物の顔だけをトレースし、そこに内藤のドローイングが加えられた作品群は、クラシカル&コンテンポラリー感且つエロティシズムに溢れ、非常に魅力的。

19:00 神田に新しく開店したフレンチビストロ「B」でディナー。此処のシェフはフランス人だが西海岸で長年働いた人で、英語で話せるのが嬉しい。素材を生かした料理も美味しく、カジュアルな雰囲気も好ましい。当日某誌の取材が入って居て、僕の後ろ姿も撮影されました…載るかも(笑)。


3月10日(土)
9:00 朝のニュースで佐川国税庁長官がやっと辞任した事と、近畿財務局担当官が自殺して仕舞った事を知る。1人の命が失われた今、上に立つ各氏は猛省し、今までシラを切り続けてきたツケを絶対に払わねばならない。彼らの不遜な態度もこれっきりだし、官僚も矜持を正し、大阪地検は死に物狂いで奴等を追い詰めねば、遺族に対して申し訳が立たないだろう…「死人の出た『疑惑』は『ホンモノ』」なのだから。また驚くべき米朝間首脳会談のニュースは、米韓朝から日本だけが爪弾きにされている事を明白にした。全く情けない話だが、今の日本の内閣はそんなモンなのだ。嗚呼、出るのは溜息ばかり…そして我が国の政治・官僚の質は低下するばかりだ。国民の税金で食って居るのにメモに書いた同じ答えを繰り返し、国民に対して全く説明責任を果たさず、不遜な態度で会見に臨むしか能がない連中は、恥を知るべきだ。然し「官僚」と云う人種が佐川氏に代表されるなら、東大→財務省と云う典型的な官僚の人生の道筋に、我々の税金が使われたかと思うと、心底腹が立つ。

14:00 テラダ・アート・コンプレックスで開催中の、「Asian Art Award 2018」のファイナリスト展へ。特別賞を受賞したAki Inomataさんの展示が最も素晴らしく、特に「やどかりに『やど』をわたしてみる」の水槽作品が美し過ぎて、欲しく為る。

15:30 乃木坂のギャラリー間で開催中の展覧会、「en [縁]:アート・オブ・ネクサス 第15回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展 日本帰国展」を観る。非常に興味深い展覧会だったが、建築素人の僕からすると、例えばレンゾ・ピアノやジャン・ヌーヴェル、亡くなったザハの様なスケール感の有る建築家が日本には居ないなぁ、と感じて仕舞う。敢えて云えば安藤忠雄がそうかも知れないが、それでもスケール感は海外の建築家に敵わない気がするし、ビエンナーレの展示としても何かコマコマして居る気がするのは僕だけだろうか?

17:00 小説家H氏と待ち合わせ、再び「アートフェア東京」へ。今一度作品を観て歩くが、ピンと来るモノは無い。古美術では何故か縄文ブームで、複数店が扱って居たのが不思議。

19:00 六本木の中華「K」で、H氏と食事。相変わらず美味スグル、大好物の胡麻平麺や蒸し豚薬膳ソース、海老の辛味ソースやキャベツ味噌炒め、マコモダケや鳥唐等の料理を、男2人で次々と平らげる。至福のひと時でした!


そして今日は3・11…記憶は日々風化して行くが、9・11と共に鎮魂の気持ちを忘れない。森友や加計問題、そして東北復興よりもオリンピックを優先する現政府等、潰れて仕舞えばいい。

我が国の政府の「スクラップ&ビルド」…シン・ゴジラの登場を心待ちにする。


ーお知らせー
*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。