京都芸術大学・基礎美術「一期生」の栄光。

緊急事態宣言が延長された。当然の事と思う。

が、それにしても、この期に及んでもオリンピックを「何が何でもやる」といい、人が汗水垂らして収めた税金を医療機関にもPCR検査拡充にも使わず、官房機密費やオリンピックの為に湯水の如く使う政治家、政府にはもう我慢ならない。こんなにも国際的なイヴェントに、こんなにも国際感覚のないトップがいる国…全く国民を馬鹿にした話だ。

最近はこんな事に怒るのにも疲れてきたが、そんな中、今日は久し振りに「熱い気持ち」になった話を。

僕が京都芸術大学(旧京都造形芸術大)の客員教授になったのは、今から4年前の事…当時美術工芸学科長だった椿昇先生の依頼で、先生が新設された「基礎美術コース」(→https://www.kyoto-art.ac.jp/art/department/finearts/base/)に教えに行く事になったのだが、この「美術工芸学科・基礎美術コース」には何とも画期的なカリキュラムが組まれていて、例えば茶道・能楽・生花・禅などが必修科目として入っており、「室町文化こそが、日本文化芸術のオリジン」というコンセプトに拠って新設されたコースで、その一期生の入学試験から関わらせて頂いたのだった。

夏の暑い日、急で長い階段を登り切った京芸大の山頂(!)に在る「千秋堂」で行われた「基礎美」最初の入試は、試験監督とレクチャーをしに行った僕に取っても一生忘れられないもので、それは受験生たちと共に生まれて初めての「茶杓」とその筒を作ったからだ。

2日間で一本の竹を削り、茶杓と筒を作り、銘を付けて墨書する…こんな入学試験を受けた、まだ高校生だった一期生達の個性的で素晴らしい茶杓と銘の衝撃は忘れ難く、今でも自分がお抹茶を飲む時には、その時に作ったジャコメッティの彫刻の様な形状の茶杓「銘 邪子(じゃこ)」を使っている位、僕はその思い出を愛しているのだ。

そして4年経った先週末、僕は一期生の卒展の合評会に呼ばれ、展覧会場に向かった。そしてそこで彼らの説明を聞いたり、立派な作品を観ている間、入学してから行った授業や「ホンモノ」を観に触りに行った骨董屋さんでの実習、そしてNY研修旅行などの思い出が脳裏を巡り、胸が熱くなり、親でもないのに彼らの成長を誇らしく思った。

例えば屏風を作った男子生徒は、屏風自体も制作をした…桟を作り、紙と金箔を貼り、そこに現代的な雲龍を描いた。他にも水墨画や絵巻物、細密なドローイング、花札、焼物や写真作品、彫刻、源氏香のインスタレーション、レシートの切り絵、小紋、漆工品、漢詩の書、枯山水インスタレーション迄バラエティに富み、さすが「基礎美」の学生の作品と唸る程、現代性と伝統を感じさせるクオリティの高い作品ばかりだった。また「身体性」を感じる作品も多く、伊達に茶道や能、座禅や立花等をやって来ていないと強く感じさせ、このコースの素晴らしさを再確認した次第だ。

そして僕は常勤の教授ではなかったから、彼らと過ごした時間はほんの少しだったけれど、人に物を教える時に一番勉強するのは教える方だという事、そしてその過程で僕が学んだ事は何事にも代え難く、僕の一生の財産と為った。

 

京都芸術大学美術工芸学科・基礎美術コースの第一期卒業生の皆へ。

君達は大したものです。よくもこんな風変わりな学科に入り、全うし、素晴らしい作品を生み出しました…この事は君達全員が誇りに思うべき事です。そしてこのコースで学んだ事は、アート・ワールドのみならず、これからのどんな人生でも必ず役立つ「日本人としての人生の基礎」なので、どうぞ大事にして、勇敢に世界で生きて行って下さい。

「基礎美」一期生に栄光あれ!

 

ーお知らせー

*3月1日発売の「婦人画報」4月号内、「極私的名作鑑賞マニュアル」の隔月連載が始まりました。僕の第一回は「フランシス・ベーコン」…是非ご一読下さい。

*「婦人画報」4月号(3/1発売)より、展覧会ページ「極私的名作鑑賞マニュアル」を隔月で担当します。独断と偏見でオススメしますので、是非ご期待ください!

*「Nikkei Financial」での連載コラム第2弾、「All You Need is Love…and Art ?」が掲載されました(→https://financial.nikkei.com/article/DGXZQOGD077E50X01C20A2000000)。現在ブレイク中の「オンライン・オークション」について書きました。登録が必要ですが、ご興味のある方は!

*「Nikkei Financial」に「閉じ込められている火が、一番燃えるものだ」というタイトルの、直近のオークション業界に関する連載コラム第一弾を寄稿しました(→https://financial.nikkei.com/article/DGXMZO65491530X21C20A0000000)。登録制ですが、是非ご一読ください。

*大阪の藤田美術館が新しくなり、竣工しました(展示は2022年から)。展示公開が待ち切れません!(→http://fujita-museum.or.jp/topics/2020/10/19/1202/)。

*「T Japan: The New York Times Style Magazine」2020 VOL.27内、「The Price of Collecting:若冲にかけたコレクター夫妻の情熱」で、出光美術館に移ったプライス・コレクションに就いて、悦子プライスさんと共に取材を受けました。ご一読下さい。

*拙著第2弾「美意識の磨き方ーオークション・スペシャリストが教えるアートの見方」が、8月13日に平凡社新書より発売されました(→https://www.heibonsha.co.jp/smp/book/b512842.html)。諧謔味溢れる推薦帯は、現代美術家杉本博司氏が書いて下さいました。是非ご一読下さい。

*今月発売の神戸新聞総局発行、明石総局編の書籍「明石城 なぜ、天守は建てられなかったのか」(→https://kobe-yomitai.jp/book/1034/)内の第3章「消えた襖絵を追う」で、僕が嘗てオークションで手掛けた長谷川等仁作「旧明石城襖絵」(この襖に関する拙ダイアリーは→https://art-alien.hatenablog.com/entry/20120723/1343050359)が、綿密な調査と共に紹介されて居ます。美術品の「流転の極み」とも言えるこのストーリー、是非ご一読下さい。

*「週間文春」3月12日号内「文春図書館」の「今週の必読」に、作家澤田瞳子氏に拠る「美意識の値段」の有難い書評が掲載されております(→https://bunshun.jp/articles/-/36469?page=1)。是非ご一読下さい。

*作家平野啓一郎氏に拠る、拙著「美意識の値段」の書評はこちら→https://shinsho-plus.shueisha.co.jp/review/8124。素晴らしい書評を有難うございます!

*拙著「美意識の値段」が集英社新書から発売となりました(→https://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/1008-b/)。帯は平野啓一郎氏と福岡伸一先生が書いて下さいました!是非ご一読下さい!

*僕が一昨年出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで2021年3月28日迄視聴出来ます。見逃した方は是非(→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/)!

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。