清婉峭雅。

然し最近溜息しか出ないのは、今世間を騒がせて居る財務次官やら国税庁長官新潟県知事が全員東大卒で、しつこい様だがその人生の大半を我々国民・県民の税金で生きて来た、と言う事実。

こんな連中が「我が国を動かしている面」していると思うと、実に腹立たしい。正直「金返せ」と云いたいし、特に財務次官の人間的程度の低さ、昭和感満載の時代遅れ感、此の期に及んでの財務大臣と省を挙げての「上から目線感」を見ても、これが日本国最高学府・最高官庁の姿かと吐きそうになる。いずれにせよあの事務次官、若い頃からさぞモテなかったんだろうなぁと思ふ(笑)。

そして「組織」というモノには、何時でもトップの人格や考え方が反映される訳で、その責任も重いのだから、当然責任者の人格や考え方が、今回の財務相に文書書き換えや事務次官のセクハラ、モリ・カケ疑惑を生み出したのは疑いがない。総理も財務相もさっさと責任取りなさい。大丈夫、「他に代わりが居ない」なんて事は有りませんから…そして何より、誰が総理や財務相をやっても今よりは俄然マシですから!

と云う事で、今日は最近の体験藝術覚書を。


−展覧会−
・「工芸・Kogeiの創造−人間国宝展−」@和光ホール:人間国宝の制度が制定されて60余年…和光では陶芸、染織、漆芸、金工、木竹工、人形の分野の人間国宝展が開催された。文化庁長官も出席したこじんまりとしたレセプションでは、本展の出展人間国宝作家の方々の中でも個人的に所縁有る方が居らして、例えば髹漆の増村紀一郎氏は、僕の中高の美術教師だった増村寛先生の従兄弟さん。初めてお会いした増村氏は、無頼漢だった寛先生とは正反対のジェントルマンで有った(笑)。また鍛金の大角幸枝先生は、最近アメリカでも大活躍中…お元気そうで安心致しました。

・「日本スペイン外交関係樹立150周年記念 プラド美術館展 ベラスケスと絵画の栄光」@国立西洋美術館:ベラスケスが7点も展示される、担当学芸員K氏の気合の入った展覧会!個人的には「マルス」が好きだったが、有名な「バリューカスの少年」にも惹かれる…そして本展では、ベラスケス→ゴヤ→マネ→ロートレックと云った、西洋美術史的ドローイングの流れを強く感じさせられた。そんな風に展覧会を観て居たら、突然携帯にテキストが入って来て、何とアメリカの顧客Dさんが今上野に居ると云うでは無いか!早速館を出て地獄門の辺に行くと、Dさんが手を振って居て、その後コーヒーで再会を祝す。アートに取っても人に取っても、世界は狭くなった。

・「春燦々−清婉峭雅の系譜」@相国寺承天閣美術館:本展は相国寺鹿苑寺慈照寺が持つ、この「清婉峭雅」を代表する室町水墨・近世絵画・中国絵画等で構成される。ドラッカー・コレクションやパワーズ・コレクションで学んだ室町水墨画、そして最近名品を何作か扱った若冲迄、禅寺らしく静謐でクオリティの高い名品が並ぶ、麗しい展覧会だった。外国人観光客で騒々しい京都の街中に比べ、此処は静かな極楽…質の高い藝術は、ゆったりと厳かに観たい。

・「猿楽と面 大和・近江および白山の周辺から」@MIHO MUSEUM:枝垂桜が未だ美しかったMIHO MUSEUMは、中国人を始めとする観光客でごった返して居たが、それは石山駅のバス停から始まって居て、桜のシーズンは要注意。が、展覧会の方は古面の歴史を俯瞰出来て、流石に素晴らしい!職業柄今迄百面以上の能面を扱って来たが、今でも無銘の能面の時代判定は難しい。その意味でこの展覧会は、能面より一時代古い大名品群を観られるので、非常に勉強になります。本展は6/3迄。

・「創刊記念『國華』130周年・朝日新聞140周年 特別展 名作誕生 つながる日本美術」@東京国立博物館:「現存する世界最古の雑誌」とも云われる、朝日新聞社刊の「國華」の記念展覧会。何しろ物凄いラインナップで、出るのは溜息ばかりの、彫刻・絵画・工芸迄幅広く網羅した大名品展だ。絵画だけでも平家納経から若冲蕭白岸田劉生迄見所満載だが、自分が扱った作品がこう云った展覧会に出るのは鼻が高い。初っ端展示の「國華」創刊号が、某Y先生の所蔵品と云うのも一興…状態が良いので高かったのではなかろうか(笑)?「つながり」も大変勉強になる、何回も訪れたい展覧会だ。

・「特別展 光琳と乾山 芸術家兄弟 響き合う美意識」@根津美術館:この季節毎年恒例の、国宝「燕子花図屏風」を中心にした展覧会。「兄弟でも此処迄違うか?」的な芸術家兄弟の共作も含めた、全容が観覧出来る。そんな中、僕は個人的には兄弟合作の陶磁器の中では圧倒的に銹絵作品の方が好きなのだが、本展にも出展されて居る大和文華館所蔵「銹絵楼閣山水図四方火入」はかなり素晴らしい作品。が、最近僕が日本に戻した、旧某海外個人コレクション所蔵品で一回り大きい同手作品は、より素晴らしい(笑)!早く公開に為ると良いなぁ。

・「百花繚乱列島−江戸諸国絵師(うまいもん)めぐり」@千葉市美術館:去年大仕事を頂いたDさんと訪れた千葉市美の新展覧会は、謂わば北海道から鹿児島までの「江戸絵画の『秘密のケンミンShow』」(笑)だが、見応えは十分。然しこれ程までも知らない絵師が居たモノか!と思いながら、根本常南の「旭潮鯨波図」の構図に驚いたり、安田田騏の描く象のお尻にキュンとしたり。そして既知の絵師の作品でも、例えば秋田蘭画に「やっぱり好きだなぁ」と思ったり、今でも個人宅で使用されて居ると云う蕭白の「渓流図襖」(これを観たら、「そこいらで売ってる蕭白は、蕭白ではない」と強く思う)は、実にスンバラシイ出来の作品で感動する!担当学芸員Mさんの渾身の展覧会…然し「絵師」を「うまいもん」と読ませるとは流石で有る(笑)。

・平松麻「Waft / Vacant」@Loko Gallery:平松さんの作品に出会ったのは、数年前の骨董祭に出店して居た、僕が良く伺って居る仏教美術のお店から独立したIさんのお店だった。静かな器物が並ぶその背面の壁に掛かっていたその絵はもう売れて仕舞って居たが、モノクロームで寂しいけれど暖かく、何故か恐ろしく惹き付けられて仕舞った僕は、Iさんを通じて平松さんを紹介して貰い、作品を幾つか見せて貰う事に為った。その時は未だ職業画家に為って居なかった平松さんに見せて貰った絵の数々は、何処かミステリアスで改めて寂しく暖かい、然も触れもしないのに手触り感の有る不思議な絵の数々で有った。あれから2年、平松さんとは共通の親しい友人も見つかり、彼女の絵も変化して来て居るが、今回展示されて居る作品群も、彼女の作品の本質である所の「現実と内面の融合」、そして何よりも暖かな「手触り感」が感じられる。毎日眺めたい絵画を探している人には、是非見てもらいたい展覧会だ。

・開館記念「神護寺経と密教の美術」@半蔵門ミュージアム:予てから話題に為って居た、宗教法人真如苑の美術館が滔々オープン。この美術館の目玉は云う迄も無く、2008年に僕が扱った今でもオークション史上世界最高価格の記録を持つ日本美術品で有る、重文伝運慶作「木造大日如来坐像」。美術館は半蔵門に出来たので、僕は自宅から歩いて行けるし、何と入場は無料…そして清新なギャラリーは、落ち着いた雰囲気で荘厳で有る。東博での運慶展以来の再会だった「大日如来」は、運慶展の喧騒の中で観た時とは異なり、落ち着いて僕達を迎える。然し10年前、この作品を僕が触り検分して居たのが(勿論指定前です!)、今と為っては夢の様…美術品の縁とは、本当に不思議なモノだ。大日如来以外にも、醍醐寺来歴の不動明王坐像や神護寺経、ガンダーラ仏等も展示される、静かな空間を体験して頂きたい。

・「64年の美術館史初 リニューアル前 最後の『蔵』公開」@藤田美術館:惜しまれつつも再出発の為に取り壊される藤田美術館の、元々藤田家の蔵で有った展示室と国内最古の鉄骨造の収蔵庫は、何も100年以上前の建築物。それらに別れを告げる「蔵」公開とレセプションが開催された。藤田清館長の素晴らしいご挨拶やヴァイオリン演奏の余興等と共に、美術界の名士達との会話を楽しむ。然しこの蔵を壊すのは惜しい…この間永青文庫ででも思ったが、「モノを畳の上に置く展示ケース」はもう中々見られず、その趣が愛おし過ぎるからだ!

・「没後200年 大名茶人 松平不昧」@三井記念美術館:最近名品が出展される展覧会が多くて、或る意味名品に対する有り難みが欠けて来た感が否めない。そんな中、再び茶道具の名品の揃う本展には、国宝「喜左衛門井戸」を始め、相国寺の国宝「玳玻盞 梅花天目」や重文「油滴天目」、重文梁楷「李白吟行図」や重文牧谿「遠浦帰帆図」、終いには「無一物」や「加賀光悦」迄、これでもか!の体。然し僕が一番気に入ったのは、青井戸茶碗「朝かほ」と信楽水指「三夕」、そして斗々屋茶碗「斗々屋」だった。うーん、欲しいっ!


−舞台−
・「Dunas」@オーチャード・ホール:天才的コンテンポラリー・ダンサー&振付師で有るシェルカウイが、これまた天才フラメンコ・ダンサーとして名高いマリア・パヘスをフィーチャーした、コンテンポラリー・フラメンコのステージ。光と布を上手く使っての飽きさせない舞台だったが、如何せん上演時間が短か過ぎる。一寸金返せ!的な感じが否めなかった事を記して置きたい…残念。

・「音阿弥生誕620年 観世会春の別会」@観世能楽堂:この日の御目当ては、滅多に見れない「三老女物」の一、「姨捨」。「三老女物」(他に「檜垣」と「関寺小町」)は、「重習」と呼ばれる至高の芸の一つとされて居て、中々披かれない。今回のシテは武田宗和師で、囃子には大倉源次郎師と亀井広忠師等が固める。そして武田師のシテは寂しく、そして人生の無常を感じさせた名演だった。僕がこの曲が好きなのは、通常の能と異なり、最後にワキやワキツレが退場した後にシテの老婆が1人舞台に残される場面で、泣ける…人生は孤独だ。

・「第26回奉納夜桜能」@靖国神社:ここ数年行って居る、靖国神社での「夜桜能」。今年は桜が早く、もう殆ど散って仕舞って居て「葉桜能」の体だったが、幽玄の体は変わらない。葉桜の下の会場は超満員で、相変わらずに人気振りだったが、上演前の「火入れ」をする者(政治家等)の名をマイクで呼び上げるのも相変わらずで、胸糞が悪く為る…何故静かに火入れが出来無いのだろう?が、最近「實」を襲名した梅若玄祥師の「羽衣」は流石に素晴らしく、特に橋掛りで舞う姿はこの世の物とも思えない程美しく、怪しかった。梅若實師、矢張り天才だ。

・「魔笛」@オーチャードホール:ベルリンに有る3つのオペラ劇場の1つ、ベルリン・コーミッシェ・オーパー・オペラのロングラン作品。会場では、最近クラシックのコンサートで連続的にお会いする、日本美術史家のH先生とI先生のお二人にバッタリ…こう為ると、一度「日本美術史=クラシック飲み会」をやらねば為るまい(笑)。さて演出のバリー・コスキーの秀でた才能に拠って造られた舞台は、大きな壁と歌手達の顔や体を出す穴と台、そして最も重要な「映像」のみに拠って構成される。「夜の女王」もルイーズ・ブルジョワの蜘蛛的に表現されるその映像は、或る時はフリッツ・ラングの「メトロポリス」を、或る時はチャップリンの「モダンタイムス」を、そしてウィリアム・ケントリッジを想起させるが、何処かノスタルジック且つ現代性を残す感覚で、歌手たちとのコラボレーションも秀逸。久し振りに完成された現代オペラを観た。

・「石橋 於 石橋」@江之浦測候所:現代美術家杉本博司氏の財団、小田原文化財団での「『石舞台』披」公演。前日からの予報と雨で、氏のイヴェント時には必ず天候が荒れる事から、「嗚呼、今回もか…」と思いながら根府川に向かう。そして強風の中測候所に着くと漸く雨が止み、室内に設置された舞台が急遽外に運び出され、「石舞台」での公演と相成った…が、強風が残った為、演目は舞囃子がキャンセルされ、メインの「石橋」のみに。シテの喜多流大島輝久師と塩津哲生師が風に乗り、そして亀井広忠師の大鼓や竹市学師の笛が風を切る。上演前には強風で牡丹の作り物が勝手に動いたりして、ヒヤッとする瞬間も有ったが、何とか無事終了しホッと溜息。風に棚引く獅子達の髪が、誠に印象的な舞台披きでした!

・「アイーダ」@新国立劇場オペラハウス:新国立劇場開場20周年記念特別公演のこの舞台、僕の予想を裏切る素晴らしいモノだった!ご存知ヴェルディ作曲、フランコ・ゼッフィレッリ演出の「アイーダ」は、もう20年以上も前に一度ヴェローナの屋外劇場で観て居るが、こう云っちゃあ何だが、パリ・オペラ座ミラノ・スカラ座、METオペラやテアトロ・マッシモ等でもオペラを観て居る身としては、正直今回初めて観る日本のオペラ舞台が持つで有ろう、ヴェローナのスケール感と「場所」に対するディスアドヴァンテージはどう為るのだろう?と思いながら、会場へと足を運んだ。が、豈図らんや、歌手やオーケストラのレヴェルやセットの精巧さ規模、全てが良く出来て居て、一時も退屈どころか齧り付きで観終わったのだ!特にセットは見応えが有り、あの舞台に身を置きたいと思った程…日本のオペラハウスも、中々やるなぁ。

・「自己紹介読本」@シアタートラム:この舞台は山内ケンジ作・演出、「城山羊の会」の作品で、彼等に取っては珍しい再演演目との事。謳い文句に「なにもないことを極めた傑作」と有る様に、ナンセンスで不条理、そしてちょっとセクシーな舞台で、思わず笑って仕舞う。7人の出演者は皆かなり個性的で、各々の役割を果たすが、特に岡部たかしが面白い。僕も人との距離感の難しさを、現実社会で感じる事が多い方がだと思うが、その不自然さが得も云われぬ可笑しみを産む。これから大阪公演だそうだが、大阪人に受けるや否や(笑)。


−映画−
・「ガーデンアパート」@Galaxy銀河系:友人でも有る芸大在学中の映像作家、石原海さんの処女長編映画作品。「ガーデンアパート」(→https://www.youtube.com/watch?v=2R4y04Is2Q4)は、主人公の彼氏のクレイジーな「おばさん」、京子を中心とする女性達を巡るガールズ・ムービーだが、この京子役の女優竹下かおりがセクシーかつアンニュイで中々良い。「愛は映画みたいなもので、政治みたいなもので、料理みたいなもので、庭みたいなものだ。一度始まってしまったら、終わるまでそれを止める事は出来ない」…個人的にはレオス・カラックス作品を彷彿とさせたが、今の所本作は映画と云うよりは寧ろ現代映像作品だと思う。映画作家としての海さんの将来が、超楽しみスグル出来栄えの作品でした!


−その他−
・目白コレクション@目白椿ホール:毎年恒例の骨董市へ、音楽家の友人と。去年も開展前に人が並んで居たが、今年も大勢の人が並んで居て、人気の程が知られる。会場内は熱気でムンムンして居て、骨董熱がこんなにも有るのか!と云うのが正直な所。で、今回は僕のお好みの作品は無かった…嗚呼、良かった〜(笑)。

・ジャパン・ソサエティー創立110周年記念式典・レセプション@ホテル・オークラ:10年前、僕も招かれた100周年記念の時は、天皇皇后両陛下を迎えてのシッティング・ディナーだったが、あれから10年経った今回は、皇太子殿下ご夫妻を式典に迎え、レセプションは殿下のみご出席の立食パーティー。式典では、亀井広忠師と坂口貴信師に拠る一調「高砂」が披露されたり、レセプションでは、ニューヨーク時代に知己の有った若きジャスティン・ロックフェラー氏や、芸術文化に関わる第一線の方々と再会。誠に楽しいひと時でした。


「清婉峭雅(せいえんしょうが)」とは「清らかで美しく、厳かで気品が有る」事…我が国のトップにはこう云う人になって頂きたいが、無理だろうなぁ(涙)。


ーお知らせー
*古美術誌「目の眼」5月号(創刊500号記念号→https://menomeonline.com/about/latest/)に、僕のインタビュー記事が掲載されて居ます。

*「婦人画報」5月号、特集「東京案内2018」内「東京人に聞きました 極私的東京案内2018」に、僕の「オススメ東京」が掲載されて居ます。

*僕が昨年出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで視聴出来ます。見逃した方は是非!→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。