「室町の名残」に遊んだ1日。

国会で1年以上も嘘を突き通された末に、森友問題が漸く動き出した。

然しそう為ると、森友・加計問題が1つの争点だった去年の衆院選も、国民が国会で嘘の答弁を信じた末の投票結果だった訳だから、遣り直さねば為らないのでは無かろうか?今こそ「国民の信」を本当に問わねば為らないのだから、解散総選挙をすべきだと思う。そもそも「特例ディスカウント」を遣らずに済んだのだから、選挙費用くらい出るだろう(怒)。

そんな怒り心頭な僕はと云えば、仕事の合間を縫って某官庁の研究会に出たり、理事を務める日本文化系財団の理事会に出席したりと、文化普及貢献活動にも勤しんで居たのだが、最近素晴らしい超日本文化な1日を過ごしたので、その事を。

その日僕は、日頃親しくさせて頂いて居る茶の湯者の茶事に、久し振りに招かれた。

前回彼の正式な茶事に呼ばれたのはもう何年も前の事で、久し振りの事で緊張もしたが、正客に茶道某流派宗匠、相客に邦楽家元とコレクターの方2名、そして茶の湯者の流派のお弟子さんの編集者の方と云った具合で、知った方も居らっしゃるので心易い。

客同士挨拶を交わして、待合で水屋お見舞をお渡しし手口を浄めると、いざ茶室へ。この日の床には室町期の禅僧が自分を鼠に例えた自画賛軸が掛かり、見覚えの有る炉縁と芦屋釜に迎えられる。亭主が現れ挨拶を交わすと、そろそろと茶は始まった。

炭手前が始まると客は自然と炉縁に集まり、肩が触れる程近付き合って燃え始めた炭を眺める。この一瞬こそが「一座建立」を実現するのだと痛感する瞬間…茶事の過程の中でも、最も重要で醍醐味の有る瞬間だと思う。

続いて懐石。美味しい料理を楽しい会話で味わう。5人の客の内のお2人がお酒に滅法強く、徳利の空きも早い(笑)。最後にこれまた美味なきんとん主菓子を頂いて、中立…暫く休み、仄かに暗んだ茶室に戻ると、濃茶が始まった。

軸が外された床には、戦国武将茶人の豪絡な二重切竹花入が掛けられ、花が活けられる。松籟も程良い加減で、茶の湯者が大振りな茶碗を持って茶室に入ると、客の間にも緊張感が増した。大振りな茶碗で念入りに練られる濃茶を心待ちにする客達の眼は、茶の湯者の手先に集中し、これも戦国武将の手に為る繊細な茶杓が茶入と茶碗とを何度も行き来し、茶筅で念入りに練られるのを熟視する。

そうして完璧に練られた濃茶は、正客から順に手渡しされ、滔々僕の所に回って来ると、僕は口当たりの良い茶碗から喉に流れる濃茶の旨さに思わず唸って仕舞う…至福のひと時とは、当にこの事では無いか!その後は道具拝見で大振り茶碗の正体を知り(溜息)、薄茶は場所を移しての立礼で、茶の湯者自作茶碗等を楽しむ。心尽くしの亭主と気取らない相客に、感謝感激の暖かいひと時だった。

さてこの日の茶事で思ったのは、茶道と云うのは利休が桃山時代に大成した芸術に違い無いが、矢張り「室町時代の名残」の芸術だと云う事。桃山のアヴァンギャルドさは、室町の静謐さの中でこそ生きる…それは「基礎」を徹底した上での、「遊び」で有り「作為」なのだと云う事で、現代美術にもそれが云えると思う。

茶事を終えた後は、国立能楽堂へと急ぐ…観世宗家の「求塚」を観る為だった。

「求塚」は観阿弥原作、世阿弥改作と云われる四番目物で、観世流では長い間廃曲に為って居たらしいが、昭和26年に観世華雪に拠って復曲された、万葉集や大和物語等に登場する菟名日処女(うないおとめ)の悲劇を題材とする作品。

生田の里に来た僧達は、若菜摘みの女達に出逢い別れるが、その内の1人が残り僧達を求塚に案内して、塚の由来を語る。

それは、2人の男に言い寄られた女(菟名日処女)が1人に決め倦ねて、生田川の水面の水鳥を先に射た方と結婚すると云うが、2人が同時に射当てた為に、女は嘆き川に身を投げて仕舞う。それを見た男たちは後追いをし、1人は女の手を、もう1人は女の足を掴んで死ね、と云う物語だったが、若菜摘みは自分がその女の霊だと仄めかして立ち去る。

僧達が弔いの経をあげると、地獄の責め苦に憔悴した後シテの女の亡霊が現れ、自分の所為で男2人と水鳥迄を死なせて仕舞った業で、苦しみを受けていると明かす。そして亡霊はその地獄の責めの様子を見せて消え去ると云う、何とも恐ろしい曲だ。

この曲の見所は、前半の静かで優しい雰囲気と、後半の凄惨な場面の対比が凄い所で、シテの観世宗家の舞は中々に素晴らしく、特に後半の緊迫感は身の毛がよだつ程だった。然し現代で考えると、男1人を決めかねて死ぬ女やそれを後追いする2人の男等、「何故だ!」的要素が多いのも事実だが、室町の世ではそれも当たり前の事だったのだろう。人は昔は余程真面目に生きて居た、とも云えるのかも知れないが、その意味で官僚や政治家も、偶には能の一番位観た方が良いと思うのは決して僕だけでは有るまい。

茶と能…室町時代に深く身を浸し、その名残に遊んだ、余りにも此の世離れした1日だったが、シリアスな室町文化を緩い現代の世の中で体験すると、身が引き締まる思いが有る。

だからこそ現代人には、この様な「真面目な遊び」が必要なのだ。


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