「自分の言葉」の重み。

昨日は長崎に原爆が落ちて、75年目の日だった。

その朝、毎週日曜恒例の「日曜美術館」を観たら、時期的な事も有り、「無言館」(→https://mugonkan.jp/)の特集をやって居た。

無言館」は長野県上田市に在る「戦没画学生慰霊美術館」で、僕も一度は訪れたいと長年持って居ながら未だ叶わずに居るのだが、番組内で観た絵画は謂わば戦場へ行った彼等の「遺書」とも云える物で、改めて「無言の芸術」が饒舌に語る戦争の悲惨さと、散って行った若い才能とアートへの情熱を目の当たりにし、不覚にも涙して仕舞った。

この番組を観た後、これも僕に取ってはもう10年以上この時期の恒例と為って居る、或る本を読んだ…その本とは、「いつまでも、いつまでもお元気でー特攻隊員たちが残した最後の言葉」(知覧特攻平和会館編)。

この本は昭和20年の3〜6月に、鹿児島県知覧から、また他の基地から沖縄のアメリカ艦隊に向けて飛び立ち、爆弾を積んだ飛行機ごと体当たりをした特攻兵の若者たちの遺書・遺詠を集めた本で、毎年、何回読んでも、涙を止められない。

彼らの遺書は当時の「常識」で有った様に、「お国・天皇陛下の為に死ぬ事を誇りに思う」とも書かれて居るが、僕を涙させるのは当然そこでは無く、彼等の家族、特に母親に対する痛切な感謝の言葉で有る。

20歳前後の男子が一様に母に対する感謝を述べ、今迄産み育てて貰った事に対して何の恩返しも出来ずに死んで行く事を詫びる…さぞ悲しく無念だったろうに、その文章は清々しく、品格に溢れて居て其処がまた涙を誘い、今の自分が如何に幸せな境遇に居るかと云う事を、強く再認識させるのだ。

もう一つ自省を込めて強く感じた事は、「無言館」に収蔵される若き作者の絵画や特攻兵の遺書から、今の日本人がどれだけ戦争の悲惨さや命の大切さ、親への感謝の気持ち、芸術や言葉の力を学んで居るだろうか?と云う事だった。

そしてこの事を強く思った大きな理由は、昨日の「長崎原爆の日」の慰霊祭式典での我が国の首相の挨拶が、数日前の「広島」の時と全く同じと言って良い物だったからだ。

こんな重要な日の、新たなる決意表明で有るべき式典挨拶で、我が国のリーダーは誰かが日付と場所だけを取り換えて書いた原稿を、ただ「読んだだけ」だった…国のトップがこの体たらくなのだから、世界唯一の被爆国で有るにもかかわらず、「核兵器禁止条約」も批准出来ないのもさもあらん、で有る。

無言館で展示される絵や知覧特攻兵の遺書は、官僚の誰かが毎年適当に書いた原稿を棒読みする首相の言葉より、遥かに重く、心に響く…何故ならそれは心からの「自分の言葉」だからに他ならない。

その意味で首相は、「自分の言葉」で「不戦の決意」と「核放棄」を被爆者とその御遺族、日本人全員、延いては世界に伝えなければ、この国の指導者で居る権利はないと思う。

悲しみと情けなさを抱えながら、今日はこれ迄。

 

ーお知らせー

*8月13日に、拙著第2弾「美意識の磨き方ーオークション・スペシャリストが教えるアートの見方」が、平凡社新書より発売されます(→https://www.heibonsha.co.jp/smp/book/b512842.html)。諧謔味溢れる推薦帯は、現代美術家杉本博司が書いて下さいました。是非ご一読下さい。

事業構想大学院大学刊「人間会議2020夏号 アート思考とクリエイティビティ」(→https://www.projectdesign.jp/feature/kankyoningen/)に、インタビューが掲載されています。ご一読を。

*「ART HOURS」に嬉しい拙著の書評が掲載されました(→https://arthours.jp/article/biishikinonedan)。是非ご一読ください。

*「NIKKEI STYLE」内「ブックコラム」(→https://style.nikkei.com/article/DGXMZO58642800Q0A430C2000000/)に、拙著に関する僕のインタビューが掲載されています。

*今月発売の神戸新聞総局発行、明石総局編の書籍「明石城 なぜ、天守は建てられなかったのか」(→https://kobe-yomitai.jp/book/1034/)内の第3章「消えた襖絵を追う」で、僕が嘗てオークションで手掛けた長谷川等仁作「旧明石城襖絵」(この襖に関する拙ダイアリーは→https://art-alien.hatenablog.com/entry/20120723/1343050359)が、綿密な調査と共に紹介されて居ます。美術品の「流転の極み」とも言えるこのストーリー、是非ご一読下さい。

*「週間文春」3月12日号内「文春図書館」の「今週の必読」に、作家澤田瞳子氏に拠る「美意識の値段」の有難い書評が掲載されております(→https://bunshun.jp/articles/-/36469?page=1)。是非ご一読下さい。

*3月4日付「日刊ゲンダイDigital」にて「美意識の値段」の書評が掲載されました(→https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/book/269858)。

*2月28日付朝日新聞デジタル「&Ⓜ︎」内のインタビュー、「クリスティーズジャパン社長と映画『ラスト・ディール』に学ぶ ホンモノを見抜く力」(→https://www.asahi.com/and_M/20200228/9915737/)にて、インタビューを受けました。

*2月15日産経新聞内「本ナビ+1」で、永青文庫副館長橋本麻里氏が拙著を取り上げて下さいました(→https://www.sankei.com/life/news/200215/lif2002150018-n1.html)。

*2月15日付日経「新書」にて「美意識の値段」が取り上げられました(→https://www.nikkei.com/article/DGKKZO55630490U0A210C2MY6000/)。

*1月22日の産経新聞書評欄に、拙著「美意識の値段」が取り上げられました(→https://www.sankei.com/premium/news/200122/prm2001220002-n1.html)。

*「J-CAST ニュース」内「BOOK ウォッチ」(→https://books.j-cast.com/2020/02/12010854.html)、「Bur@rt ぶらっとアート」(→https://kobalog.jp/burart/2020/01/aesthetics-and-prices/)にて、「美意識の値段」が取り上げられました。

*作家平野啓一郎氏に拠る、拙著「美意識の値段」の書評はこちら→https://shinsho-plus.shueisha.co.jp/review/8124。素晴らしい書評を有難うございます!

*拙著「美意識の値段」が集英社新書から発売となりました(→https://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/1008-b/)。是非ご一読下さい!

藤田美術館の公式サイト内「Art Talk」で、藤田清館長と対談しています。是非ご一読下さい(→http://fujita-museum.or.jp/topics/2018/12/17/351/)。

*僕が嘗て扱い、現在フリア美術館所蔵の名物茶壺「千種」に関する物語が、『「千種」物語 二つの海を渡った唐物茶壺」として本に為っています(→http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000033551943&Action_id=121&Sza_id=E1)。非常に面白い、歴史を超えた茶壺の旅のお話を、是非ご一読下さい!(因みに、その「千種」に関する僕のダイアリーはこちら→http://d.hatena.ne.jp/art-alien/20090724/1248459874、今から思えば、これも藤田美術館旧蔵で有った…)

*僕が一昨年出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで2021年3月28日迄視聴出来ます。見逃した方は是非(→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/)!

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。