「類は友を呼ぶ」、或いは「リテラシー・ガラパゴス」。

本当に久し振りのダイアリー更新がこんな話題で申し訳ないが、もう我慢が出来ないのでお許し頂きたい…今日のテーマは「国辱オリンピック・パラリンピック2020」に就いて、で有る。

此処に来ての東京オリパラでのクリエーター達のスキャンダルは、このオリパラのそもそもの「嘘」で固められた出発を考えれば、然もありなん、では無いだろうか。

何処かへ消えた「復興」というテーマから始まり、新競技場のコンペでのザハ案の不可解な排除、普通の会社だったら即クビになるレヴェルでの何倍にも膨らんだ予算、盗作デザイン、差別と言い訳しかない重要ポジションの役員やクリエーター達、流行語にも為った「お・も・て・な・し」からは程遠い選手村…そして今となっては、このオリパラを強行する日本国は、世界から軽蔑の対象になりつつある。

今日解任の発表になった開閉会式のショー・ディレクターの「ホロコースト・ギャグ」に関しては、「過去のたった一言」であるとか「その後の反省活動」等を挙げて擁護する評論家も居る様だが、外国に長く住んだ身としては余りに「井の中の蛙」発言だと云わざるを得ない。

ユダヤ人にとってのホロコーストは、如何なる芸術活動に於いてもギャグにする事は許されない。そしてそれを一度でもやった者は記録され、その贖罪は行動で表さなければ、その記録も決して消える事はない。アートの世界に於いても、「ナチ略奪絵画」は何年経っても、何処に在っても、誰が持っていても、どんな理由が有っても、元の持ち主に返さねばならないのだ…僕自身、身に染みて居る現実で有る。

そして日本という国がこの事を知らず、オリパラと云う数え切れない「ユダヤ系アスリート」が出場する世界的イヴェントでの重要なポストに付く人物を、過去の言動を碌に調べずに起用した事実は、我が国が世界常識に無知で有り、「おもてなし」どころか「おもいやり」に欠ける「リテラシーガラパゴス」だと云う事を、全世界に高らかに宣言したに等しい…本当に恥ずかしく、国辱と呼ぶに相応しい。

これらの原因はオリパラ開催を勝手に決めて、コロナ禍下にも拘らず強行した前・現政権、そして「任命責任」を持つ組織委に他ならないが、この人々は「責任」を「痛感」しても、決して「取らない」。これは前政権からの常套手段的得意技だが、こう云う人達に選ばれ、チームを組んだ人々の中に「世界常識」に欠ける人物が居たとしても当然だろう。

対談で過去のいじめを得意げに話した音楽担当も、「パラリンピック」の意味と意義の理解力がなかったのだろうが、そのいじめ内容も余りに酷く、吐き気を催した。税金でこんな人間に給料が払われるのも、それを組織委が「反省して居る」として留任させようとしたのも、断じて許せない。

辞めた音楽担当もショー・ディレクターも、倫理観とその世界常識を知っていれば、今回の仕事を受ける際に断るか何らかの反省発言をしただろうし、またそれを促す者が組織委にも政府にも「誰も」居なかった事実は、当に「類は友を呼ぶ」で有り、社会でのジェンダー平等レヴェルで世界でかなりの下位に甘んじる、我が国の現実そのものなのである。

我々の税金を湯水の如く(然も「勝手に」予算を何倍増させ)使って、国辱を世界に知らしめる権利は、国や都、組織委やJOCには全く無い…国民を馬鹿にするにも程がある。

今回の大会は、恐らくは史上最悪の支持されない、後悔だらけのオリパラになるのではないか…もしそうなれば、「国益」を甚だしく損ねるのは必然…が、その責任は、どこかの誰かさんが百歩譲って「痛感」したとしても、決して責任を取る事は無いに違いない。

そして今回出場するアスリートの方々には、今まで多様なジャンルで夢を持って生きて来て、このコロナ禍で我慢を強いられ、その夢を叶えられない人々が大勢居る事実、また自分達がそんな世の中で夢を叶えるチャンスを与えられた数少ない人間で有る事を肝に銘じて、是非とも頑張って欲しいと思う。

明日の開会式のショウの芸術的・文化的クオリティとリテラシー、世界的に見て大丈夫なのだろうか…不安で仕方がない。

 

ーお知らせー

*「Nikkei Financial」での連載コラム第7回目、「美術品は『鏡』であるー私的アート購入指南」(→https://financial.nikkei.com/article/DGXZQOUB1267Y0S1A710C2000000)が掲載されました。アートを何処でどう買うか?のヒントをお伝えしています。是非ご一読を!

*7月1日発売の「婦人画報」8月号内「極私的名作鑑賞マニュアル」の、連載3回目が掲載されました。今回はポーラ美術館で開催中の展覧会、「フジター色彩への旅」に出展中の「イヴォンヌ・ド・ブレモン・ダルスの肖像」を取り上げています。ご一読下さい!

*「Nikkei Financial」での連載コラム第6回目、「『憂世』における『浮世』への招待」(→https://financial.nikkei.com/article/DGXZQOUB300PG0Q1A530C2000000)が掲載されました。コロナ禍の「憂世」だからこそ、改めて「浮世」の絵画、浮世絵を紹介しています。ご一読下さい。

*5月25日発売の雑誌「GOETHEゲーテ)」(幻冬社)7月号内「相師相愛」(→https://goetheweb.jp/person/article/20210606-soushisoai58)にて、武者小路千家家元後嗣の千宗屋氏との対談が掲載されています。是非ご一読下さい!

*5月1日発売の「婦人画報」6月号内「極私的名作鑑賞マニュアル」の、連載2回目が掲載されました。今回は静嘉堂文庫美術館所蔵の河鍋暁斎の名品と、美術館移転の奇縁を取り上げました(→https://www.fujingaho.jp/culture/art/a36204478/art-yamaguchikatsura-210502/)。

*「Nikkei Financial」での連載コラム第5回目、「美意識のスゝメ」が掲載されました(→https://financial.nikkei.com/article/DGXZQOGD1328G0T10C21A4000000)。美意識の高め方に関する、私的指南書的コラムです。

*「Nikkei Financial」での連載コラム第4回目、「最後に笑うオークションの『戦士』は誰だ?」が掲載されました(→https://financial.nikkei.com/article/DGXZQOGD16ARI0W1A310C2000000)。アジアで売却された西洋絵画として史上最高額を記録したバスキアの作品と、オークションに関わる人々を取り上げました。

*拙著「若冲のひみつー奇想の絵師はなぜ海外で人気があるのか」(PHP新書)のP. 60の一行目「せききょうず」は「しゃっきょうず」の誤り、P. 62の7行目「大徳寺」は、「相国寺」の間違いです。P. 100をご参照下さい。

*拙著第3弾「若冲のひみつー奇想の絵師はなぜ海外で人気があるのか」が、PHP新書より発売になりました(→https://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-84915-7)。若冲をビジネスサイドから見た本ですが、図版も多く、江戸文学・文化研究者のロバート・キャンベル先生との対談も収録されている、読み易い本です。ご興味のある方はご一読下さい。

*3月1日発売の「婦人画報」4月号内、「極私的名作鑑賞マニュアル」の隔月連載が始まりました。僕の第一回は「フランシス・ベーコン」(→https://www.fujingaho.jp/culture/art/a35639717/art-yamaguchikatsura-210307/)。是非ご一読下さい。

*「Nikkei Financial」での連載コラム第3回、「花の色は移りにけりないたづらに 日本美術の真価は」が掲載されました(→https://financial.nikkei.com/article/DGXZQOGD271D00X20C21A1000000)。最近の日本美術マーケットについて書きました。登録が必要ですが、ご興味のある方は是非。

*「Nikkei Financial」での連載コラム第2弾、「All You Need is Love…and Art ?」が掲載されました(→https://financial.nikkei.com/article/DGXZQOGD077E50X01C20A2000000)。現在ブレイク中の「オンライン・オークション」について書きました。

*「Nikkei Financial」に「閉じ込められている火が、一番燃えるものだ」というタイトルの、直近のオークション業界に関する連載コラム第1弾を寄稿しました(→https://financial.nikkei.com/article/DGXMZO65491530X21C20A0000000)。登録制ですが、是非ご一読ください。

*大阪の藤田美術館が新しくなり、竣工しました(展示は2022年から)。展示公開が待ち切れません!(→http://fujita-museum.or.jp/topics/2020/10/19/1202/)。

*拙著第2弾「美意識の磨き方ーオークション・スペシャリストが教えるアートの見方」が、8月13日に平凡社新書より発売されました(→https://www.heibonsha.co.jp/smp/book/b512842.html)。諧謔味溢れる推薦帯は、現代美術家杉本博司氏が書いて下さいました。是非ご一読下さい。

*「週間文春」3月12日号内「文春図書館」の「今週の必読」に、作家澤田瞳子氏に拠る「美意識の値段」の有難い書評が掲載されております(→https://bunshun.jp/articles/-/36469?page=1)。是非ご一読下さい。

*作家平野啓一郎氏に拠る、拙著「美意識の値段」の書評はこちら→https://shinsho-plus.shueisha.co.jp/review/8124。素晴らしい書評を有難うございます!

*拙著「美意識の値段」が集英社新書から発売となりました(→https://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/1008-b/)。帯は平野啓一郎氏と福岡伸一先生が書いて下さいました。是非ご一読下さい!

*僕が出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで2022年3月28日迄視聴出来ます。見逃した方は是非(→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/)!

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。