嵐の中、「餘技」を考える。

ワールドカップラグビー日本代表が、大熱戦の末スコットランドに勝ち、史上初のベスト8入りを果たした。

今日の勝利はその試合内容と共に、それはそれは凄い事で、日本ラグビーのクオリティも此処迄来たか!と云う感じだった。凄いぞ、ジャパンチーム!

さて何を隠そう、僕は今流行りの『ラグビー「俄か」ファン』では無い。僕自身はラグビーを人生で一度もやった事は無いが、その理由は大学時代の友人にラグビー部の人間が何人か居た事、然し何よりも両親が明治大学を出て居た事から、子供の頃からテレビでラグビーの試合をやると、親と一緒に為って齧り付いて観て来た歴史が有るからだ。

僕が子供の頃の明大の、北島監督と斎藤コーチの下、監督の「前へ」と云う教えを頑なに守った攻めは、例えば宿敵早稲田の華麗なパス回しを多用するオフェンスに較べると、愚直な程「押す」事中心で、中々優勝する事が出来なかったりしたのだが、テレビを観ながら「オーオー、メイジー!」等と親が歌うと、子供だった自分もつられて歌い、「行けー!」とか「回せー!」等と声を張り上げて応援したものだ。

なので当然ルールも観戦のポイントも知って居るので、今年のW杯は十二分に楽しんで居る訳だが、今回の日本チームの強さ(特にスクラム!)と日本人のラグビー熱の盛り上がりには、正直驚きを禁じ得ない。

それもこれも、強く為ったジャパン・チームのお陰…ジャパン・チーム、「前へ」!

と云う事で、本題。

最強台風が来た昨日は(被害に遭われた方々のご冥福と、1日も早い復興を御祈りします。)、僕自身も大層楽しみにして居た、サントリー美術館での若宗匠とのトーク・イヴェントも残念ながら中止に為って仕舞い(是非またの機会に!)、雨と風の恐怖の中現実的に何処にも外出出来なかったので、久し振りに一人で「ムービー・フェス」を開催する事にしたのだが、「さて何を観ようか?」と悩んで仕舞った。

が、僕はふとその前日金曜日に老舗古美術店S堂で観た、「餘技」と題された素晴らしい展覧会を思い出した。

この展覧会は、例えば有名な将軍や僧侶、近代の数寄者等の絵画作品を中心に構成された、S主人渾身の催しだったが、画業が所謂「本職」では無い人間に拠って制作された、然し「餘技」等と簡単に片付けられない程の大名品が並んで居たのだった。

そして『この日の個人的「ムービー・フェス」のテーマは、「餘技」にしよう!』と閃いた結果、僕は大好きな「シングルマン」(拙ブログ:『「一瞬」の希望』参照)「ノクターナル・アニマルズ」(拙ブログ:「不感症、神の法、森、そして幻の女」参照)と、「バスキア」(拙ブログ;『「The Radiant Child-「バスキアのすべて」』参照)「潜水服は蝶の夢を見る」の4本を棚から出して居たので有った。

映画好きの方ならもうお分かりと思うが、此れ等の作品の監督は本業を別に持つ2人、則ちファッション・デザイナーのトム・フォードと、アーティストのジュリアン・シュナーベルで、映画を本業として居ない彼等の映画作品は、その意味で「餘技」と云えるのでは無いか?と思った訳だ。

こうして改めて観たこの4本は、云う迄も無く「餘技」のレヴェルでは無く、S堂で観た作品群と同様の意味で、誠に素晴らしい作品だった。

シュナーベルの、トム・ウェイツジョン・ケイルを選ぶ選曲、ジェフリー・ライトデヴィッド・ボウイクレア・フォーラニマチュー・アマルリック等を選ぶキャスティング、そして原作を選ぶセンス。

またフォードが細部まで拘った、張り詰めた糸の様な美意識、クーンズ、カルダー等を登場させるアート・センスや、緊迫感溢れる人間心理と恐怖の表現‥彼等の映画作品は、其処いらの本業映画監督のそれよりも遥かに美しく、魅力的だ。

これは結局、優れた「餘技」が出来る人間は、特に芸術の分野に於いては元来超人的な美と芸術的センスを持って居る、と云う事に他ならない。

そう、彼等の餘技は餘技で有って、餘技では無い…本業の美意識が齎らす、もう一つの「本業芸術」なのだ。川喜田半泥子や山田山庵、アンリ・ルソー白隠円空宮本武蔵杉本博司、そして利休の芸術がそれを証明して居る。

最高級の芸術のセンスは、その境目等簡単に超えて、新しい芸術を生み出す。

そんな事を考えた、嵐の1日でした。

  

ーお知らせー

*来る12月1日(日)14時より、ハラ・ミュージアム・アークに於いて現在回顧展「Like A  Rolling Snowball」を開催中のアーティスト、加藤泉氏との対談を開催します(→http://www.haramuseum.or.jp/jp/wp-content/uploads/2019/11/%E3%83%97%E3%83%AC%E3%82%B9%E3%83%AA%E3%83%AA%E3%83%BC%E3%82%B9_%E5%B1%B1%E5%8F%A3%E6%B0%8F%E5%8A%A0%E8%97%A4%E6%B0%8F%E5%AF%BE%E8%AB%87_1110.pdf)。近年クリスティーズのオークションにも出品され、世界的にも知られる加藤氏との対談は、個人的にも加藤作品の大ファンな僕も、待ちきれません(笑)。是非アークに聴きにいらしてください!

*10/1発売の「婦人画報」11月号(→http://www.fujingaho.jp/lifestyle/satake-sakanouekorenori-191029)内、「佐竹本三十六歌仙絵」の「何を見たい?」コーナーで、僕の「オススメ歌仙」が取り上げられております。10/12より京博で開催されます「特別展 流転100年 佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美」と共に、是非お見逃し無く!

藤田美術館の公式サイト内「Art Talk」で、藤田清館長と対談しています。是非ご一読下さい(→http://fujita-museum.or.jp/topics/2018/12/17/351/)。

*僕が嘗て扱い、現在フリア美術館所蔵の名物茶壺「千種」に関する物語が、『「千種」物語 二つの海を渡った唐物茶壺」として本に為っています(→http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000033551943&Action_id=121&Sza_id=E1)。非常に面白い、歴史を超えた茶壺の旅のお話を、是非ご一読下さい!(因みに、その「千種」に関する僕のダイアリーはこちら→http://d.hatena.ne.jp/art-alien/20090724/1248459874、今から思えば、これも藤田美術館旧蔵で有った…)

主婦と生活社の書籍「時間を、整える」(→http://www.shufu.co.jp/books/detail/978-4-391-64148-6)に、僕の「インターステラー理論」が取材されて居ます。ご興味のある方は御笑覧下さい。

*僕が一昨年出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで今月一杯視聴出来ます。見逃した方は是非(→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/)!

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。