骨折り損の…。

「有言不実行」の代名詞で有る安倍晋三が勝って仕舞い、「言論の自由」の真の意味も知らない新潮45の様な雑誌が平気で出版される(新潮45があの杉田擁護論文掲載を「言論の自由を守る為」と言い訳するなら、現代社会で適用されて居る「差別用語規制」を全撤廃する運動を、直ちに立ち上げるべきだ…悔しかったらやってみろ!)、見栄とカネの日本…「終わってる感」有り過ぎで、最近帰国した事を後悔し始めて居るが、いやいやアメリカも同じ。

「淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし」を信じたいが、これ如何に…然し日本と云う国は、首相然り何かの会長然り、何故ここ迄「任期」を設けたくないのだろうか?

そんな中現代美術家杉本博司氏が、日本美術史に興味の有る方なら垂涎且つロマンティック極まりないプロジェクトを遂行する為の、クラウド・ファンディングを行なっている。そのプロジェクトとは、「杉本博司と探す!安土城図屏風プロジェクト」(→https://www.makuake.com/project/sugimotohiroshi)。

この「安土城図屏風」は、僕も死ぬ迄に是非共観てみたい屏風なのだが(拙ダイアリー:「OMEN:前兆」前・後編参照→http://d.hatena.ne.jp/art-alien/20110930/1317403774)、若しかしたら夢が叶うかも知れない!何卒皆さんのご支援を、お願い致します!


と云う事で、今日も先ずは恒例のアート覚書から…。


ー展覧会ー
・「没後50年 藤田嗣治展」@東京都美術館:藤田が死んで50年と聞くと、所謂「近代絵画」の時代も遠く為った気がする。その50年を記念しての大回顧展だが、流石見処が多い。作品は初期から晩年迄満遍無く出品されて居るが、僕が最も気に為ったのは矢張り初期作品。例えば芸大在学中の作品「婦人像」は、岡田三郎助風で美しいし、グリやブラックを彷彿とさせるパリ到着後直ぐのキュビズム作品は、今迄の僕の藤田像を一変させる。そして、お馴染みの白バック作品に至る迄の作風の変遷とその道程は、アーティストの苦悩と成功の道の典型と云えると思う。然し村上隆と云う作家は本当に藤田に似ている…「日本に愛されたい」と云う意味で。

・「Hyper Landscape 超えてゆく風景 梅沢和木 X TAKU OBATA」@ワタリウム美術館:梅ラボとブレイクダンサーでも有るOBATAのコラボ展。梅ラボ作品は相変わらず凄まじい情報量だが、その中でもMIHO MUSEUM所蔵の曾我蕭白の「虹」の作品、「富士・三保松原図屏風」をモティーフにした「彼方クロニクル此方」が迫力満点でスゴい。またKUBOTAの作品は古典的な楠一木造りの彫刻で、何故か「HIPHOP神像」(笑)とでも呼びたく為る。この情報過多の展覧会では、或る意味観覧者が眼の遣り場に困ると云うか、視点が定まらない気がするのだが、実際自分の眼が止まった箇所が「自分に与えられた情報」と考えれば、作品自体が情報を選択して鑑賞者に与えて居るとも云えると思う。必見の展覧会だ!

・「禅僧の交流 墨蹟と水墨画を楽しむ」@根津美術館:室町期の墨蹟と水墨画を中心とするシブい展覧会だが、雪舟、雪村、周文、芸愛等名品揃いで学びが多い。然し日本と云う国は、長い間本当に中国に憧れて居たんだなぁと思う。戦後のアメリカ愛が廃れた今日この頃、今度こそ日本人は日本愛へと向かうだろうか…?


ー音楽会ー
・「ロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団辻井伸行 特別演奏会」@サントリーホール:日本とスウェーデンの外交150年記念のコンサート。この日の曲目は、ムンクテル「交響的絵画『砕ける波』」、ベートーヴェン「ピアノ・コンチェルト5番『皇帝』」、そしてチャイコフスキー交響曲第5番」。さてこのオーケストラは上手いのだが、如何せん音がデカい…そしてそれは辻井の弾く「皇帝」でも同様で、辻井もオケも演奏が良かっただけに、其処だけが残念だった。


以上…と云う事で、今回はたったこれしか藝術報告が無いのだが、それには理由がある…人生初の「骨折」をしたからだ。

それは今を去る事9月頭…某現代美術家のお宅を訪ね、自らの手料理をご馳走に為り、帰り際に茶室に案内された時の事だった。その茶室は玄関から石が敷かれて居るのだが、話が盛り上がりながら歩いて居る最中右足を見事に右側に踏み外し、足の甲を痛めて仕舞った。そしてその日は脚を引摺って帰ったのだが、みるみる内に腫れ上がり、翌朝病院に行くと足の甲の右側の骨折が発覚…何てこった(涙)。

という事で、腫れた足を固めた松葉杖生活が始まり、会社へも顧客の所へも行けず、家でメールと電話、作品調査等の仕事をするが、夜は何処へも行けず暇なので、此処ぞとばかり私的「DVDフェス」を開催。なので、此処からはその「私的フェス」で観たDVDの話を。


・「座頭市」:2003年ヴェネチア映画祭銀獅子賞の、北野たけし監督版。子母沢寛の原作の素晴らしさ、そして勝新太郎の名演を超える事は出来なかろうとタカを括って居たのだが、豈図らんや、エンターテイメント性抜群で、どんでん返し的ラストには爽快感さえ覚える。面白かった!

・「蜘蛛巣城」:「今迄何度観たか?」な黒澤明の1957年の大名作だが、実際何度観ても素晴らしい。ご存知の通り本作はシェイクスピアの「マクベス」を基にした話だが、その後の同様な企画の映画・舞台の何れも本作を凌ぐ事は出来ずに居て、それは何故なら原作からの「藝術的翻訳」が表面的で無く、素晴らしいからだ。そして劇中、美術品は「本物」を使い(山田五十鈴の抱える「根来瓶子」を見よ!)、矢も実際に射る…全ての面で「本物」の持つ凄さを再確認した。

「乱」:黒澤作品をもう一本…1985年、黒澤最後の時代劇映画だ。英国アカデミー賞外国語映画賞、全米映画批評家協会賞作品賞、米アカデミー賞衣装デザイン賞等を獲った本作は、「リア王」と毛利元就の「三子教訓状」がテーマの大作で、「蜘蛛巣城」に勝るとも劣らぬシェイクスピアの芸術的翻訳も上首尾。僕は何時も黒澤の映画に出て来る役柄に「黒澤本人」を見るのだが、本作でも仲代達矢演じる主人公秀虎は間違い無く黒澤の分身で有り、それが余りにも露骨であるが故に、より黒澤的な作品に為って居ると思う。配役の中では原田美枝子のエロティシズムが凄く、原田や風吹ジュン、田中裕子や高橋恵子秋吉久美子樋口可南子等の色香漂う「大人の女優」が最近居なくなったなぁと、熟く思う。そしてそれは男優にも云える事で、本作での隆大介、或いは夏八木勲等の「面魂」の有る役者をもっと見たい。

TVシリーズ探偵物語」全27話:1979-1980年放映の、松田優作主演ドラマ。小鷹信光に拠るコミカルでハードボイルドな原案、SHOGUNに拠るテーマ曲「Bad City」、挿入歌に使われた中島みゆきの「アザミ嬢のララバイ」やアリスの「遠くで汽笛を聞きながら」等の音楽、「工藤ちゃ〜ん」と出て来る成田三樹夫や、後に甲斐よしひろ夫人と為った超可愛い竹田かほり等の個性派俳優陣、ヴィスコンティを語る骨董屋や、僕も散々行った懐かしい原宿のカフェバー「Zest」を根城とする情報屋等のキャラ、その全てがカッコ良く面白い。然し今回一番ビックリしたのは、第1話「聖女が街にやって来た」内で、我が母校のG学園の中高校舎、チャペル内部、小学校のグランド迄ふんだんにロケに使われて居た事だった!クスリ系・下ネタ系・差別系のセリフも多く、今ならとてもゴールデンで放映出来る内容では無いのだが、当時でもカトリック系お坊ちゃん校(僕はカトリックでもお坊ちゃんでも無いが)が良く貸したものだと思う…而も「修道女」の出て来る第1話でだ!(笑)

・「野獣死すべし」:久し振りに観た、村川透監督の1980年角川映画作品。大藪春彦の原作も昔読んだが、ホボホボ違う作品と云っても良いだろうが、全編に流れるショパンと奇妙なアート感、田邊エージェンシー夫人と為ったアンニュイな小林麻美、そして良くモノマネをした、忘れもしないワシントン・アーヴィングの「リップ・ヴァン・ウィンクル」の挿話(「何だ、浦島太郎じゃん…」と当時思った:笑)等、当時斬新だった映像記憶が蘇る。「戦争カメラマン」と云う職業も、この映画で当時初めて知ったのだが、「戦争狂気」を考えたのも、本作と「ディアハンター」だった事を思い出す。

・「遊戯シリーズ」三部作:上と同じ松田優作主演の3作、即ち「最も危険な遊戯」「殺人遊戯」「死亡遊戯」。殺し屋モノなのだが、超ハードボイルドな第3作目を除き、前作2作にはコミカルなシーンも有って、これは「探偵物語」にも出て来るのだが、劇中台詞で「人間の証明」や草刈正雄を持ち出しての他の角川映画へのオマージュや、ダジャレっぽいジョークも多数出て来るのも面白い。

・「蘇る金狼」:角川1979年、村川透監督作品。然し、此処まで松田優作を観続けると流石にワンパターンだが、ヤクに溺れる風吹ジュンの色気、劇中主人公が乗るカウンタック等のスーパーカーは、時代感抜群で格好良い。ラストは「野獣死すべし」と同様に主人公が襲われるのだが(死んだかどうか分からないが)、「バブルっぽい『無常感』」が泣かせる。

・「心中天網島」:ご存知近松門左衛門原作の、ATG1969年篠田正浩監督作品。脚本は篠田、富岡多恵子、そして何と音楽を担当した武満徹!何よりも岩下志麻の美しさが白眉だが、それに付けても本作はATGらしい実験溢れる映画で、黒子が劇中に登場する所や、現代からいきなり江戸時代へと移行する所、勘亭流っぽい書や浮世絵が多用されるセット等、見処も多い。モノクロームの画面も美しい…大画面で観たい一作だ。

・「豪姫」:1992年勅使河原宏作品、主演は豪姫を宮沢りえ古田織部仲代達矢が演じる。勅使河原の大名作「利休」の或る意味後日譚だが、残念ながら作品としての出来は遠く及ばない…残念。

・「他人の顔」:引き続き、勅使河原宏監督の1966年度作品。主演は仲代達矢京マチ子平幹二朗、原作は安部公房。僕は今でも安部公房ノーベル文学賞に値する作家だと思って居るが、「砂の女」共々、勅使河原テイストにピッタリ来る原作だと思う。そして劇中流れる、武満徹に拠る「ワルツ」(→https://www.youtube.com/watch?v=6GTlkrwz9Cg)の旋律も秀逸で、恐らくは武満の映画音楽の中でも最も美しい曲の一つと云って良いだろう。今平野啓一郎氏が提唱して居る「分人主義」を感じさせる処も興味深いし、脚本、構成や映像、美しい生田悦子、そして室内インテリア等の美術もかなり良く、大好きな映画だ。

・「落とし穴」:もう一本勅使河原作品で、これも安部公房原作の1962年作品。こちらは音楽は武満では無く、一柳慧高橋悠治、主演は井川比佐志と田中邦衛佐藤慶佐々木すみ江等。不条理劇の極みの様な作品だが、殺された主人公が幽霊と為って出て来る処等は或る種ユーモラスで、機知を感じる…流石、安部公房。映画としてはまぁまぁ。

・「Nobuyuki Tsujii in 13th Van Cliburn International Piano Competition」:音楽ドキュメンタリー監督ピーター・ローゼンに拠る、2009年にフォートワースで開催された、第13回ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールのドキュメント・フィルム。辻井伸行を含むファイナリストを中心に、コンクール・スケジュールに沿って撮られた非常に良く出来た作品で、本作を見るとコンテスタント達の性格の違い、心理状況等が手に取る様に判る。そんな中でも、辻井のショパンのピアノ協奏曲の演奏と、受賞者発表の最後の最後に辻井の名が呼ばれ、壇上でクライバーンが辻井を優しく抱擁するシーンは、涙無くして観れない。そして、辻井より上手いピアニストは世界に幾らでも居るだろうが、彼が奏でる音楽が「音楽自体が、人間に対する神からのギフト」で有るが判る…人間がピアノを弾く限り。

・「サクリファイス」:もう何回か観た、アンドレイ・タルコフスキー監督の1986年作品。遺作で有る。カンヌで賞を幾つか獲った名作だが、果たして妥当だっただろうか?確かに美しい作品だし、テーマとしても名作には違いないだろう…が、結果として遺作に為ったとしても、このテーマを54歳と云う若さで映画にするのは、如何にも早過ぎたのでは無かろうか?「死を予感させる」作品…これも結果論で観る度にそう思って仕舞うのだが、55歳の僕には深さがイマイチなのだ。

「太陽」アレクサンドル・ソクーロフ監督の2005年度作品で、サンクトペルブルグ国際映画祭グランプリ。はてさて、こんな形で昭和天皇を描いた作品が嘗て有っただろうか?コミカルで、気さくで、心細く、神経質で、チャップリンに似てると称される天皇。然し「人間宣言」とは実際そう云う事な訳で、微笑ましいと思う。そして本作を観ると、劇中の全てが「史実」かどうかはもうどうでも良くて、只々本作に最後に、皇后役の桃井かおりイッセー尾形扮する天皇を引っ張るシーンが何とも可愛く、これが「史実」で有って欲しいと思った僕は不敬罪だろうか?最後に云って置くが、僕は自他共に認める愛国者で、而も「天皇制」賛成派ですから…念の為(笑)。

・「タイマーズスペシャルエディション」:CDとカップリングされた、忌野清志郎のそっくりさん(笑)率いる覆面バンドのライブDVD。久し振りにこのDVDを引っ張り出して来たのには理由が有って、それは某作家氏が、彼等が「夜ヒット」に出た際のYoutubeを僕に送って来たからだった。何しろこの時のタイマーズはファンの間では伝説に為って居て、それは彼等の「原発賛成音頭」が某FM局で放送禁止に為った事への抗議として、「偽善者」と云うナンバーをリハーサル時とは全く異なる、そのFM局を貶しめす歌詞と放送禁止用語連発して、「生放送」で生演奏したからだ!さて、今観返してもタイマーズは本当にカッコ良い…曲も「タイマーズのテーマ」から「偽善者」、「メルトダウン」「イモ」等、心スッキリする曲ばかり。今時こんな気骨の有るロッカーも居ない…嗚呼、清志郎が生きてたらなぁ(涙)。

・「愛と哀しみのボレロ」:久し振りに観たクロード・ルルーシュ監督の1981年度作品だが、本当に素晴らしい!「縒り縄方式」の脚本、ヌレエフやグレン・ミラーカラヤンをモデルにした役柄、ジェラルディン・チャップリン等の俳優陣、そして何よりも本作最後にジョルジュ・ドンに拠って踊られるベジャール振付の「ボレロ」…この映画でベジャールを知った僕は、この後日本で行われた「ボレロ」の公演を観に走ったのだった。全てが優美で深い、3世代を跨ぐ大河ロマン作品の極み…こう云う壮大な映画は、今の日本では絶対に撮れないに違いない。


こんなDVDを観て居る間に、仕事の方は色々進展・変化が有り、僕の会社でのポジションも激変を遂げたのだが、文字通り「骨折り損のくたびれ儲け」に為らなければ良いが(笑)。


ーお知らせー

主婦と生活社の書籍「時間を、整える」(→http://www.shufu.co.jp/books/detail/978-4-391-64148-6)に、僕の「インターステラー理論」が取材されて居ます。ご興味のある方は御笑覧下さい。

*僕が昨年出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで視聴出来ます。見逃した方は是非!→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。