嵐の中、「餘技」を考える。

ワールドカップラグビー日本代表が、大熱戦の末スコットランドに勝ち、史上初のベスト8入りを果たした。

今日の勝利はその試合内容と共に、それはそれは凄い事で、日本ラグビーのクオリティも此処迄来たか!と云う感じだった。凄いぞ、ジャパンチーム!

さて何を隠そう、僕は今流行りの『ラグビー「俄か」ファン』では無い。僕自身はラグビーを人生で一度もやった事は無いが、その理由は大学時代の友人にラグビー部の人間が何人か居た事、然し何よりも両親が明治大学を出て居た事から、子供の頃からテレビでラグビーの試合をやると、齧り付いて観て来た歴史が有るからだ。

僕が子供の頃の明大の、北島監督と斎藤コーチの下、監督の「前へ」と云う教えを頑なに守った攻めは、例えば宿敵早稲田の華麗なパス回しを多用するオフェンスに較べると、愚直な程「押す」事中心で、中々優勝する事が出来なかったりしたのだが、テレビを観ながら「オーオー、メイジー!」等と親が歌うと、子供だった自分もつられて歌い、「行けー!」とか「回せー!」等と声を張り上げて応援したものだ。

なので当然ルールも観戦のポイントも知って居るので、今年のW杯は十二分に楽しんで居る訳だが、今回の日本チームの強さ(特にスクラム!)と日本人のラグビー熱の盛り上がりには、正直驚きを禁じ得ない。

それもこれも、強く為ったジャパン・チームのお陰…ジャパン・チーム、「前へ」!

と云う事で、本題。

最強台風が来た昨日は(被害に遭われた方々のご冥福と、1日も早い復興を御祈りします。)、僕自身も大層楽しみにして居た、サントリー美術館での若宗匠とのトーク・イヴェントも残念ながら中止に為って仕舞い(是非またの機会に!)、雨と風の恐怖の中現実的に何処にも外出出来なかったので、久し振りに一人で「ムービー・フェス」を開催する事にしたのだが、「さて何を観ようか?」と悩んで仕舞った。

が、僕はふとその前日金曜日に老舗古美術店S堂で観た、「餘技」と題された素晴らしい展覧会を思い出した。

この展覧会は、例えば有名な将軍や僧侶、近代の数寄者等の絵画作品を中心に構成された、S主人渾身の催しだったが、画業が所謂「本職」では無い人間に拠って制作された、然し「餘技」等と簡単に片付けられない程の大名品が並んで居たのだった。

そして『この日の個人的「ムービー・フェス」のテーマは、「餘技」にしよう!』と閃いた結果、僕は大好きな「シングルマン」(拙ブログ:『「一瞬」の希望』参照)「ノクターナル・アニマルズ」(拙ブログ:「不感症、神の法、森、そして幻の女」参照)と、「バスキア」(拙ブログ;『「The Radiant Child-「バスキアのすべて」』参照)「潜水服は蝶の夢を見る」の4本を棚から出して居たので有った。

映画好きの方ならもうお分かりと思うが、此れ等の作品の監督は本業を別に持つ2人、則ちファッション・デザイナーのトム・フォードと、アーティストのジュリアン・シュナーベルで、映画を本業として居ない彼等の映画作品は、その意味で「餘技」と云えるのでは無いか?と思った訳だ。

こうして改めて観たこの4本は、云う迄も無く「餘技」のレヴェルでは無く、S堂で観た作品群と同様の意味で、誠に素晴らしい作品だった。

シュナーベルの、トム・ウェイツジョン・ケイルを選ぶ選曲、ジェフリー・ライトデヴィッド・ボウイクレア・フォーラニマチュー・アマルリック等を選ぶキャスティング、そして原作を選ぶセンス。

またフォードが細部まで拘った、張り詰めた糸の様な美意識、クーンズ、カルダー等を登場させるアート・センスや、緊迫感溢れる人間心理と恐怖の表現‥彼等の映画作品は、其処いらの本業映画監督のそれよりも遥かに美しく、魅力的だ。

これは結局、優れた「餘技」が出来る人間は、特に芸術の分野に於いては元来超人的な美と芸術的センスを持って居る、と云う事に他ならない。

そう、彼等の餘技は餘技で有って、餘技では無い…本業の美意識が齎らす、もう一つの「本業芸術」なのだ。川喜田半泥子や山田山庵、アンリ・ルソー白隠円空宮本武蔵杉本博司、そして利休の芸術がそれを証明して居る。

最高級の芸術のセンスは、その境目境等簡単に超えて、新しい芸術を生み出す。

そんな事を考えた、嵐の1日でした。

  

ーお知らせー

*10/1発売の「婦人画報」11月号(→https://www.hearst.co.jp/brands/fujingaho#)内、「佐竹本三十六歌仙絵」の「何を見たい?」コーナーで、僕の「オススメ歌仙」が取り上げられております。10/12より京博で開催されます「特別展 流転100年 佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美」と共に、是非お見逃し無く!

藤田美術館の公式サイト内「Art Talk」で、藤田清館長と対談しています。是非ご一読下さい(→http://fujita-museum.or.jp/topics/2018/12/17/351/)。

*僕が嘗て扱い、現在フリア美術館所蔵の名物茶壺「千種」に関する物語が、『「千種」物語 二つの海を渡った唐物茶壺」として本に為っています(→http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000033551943&Action_id=121&Sza_id=E1)。非常に面白い、歴史を超えた茶壺の旅のお話を、是非ご一読下さい!(因みに、その「千種」に関する僕のダイアリーはこちら→http://d.hatena.ne.jp/art-alien/20090724/1248459874、今から思えば、これも藤田美術館旧蔵で有った…)

主婦と生活社の書籍「時間を、整える」(→http://www.shufu.co.jp/books/detail/978-4-391-64148-6)に、僕の「インターステラー理論」が取材されて居ます。ご興味のある方は御笑覧下さい。

*僕が一昨年出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで今月一杯視聴出来ます。見逃した方は是非(→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/)!

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。 

現代美術は寛容に、そして冷静に。

昔、某老舗骨董店の番頭さんに、こんな話を聞いた事が有る。

或る日の昼下がり、その老舗骨董店ではその頃未だ若い店員だった番頭さんが、主人の留守を預かって店番をして居た。するとポロシャツにジーンズを穿き、無精髭を生やした体の大きな外国人がもそっと店に入って来て、店の棚に展示して有る焼物を手に取り、眺め始めた。

普通の日本人コレクターなら、一言「拝見して宜しいですか?」とか「触っても宜しいでしょうか?」とか聞きそうなモノだが、何も聞かずに勝手に影青の杯や縄文土偶の頭部等の小物を弄り廻して居るこの外人に彼は不安に為り、声を掛けて止め様としたが如何せん英語が喋れず、途方に暮れてその外人を眺めて居たが、終にはその外人が大名品の皿に手を伸ばした為、奥で事務仕事をして居た当時の番頭さんの所へと走った。

「すみません…変な外人が店に来て、勝手にモノを触っているんですが…然もあの大皿迄!」

英語が得意だったその番頭さんは、「ナニ?誰だろう?俺が云ってやろう!」と云って事務所から店へと出て行くと、大柄な男が背中を丸めて皿を触って居たので、

「Excuse me, sir... may I help you?」

と声を掛けた。

するとその男は皿を置き、徐に振り返ったのだが、その顔を見て吃驚した番頭さんは、一言

「Good afternoon, Mr. President…Please let us know if you need anything.」

と丁寧に云うと、丁稚さんに「馬鹿者!お前はあの人を知らんのか!あの人はフランスの大統領で、有名なコレクターだぞ!」と諭したと云う。

「人は見掛けによらない」話の典型だが、その外人ことフランス共和国元大統領、ジャック・シラク氏が亡くなった。

氏の日本・東洋美術好きは有名で、特に或る時期日本人の彼女が居た事(ミッテランもだ!)や、コレクターで有った事は、骨董業界では広く知られて居た。フランスと云う国は元来哲学と芸術の国なので、芸術文化に関する興味・教養の有る政治家も少なく無いが、我が国のトップ達を考えると比べる事自体が恥ずかしい感じだ。

日本の芸術文化を心より愛したシラク氏のご冥福を、心よりお祈りする(然し、元大統領が亡くなって、バレンボイムが告別式でピアノを弾いたり→https://www.youtube.com/watch?v=Wyg7AoPJwbA、ケ・ブランリー美術館が無料に為ったり、熟く文化レヴェルの差だなぁ…と思う)。

さてそんな中、「あいちトリエンナーレ」問題に新たな展開が有り、何と文化庁助成金を全額出さない事を決定したと云う…もう呆れて声も出ないが、今日は僕なりの考えを。

先ず僕は「あいトリ」を観て居ない…何故なら観に行く前に終わってしまったから。なので、各作品に就いて述べる立場には無い。が、この事件で何しろ一番問題だった事は、「展示を中止した事」では無いかと思う。

第一この展示を決めた時点で、この様な騒ぎが起こる事は火を見るより明らかだった筈で、芸術祭ディレクターがその為の準備を一切して居なかった事は、或る意味「職務怠慢」と云えると思うし、それにも況して悪いのは、「テロ(予告)に屈して」展示を取り止めた事だと思う。

一寸脱線するが、最近僕が観た映画に、現在も渋谷ユーロスペースで公開中の「アートのお値段」(→http://artonedan.com/)が有る。僕のニューヨーク時代の「元」同僚がオンパレードで出演者して居る事に加え、現代美術アート・マーケットの一側面を皮肉たっぷりに描いて居るので誠に興味深いのだが、それだけで無く、所々に実に示唆的な場面が有るので面白い。

その中で、ユダヤ人大コレクターが自身のコレクション中に有る、マウリシオ・カテランが 「ヒトラー」をモデルにした立体作品「Him」(→https://www.christies.com/lotfinder/Lot/maurizio-cattelan-b-1960-him-5994820-details.aspx)に就いて語る場面が有る(実はこの作品は、3年前クリスティーズで1718万9千ドル:約18億5千万円で落札された)。

劇中インタビュアーは、恐らくは誰もが聞きたい質問「ユダヤ人の貴方が、この作品を所有する意味は?」をコレクターに投げ掛けるのだが、この時僕はNYに転勤した直後の2001年5月に、初めてカトランの大作がクリスティーズで売られた時の事を思い出したのだった。

その作品は「ラ・ノラ・オラ」(→https://www.christies.com/lotfinder/Lot/maurizio-cattelan-b-1960-la-nona-2051684-details.aspx)。ローマ法王ヨハネ・パウロ2世(蝋人形)が隕石に当たって赤絨毯の上で十字架を握り締めながら倒れていると云う、このトンデモ立体インスタレーション作品が、下見会のメイン・コーナーに展示されたのを目にした時の驚きは忘れられない。

僕は正直「こんな作品を『公共の場』に展示して大丈夫なのか?」、或いは「例えばローマ法王天皇に置き換えて、日本で展示したらどうなる?」等と思ったし、「ユダヤ人現代作家によるこんな作品をカトリック教徒も多いアメリカで展示・売却したら、教会からの抗議や圧力が来て、大事になるのでは?」と考えたりもした。

が、結果はと云うと、下見会中思った通り我が社には色々な団体からのクレームや抗議も来た様だが、結局作品は展示され続け、無事エスティメイトの倍で売却された。そして僕はこの時に「現代美術のコンテクストに対する、冷静且つ寛容な読解力」と、「アートを扱うべき人間の冷静な信念」を改めて肝に命じたのだった。

今回のこの事件は、ディレクターの信念の足りなさから始まり、地方自治体と文化庁、国の作品に対する読解力不足に拠って起きたのだと思う。そしてダメ押し的に最悪なのは、文化庁が(と云うか、芸術ド素人の文科大臣が、存在感皆無の文化庁長官を飛び越えて…「アーティスト」で有る筈の文化庁長官は、意見も見解も無いのか?)助成金を出すのを中止した事で、文科大臣はその理由に「危険予知」の不備を挙げて居るが笑止千万。

国と政治家、そして官僚ももっと現代美術・芸術を学び、「寛容且つ冷静に」言論の自由表現の自由をテロから守り、「政策芸術で『無い』現代芸術」を国民に知らしめ、学ばせ、産ませる為に我々の税金を使わねばならない。

“Je ne suis pas d’accord avec ce que vous dites, mais je défendrai jusqu’à la mort votre droit de le dire.” -Voltaire-

(私は貴方の意見には反対だ。だが、貴方がそれを主張する権利は命をかけて守る)

シラク元大統領の様に、文化芸術を深く理解する日本の政治家が出てくる日は来るのだろうか?そして我が国の政府や政治家、官僚や言論メディアが、ヴォルテールの言葉を胸を張って云える日は来るのだろうか?

 

ーお知らせー

*10/1発売の「婦人画報」11月号(→https://www.hearst.co.jp/brands/fujingaho#)内、「佐竹本三十六歌仙絵」の「何を見たい?」コーナーで、僕の「オススメ歌仙」が取り上げられております。10/12より京博で開催されます「特別展 流転100年 佐竹本三十六歌仙絵と王朝の美」と共に、是非お見逃し無く!

*来たる10/12(土)の14:00-15:30、サントリー美術館6Fホールに於いて、9/4開幕の「黄瀬戸・瀬戸黒・志野・織部」展(→https://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2019_4/index.html)のスペシャトークイベント「美濃焼 過去 現在 未来」に、武者小路千家家元後嗣の千宗屋氏と登壇します。この企画はサントリー美術館メンバーズ・クラブ会員限定のイベントですので、ご参加されたい方は、これを機に是非メンバーに為られては如何でしょうか?お問い合わせは、サントリー美術館メンバーズ事務局(03-3479-8600)迄。

藤田美術館の公式サイト内「Art Talk」で、藤田清館長と対談しています。是非ご一読下さい(→http://fujita-museum.or.jp/topics/2018/12/17/351/)。

*僕が嘗て扱い、現在フリア美術館所蔵の名物茶壺「千種」に関する物語が、『「千種」物語 二つの海を渡った唐物茶壺」として本に為っています(→http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000033551943&Action_id=121&Sza_id=E1)。非常に面白い、歴史を超えた茶壺の旅のお話を、是非ご一読下さい!(因みに、その「千種」に関する僕のダイアリーはこちら→http://d.hatena.ne.jp/art-alien/20090724/1248459874、今から思えば、これも藤田美術館旧蔵で有った…)

主婦と生活社の書籍「時間を、整える」(→http://www.shufu.co.jp/books/detail/978-4-391-64148-6)に、僕の「インターステラー理論」が取材されて居ます。ご興味のある方は御笑覧下さい。

*僕が一昨年出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで今月一杯視聴出来ます。見逃した方は是非(→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/)!

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。 

「美獣」の死と、最近の藝術見聞。

今日は、超個人的に残念な悲報から。

決して「ハンサム」とは云えない「ハンサム」(笑)が亡くなった…その「ハンサム」とは、プロレス元NWA世界ヘビー級王者のハリー・レイス、享年76歳。

さて僕が高校時代大好きだった全日本プロレスには、NWAを中心とした海外選手が来日して居て、例えばドリー・ファンク・JR&テリー・ファンク兄弟のファンクスや、ミル・マスカラスドス・カラスの覆面コンビ、アブドラ・ザ・ブッチャー&ザ・シークの凶悪コンビ等を中心としての「世界最強タッグ」も大人気だったが、各選手に付いて居たニックネームや入場音楽も凝って居たのが思い出される。

例えばブッチャーのニックネームは「黒い呪術師」で、入場曲は何とピンク・フロイドの「吹けよ風、呼べよ嵐」!マスカラスは「千の顔を持つ男」でテーマはシグゾーの「スカイ・ハイ」、ファンクスの2人は「テキサス・ブロンコ」と呼ばれ、入場曲は彼らの必殺技をイメージして日本のバンドクリエイション(「ロンリーハート」!)が作曲した、滅茶滅茶カッコ良い「スピニング・トー・ホールド」で、この曲が流れただけで僕達は大興奮。

そして我等がハリー・レイスのテーマ曲は「ギャラクシー・エクスプレス」、必殺技は「バーティカルスープレックス」…この「バーティカルスープレックス」は所謂「ブレーンバスター」の一種なのだが、相手の身体を上まで持ち上げた瞬間、通常のブレーンバスターは直ぐに背後に落とすのに対し、レイスは持ち上げた相手の身体と自分の身体が一直線になった時点で何秒間か静止させ、その光景が何とも力強くて美しく、ファンを魅了したで有った。

「美獣」と云う訳の分からない日本語ニックネームも持っていた、然し最強レスラーだったレイスのご冥福を祈りたい。

さて本題…今日は久々に、最近の僕の藝術鑑賞覚書を。

 

ー映画ー

・「アートのお値段」@ユーロスペース:今月17日から渋谷ユーロスペースで公開される、最近の現代美術マーケットをテーマとしたドキュメンタリー・フィルムを試写会で。監督はあの偉大なる建築家ルイス・カーンの息子、ナサニエル・カーン。内容は至ってシニカルな内容で、実際オークションハウスに四半世紀以上勤めて居る身としては、言いたい事テンコ盛りの内容だが、今の現代美術マーケットの「一面」は表して居る。クーンズやコンド、リヒター等のアーティスト本人達や、エイミーやエド、ロバート等僕の昔の同僚が出て居るのも一興。現代美術に興味のある人は必見だ!

ー舞台ー

・能「井筒」@観世能楽堂:片山九郎右衛門師がシテを務めた「井筒」。鬘物が本当に上手い九郎右衛門師だが、今日は残念な事に声が枯れて居て、最近特に良くなった謡が今ひとつ…が、終盤の長い舞は美しく、流石で有った。この日の別番組「清経」も、シテ・ワキ共素晴らしい出来だった事も追記して置く。

ー展覧会ー

・「メスキータ」@東京ステーションギャラリー:いや、何とも驚いた…こんな作家が居たなんて!エッシャーの秘蔵っ子だったらしいが、何方かと云うとヴァロットン的な、若しくはドイツ表現主義的なモノも感じる、力強いモノクロームの版画が秀逸。本展を見逃すと云う選択肢は無い。

・「青柳龍太 l Sign」@ギャラリー小柳:現代美術家青柳龍太の「眼」の展覧会。作家本人が見つけ出した「モノ」をインスタレーションした展覧会だが、例えば鉄に見える紙や眼鏡、石等、「古美術坂田」的な物を残しながらも、それ等をインスタレーションする眼と技が堪能出来る。

・「室町将軍ー戦乱と美の足利十五代」@九州国立博物館:何しろ「東山御物」の展覧会と云って良い程の展覧会。それに加えて、新しい「尊氏像」や余りにも美し過ぎる青磁茶碗「馬蝗絆」、芸阿弥「観瀑図」等大名品揃い。

・「原三渓の美術」@横浜美術館:稀代の大コレクター、原三渓旧蔵品の大展覧。その中でも白眉は国宝「孔雀明王図」(何と美しい状態なのだろう!)、「病草紙断簡」、黒織部茶碗「文覚」、雪村の三幅対等だろう。そして驚くべきは、三溪さん本人の画業だ…是非一度ご覧あれ。

・「ジュリアン・オピー」@東京オペラシティ アートギャラリー:今を時めくアーティスト、オピーの展覧会は、素晴らしい出来だった!「こんな大きな、或いは重い作品をー体何処から入れたのか?」と云う質問を高校の先輩でも有るH主任学芸員にしたら、「何とか入った(笑)」との事。浮世絵収集家としても有名なオピー氏とは、パーティーでも歓談。アートと人との楽しいひと時でした。

・「特別展 三国志」@東京国立博物館:後輩を誘って行ったが、レセプション・招待日とは云え大混雑…が、僕の興味は唯一点、曹操の墓から出土した世界最古の「白磁」だった。ゲームファンは必見か(笑)。

・「松方コレクション展」@国立西洋美術館:世界に散らばった松方旧蔵の作品が集う、或る意味、やっと松方幸次郎の「夢」が叶った展覧会…何故なら造船業で財を成した松方の最期迄の夢は、東京に美術館を造る事だったから。然しこの仕事をして居ると、美術品コレクションの数奇な命運を偶に眼にするが、松方のそれは戦争・火災・破産等、時代と共に変遷し、コレクション中の作品は恰も取捨選択をされた如く、生き残った。そんな中で僕が一番感銘を受けたのは、言わずもがなのモネ「睡蓮・柳の反映」で、画面の半分程を損失したこの大作は、松方が1921年にモネ本人から購入したモノで、何とほんの3年前にパリで発見され、西美に寄贈された。修復を終えた本作は、画面の半分がなくとも元来の姿を容易に想像出来る、謂わば「ミロのヴィーナス」的な、或いは平安仏の「仏手」や耳庵旧蔵の伝快慶「観音仏耳」的な「欠損・残欠の美」の真髄と云えると思う。先日里帰りが発表と為った「プライス・コレクション」もそうだが、「コレクション」で有る事の意味は大きい。オークション等のアート・マーケットでも「個人コレクション」来歴を持つ作品が最も高価に為るし、纏まった事に因る作品の価値向上の意味も有る。そう云った事を実感出来る、素晴らしい展覧会だ。余談だが、先日放送されたこの展覧会を特集した「新日曜美術館」の展覧会シーンに、ワタクシが2度程登場してました(笑)。

 

と云う事で、今日は此処迄。最近忙し過ぎて、展覧会も音楽会も舞台も何も余り行けて居ない。これはアカン…何とかしなきゃ。

そして、気が付けば中止に為って仕舞った「あいちトリエンナーレ」の「表現の不自由展・その後」の問題に関しては、言いたい事が余りに多いので、次回此処で思いの丈を伝えたい。

然し日本、終わってますな…。

 

ーお知らせー

*現在発売中の雑誌「Men’s Ex」10月号(→https://www.mens-ex.jp/magazine/2019/201910.html)中の、「エグゼクティヴ的アートの楽しみ方」とメルセデス・ベンツのタイアップ広告に出させて頂いてます。お時間のある方は是非。

*現在発売中の古美術雑誌「目の眼」9月号(→https://menomeonline.com/about/latest/)の「Topics & Report」に、プライス・コレクションに関する私の寄稿が掲載されて居ります。ご興味の有る方は是非ご一読下さい。

*8月17日より渋谷ユーロスペースにて、現代美術マーケットをシニカルに扱ったドキュメンタリー映画「アートのお値段」が公開されますが、その翌日18日、16:10の回の後、17:50頃からの「スペシャル・アフタートーク」(→http://artonedan.com/)に、岩渕貞哉美術手帖編集長と登壇します。是非ご来場下さい!

*来たる10/12(土)の14:00-15:30、サントリー美術館6Fホールに於いて、9/4開幕の「黄瀬戸・瀬戸黒・志野・織部」展(→https://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2019_4/index.html)のスペシャトークイベント「美濃焼 過去 現在 未来」に、武者小路千家家元後嗣の千宗屋氏と登壇します。この企画はサントリー美術館メンバーズ・クラブ会員限定のイベントですので、ご参加されたい方は、これを機に是非メンバーに為られては如何でしょうか?お問い合わせは、サントリー美術館メンバーズ事務局(03-3479-8600)迄。

藤田美術館の公式サイト内「Art Talk」で、藤田清館長と対談しています。是非ご一読下さい(→http://fujita-museum.or.jp/topics/2018/12/17/351/)。

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*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。 

「象」も「虎」も「美人」も…皆幸福な「里帰り」。

皆様、4ヶ月間のご無沙汰です…桂屋孫一で御座います(玉置宏調で:笑)。

昨年10月に仕事上の立場が変わってから多忙を極めて仕舞い、3月に漸く「はてなブログ」への移行を終えて更新して以来、何と4ヶ月振りのダイアリー。

今回は、僕のキャリアでも非常に重要な「里帰り」仕事に就いて…そう、先日出光美術館がクリスティーズを介して「プライヴェート・セール」での購入を発表した、「プライス・コレクション」の事だ。

事の始まりは、今から約2年半前…カリフォルニア州コロナ・デル・マーレのプライス夫妻宅を訪ねた時に、「コレクションの半分を売却したいので、売り先を探して欲しい」との依頼を受けた時の事(この時の様子は、NHKの番組でどうぞ)。

その時夫妻から、1.買い手は日本の公的な場所で、将来江戸絵画研究の日米の架け橋と為る事(夫妻のコレクションの半分は、既にロサンジェルス郡立美術館に寄贈されて居る)、2.コレクションを散逸させる事無く、纏めて購入出来る事、3.コレクションを恒久的に保存・研究するに値する場所、との条件下での売却依頼を受けた僕は、相当なプレッシャーに押し潰されそうだったが、或る意味「こんな有名、且つ重要な在外日本美術コレクションの代理人と為った事を幸運に思わねば、ジョーさんとエツコさんに申し訳ない」と覚悟を決めたので有った。

さて、僕がジョーさんに初めて会ったのは1998年。その昔バブルの時代、高級自動車を扱って財を築いた麻布自動車のオーナーさんが持っていた、肉筆浮世絵専門の美術館麻布美術工芸館のコレクションが売りに出た時の、クリスティーズ・ニューヨークでの下見会の時だった様に思う。

下見会期中の或る日の午後、会場で出会ったジョーさんは、今回出光美術館が購入したコレクション中に有る、或る肉筆浮世絵を真剣に眺めて居て、 僕が挨拶をすると微笑みながら「会場の電気を消してくれないか?」と徐ろに僕に頼んだのだった。

当時入社して未だ間も無かった僕は、他のお客さんも居る会場でそんなリクエストをされた事自体初めてだったのだが、大コレクターとして名高いプライス氏のリクエストと来れば、聞かない訳にいかない…。

早速僕は会場の電気を消したり点けたり、調光したりしたが、その最中もジョーさんは立ったりしゃがんだり、近付いたり離れたりしながら作品を眺め続け、「日本の絵画は、『光』の変化でこんなに見え方が変わるんだ!」と僕に教えてくれた。

そして「OK, thank you !」と云う言葉で、僕はその場所を退いたのだが、その3時間位経った閉会間近に再びその場所を訪れると、ジョーさんは未だそこに立って居て、同じ絵を眺めて居た。そしてその姿は「コレクター」と云う人種の1つ真骨頂として、未だに僕の心にずっと残って居る。

そんなジョーさんと、優しくざっくばらんな奥様のエツコさんからの期待に僕が今回何とか応えられたのは、飽く迄も「人の縁」と「タイミング」、そして「作品の持つ力」のお陰と云う他は無い。

話は変わるが、美術品のディールで最も面白く重要な点は、「美術品はお金だけでは買えない」と云う事だと思う。確かに「オークション」は或る意味フェアで、最高金額を出せば、誰でもその作品を手に入れる事が出来る。だが「プライヴェート・セール」(オークションには出品せずに、クリスティーズ代理人と為って相対で取引をする)ではそうは行かない。

が、時に「名品の神」は悪戯を起こし、その意思に拠って名品の方が持ち主を選ぶが如く「移動」をする。そして其処には、必ず「運」「縁」「タイミング」が必ず存在し、詳しくは記さないが、今回のディールに於いても僕はそれを目の当たりにしたのだった。

そんなこんなで、若冲の「鳥獣花木図屏風」や応挙の「虎図」、湖龍斎の「雪中美人図」等を含む、夫妻が愛した190点に及ぶプライス・コレクションは、夫妻の想いを携えて海を越え、里帰りを果たして出光美術館の所蔵と為り、新天地で大切に保管・研究される事と相成った。

この素晴らしい結末に関わった全ての方々に喝采を捧げると共に、来年9月に出光美術館で開催予定の「帰国展」、そして出光佐千子新館長の手腕に期待しながら、今日にダイアリーはお終い。

目出度し、目出度し。

 

ーお知らせー

藤田美術館の公式サイト内「Art Talk」で、藤田清館長と対談しています。是非ご一読下さい(→http://fujita-museum.or.jp/topics/2018/12/17/351/)。

*僕が嘗て扱い、現在フリア美術館所蔵の名物茶壺「千種」に関する物語が、『「千種」物語 二つの海を渡った唐物茶壺」として本に為っています(→http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000033551943&Action_id=121&Sza_id=E1)。非常に面白い、歴史を超えた茶壺の旅のお話を、是非ご一読下さい!(因みに、その「千種」に関する僕のダイアリーはこちら→http://d.hatena.ne.jp/art-alien/20090724/1248459874、今から思えば、これも藤田美術館旧蔵で有った…)

主婦と生活社の書籍「時間を、整える」(→http://www.shufu.co.jp/books/detail/978-4-391-64148-6)に、僕の「インターステラー理論」が取材されて居ます。ご興味のある方は御笑覧下さい。

*僕が一昨年出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで今月一杯視聴出来ます。見逃した方は是非(→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/)!

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。 

守護天使「ウンベルト」との再会。

ご無沙汰致しました…。

この「トウキョウ・アート・ダイアリー」も、「はてなダイアリー」から「はてなブログ」へと晴れて移行した。

これからも宜しくお願い申し上げ奉りまする。

と云う事で、久々の更新はこれも久々のロンドン出張の事を。

4、5年振りに訪れたロンドンは、ヒースロー空港からの車窓で見る風景も、常宿で有る極めてロンドン的なホテルの、玄関に立つ燕尾服と山高帽で装ったドアマンも、素晴らしい出来のエッグベネディクトも、ガタガタするリフト(エレベーター)も僕の記憶の中のそれとは違わずに、僕を旧い友人の様に迎え入れて呉れた。

さて今回の出張の目的は、印象派・近代絵画オークションにアテンドする事だったが、目玉は個人コレクションからのモネの「睡蓮」とセザンヌの「静物」(→https://www.christies.com/lotfinder/Lot/paul-cezanne-1839-1906-nature-morte-de-peches-6190577-details.aspxで、そのセザンヌが僕的には今季の白眉だった。

結果、セザンヌは2120万3750英ポンド(約31億2000万円)で売れ、今季のクリスティーズ・ロンドンの印象派・近代絵画のセール・トータルは、シニャック(→https://www.christies.com/lotfinder/Lot/paul-signac-1863-1935-le-port-au-soleil-6190915-details.aspxやカイユボット(→https://www.christies.com/lotfinder/Lot/gustave-caillebotte-1848-1894-chemin-montant-6190917-details.aspxのアーティスト・レコードを含む、1億6542万4503英ポンド(約243億円)を売り上げ、サザビーズの1億907万4925ポンド(約160億円)に大きく水を開けて終了。

が、今日のダイアリーの主題は其処では無く、タイトル通り僕の嘗ての「守護天使」との再会の事だ。

彼の名前はウンベルト…当年取って82歳の、元イタリア選抜ラグビー選手。今を去る事27年前、僕がクリスティーズ・ロンドンにトレイニーとして入った時に、「19世紀コンチネンタル絵画」部門にイタリアン・クライアント・サービスとして居た社員だ。

さてその年、僕はトレイニーとして印象派・近代絵画、版画、中国美術、そして今はもう存在しない「19世紀コンチネンタル絵画」の各部門に3ヶ月ずつ在籍し、来る日も来る日も作品を額から外してカタログしたり、焼物の状態を調べたりして居た。

その「19世紀コンチネンタル絵画」部門は、印象派以外の19世紀ヨーロッパ絵画、即ちミレーやコロー等のバルビゾン派の画家や、北欧或いはスペイン等の画家達の作品を扱う部署で、見た事も聞いた事も無い画家の名前や画中の当世風俗、そして何よりも最低レヴェルの英語力と、それにイラつく短気な貴族の上司が、僕を毎日毎晩悩ませて居た。

そして僕が毎日の様に、その上司に怒鳴りつけられて居た時に、「守護天使」の如く庇ってくれ、慰めてくれたのがウンベルトで、当時殆ど鬱化して居て、何度辞めようかと思って居た僕が今此処に立って居られるのは、彼のお陰だと云っても過言では無い。

僕がロンドンでのトレイニーを卒業した数年後にクリスティーズを辞め、その後サザビーズに移った末に業界を引退してかなり経つウンベルトが、最近僕のロンドンの同僚にスーパーで偶然出会った時に僕の話と為り、その同僚に連絡先を託したのだった。

そうして僕は、ロンドン滞在最終日のランチタイムに、ウンベルトと再会する事に為った。

カフェに先に来て居たウンベルトは、僕を見つけるて立ち上がると破顔一笑し、昔の様に「カツーラ!」と「ツ」にアクセントを付けてイタリア人らしく叫び、今でもガッチリとした身体で僕をハグした。

その後の食事は、お互いの今迄と家族や共通の知人の話、昔話等で彩られ、僕等の間で交わされたジョークも相変わらずだったが、これは27年前と比べた時の、僕の英語力の偉大なる進歩も一役買った筈だ(笑)。

そんな楽しい時間もアッと云う間に過ぎ、別れの時が来た。

僕等は店を出ると握手をし、イタリア式にキスをしハグをして、「また逢う日迄、元気で(Be well, until next time)…」と云った瞬間、僕の眼に何故か涙が溢れた。

ウンベルトにバレない様に眼を拭い、彼の顔を見ると、彼の眼も潤んで居る様に見えたのだが、それは僕らの年齢では感じざるを得ない、「一期一会」の思いそのもので有ったに違いない。

帰りの機内で僕は、携帯に残したウンベルトと肩を組んで撮った写真を眺めた。

人は、それがほんの一瞬でも誰かのお陰で今の生活が有り、人生が有る…何時も忘れがちな、そんな当たり前の事を思い出させて呉れた、ロンドンと守護天使との再会だった。

Be well, Umberto, until next time.


ーお知らせー

*3/2に朝日カルチャーセンター新宿校で開催されたレクチャーが、無事終了致しました。ご参加頂いた皆様、有難うございました!4/7迄東京都美術館で開催中の「奇想の系譜展」、是非ご覧下さい!

*来たる3/9(土)、文化放送で11:00~13:00に放送されます「なかじましんや 土曜の穴」(→http://www.joqr.co.jp/ana/に生出演します。お時間のある方は是非!

藤田美術館の公式サイト内「Art Talk」で、藤田清館長と対談しています。是非ご一読下さい(→http://fujita-museum.or.jp/topics/2018/12/17/351/)。

*僕が嘗て扱い、現在フリア美術館所蔵の名物茶壺「千種」に関する物語が、『「千種」物語 二つの海を渡った唐物茶壺」として本に為っています(→http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000033551943&Action_id=121&Sza_id=E1)。非常に面白い、歴史を超えた茶壺の旅のお話を、是非ご一読下さい!(因みに、その「千種」に関する僕のダイアリーはこちら→http://d.hatena.ne.jp/art-alien/20090724/1248459874、今から思えば、これも藤田美術館旧蔵で有った…)

主婦と生活社の書籍「時間を、整える」(→http://www.shufu.co.jp/books/detail/978-4-391-64148-6)に、僕の「インターステラー理論」が取材されて居ます。ご興味のある方は御笑覧下さい。

*僕が昨年出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで今月一杯視聴出来ます。見逃した方は是非(→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/)!

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

謹賀新年、或いは「龍安寺」に里帰りした襖絵。

新年明けまして、お目出度う御座りまする。本年も宜しくお願い奉り候。


気が付けばこのダイアリー、何と2ヶ月半も更新せず…僕に取って、こんなに長い期間の非更新は初めてなのだが、これは単に10月に起こった青天の霹靂の人事異動の所為で有る。

なので、新年を迎えた今日は、昨年のラスト2ヶ月の総括を。

先ずは11月のニューヨーク・セール…大物では唯一ゴッホが売れなかったが、ホッパーとホックニーに其々「アメリカ絵画」と「現存作家」の世界新記録価格が出たりして、メインセール・ウィークの売り上げは競合他社との差も歴然。そして相変わらず世界のアート界に漂う、マネーの多さを証明した。

続く香港セールでは、アジアで売られた最も高額(約67億6千万円)なアートと為った、宋時代の詩人蘇軾作の「木石図」が有ったが、その反面アジア現代美術は苦戦。然し日本人顧客に関して云えば、買い手・売り手とも活発で、東洋美術マーケットに於ける日本の重要性は増して来て居るし、一点で5、60億円の作品が存在する以上、一昨年の藤田美術館セールを鑑みても、東洋美術のアート市場は現代美術や印象派と比べても、決して引けを取らないマーケットに為って来て居ると思う。

だが、僕個人の今年最後の仕事として特筆すべきは、矢張り123年振りに襖絵9枚(芭蕉図)を、プライヴェート・セールで京都の古刹龍安寺に戻した事だろう(→https://www.sankei.com/photo/story/news/181221/sty1812210010-n1.html:記事には「持ち主が持ちかけ」と有るが、実際は僕がお寺に戻したいから売ってくれと頼んだのだけれど…)。

実は僕は2008年のオークションで、別の襖絵6面(群仙図・唐子図)を龍安寺さんに買って頂いて居るのだが(拙ダイアリー:「里帰りする『襖絵』」参照)、人生で2回も同じお寺さんから流出した襖絵を戻すなんて、もう「ご縁」としか思えない。

さてこの計15面を含む龍安寺の襖絵は、仏教美術品に良く有る様に、明治期の廃仏毀釈時に流出し、その時は九州の炭鉱王が引き取ったのだが、その後海外に流出、現在も数点がメトロポリタン美術館やシアトル美術館に収蔵されて居る。

そして今回のこの「芭蕉図」も長く英国に有り、前からそれを知って居た僕は、何とか元の場所に戻したいと思って居たが、一寸油断をした隙に何時の間にか日本在住コレクターの元に移って仕舞って居て、が、それから持ち主との数年間の交渉の末、漸く売って頂ける事と為ったので有る。

今回の仕事はお寺さんにも大層お喜び頂いたのと、僕自身も偶々京都での大学の講義日程と合った事も有って、今回襖絵が132年振りにお寺に里帰りする「その日」に立ち会う事が出来て、本当に嬉しかった!

最近新しい職務に可成りウンザリして居た僕としては、今迄遣って来たこの様な仕事に未だ携わるチャンスが有る事だけが救いなのだが、「美術品とその『美術史に触れる』と云う仕事だけが、僕に取って最も遣り甲斐の有る仕事なのだ…」と改めて、そして熟く思う新年なので有った(笑)。


ではでは、この辺で此処2ヶ月半の「藝活」状況を箇条書きで記して置こう。


ー展覧会ー
・「ルーベンス展ーバロックの誕生」@国立西洋美術館
・「フィリップス・コレクション展」@三菱一号館美術館
・市村しげの「Resonance」@Cassina Ixc.
・「新素材研究所ー新素材 x 旧素材ー」@建築倉庫ミュージアム
舘鼻則孝「Beyond the Vanishing Point」@Kosaku Kanechika
・Stefan Bruggemann「Ha ha what does this represent? WHat do you represent?」@Kotaro Nukaga
森村泰昌「『私』の年代記 1985-2018」@ShugoArts
・リチャード・タトル「8, or Hachi」@小山登美夫ギャラリー
・「新・桃山の茶陶」@根津美術館
・「雅展」第十回「みやび」@瀬津雅陶堂
・齋木克裕「朝食の前に夢を語るように」@Sprout Curation
・「中国近代絵画の巨匠 斉白石」@東博
・「高麗青磁ーヒスイのきらめき」@大阪市立東洋陶磁美術館
・「Michael Borremans / Mark Manders」@ギャラリー小柳
・「田根剛 未来の記憶」@ギャラリー間
・「Sadamasa Motonaga」@Fergus McCafrey, NYC
・「Alexander Archipenko: Space Encircled」@Eykyn Maclean, NYC
・多田圭佑「エデンの東」@Maho Kubota Gallery
Chim↑Pom「グランドオープン」@Anomaly
・「Love & Peace:ロバート・インディアナ追悼展@ヒルサイドフォーラム
・川島秀明「Youth」@小山登美夫ギャラリー
・「桑山忠明」@Taka Ishii gallery
・小野祐次「逆も真なりー絵画頌」@ShugoArts
・「コレクション展」@京都国立近代美術館
・「バブル・ラップ」@熊本市現代美術館
・「扇の国、日本」@サントリー美術館


ー映画ー
・「ボヘミアン・ラプソディー
・「わたしはマリア・カラス
・「名探偵登場


ーCDー
横山幸雄・黒木雪音・藤田真央「パデレフスキ:ピアノ名曲集」
・平井麻奈美「願い」
村治佳織「Cinema」
・ヴィキングル・オラフソン「フィリップ・グラス:ピアノ・ワークス」


ーアートフェア・オークションー
・「蒐集衆商」@スパイラル
・「Harajuku Auction: Pop-life / Pop-ism」@The Flat
・「目白コレクション」


ー音楽会・舞台ー
・ヴィクトリア・ムローヴァすみだトリフォニーホール
マウリツィオ・ポリーニサントリー・ホール
・能「利休ー江之浦」@江之浦測候所・石舞台
・能「天正遣欧使節」@MOA美術館・能楽堂
・「Mugen∞能」@観世能楽堂
・「歌舞伎座百三十年 吉例顔見世大歌舞伎 夜の部(法界坊)」@歌舞伎座
・「豊饒の海」@紀伊国屋サザンシアター
マリインスキー・バレエ東京文化会館
・イーヴォ・ポゴレリッチ@サントリー・ホール
・浜松シティ・フィルハーモニー「第8回定期演奏会エルガー「チェロ協奏曲」)@浜松福祉交流センター
・「Skylight」@新国立劇場
・「貴信の會」@観世能楽堂
・「十二月大歌舞伎 夜の部(阿古屋)」@歌舞伎座


ー茶会ー
・千宗屋「南蛮茶会」@MOA美術館・一白庵
・随縁茶会@武者小路千家東京道場
森万里子「現代茶人の茶席」@根津美術館


ーレクチャー・授業ー
・「ラ・ココット」講演会@エノテカ・ピンキオーリ名古屋
・京都造形芸術大美術工芸学科基礎美術コース、1・2年生授業@京都造形芸術大学


いやぁ、やっと更新できました(笑)…が、各藝術の内容や感想に関しては、少しずつアップして行く予定なので、次回のダイアリーがアップされた後も、偶に気にして見直して頂ければ幸甚で有る。

然し、今年の年末は忙しかった…クリスマスは昨年程は嫌いじゃなかったが(笑)、恒例の作家・写真家・ジャズ評論家との忘年会「男4人会」や、アート関係者が集う「玉蘭会」も盛況、そして現代美術家S氏とは連夜の熱唱、何時もの様に除夜の鐘も「Z」で。

正月休み明けからは直ぐ海外出張が待っているので、確り休みまする。


ーお知らせー
*1月19日(土)、朝日新聞「be」の「フロントランナー」(→https://www.asahi.com/articles/DA3S13852214.html)に、取材して頂きました。ご一読下さい。

*雑誌「pen」468号(2月15日号)「今こそ知りたい!アートの値段。」(→https://www.pen-online.jp/magazine/pen/468-art)にインタビューが掲載されて居ます。ご一読下さい。

*3月2日(土)18:30〜20:00、朝日カルチャーセンター新宿にて「『奇想の絵師』とプライス・コレクションー奇想の系譜展によせて」と題されたレクチャーを開催します。詳しくは以下参照下さい(→https://www.asahiculture.jp/shinjuku/course/266a6245-940d-c189-3223-5bc5c54de32e)。

藤田美術館の公式サイト内「Art Talk」で、藤田清館長と対談しています。是非ご一読下さい(→http://fujita-museum.or.jp/topics/2018/12/17/351/)!

*日本美術専門誌「國華」の会員誌、「國華 清話会会報」第三十二号に、僕と小林忠先生の対談が掲載されて居ます。ご一読下さい。

*「目の眼」第508号に、僕のインタビューが掲載されています。ご笑覧下さい(→https://menomeonline.com/about/latest/)。

*僕が嘗て扱い、現在フリア美術館所蔵の名物茶壺「千種」に関する物語が、『「千種」物語 二つの海を渡った唐物茶壺」として本に為っています(→http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000033551943&Action_id=121&Sza_id=E1)。非常に面白い、歴史を超えた茶壺の旅のお話を、是非ご一読下さい!(因みに、その「千種」に関する僕のダイアリーはこちら→http://d.hatena.ne.jp/art-alien/20090724/1248459874、今から思えば、これも藤田美術館旧蔵で有った…)

主婦と生活社の書籍「時間を、整える」(→http://www.shufu.co.jp/books/detail/978-4-391-64148-6)に、僕の「インターステラー理論」が取材されて居ます。ご興味のある方は御笑覧下さい。

*僕が昨年出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで視聴出来ます。見逃した方は是非(→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/)!

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

教えて、ゴン太くん。

先ずは、最近の2つのアートの話題に就いて。

然し何故日本のメディアは、某オークション会社に於けるバンクシーの「茶番劇」に此処迄騙され、間抜け極まり無い報道を続けるのだろう?

ヴィデオを見れば、あの作品が裁断された時、オークションハウスの社員は誰一人として驚いたり叫んだりして居ない。そもそもあんな仕掛けが作品中に有るのを、スペシャリストがカタログをする時に見つけない訳が無いし、もしカタログをする際にフレームを外したりの精査をして居ないとすれば、そのスペシャリストもオークションハウスもプロとして失格。そしてあんな事が実際に「事故」として起きたら、損害賠償額はとんでも無い事に為るだろう。

まぁ僕としては、この「完璧なるヤラセ」を白々とメディアに流す売り手やオークションハウスの神経も、買い手のその後の態度も白けるのみ。序でに、こんな茶番を許したで有ろうバンクシーの評価も僕の中ではダダ下がりだし、それをさも大事件の様に報道する日本のメディアもまた然り。

以上は飽く迄も僕の「想像」だけれど、「次回」この作品がオークションに登場する時の落札価格は楽しみだ…この「事件」がもし本当の「アクシデント」だったら、値は相当上がるだろうから。

もう一つは、芸大内に出来たアートショップの件。この件に関して、例えば「アーティストが作品の売り方を学生時代から考える等、ケシカラン!」的な意見も聞くが、そんな事ありません。世界的に見れば、学生の頃から絵を売っている有名画家は勿論居るだろうし、音楽家だって然り。

芸術の販路に合わせて作品を作るのは一考を要するが、大学にアートショップが在って、其処で売る事の何が悪いのかと思う。売りながらでも技術や思想は成長するだろうし、売らなくても進歩のない奴はないのだから、売りたい人は画廊ででも学校ででも売れば宜しい。

また「職業としての芸術家」と考えると、音楽家に比べて画家や彫刻家は将来の不安がより切実だと思うから、絶対に学生の頃から「生活」を考えた方が良い。それを否定する美術業界の人は、責任取ってあげないと。

そして僕の骨折の方はと云うと、未だ痛みや腫れは有る物の、やっと靴を履ける位には為り、松葉杖無しでも足を引き摺りながら歩ける様に為ったので、仕事も藝術活動も再開…「骨折り損」的仕事はさて置き、「嗚呼、藝術と触れ合えるのは、何て幸せな事なのだろう!」と云う訳で、復帰後の「藝活」報告を。


ー音楽・舞台ー
アリス=紗良・オット東京文化会館:今年出たアルバム「NIGHT FALL」収録曲を中心とした、僕は初めて聴く日系ドイツ人ピアニストのソロ・ピアノ・リサイタル。曲はフランス人作曲家特集とも云える内容で、前半はドビュッシー「ベルガマスク組曲」、ショパン夜想曲の1、2、13番、そして「バライチ」(バラード1番)。後半はドビュッシー「夢想」から始まり、サティのお馴染み曲「グノシエンヌ」1番、「ジムノペディ」1番&3番、そして最後はラヴェル「夜のガスパール」だったが、このピアニストは音数の少ない静かな曲よりも、多い曲の方が得意らしい。特に最後に「夜のガスパール」が良かった。アンコールは「亡き王女のためのパヴァーヌ」、会場では日本美術史家のH先生に又又お会いする。

・「歌舞伎座百三十年 秀山祭九月大歌舞伎」夜の部@歌舞伎座:夜の部の演し物は、幸四郎の踊り「松寿操り三番叟」、近松原作・吉右衛門の「俊寛」、そして玉三郎の新作舞踊「幽玄」…幸四郎の踊りは未だ未だ、大播磨の俊寛は相変わらずの熱演だったが、問題は最後の大和屋の「幽玄」だ。能の三曲、「羽衣」「石橋」「道成寺」を「鼓童」の太鼓に合わせて舞う企画だが、実際大和屋は殆ど舞って居ないに等しい。そしてこの演目はそもそも大和屋の自主公演でのモノらしいのだが、「新作歌舞伎舞踊」との謳い文句に誘われてこの日来た者の眼には、三流の能を観に来たに等しかった。先ず鼓童の演奏は決して悪くないが、冗長で飽きる。舞台の演出も歌舞伎座で演るのに、何であんなに能っぽくしなければ為らないのか理解できない。この場で何度も云って居るが、何故「新しい芸術」「新しい舞踊」を創らずに、脳や歌舞伎のマイナーチェンジしか出来ないのだろう?…この「幽玄」も、ハッキリ云って「1+1=0.5」に為って仕舞って居て、「道成寺」も「京鹿子娘道成寺」も超えて居ない。どっちつかずは止めて、真の「新しい芸術」待ち望むのは欲張り過ぎるのだろうか?

マウリツィオ・ポリーニサントリーホール:噂では来日公演は今年が最後、と云うポリーニ。人生でもう何回ライヴを聴いたか分からないが(拙ダイアリー:「カーネギーで溢れた涙」参照)、現存するピアニストの中で真の感動を呼ぶ、数少ないピアニストの1人に違いない。さて今回のプログラムは前半がシューマンで、後半がショパン。開演が結構遅れて心配したが、やっと出て来て始まったシューマンアラベスクは硬くて、大丈夫かぁ?と心配全開。後半のショパン・プログラムでやっと彼の演奏は落ち着き、最後の「ピアノ・ソナタ第3番」やアンコールの「子守歌 作品57」等は涙が出た。コンサート後は、偶然会場で会った小説家氏と食事…20世紀最後の、ヨーロッパの歴史の様なピアニストを肴にイタリアンを頂く。「執事」の様に背を丸めて登場し、椅子に座りいきなり弾き始めると「貴族」と化すポリーニ。その演奏をもう1日だけ聴きに行こうと思って居る。

・「ららら♪クラシック コンサート vol.3 魅惑のチェロ特集」@サントリーホール:大学時代の友人高橋克典が司会を務める、NHKで放映中の番組のライヴ版コンサート。今回は若手チェリスト5人(北村陽、新倉瞳、辻本玲、上野通明、宮田大)が集まり、チェロの名曲を弾く。彼らの腕もさる事ながら、楽器も5人中3人が貸与されたストラディヴァリウス(ストラドのチェロは、ヴァイオリンに比べて圧倒的に数が少なく、世界に35挺しか確認されて居らず、価格も同じストラドで同じ位のクオリティのヴァイオリンに比べると、かなり高額らしい)で、それも聞き所。フォーレの「夢のあとに」やピアソラの「アヴェ・マリア」等、僕の大好きな曲も演奏され、満足のひと時でした。

・コリア・ブラッハー「プライヴェート・リサイタル」@ペニンシュラ・ホテル:僕の顧客が持っているストラドを貸与されて居る、元ベルリンフィルコンマス、コリア・ブラッハーが顧客の為に演奏するプライヴェート・コンサート。然し今回ブラッハーは、昨年から使って居る1730年製のグァルネリを使用して、ベートーヴェン、フランク、ワイル、そしてガーシュウィンを演奏。少人数でのこの贅沢なコンサートは、その後の食事と共に溜息しか出ない…至福、至福。

・「能楽喜多流 第十三回 燦ノ会」@十四世喜多六平太記念能楽堂:今回は「物狂」が或る意味テーマらしく、林望先生の解説から始まり、「高野物狂」「籠太鼓」のお仕舞と狂言の後、愈々喜多流ホープ大島輝久師がシテを務める、能「花筺」。世阿弥作のこの曲は切々として居ても、僕には何と云うか捉え所の無い曲なのだが、大島師の謡は朗々として居て、舞も観阿弥が創作したと云われる「李夫人の曲舞」と呼ばれる箇所が特に美しい。席が埋まって居ないのが少々寂しかったが、喜多流は今後何か手を考えねばならなく為るかも知れない…型も良いし、能楽堂も立派なんだけど。


ー展覧会ー
・「マルセル・デュシャンと日本美術」@東博:開催決定から楽しみにして居た展覧会のオープニングへ…で、結果は失望のどん底だった。来日したデュシャン作品は充実して居ると思われ、そのファンには良いのだろうが、肝心の「…と日本美術」の部分が情けない。展覧会の最後に取って付けた様に有った日本美術セクションは、デュシャンとの関連もハッキリせず、モヤモヤ。こんな事なら「デュシャンと利休」の方が分かり易かったろうし、よりその互換性も明確だったに違いない。残念極まる展覧会だった。

・「京都 大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ」@東博:上記展覧会との同時開催展。此方は東博実力発揮の展覧会で(笑)、鎌倉慶派の真髄を伝える。中でも快慶の「十大弟子像」は素晴らしく、「こう云う人居るよなぁ」的写実の極み…写実と崇敬の念を同時に顕すのは、大変な技量が必要とされるのが良く分かる。

・「2017年度日本陶磁協会賞記念展」@壷中居:昨年の受賞者は、協会賞に青磁の伊藤秀人氏、金賞には備前の金重有邦氏…そのお二人の受賞記念展と授賞式が、壷中居で開催された。有邦さんとはお互い親子二代お付き合いで、僕自身彼の作陶の大ファンで有るので、我が事の様に嬉しい。茶碗や茶入、水指等の展示が有ったが、何れも有邦さんの実直な人柄が出て居る物ばかりで、授賞式では有邦さんらしい、ユーモアたっぷりのスピーチも。その後の記念ディナー@中華「H」では、漆芸家M氏夫妻やコレクターI氏とのテーブルで楽しくディナー。有邦さんへの祝辞コーナーでは司会のN氏に急に当てられ、序でに僕の最近の昇進に関するアナウンスも皆さんにされて仕舞い、恐縮頻り。有邦さん、本当に御目出度う御座います!

・「フェルメール展」:上野の森美術館で始まった、「日本人大好き」フェルメールを何と8点(大阪展を入れれば9点)を同時に観れる展覧会のオープニングへ、顧客ご夫妻と。今回のご招待は「元同僚」で、今はこの展覧会に最大の協力をしたアムステルダム国立美術館館長のご配慮が大きく、8点のフェルメールが集まった一部屋で過ごした甘美な時間を感謝したい。が、ちょっと残念だったのは、フェルメール以外の作品が如何にも取って付けた感じのクオリティに見えた事で、それだったら例えばもっと高額な入場料を取って、ニューヨークのフリック・コレクションの様な洋館(庭園美術館とか?)で、フェルメールのみを見せた方が良かったのではないかと思う…が、何だかんだ云って、「牛乳を注ぐ女」はモノ凄い作品だと再確認する。石原さとみちゃんのイヤホン解説にうっとりした展覧会後は、オランダ大使館に移動し、記念パーティーに出席。本展を監修をされたS先生等と歓談したり、オランダ料理に舌鼓を打ったり。何とも贅沢な1日でした!

・「京都・醍醐寺 真言密教の宇宙」@サントリー美術館醍醐寺には有名な作品が多く、今迄観た事の有る作品が多いのも事実だが、然し例えば光背化仏すらも超魅力的な「薬師如来及び両脇侍像」や、昔から大好きな剽軽とも云える「五大明王像」、「虚空蔵菩薩立像」や「五大尊像」、「絵因果経」迄見飽きない処か、新たな発見に満ちた作品ばかり。何度も訪れたい展覧会だ。

・「特別展 仏像の姿〜微笑む・飾る・踊る」@三井記念美術館:NYに長く居る者に取って、東京は日本美術の展覧会を観る上では「羨望」の場所で、今回の様に最高品質の仏教美術の展覧会が都内3箇所で同時に観れるなんて…その意味では本当に帰国して良かったと思ふ。さてこの展覧会の冒頭は、冒頭から見覚えの有る作品が並ぶが、然しクオリティは須らく高い。中でも特に気に入ったのは四天王寺の「阿弥陀如来及び両脇侍像」で、脇侍の美しくもファンキーなダンス・スタイル(笑)に驚く。そして修復作品コーナーに展示されて居る「不動明王及び二童子像」…こちらも慶派の宗慶作と思われる素晴らしい作品で、特に不動明王像は鎌倉期の風を館内で感じる程。是非ご覧頂きたい。

・「信長とクアトロ・ラガッツィ 桃山の夢と幻+杉本博司天正遣欧使節が見たヨーロッパ」@MOA美術館:何と長い展覧会名なのだろうか(笑)!が、流石MOA美術館のリニューアル記念展+ニューヨーク・ジャパン・ソサエティで開催された杉本の展覧会「Gates if Paradise」の複合展で、作品内容も本当に凄い。仕事柄南蛮美術は幾つも扱って来たし、最近も某外国美術館に「南蛮屏風」一双や日本・世界地図屏風」一双を収めた僕だが、本展のラインナップは九博で開催された「大航海時代の日本美術」を髣髴とさせる位に素晴らしい南蛮系の展示に驚く。それに加え、杉本の新作展も欧州の歴史臭がプンプンする内容で、特に「ヴィラ・ファルネーゼの螺旋階段I&II」や「地図の部屋」は垂涎の作品だ!そして杉本氏が関わるイヴェントは天候が何時も荒れるのだが、その原因と思われる「雷神像」が上記三井記念美術館の展覧会に貸し出されて居たのを観たので「もしかしたら?」と思ったが甘く、レセプションの日は「矢張り」雨だった(笑)。

・「カタストロフと美術のちから」@森美術館:MOAからダッシュで帰京し、森美術館へ。参加アーティストもオノ・ヨーコやチンポム、池田学やアイ・ウェイウェイ宮本隆司やトーマス・ヒルシュホーン等多彩で見応え十分だが、中々にハードコアな展覧会で、もう一回ゆっくりと観ねばならない。レセプションではチンポムの卯城君に、「人間レストラン」の話を聞く…楽しみ楽しみ。

須田悦弘「ミテクレマチス」@ヴァンジ彫刻庭園美術館:繊細な木彫作品で知られる、須田氏の展覧会。作品以外に僕が知って居る須田氏は、忘年会でブルーハーツを熱唱する姿だけなので(笑)、今回の展示で「公開制作」されると聞き、興味津々。その制作風景を拝見すると、氏が使われる彫刻刀は、思ったより普通のモノで、これであの繊細な作品を作っているのは凄い。そして展覧会は相変わらず作品を見逃しそうだったが、自然の中の美術館の展示に凄く合って居て宜しい。今月末迄開催しているので、ドライブでどうぞ!

・「藤田嗣治 本の仕事 文字を装う絵の世界」@ベルナール・ビュッフェ美術館:ここ数ヶ月で3本目の藤田展。藤田の仕事の多彩さは、その才能の証でも有ると思う。恐らくこの人は描く事が好きで好きでしょうがない人で、仕事の大小なんか関係ないんだろうと思う。愛らしい作品群に癒されます。

・「アレックス・カッツ&フランチェスコ・クレメンテ」@テラダ・アート・コンプレックス:能研究者のR君を連れて訪れたのは、寺田で開催中のGaleria Javier Lopez & Fer Francesの展覧会。この2人の作家には目新しい事も無いが、カッツの小型の花の絵やポートレイトがやたら良くて、初めてカッツを欲しいと思った自分に驚いた…ので、価格を聞いてみたら想像以上に相当高くて、更に驚いたのだった(笑)。

Chim↑Pom「Ningen Restaurant」@旧歌舞伎町ブックセンタービル:「人間こそがメインディッシュ」と云うコンセプトの凄い企画で、未だ行ってない人は28ま日迄に行って欲しい。作品展示もライヴも身体パフォーマンス・イベントも有るが、レストランと銘打ったが故に、死刑囚の食「ラスト・サパー」も食べられる。このイベント開催前に、関係者に「『人間国宝』を連れて来て、対談でも企画してよ!」と頼まれたのだが、力及ばず…無念だ(財前五郎風に)。パーティーでは、来月「Anomaly」に正式合併する山本現代の裕子さんやURANOのむつみさん、著名キュレーター、美術メディアの方々等、百花狂乱の宴(笑)だったが、帰りには近所の本家「人間レストラン」でもう一杯。然し、面白かったなぁー。


ーその他ー
・「中金堂再建 落慶慶讃法要」@法相宗大本山 興福寺:320年振りに行われた、興福寺の中金堂落慶法要…僕が伺った日は「南都麟山会厳修 落慶慶讃四箇法要」で有った。もう何と云うか、この21世紀の今これが行われる日本は本当に素晴らしい。近鉄特急でバッタリ会った、人間国宝能楽小鼓方の大倉源次郎師と共に向かった、朝10時から2時間掛けて行われた法要の中身は濃く、「入場・惣礼」から始まり、南都楽所に拠る舞楽「振鉾三節」、千宗屋師に拠る「献茶」、薬師寺東大寺法隆寺に拠る「散華・梵音・錫杖」、味方玄師が舞う舞囃子「菊慈童」等々、全てが僕を遠い過去へと誘い、前日前々日とクラシック音楽漬けだった僕の耳は、声明や舞楽、謡や囃子でリフレッシュされ、完全なる異文化音楽の比較を堪能したのだった。嗚呼、本当に伺って良かった…。

・「興福寺中金堂落慶慶讃茶会」@興福寺 本坊静観寮・興福寺会館:この日の濃茶席は、藤田美術館蔵の「伎楽迦楼羅面」をメインに、床には砧青磁浮牡丹花入と「南都隣山」に就き、「法隆寺金堂天蓋付属金銅透彫幡残欠」が掛けられ、皆を驚愕させる。そしてこの日の主茶碗は、実際に観ると驚く程見込みの深い彫三島茶碗「あらがき」、その他名品揃い。また藤田館長、千宗屋若宗匠には、骨折した足の為の椅子を用意して頂いたので、濃茶も大変美味しく頂けました。そのお心遣いに感謝感激し、その後は奥で色々とお道具を拝見して、更なる感動。藤田さんの興福寺千体仏は、日本一の千体仏でした!

・「オークション&プライヴェート・セール下見会」@クリスティーズ・ジャパン:今回の下見会には、来月NY印象派のオークションに掛かる、嘗てオークションに出品された事の無いウブなゴッホの1887年作品、「蝶の居る庭の片隅」(→https://www.christies.com/features/Van-Gogh-Coin-de-jardin-avec-papillons-9423-1.aspx)と、歌麿の大名品錦絵「歌撰戀之部 物思恋」の2点オンリー。ミニマルな展覧会だったが好評で、「林忠正印の有るこの歌麿を、当時ゴッホも観たかも知れない!」と勝手に興奮するジャポニズム展覧だった。

・「2018 東美アートフェア」@東京美術倶楽部:他人事ながら、行ってみたら思いの外賑わって居て、嬉しい。素晴らしい男女神像や、李朝文房具、粉引徳利等の名品も多く、会場で偶然出会った仲の良い現代美術家のS君&現代陶芸家K君と一緒に観て廻ったのも、新鮮で楽しかった!而も買わずに済んだしね…(笑)。


職種が追加されて、メールは増えるわ、自分の専門分野の作品探しの時間はなくなるわ…もう既にやってられない感満載だが、引き受けた以上はやりたい事をやって仕舞おう。

種を蒔く。オークションを開催する。オークションの公共性を日本でも広める。エッジを際立たせる。ヤラセや茶番を排除する。過去と未来を行き来する。僕に出来るかな?

ゴン太くん、教えて…(笑)


ーお知らせー
*僕が嘗て扱い、現在フリア美術館所蔵の名物茶壺「千種」に関する物語が、『「千種」物語 二つの海を渡った唐物茶壺」として本に為っています(→http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000033551943&Action_id=121&Sza_id=E1)。非常に面白い、歴史を超えた茶壺の旅のお話を、是非ご一読下さい!(因みに、その「千種」に関する僕のダイアリーはこちら→http://d.hatena.ne.jp/art-alien/20090724/1248459874、今から思えば、これも藤田美術館旧蔵で有った…)

*ウェッブ版「美術手帖」に、ショート・インタビュー(→https://bijutsutecho.com/magazine/interview/18611)が掲載されて居ます。是非ご覧下さい。

主婦と生活社の書籍「時間を、整える」(→http://www.shufu.co.jp/books/detail/978-4-391-64148-6)に、僕の「インターステラー理論」が取材されて居ます。ご興味のある方は御笑覧下さい。

*僕が昨年出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで視聴出来ます。見逃した方は是非!→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。