「祭典」と「夏祭り」の終焉と、怨嗟。

東京オリンピックが終わった。

日本は史上最高の58個のメダルを取り、色々な競技の中で、例えば日本が大逆転した卓球混合ダブルスの準々決勝等、大興奮した試合や感動したゲームも有り、それだけを見れば成功とは思うし、選手の努力と活躍には敬意を払いたい。

が、そもそもコロナ禍下で各国選手の準備・練習に国に拠ってかなりの差があったという不平等さ、自国開催のアドヴァンテージを考えれば、3年後のパリ五輪でのメダル獲得数が真の実力と云えるのでは無いかと思うし、「復興」も何処かへ霧散した事、如何なる日本人の中でもアスリートだけが、このコロナ禍下で夢を叶えたと云う「特権」にも首を傾げる。

しかし今回政府と都が強行した「スポーツの祭典」は、数え切れない問題点を表出させたが故に、その意味では開催に反対していた僕ですら、やって良かったと思う程だ。

先ず今回の五輪テーマの真逆を行く、日本での「差別意識」の欠如。元組織委員長の政治家、総合ディレクターや音楽担当等の過去・現在に於ける差別発言や行動、グローバル・コモンセンスの中での余りにも恥ずかしい認識不足と辞任劇は世界に恥を晒した。序でに国立競技場のコンペでのザハ案の排除、デザイン盗作、誘致買収疑惑のその後の無報道等、世界中のメディアで恥で塗り重ねた。

次には金。予算が数倍になり、兆円レベル迄膨らんだ責任は誰が取るのか?IOCも政府も誰の許可を得て、我々の税金をここまで湯水の如く使えるのだろう?こんな甘々な見積もりを出し、金の管理が出来ない責任者は、一般の企業だったらとっくにクビに為って居るに違いない。またこの「スポーツの祭典」に掛ける我々の税金の額が、文化芸術に掛ける金の何倍、何十倍で有り、これは「オリンピック」がもはや巨大ビジネス化して居るが故の、芸術投資との差に相違ない…所詮利権とはそう云う物だから。

そしてもう一点、前回のダイアリーで述べた「危惧」が現実化して仕舞った事…そう、観るに耐えなかった、開会式と閉会式のクオリティの事だ。

体協の一員としてオリンピックに毎回行って居た叔父を持ち、この50年間ずっとオリンピックを見続けてきた僕に取って、正直云って、こんなに酷いオリンピックの開閉会式のショウは観た事が無い。信じられない位に下らない展開とチープな内容…例えば、全く意味が分からない「東京の街角で行われて居る」と云うけん玉、縄跳びや盆踊り。聞き古され、使い古された今更の「イマジン」、「ボレロ」と「第九」。そして前世紀の遺物のブレイク・ダンスや、北野監督の「座頭市」以来観飽きた、江戸タップダンス。

しかし、何とも恥ずかし過ぎるのはそれだけでは無く、安っぽい演出と、支離滅裂な低レヴェルのダンスのオンパレードは続く。世界の超一流の体操・新体操やBMXの選手達の眼前で、恥ずかしげも無く披露するアクロバット。全く噛み合わない海老蔵の「暫」(勿体無い!)と、上原ひろみのジャズピアノ。唐突な大竹しのぶの寸劇。オリンピックに全く関係のない、「O・N」の聖火ランナー

どれもこれも俗悪で浅薄な知識下での「日本趣味」と「フュージョン」、「多様性」の誤解、そして「日本的エゴイズム」の成れの果てで、簡単に言えば「田舎の夏祭り」レヴェルと云って良い。僕の中で唯一良かった場面を強いて云えば、閉会式で1964年の「東京オリンピック・マーチ」が使われた時だけだった(新曲が作れなければ、何故この名曲を使わない?)。

序でに云えば、下らない「純血主義」(ザハ案の却下も)…坂本龍一バルセロナで、石岡瑛子が北京で登用されたのだから、外国人演出家や音楽家を雇ってのショウ作りを考えても良かったのでは無いか?どうしても日本人でやりたいなら、世界的アーティストで有る村上隆のキャラクター、草間弥生やCDGの公式服、杉本博司の演出、能役者に拠る「翁」等々、その誰もが依頼を受けたか、また断ったかは分からないが、夢は尽きない。

そう、今回の開閉会式は、世界に日本の文化芸術(日本が世界に誇れるのは「アニメとゲーム」だけなのか?)のレヴェルの低さと、その見せ方の下手糞さを示しただけだった訳だが、この国辱的責任は一体誰が取るのだろう?

否、今の政権も都知事も組織委も、誰もそんな責任は死んでも取らないだろうし、もっと悪い事に有名評論家や某科学者などの芸術的リテラシーの無い輩が、この劣悪クオリティのイヴェントを賞賛している位なのだから、世も末で有る。

この危惧は、これから始まるパラリンピックへも続く…パラリンピック競技は、恐らくは急激にメディア露出が減り、そこで顕見するで有ろう問題も議論する機会すら失われ、コロナは一層蔓延するだろう。

そして政府や都がオリパラ並みに金を使い、世界の人々が観に来たいと思う様な芸術イヴェントが日本で開催される日は、僕の生きている内に来るのだろうか?

お金、文化的リテラシー、スポーツなら許される主義、エゴイズム…日本国と東京都の納税者で有る僕のお盆休みは、政府と都への怨嗟に明け暮れるだろう。

 

ーお知らせー

*「Nikkei Financial」内「知の旅、美の道〜Journey to Liberal Arts」での連載コラム第9回目、「私的美術品立国論ノオト」(→https://financial.nikkei.com/article/DGXZQOUB112GX0R11C21A0000000/)が掲載されました。閉塞する我が国の美術行政と、国際美術品マーケットでの立ち位置に関して、個人的意見を書きました。ご一読を!

*10月10日付「産經新聞」朝刊内、「新仕事の周辺」に掲載されました(→https://www.sankei.com/article/20211010-TCXWXQ2EMVIVZGIS2ZE53JSMQI/)。ご一読ください!

*9月1日発売の「婦人画報」10月号内「極私的名作鑑賞マニュアル」、連載4回目が掲載されました(→https://www.fujingaho.jp/culture/art/a37450250/art-yamaguchikatsura-210905/)。今回は伊豆の「上原美術館」で開催中の「陰翳礼讃」展から、素晴らしい作行きの重要美術品の「十一面観音像」です。ご一読を!

*「Nikkei Financial」内「知の旅、美の道〜Journey to Liberal Arts」での連載コラム第8回目、「現代・北斎・無問題(モウマンタイ)」(https://financial.nikkei.com/article/DGXZQOUB1997Z0Z10C21A8000000)が掲載されました。今回は、現代美術家としての北斎について。ご一読を!

*「Nikkei Financial」内、「知の旅、美の道〜Journey to Liberal Arts」に寄稿している専門家の一人として、「Summer Read 2021」で、今夏のオススメ本を紹介しています(→https://financial.nikkei.com/article/DGXZQOUB3045K0Q1A730C2000000)。僕の他には小川敦生、岡田暁生鴻巣友季子小川仁志、根井雅弘の各氏ですが、どれも面白そうな本ばかり!僕の推薦も含めて、是非ご一読ください。

*「Nikkei Financial」内「知の旅、美の道〜Journey to Liberal Arts」での連載コラム第7回目、「美術品は『鏡』であるー私的アート購入指南」(→https://financial.nikkei.com/article/DGXZQOUB1267Y0S1A710C2000000)が掲載されました。アートを何処でどう買うか?のヒントをお伝えしています。是非ご一読を!

*7月1日発売の「婦人画報」8月号内「極私的名作鑑賞マニュアル」の、連載3回目が掲載されました。今回はポーラ美術館で開催中の展覧会、「フジター色彩への旅」に出展中の「イヴォンヌ・ド・ブレモン・ダルスの肖像」を取り上げています。ご一読下さい!

*「Nikkei Financial」内「知の旅、美の道〜Journey to Liberal Arts」での連載コラム第6回目、「『憂世』における『浮世』への招待」(→https://financial.nikkei.com/article/DGXZQOUB300PG0Q1A530C2000000)が掲載されました。コロナ禍の「憂世」だからこそ、改めて「浮世」の絵画、浮世絵を紹介しています。ご一読下さい。

*5月25日発売の雑誌「GOETHEゲーテ)」(幻冬社)7月号内「相師相愛」(→https://goetheweb.jp/person/article/20210606-soushisoai58)にて、武者小路千家家元後嗣の千宗屋氏との対談が掲載されています。是非ご一読下さい!

*5月1日発売の「婦人画報」6月号内「極私的名作鑑賞マニュアル」の、連載2回目が掲載されました。今回は静嘉堂文庫美術館所蔵の河鍋暁斎の名品と、美術館移転の奇縁を取り上げました(→https://www.fujingaho.jp/culture/art/a36204478/art-yamaguchikatsura-210502/)。

*「Nikkei Financial」内「知の旅、美の道〜Journey to Liberal Arts」での連載コラム第5回目、「美意識のスゝメ」が掲載されました(→https://financial.nikkei.com/article/DGXZQOGD1328G0T10C21A4000000)。美意識の高め方に関する、私的指南書的コラムです。

*「Nikkei Financial」内「知の旅、美の道〜Journey to Liberal Arts」での連載コラム第4回目、「最後に笑うオークションの『戦士』は誰だ?」が掲載されました(→https://financial.nikkei.com/article/DGXZQOGD16ARI0W1A310C2000000)。アジアで売却された西洋絵画として史上最高額を記録したバスキアの作品と、オークションに関わる人々を取り上げました。

*拙著「若冲のひみつー奇想の絵師はなぜ海外で人気があるのか」(PHP新書)のP. 60の一行目「せききょうず」は「しゃっきょうず」の誤り、P. 62の7行目「大徳寺」は、「相国寺」の間違いです。P. 100をご参照下さい。

*拙著第3弾「若冲のひみつー奇想の絵師はなぜ海外で人気があるのか」が、PHP新書より発売になりました(→https://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-84915-7)。若冲をビジネスサイドから見た本ですが、図版も多く、江戸文学・文化研究者のロバート・キャンベル先生との対談も収録されている、読み易い本です。ご興味のある方はご一読下さい。

*3月1日発売の「婦人画報」4月号内、「極私的名作鑑賞マニュアル」の隔月連載が始まりました。僕の第一回は「フランシス・ベーコン」(→https://www.fujingaho.jp/culture/art/a35639717/art-yamaguchikatsura-210307/)。是非ご一読下さい。

*「Nikkei Financial」内「知の旅、美の道〜Journey to Liberal Arts」での連載コラム第3回、「花の色は移りにけりないたづらに 日本美術の真価は」が掲載されました(→https://financial.nikkei.com/article/DGXZQOGD271D00X20C21A1000000)。最近の日本美術マーケットについて書きました。登録が必要ですが、ご興味のある方は是非。

*「Nikkei Financial」内「知の旅、美の道〜Journey to Liberal Arts」での連載コラム第2弾、「All You Need is Love…and Art ?」が掲載されました(→https://financial.nikkei.com/article/DGXZQOGD077E50X01C20A2000000)。現在ブレイク中の「オンライン・オークション」について書きました。

*「Nikkei Financial」内「知の旅、美の道〜Journey to Liberal Arts」に、「閉じ込められている火が、一番燃えるものだ」というタイトルの、直近のオークション業界に関する連載コラム第1弾を寄稿しました(→https://financial.nikkei.com/article/DGXMZO65491530X21C20A0000000)。登録制ですが、是非ご一読ください。

*拙著第2弾「美意識の磨き方ーオークション・スペシャリストが教えるアートの見方」が、8月13日に平凡社新書より発売されました(→https://www.heibonsha.co.jp/smp/book/b512842.html)。諧謔味溢れる推薦帯は、現代美術家杉本博司氏が書いて下さいました。是非ご一読下さい。

*「週間文春」3月12日号内「文春図書館」の「今週の必読」に、作家澤田瞳子氏に拠る「美意識の値段」の有難い書評が掲載されております(→https://bunshun.jp/articles/-/36469?page=1)。是非ご一読下さい。

*作家平野啓一郎氏に拠る、拙著「美意識の値段」の書評はこちら→https://shinsho-plus.shueisha.co.jp/review/8124。素晴らしい書評を有難うございます!

*拙著「美意識の値段」が集英社新書から発売となりました(→https://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/1008-b/)。帯は平野啓一郎氏と福岡伸一先生が書いて下さいました。是非ご一読下さい!

*僕が出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで2022年3月28日迄視聴出来ます。見逃した方は是非(→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/)!

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。