機内からの「ロンドン・セール」報告、或いは「ラスト・ディール」。

ごぶサタデー(古っ)。今日は、フランクフルトからの機内から。

と云う事で、先ずは本の御報告から。拙著「美意識の値段」(→https://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/1008-b/)が、ジワってジワって重版を経て、何と「3刷」と為った!

これも全ては本書を読んで頂いた方々、また推薦して頂いた方々、福岡伸一平野啓一郎両氏に拠る身に余る推薦文と、若冲の「鳥獣花木図屏風」が目に留まる強力な「帯」、或いは暖かい書評を書いて頂いた方々、そして集英社新書及び協力者の方々のお陰で有る。心からの感謝を申し上げたい。

そんな中最近凄く嬉しかった事が有って、それは面識の無い方の僕の本に関するツイートだった。

例えば、「平野さんの推薦の帯に惹かれて買って読んだら面白くて、今まで自分の生活に縁が無かった美術が身近になった。今年は美術館を巡って、本物を見よう」、「携帯を隣に置いて、読めない漢字を調べながら読んで居る」、そして「文中出て来る作品を画像検索しながら読むのが楽しみ」と云った物だった。

面識の無い方々がこうした事を「呟いて」呉れた事だけでも、本書を書いた価値が有ろうと云うモノ…誠に嬉しい限りで有る。アートが皆さんの側に、少しでも近付く様に!

そして僕の方はと云うと、久し振りのロンドン出張に出掛けた。

常宿の「D」は相変わらずで、慇懃なドアマンや迷路の様な廊下、硬めのベッドや熱く為る迄時間が掛かるシャワー、抜群に美味しいエッグ・ベネディクト等、全てが「これぞロンドン」…止められまへんなぁ。

そして今回の「印象派・近代絵画」ウィークは、クリスティーズが総額1億2768万4375英ポンド(約181億3100万円)を売り上げ、6625万2475ポンド(約94億円)売り上げたサザビーズに倍近くの差を付けて終了した。

トップロットは、サザビーズピサロの「霜、火に当たる農家の若い娘」が800〜1200万ポンドのエスティメイトに対しての1329万6500ポンド(約18億8800万円)で、クリスティーズの方はマグリットの「幸福の集いにて」(→https://www.christies.com/lotfinder/Lot/rene-magritte-1898-1967-a-la-rencontre-du-6252203-details.aspx)の1893万3750ポンド(約26億8800万円)。

が、個人的には、僕が28年前にクリスティーズに入った頃は「印象派・近代絵画」分野のセール処か、「アール・デコ」セールで今では信じられない位の安い値段で出品されて居た作家、タマラ・ド・レンピッカの「マージョリー・フェリーの肖像」(→https://www.christies.com/lotfinder/Lot/tamara-de-lempicka-1898-1980-portrait-de-marjorie-6252179-details.aspx)が、1628万ポンド(約23億円;当然アーティスト・レコード)で売れた事だ!時とマーケットの流れとは、何と恐ろしいのだろう…。

また全体的にはコロナ・ウィルスの関係か、中国やアジア圏からのビッドが少なくて、セール前はどう為る事かと心配したが、ブレクジットの影響も少なく、可成り健闘したセール結果と云えると思う。

が、香港ではアートバーゼルが来月のフェアの中止を発表し、当社もオークションを延期した事を鑑みると、今年のアートマーケットは絶対に一筋縄では行かないだろう…僕等に出来る事は、コロナウィルス対策が早急に推進される事を祈る事だけだ。

そんなこんなの今日は、僕が公式応援メッセージも提供して居る、アート映画の宣伝をしてお終いに…。

今月28日から公開のフィンランド映画、「ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像」(→https://lastdeal-movie.com/)の試写会に招待されて観て来た。

本作は老画商が所謂「スリーパー」をオークションで見つけ、調査の上有名画家の作品と断じて落札するが、その後オークションを開催した画廊主に拠る陰謀等が有って、顧客にも買って貰えず、自身の金策にも行き詰まる…はてさて、老画商に拠る人生を賭けた大逆転は有るのか?と云うストーリーなのだが、アートと人間との触れ合いで生まれる家族愛や憎悪も見処の、良く出来た作品なので是非ご覧頂きたい。

そんな劇中、スペシャリストたる僕が一番「ウム!」思ったのは、画商がオークション下見会場で「スリーパー」を発見した瞬間の描写だった。

絵の前を一瞬通り過ぎて、が然し「捨て目」(意識して見て居なくても、美術品が自然に眼に視界に入って居る事)に残像が残り、ハッとして振り返った時の画家役の俳優の演技は、可成り「如何にも」なのでお見逃し無く。

そして僕は「あぁ、スペシャリストって良いなぁ…戻りたいなぁ…」と切実に思ったのでした(涙)。

 

ーお知らせー

*「週間文春」3月12日号内「文春図書館」の「今週の必読」に、作家澤田瞳子氏に拠る有難い書評が掲載されております(→https://bunshun.jp/articles/-/36469?page=1)。是非ご一読下さい。

*3月4日付「日刊ゲンダイDigital」にて「美意識の値段」の書評が掲載されました(→https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/book/269858)。

*3月1日付ウェッブ版「美術手帖」にて、インタビューが掲載されました(→https://bijutsutecho.com/magazine/interview/21362)。

*2月28日付朝日新聞デジタル&Ⓜ︎」内のインタビュー、「クリスティーズジャパン社長と映画『ラスト・ディール』に学ぶ ホンモノを見抜く力」(→https://www.asahi.com/and_M/20200228/9915737/)にて、インタビューを受けました。

*2月21日の夕刊フジ、22日の西日本新聞の書評に、拙著「美意識の値段」が取り上げられました。

*2月15日付日経「新書」にて「美意識の値段」が取り上げられました(→https://www.nikkei.com/article/DGKKZO55630490U0A210C2MY6000/)。

*2月5日の日経MJ内「使える読書」で、「美意識の値段」が取り上げられました。

*1月22日の産経新聞書評欄に、拙著「美意識の値段」が取り上げられました(→https://www.sankei.com/premium/news/200122/prm2001220002-n1.html)。

*「J-CAST ニュース」内「BOOK ウォッチ」(→https://books.j-cast.com/2020/02/12010854.html)、「Bur@rt ぶらっとアート」(→https://kobalog.jp/burart/2020/01/aesthetics-and-prices/)にて、「美意識の値段」が取り上げられました。

*雑誌「Pavone」54号内の特集「ART: Timeless Value 永遠の価値を求めて」(→http://www.pavone-style.com/culture/art_202001_1.php)で、オークションに就いての取材を受けました。是非ご一読下さい。

藤田美術館の公式サイト内「Art Talk」で、藤田清館長と対談しています。是非ご一読下さい(→http://fujita-museum.or.jp/topics/2018/12/17/351/)。

*僕が嘗て扱い、現在フリア美術館所蔵の名物茶壺「千種」に関する物語が、『「千種」物語 二つの海を渡った唐物茶壺」として本に為っています(→http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000033551943&Action_id=121&Sza_id=E1)。非常に面白い、歴史を超えた茶壺の旅のお話を、是非ご一読下さい!(因みに、その「千種」に関する僕のダイアリーはこちら→http://d.hatena.ne.jp/art-alien/20090724/1248459874、今から思えば、これも藤田美術館旧蔵で有った…)

主婦と生活社の書籍「時間を、整える」(→http://www.shufu.co.jp/books/detail/978-4-391-64148-6)に、僕の「インターステラー理論」が取材されて居ます。ご興味のある方は御笑覧下さい。

*僕が一昨年出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで2020年3月28日迄視聴出来ます。見逃した方は是非(→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/)!

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。