「男の背中」に関する、幾つかの私的考察。

何もした感覚が無い侭、今年ももう直ぐ1/3が終わって仕舞う…光陰矢の如し。

そして時と共に自分も歳を重ねて来ると、当然鬼籍に入った人も多く為り、最近はジェンダー差別の問題もクローズアップされる事も多いので、「男の」とか「女の」等という形容詞は使い辛く為って居るが、今日はバリバリ昭和生まれの僕に免じて頂き、最近幽明境を異にした人を含めた、極めて昭和的な「男の背中」の話を。

先ずは俳優、田中邦衛。この人にはお会いした事も無く、画面上でしか知らないが、最近の俳優には決して居ないで有ろう超個性的な顔と声、喋り方のインパクトは大きかった。「北の国から」の役柄は、勿論彼のシグナチャーで・ロールで、一挙手一投足に「男」が溢れて居て、その背中は正に「日本の昭和の男」だが、その前に「情けない」、時には「狂気の」が形容詞として付くのでは無いだろうか?

それは「青大将」でもそうだし、安部公房勅使河原宏コンビの「おとし穴」や「他人の顔」での役柄、僕が愛して止まない「仁義なき戦い」シリーズでの、前作で死んでも、次作では別の名でゾンビの様に蘇る(笑)チンピラ役もそうだが、田中邦衛と云う人は「情けない男の背中」を表現できる、数少ない名優だったと思う。

次にジェームズ・レヴァイン。彼は僕の18年間のニューヨーク生活時代に、最も「背中」を見た指揮者の1人だろう。メトロポリタン歌劇場カーネギー・ホール、リンカーン・センターで、彼の指揮を観たのは数知れず。

然し晩年は太り過ぎ、或いは車椅子姿だったり、またセクハラ疑惑が出て出演不可と為ったりと、その背中を確りと見る事は叶わなかった。それでも、彼が来てからMET Operaが世界的な名声を得たのは確かで、これまたセクハラで解雇されたデュトワと共に、その音楽的功績を否定する事は難しいと思う。

そして村上"ポンタ"秀一…僕の大好きだったセッション・ドラマーに登場頂く。

翼をください」で知られる「赤い鳥」のメンバーとしてデビューするが、その後はスタジオ・ミュージシャンとして活躍、僕的にはジャズ・フュージョンも熟せるテクニシャンとして、そして「イカ天」(三宅裕司いかすバンド天国)の審査員としての彼が思い出深い。

この「イカ天」の審査員には、ポンタと共に泉谷しげるのバックバンド「Loser」をやっていた吉田健や、斎藤ノブ伊藤銀次等の曲者ミュージシャンが出演して居たが、この番組に出場した僕の弟もドラマーだった事も有って、彼の厳しいプロフェッショナリズムには、尊敬の念を持って居た。

が、此処にポンタを持って来たのには訳が有って、それは彼が或るインタビューで語った内容に感動したからなのだが、そのインタビューで、彼はインタビュアーにこう聞かれる。

「ポンタさんは今まで多くのミュージシャンと共演して来たと思いますが、一番印象に残っているのは誰ですか?」

「そいつはヴォーカルなんだけど、ドラマーってのは大体ヴォーカルの真後ろに居るだろ?コンサートが始まって俺らが前奏を演奏し始めて、暫くしてそいつがステージに入って来て、スタンドマイクの前に立って歌い始めた途端、そいつの背中を見たら『嗚呼、コイツも人生色々有ったんだろうな…』って思って泣けて来ちゃって、俺、コンサートの初めから終わりまで号泣しながら叩いてたんだよ…」

「何と!それって誰なんですか?」

永ちゃん矢沢永吉)だよ!」

然もありなん…実は僕も某所で2回程永ちゃんを見かけた事があって、そのスタイルの良さと面魂、美声にうっとりした事があるから、永ちゃんとは矢張り「男に惚れられる男」の典型で、ポンタが「男の人生を語る背中」に号泣した事にも充分納得出来たのだった。

「嗚呼、死ぬ迄に『背中で人生を語れる男』に為りたい…」と願う、今日の孫一でした。

 

追伸:最近もうひと方、美術品に人生を賭けた背中を持った方が亡くなった。国内外の一流コレクターや美術館にモノを納め、白洲正子小林秀雄川端康成等の文人との交流でも知られる日本有数の古美術商、柳孝氏である。

僕も亡き父も大変お世話に為り、教えて頂いた柳氏の背中は、決して大きくは無かったが、その背中は昭和、平成、令和と時代を変えても、いつも「美の狩人」としての威厳と自信に満ちて居たと思う。そしてその背中を見て育った孝一氏、孝治氏の御子息達も、これからの日本古美術界をリードして行くに違いない。

柳孝氏のご冥福を、心よりお祈り致します。

 

ーお知らせー

*5月1日発売の「婦人画報」6月号内「極私的名作鑑賞マニュアル」の、連載2回目が掲載されました。今回は静嘉堂文庫美術館所蔵の河鍋暁斎の名品と、美術館移転の奇縁を取り上げました(→https://www.fujingaho.jp/culture/art/a36204478/art-yamaguchikatsura-210502/)。是非ご一読下さい!

*「Nikkei Financial」での連載コラム第5回目、「美意識のスゝメ」が掲載されました(→https://financial.nikkei.com/article/DGXZQOGD1328G0T10C21A4000000)。美意識の高め方に関する、私的指南書的コラムです。

*「Nikkei Financial」での連載コラム第4回目、「最後に笑うオークションの『戦士』は誰だ?」が掲載されました(→https://financial.nikkei.com/article/DGXZQOGD16ARI0W1A310C2000000)。アジアで売却された西洋絵画として史上最高額を記録したバスキアの作品と、オークションに関わる人々を取り上げました。

*拙著「若冲のひみつー奇想の絵師はなぜ海外で人気があるのか」(PHP新書)のP. 60の一行目「せききょうず」は「しゃっきょうず」の誤り、P. 62の7行目「大徳寺」は、「相国寺」の間違いです。P. 100をご参照下さい。

*拙著第3弾「若冲のひみつー奇想の絵師はなぜ海外で人気があるのか」が、PHP新書より発売になりました(→https://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-84915-7)。若冲をビジネスサイドから見た本ですが、図版も多く、江戸文学・文化研究者のロバート・キャンベル先生との対談も収録されている、読み易い本です。ご興味のある方はご一読下さい。

*3月1日発売の「婦人画報」4月号内、「極私的名作鑑賞マニュアル」の隔月連載が始まりました。僕の第一回は「フランシス・ベーコン」(→https://www.fujingaho.jp/culture/art/a35639717/art-yamaguchikatsura-210307/)。是非ご一読下さい。

*「Nikkei Financial」での連載コラム第3回、「花の色は移りにけりないたづらに 日本美術の真価は」が掲載されました(→https://financial.nikkei.com/article/DGXZQOGD271D00X20C21A1000000)。最近の日本美術マーケットについて書きました。登録が必要ですが、ご興味のある方は是非。

*「Nikkei Financial」での連載コラム第2弾、「All You Need is Love…and Art ?」が掲載されました(→https://financial.nikkei.com/article/DGXZQOGD077E50X01C20A2000000)。現在ブレイク中の「オンライン・オークション」について書きました。

*「Nikkei Financial」に「閉じ込められている火が、一番燃えるものだ」というタイトルの、直近のオークション業界に関する連載コラム第1弾を寄稿しました(→https://financial.nikkei.com/article/DGXMZO65491530X21C20A0000000)。登録制ですが、是非ご一読ください。

*大阪の藤田美術館が新しくなり、竣工しました(展示は2022年から)。展示公開が待ち切れません!(→http://fujita-museum.or.jp/topics/2020/10/19/1202/)。

*拙著第2弾「美意識の磨き方ーオークション・スペシャリストが教えるアートの見方」が、8月13日に平凡社新書より発売されました(→https://www.heibonsha.co.jp/smp/book/b512842.html)。諧謔味溢れる推薦帯は、現代美術家杉本博司氏が書いて下さいました。是非ご一読下さい。

*「週間文春」3月12日号内「文春図書館」の「今週の必読」に、作家澤田瞳子氏に拠る「美意識の値段」の有難い書評が掲載されております(→https://bunshun.jp/articles/-/36469?page=1)。是非ご一読下さい。

*作家平野啓一郎氏に拠る、拙著「美意識の値段」の書評はこちら→https://shinsho-plus.shueisha.co.jp/review/8124。素晴らしい書評を有難うございます!

*拙著「美意識の値段」が集英社新書から発売となりました(→https://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/1008-b/)。帯は平野啓一郎氏と福岡伸一先生が書いて下さいました。是非ご一読下さい!

*僕が出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで2022年3月28日迄視聴出来ます。見逃した方は是非(→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/)!

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。