深夜の「違和感」。

本当に久し振りのダイアリー更新だ…言い訳がましいが、スペシャリスト時代には無かった仕事で忙殺されている状況で、我ながら忸怩たる想いがある。

作品に向き合い、鑑定し、調査し、査定して、その作品が行くべき所に納める…そんな日々が懐かしく、作品や持ち主との出会い、その作品のクオリティ、重要性や希少性、持ち主の希望よりも、金や売ると云う事自体が優先される様なディールには興味がないし、この商売で作品を「探して、出してくる」事以上に難しく、意義深い仕事はない。美術品は「出して来」なければ「売る」事は出来ないのだから、それが実行出来なければ、アートディールの真の醍醐味を知る事は出来ない。

そんな中最近、何十年か扱いたいと思っていた作品を売る事が出来た。この作品は、僕が2000年にNYに移り住んだ時から何時かは里帰りをさせようと思っていた重要な美術品で、持ち主と知り合ったのは、10年程前の事。NYやパリ等でお会いして、何回も何回も交渉を重ねて居たのだが、売却が実現しない侭、昨年その方は亡くなって仕舞った。

その後、ご遺族と法律家による遺産管理グループの話し合いの結果、僕の意見が採られ、この作品はオークションに掛けずに日本に戻そうと云う事に決定し、納め先も色々なご縁で決まり、無事作品も手渡された…感動一入で有る。

閑話休題。さてさて、今日のテーマは「違和感」。最近、僕が色々な事象に対して感じた違和感をメモして置こうと思うが、先ずは「日本人が獲った」ノーベル賞に就いて。

今年物理学賞を獲ったプリンストン大の真鍋先生は、90歳とは思えぬ程頭脳明晰でユーモアたっぷりな、如何にも外国に長く住んでいる日本人らしい方だ。地球気候温暖化と云う非常に重要なテーマでの受賞は、本当に素晴らしいと思う。

が、真鍋先生は米国籍で、氏の長年の研究は米国で為された物で有り、それは南部・中村・イシグロの各氏と共に、日本出身(日本で生まれた)では有るが、色々な理由で他国籍を得た後に受賞した訳だから、「日本人が獲った」とメディアが騒ぐのには少々違和感がある。特に研究者に関しては、日本の研究土壌が金銭的にも人事的にも充実していないが故に、国外に出る人が多いのだから、糠喜びするよりも反省が有って然るべきだろうと思う。

「違和感」の2番目は、「バンクシー」。先日サザビーズのセールで、バンクシーの「愛はゴミ箱の中に」が何と1858万英ポンド(約29億円)で売却された。以前ここにも記したが、この作品は嘗て「少女と風船」と云うタイトルで3年前に出品された時、104万ポンドで落札された直後に、絵の下部が額に仕込まれたシュレッダーで裁断されたと云う、偶然と云うなら「恥」、必然ならば「やらせ」な過去を持つ作品で有る。

さて此処での僕の違和感は、「ショウ」云々は兎も角、この作品の落札価格がたった3年間で18倍近くになったと云う事で、当然僕が勤めている会社もこの作家の作品を売っては居るが、それでも何処か納得が行かない。それは僕が元来古美術の専門家だからかも知れないが、30年この仕事をやっていて何時も感じるのは、『「価値」と「価格」は必ずしも一致しない』と云う事だ。

「違和感」No.3は、大英博物館に拠る所蔵北斎作品のNFT商品化。

何とBritish Musuemが、所蔵して居る北斎作品のデジタル画像をNFT化し、エディションを付けて販売すると云う。その収益は、Lacollectionと云うプラットホームと大英博物館とが割り当てるらしいが、僕が気になるのは「北斎の縁戚」が現代にも存在している、と云う事だ。

著作権は切れているかも知れないが、今回の事業は、両者がその縁戚者に一応の了解や承諾を得た上での事なのだろうか、甚だ気に為る。新作でない作品を、所蔵者とは云え他人がNFT化する事が普通になって行くのは如何?な気もするが。

そして4番目の「違和感」…それは、秋篠宮眞子様のご成婚・ご結婚に関してで有る。

初めに云って置くが、僕は皇室の存在には非常に肯定的で、日本文化の象徴として、例えば「法隆寺」の様に、或いは「世界遺産」的に残り、継承され、存在して行くべきと思って居る。国宝等の文化財、また国公立博物館・美術館の収蔵作品は、国民の文化継承と発展の為に国費(税金)で保存・修復されて居るのだから、皇室の存続も当然国費で賄われて然るべきと思う。

が、これも以前から此処で云って居る様に、文化財、或いは国立博物館・美術館所蔵の作品は、税金で買われたり、保存の為の助成を国から受けている以上、その真の所有者は国でも博物館でも無く、その費用を負担している国民の共有財産と認識すべきで有って、その意味でそれらの美術品が、本当に我々の税金を使う価値が有る作品かどうかを、国や国民が常に見極めて行かねばならない。

となると、今回の眞子様のご結婚相手で有る小室氏が、もしも国民の歓迎を得られない人物であったなら、当然ボディガード費用から始まる経費を国が出すのはおかしいと云う事に為るし、僕もそう思う。

もう一つは眞子様のお立場の理解…これは僭越ながら、殿下ご夫妻の教育の問題かも知れない。眞子様PTSDだと云われるなら、お気の毒と思うが、コロナ禍下で格差・貧困も進んでいる我が国で、眞子様がいかに恵まれた環境で国費で育って来られたかを、当人に知らしめられられないとすれば、と云う事だ。

近日開催される記者会見では、決してそんな事は仰らないだろうが、眞子様と小室氏は毅然とした態度で、「本日この時から、自分たちはボディガード、渡航費、アメリカ生活を含め、一切国費の使用をしない事を約束する」と述べるべきと思う。そうすれば、僕も両手を挙げてお二人を祝福するだろう。

最後に取り沙汰されて居る、眞子様の「就職先」に就いて。「メトロポリタン美術館学芸員」が有力候補、と云う様な記事が見えるが、METの学芸員は大学教授クラスのステイタスだし、その学識レベルは相当高く、申し訳ないが眞子様では到底務まらないと思う。そこで僕がオススメするのは、「ジャパン・ソサエティ」だ。

僕もNY時代に会員だったこの組織は、ロックフェラー家が中心となって、米国での日米間の経済・文化センターの役割を担って居流非営利団体で、ギャラリーでの展覧会や古典芸能の公演なども行なって居るのだが、此処なら眞子様旧皇族としての外交や、皇室文化等の日本文化の紹介も可能ではないかと思う。

眠れぬ深夜に、「XVIIIショパンコンペティション」で入賞した、オーバーアクションなピアニストとは違い、姿勢が良く、体幹がブレず、派手なアクションも無いが、音色も美しく感情の籠った素晴らしいピアニストの演奏を聴きながら、久々に更新した「違和感ダイアリー」…こんな「違和感」、早く払拭出来ると良いのだが。

 

ーお知らせー

*12月27日発売「婦人画報」2月号内「極私的名作鑑賞マニュアル」、連載6回目が掲載されました。今回は天王洲WHAT Museumで開催中に「大林コレクション」展を取り上げました。ぜひご一読ください。

*「Nikkei Financial」内「知の旅、美の道〜Journey to Liberal Arts」での連載コラム第10回、「『傷』と『繕い』の日本文化」(→https://financial.nikkei.com/article/DGXZQOUB175N30X11C21A1000000/)が掲載されました。今回は日本文化の大きな特徴である、「金継ぎ」に就いて。ご一読下さい。

*11月1日発売「婦人画報」12月号内「極私的名作鑑賞マニュアル」、連載5回目が掲載されました(→https://www.fujingaho.jp/culture/art/a38169828/art-yamaguchikatsura-211112/)。今回は楽美術館で開催中の「赤と黒の世界」に出展中の、長次郎作黒楽茶碗「萬代」を取り上げました。ぜひご一読を。

*いつ見てもタメになる、ロバート・キャンベル先生の公式YouTube、「四の五のYouチャンネル」の最新回、「大正時代の掛け軸を現代に蘇らせた!」(→https://youtu.be/rPBiG2LHjVw)がアップされました。今回は先生が見つけた痛んだ掛け軸が、表具師によって綺麗に生まれ変わると云うお話。僕も少しだけ出演しております。是非ご覧ください!

*「Nikkei Financial」内「知の旅、美の道〜Journey to Liberal Arts」での連載コラム第9回目、「私的美術品立国論ノオト」(→https://financial.nikkei.com/article/DGXZQOUB112GX0R11C21A0000000/)が掲載されました。閉塞する我が国の美術行政と、国際美術品マーケットでの立ち位置に関して、個人的意見を書きました。ご一読を!

*10月10日付「産經新聞」朝刊内、「新仕事の周辺」に掲載されました(→https://www.sankei.com/article/20211010-TCXWXQ2EMVIVZGIS2ZE53JSMQI/)。ご一読ください!

*9月1日発売の「婦人画報」10月号内「極私的名作鑑賞マニュアル」、連載4回目が掲載されました(→https://www.fujingaho.jp/culture/art/a37450250/art-yamaguchikatsura-210905/)。今回は伊豆の「上原美術館」で開催中の「陰翳礼讃」展から、素晴らしい作行きの重要美術品の「十一面観音像」です。ご一読を!

*5月25日発売の雑誌「GOETHEゲーテ)」(幻冬社)7月号内「相師相愛」(→https://goetheweb.jp/person/article/20210606-soushisoai58)にて、武者小路千家家元後嗣の千宗屋氏との対談が掲載されています。是非ご一読下さい!

*拙著「若冲のひみつー奇想の絵師はなぜ海外で人気があるのか」(PHP新書)のP. 60の一行目「せききょうず」は「しゃっきょうず」の誤り、P. 62の7行目「大徳寺」は、「相国寺」の間違いです。P. 100をご参照下さい。

*拙著第3弾「若冲のひみつー奇想の絵師はなぜ海外で人気があるのか」が、PHP新書より発売になりました(→https://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-84915-7)。若冲をビジネスサイドから見た本ですが、図版も多く、江戸文学・文化研究者のロバート・キャンベル先生との対談も収録されている、読み易い本です。ご興味のある方はご一読下さい。

*拙著第2弾「美意識の磨き方ーオークション・スペシャリストが教えるアートの見方」が、8月13日に平凡社新書より発売されました(→https://www.heibonsha.co.jp/smp/book/b512842.html)。諧謔味溢れる推薦帯は、現代美術家杉本博司氏が書いて下さいました。是非ご一読下さい。

*「週間文春」3月12日号内「文春図書館」の「今週の必読」に、作家澤田瞳子氏に拠る「美意識の値段」の有難い書評が掲載されております(→https://bunshun.jp/articles/-/36469?page=1)。是非ご一読下さい。

*作家平野啓一郎氏に拠る、拙著「美意識の値段」の書評はこちら→https://shinsho-plus.shueisha.co.jp/review/8124。素晴らしい書評を有難うございます!

*拙著「美意識の値段」が集英社新書から発売となりました(→https://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/1008-b/)。帯は平野啓一郎氏と福岡伸一先生が書いて下さいました。是非ご一読下さい!

*僕が出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで2022年3月28日迄視聴出来ます。見逃した方は是非(→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/)!

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。