僕の「杜若」。

更新にかなり時間が掛かって仕舞った。

そこで先ずは御礼から…去る3月9日、日経ホール・カンファレンスルームで開催された、杉本博司氏とのトークにご来場、またズーム参加された皆様、有難う御座いました!お陰様で200名を超える視聴を頂きましたが、さすが御大、登壇者である私が一番楽しみ、勉強になった一夜でした。改めまして、御礼申し上げ奉る。

さて今日は母の日…それも有って、久し振りに母と都心でランチを共にし、その後お能を観に行った。

向かったのは、これも久々の矢来能楽堂。亡き父や叔母が先代観世喜之先生の弟子だった事、また通っていた学校が近所だった事も有って、この能楽堂には子供の頃から何回伺ったか分からない。然し人の記憶とは曖昧な物で、久し振りに座敷正面に座ると「こんなに小じんまりとして居たか?」と思う位、舞台が近いのに驚く。

今日の番組は「田村」「藤」「玉之段」の仕舞と、能「杜若」で、お目当ては勿論季節物の「杜若」。

ご存じ「伊勢物語」第九段、「東下り」から題材を取ったこの曲は、夢幻能としては珍しい一場物で、登場人物もシテの女/杜若の精とワキの旅僧の2人だけ。そして美しくは有るが、少々単調で話も囃子も盛り上がりに欠ける為、初心者が観ると必ず寝ると言われている(笑)、「草木国土悉皆成仏」思想溢れる能だ。

が、その謡の詞章は極めて美しく、男女2人の衣装を一度に着ける両性具有的魅力、初夏の季節感、嫋やかで色っぽい舞と柔らかい囃子と共に、「嗚呼、日本って良いなぁ…」と単純に思える名曲だ。そしてその日本的極みは、謡にも繰り返し出てくる業平と思しき主人公の歌の「かきつばた」の言葉遊び、

「か」らころも 「き」つつなれにし 「つ」ましあれば 「は」るばるきぬる 「た」びをしぞおもふ

に込められて居る。

公演後は、楽屋に大倉源次郎師と中所宜夫師をお訪ねし、素晴らしい舞台の御礼を申し上げたのだが、そんな余韻も束の間、矢来能楽堂を後にした時、ふと「今の僕が業平を倣って歌を詠むなら、何と詠むだろう?」等と考えたら、こんなのが出て来た…。

「か」なしくも 「き」がおもくとも 「つ」らくとも 「は」かなきいまに 「た」へるわがみよ

合掌。

追伸:世の中暗い話ばかりだが、1つ良いニュースを。出光美術館に入ったプライス・コレクションの里帰り展は、コロナの為に何度か延期されて居たが、滔々来年1月7日より公開されるのが決まった…待ち切れません!→http://idemitsu-museum.or.jp/exhibition/schedule/

 

ーお知らせー

*5月1日発売「婦人画報」6月号内「極私的名作鑑賞マニュアル」の、連載8回目が掲載されました。今回は新装オープンした大阪藤田美術館の逸品と、大コレクター藤田傳三郎に就いて。ご一読を!

*4月26日刊の朝日新聞夕刊の新企画、「アートの伴走者」に寄稿しました(→https://www.asahi.com/articles/DA3S15278332.html)。この連載は月1回、5回続きますので、是非ご一読を!

*「Nikkei Financial」内「知の旅、美の道〜Journey to Liberal Arts」での連載コラム第13回、「『見つけ、買い、飾る」というゲーム」(→https://financial.nikkei.com/article/DGXZQOUB187VS0Y2A410C2000000/)が掲載されました。アートを部屋に飾る時のヒントを、ご一読ください。

*「Nikkei Financial」内「知の旅、美の道〜Journey to Liberal Arts」での連載コラム第12回、「『ルイトモ』芸術の発見」(→https://financial.nikkei.com/article/DGXZQOUB074K20X00C22A3000000/)が掲載されました。芸術の「類は友を呼ぶ」…是非ご一読下さい。

*3月1日発売「婦人画報」4月号内「極私的名作鑑賞マニュアル」、連載7回目が掲載されました(→https://www.fujingaho.jp/culture/art/a39422967/art-yamaguchikatsura-220318/)。今回はリニューアル・オープンした松岡美術館と、その所蔵品の中から「青花龍唐草文天球瓶」を取り上げました。ご一読下さい!

*2月24日付「日刊工業新聞」ウィークエンド版内「コンテンポラリーの嵐」(→https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00628916)で、僕の回の「下」が掲載されました。ご一読を。

*「Nikkei Financial」内「知の旅、美の道〜Journey to Liberal Arts」での連載コラム第11回、「アート・ミッション・ポッシブル 2022」(→https://financial.nikkei.com/article/DGXZQOUB242KU0U2A120C2000000/)が掲載されました。独断で今年必見の展覧会を紹介しています。ご一読下さい。

*1月28日付「日刊工業新聞」ウィークエンド版内「コンテンポラリーの嵐」(→https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00626083)で、恥ずかしながら現代美術コレクターとして取材されました。上下2回の掲載で、次回「下」は2月25日掲載予定です。ご一読を。

*12月27日発売「婦人画報」2月号内「極私的名作鑑賞マニュアル」、連載6回目が掲載されました(→https://www.fujingaho.jp/culture/art/a38740815/art-yamaguchikatsura-220114/)。今回は天王洲WHAT Museumで開催中に「大林コレクション」展を取り上げました。ぜひご一読ください。

*「Nikkei Financial」内「知の旅、美の道〜Journey to Liberal Arts」での連載コラム第10回、「『傷』と『繕い』の日本文化」(→https://financial.nikkei.com/article/DGXZQOUB175N30X11C21A1000000/)が掲載されました。今回は日本文化の大きな特徴である、「金継ぎ」に就いて。ご一読下さい。

*11月1日発売「婦人画報」12月号内「極私的名作鑑賞マニュアル」、連載5回目が掲載されました(→https://www.fujingaho.jp/culture/art/a38169828/art-yamaguchikatsura-211112/)。今回は楽美術館で開催中の「赤と黒の世界」に出展中の、長次郎作黒楽茶碗「萬代」を取り上げました。ぜひご一読を。

*いつ見てもタメになる、ロバート・キャンベル先生の公式YouTube、「四の五のYouチャンネル」の最新回、「大正時代の掛け軸を現代に蘇らせた!」(→https://youtu.be/rPBiG2LHjVw)がアップされました。今回は先生が見つけた痛んだ掛軸が、表具師によって綺麗に生まれ変わると云うお話。僕も少しだけ出演しております。是非ご覧ください!

*「Nikkei Financial」内「知の旅、美の道〜Journey to Liberal Arts」での連載コラム第9回目、「私的美術品立国論ノオト」(→https://financial.nikkei.com/article/DGXZQOUB112GX0R11C21A0000000/)が掲載されました。閉塞する我が国の美術行政と、国際美術品マーケットでの立ち位置に関して、個人的意見を書きました。ご一読を!

*10月10日付「産經新聞」朝刊内、「新仕事の周辺」に掲載されました(→https://www.sankei.com/article/20211010-TCXWXQ2EMVIVZGIS2ZE53JSMQI/)。ご一読ください!

*5月25日発売の雑誌「GOETHEゲーテ)」(幻冬社)7月号内「相師相愛」(→https://goetheweb.jp/person/article/20210606-soushisoai58)にて、武者小路千家家元後嗣の千宗屋氏との対談が掲載されています。是非ご一読下さい!

*拙著「若冲のひみつー奇想の絵師はなぜ海外で人気があるのか」(PHP新書)のP. 60の一行目「せききょうず」は「しゃっきょうず」の誤り、P. 62の7行目「大徳寺」は、「相国寺」の間違いです。P. 100をご参照下さい。

*拙著第3弾「若冲のひみつー奇想の絵師はなぜ海外で人気があるのか」が、PHP新書より発売になりました(→https://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-84915-7)。若冲をビジネスサイドから見た本ですが、図版も多く、江戸文学・文化研究者のロバート・キャンベル先生との対談も収録されている、読み易い本です。ご興味のある方はご一読下さい。

*拙著第2弾「美意識の磨き方ーオークション・スペシャリストが教えるアートの見方」が、8月13日に平凡社新書より発売されました(→https://www.heibonsha.co.jp/smp/book/b512842.html)。諧謔味溢れる推薦帯は、現代美術家杉本博司氏が書いて下さいました。是非ご一読下さい。

*「週間文春」3月12日号内「文春図書館」の「今週の必読」に、作家澤田瞳子氏に拠る「美意識の値段」の有難い書評が掲載されております(→https://bunshun.jp/articles/-/36469?page=1)。是非ご一読下さい。

*作家平野啓一郎氏に拠る、拙著「美意識の値段」の書評はこちら→https://shinsho-plus.shueisha.co.jp/review/8124。素晴らしい書評を有難うございます!

*拙著「美意識の値段」が集英社新書から発売となりました(→https://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/1008-b/)。帯は平野啓一郎氏と福岡伸一先生が書いて下さいました。是非ご一読下さい!

*僕が出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで2022年3月28日迄視聴出来ます。見逃した方は是非(→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/)!

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。