「美獣」の死と、最近の藝術見聞。

今日は、超個人的に残念な悲報から。

決して「ハンサム」とは云えない「ハンサム」(笑)が亡くなった…その「ハンサム」とは、プロレス元NWA世界ヘビー級王者のハリー・レイス、享年76歳。

さて僕が高校時代大好きだった全日本プロレスには、NWAを中心とした海外選手が来日して居て、例えばドリー・ファンク・JR&テリー・ファンク兄弟のファンクスや、ミル・マスカラスドス・カラスの覆面コンビ、アブドラ・ザ・ブッチャー&ザ・シークの凶悪コンビ等を中心としての「世界最強タッグ」も大人気だったが、各選手に付いて居たニックネームや入場音楽も凝って居たのが思い出される。

例えばブッチャーのニックネームは「黒い呪術師」で、入場曲は何とピンク・フロイドの「吹けよ風、呼べよ嵐」!マスカラスは「千の顔を持つ男」でテーマはシグゾーの「スカイ・ハイ」、ファンクスの2人は「テキサス・ブロンコ」と呼ばれ、入場曲は彼らの必殺技をイメージして日本のバンドクリエイション(「ロンリーハート」!)が作曲した、滅茶滅茶カッコ良い「スピニング・トー・ホールド」で、この曲が流れただけで僕達は大興奮。

そして我等がハリー・レイスのテーマ曲は「ギャラクシー・エクスプレス」、必殺技は「バーティカルスープレックス」…この「バーティカルスープレックス」は所謂「ブレーンバスター」の一種なのだが、相手の身体を上まで持ち上げた瞬間、通常のブレーンバスターは直ぐに背後に落とすのに対し、レイスは持ち上げた相手の身体と自分の身体が一直線になった時点で何秒間か静止させ、その光景が何とも力強くて美しく、ファンを魅了したで有った。

「美獣」と云う訳の分からない日本語ニックネームも持っていた、然し最強レスラーだったレイスのご冥福を祈りたい。

さて本題…今日は久々に、最近の僕の藝術鑑賞覚書を。

 

ー映画ー

・「アートのお値段」@ユーロスペース:今月17日から渋谷ユーロスペースで公開される、最近の現代美術マーケットをテーマとしたドキュメンタリー・フィルムを試写会で。監督はあの偉大なる建築家ルイス・カーンの息子、ナサニエル・カーン。内容は至ってシニカルな内容で、実際オークションハウスに四半世紀以上勤めて居る身としては、言いたい事テンコ盛りの内容だが、今の現代美術マーケットの「一面」は表して居る。クーンズやコンド、リヒター等のアーティスト本人達や、エイミーやエド、ロバート等僕の昔の同僚が出て居るのも一興。現代美術に興味のある人は必見だ!

ー舞台ー

・能「井筒」@観世能楽堂:片山九郎右衛門師がシテを務めた「井筒」。鬘物が本当に上手い九郎右衛門師だが、今日は残念な事に声が枯れて居て、最近特に良くなった謡が今ひとつ…が、終盤の長い舞は美しく、流石で有った。この日の別番組「清経」も、シテ・ワキ共素晴らしい出来だった事も追記して置く。

ー展覧会ー

・「メスキータ」@東京ステーションギャラリー:いや、何とも驚いた…こんな作家が居たなんて!エッシャーの秘蔵っ子だったらしいが、何方かと云うとヴァロットン的な、若しくはドイツ表現主義的なモノも感じる、力強いモノクロームの版画が秀逸。本展を見逃すと云う選択肢は無い。

・「青柳龍太 l Sign」@ギャラリー小柳:現代美術家青柳龍太の「眼」の展覧会。作家本人が見つけ出した「モノ」をインスタレーションした展覧会だが、例えば鉄に見える紙や眼鏡、石等、「古美術坂田」的な物を残しながらも、それ等をインスタレーションする眼と技が堪能出来る。

・「室町将軍ー戦乱と美の足利十五代」@九州国立博物館:何しろ「東山御物」の展覧会と云って良い程の展覧会。それに加えて、新しい「尊氏像」や余りにも美し過ぎる青磁茶碗「馬蝗絆」、芸阿弥「観瀑図」等大名品揃い。

・「原三渓の美術」@横浜美術館:稀代の大コレクター、原三渓旧蔵品の大展覧。その中でも白眉は国宝「孔雀明王図」(何と美しい状態なのだろう!)、「病草紙断簡」、黒織部茶碗「文覚」、雪村の三幅対等だろう。そして驚くべきは、三溪さん本人の画業だ…是非一度ご覧あれ。

・「ジュリアン・オピー」@東京オペラシティ アートギャラリー:今を時めくアーティスト、オピーの展覧会は、素晴らしい出来だった!「こんな大きな、或いは重い作品をー体何処から入れたのか?」と云う質問を高校の先輩でも有るH主任学芸員にしたら、「何とか入った(笑)」との事。浮世絵収集家としても有名なオピー氏とは、パーティーでも歓談。アートと人との楽しいひと時でした。

・「特別展 三国志」@東京国立博物館:後輩を誘って行ったが、レセプション・招待日とは云え大混雑…が、僕の興味は唯一点、曹操の墓から出土した世界最古の「白磁」だった。ゲームファンは必見か(笑)。

・「松方コレクション展」@国立西洋美術館:世界に散らばった松方旧蔵の作品が集う、或る意味、やっと松方幸次郎の「夢」が叶った展覧会…何故なら造船業で財を成した松方の最期迄の夢は、東京に美術館を造る事だったから。然しこの仕事をして居ると、美術品コレクションの数奇な命運を偶に眼にするが、松方のそれは戦争・火災・破産等、時代と共に変遷し、コレクション中の作品は恰も取捨選択をされた如く、生き残った。そんな中で僕が一番感銘を受けたのは、言わずもがなのモネ「睡蓮・柳の反映」で、画面の半分程を損失したこの大作は、松方が1921年にモネ本人から購入したモノで、何とほんの3年前にパリで発見され、西美に寄贈された。修復を終えた本作は、画面の半分がなくとも元来の姿を容易に想像出来る、謂わば「ミロのヴィーナス」的な、或いは平安仏の「仏手」や耳庵旧蔵の伝快慶「観音仏耳」的な「欠損・残欠の美」の真髄と云えると思う。先日里帰りが発表と為った「プライス・コレクション」もそうだが、「コレクション」で有る事の意味は大きい。オークション等のアート・マーケットでも「個人コレクション」来歴を持つ作品が最も高価に為るし、纏まった事に因る作品の価値向上の意味も有る。そう云った事を実感出来る、素晴らしい展覧会だ。余談だが、先日放送されたこの展覧会を特集した「新日曜美術館」の展覧会シーンに、ワタクシが2度程登場してました(笑)。

 

と云う事で、今日は此処迄。最近忙し過ぎて、展覧会も音楽会も舞台も何も余り行けて居ない。これはアカン…何とかしなきゃ。

そして、気が付けば中止に為って仕舞った「あいちトリエンナーレ」の「表現の不自由展・その後」の問題に関しては、言いたい事が余りに多いので、次回此処で思いの丈を伝えたい。

然し日本、終わってますな…。

 

ーお知らせー

*8月17日より渋谷ユーロスペースにて、現代美術マーケットをシニカルに扱ったドキュメンタリー映画「アートのお値段」が公開されますが、その翌日18日、16:10の回の後、17:50頃からの「スペシャル・アフタートーク」(→http://artonedan.com/)に、岩渕貞哉美術手帖編集長と登壇します。是非ご来場下さい!

*来たる10/12(土)の14:00-15:30、サントリー美術館6Fホールに於いて、9/4開幕の「黄瀬戸・瀬戸黒・志野・織部」展(→https://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2019_4/index.html)のスペシャトークイベント「美濃焼 過去 現在 未来」に、武者小路千家家元後嗣の千宗屋氏と登壇します。この企画はサントリー美術館メンバーズ・クラブ会員限定のイベントですので、ご参加されたい方は、これを機に是非メンバーに為られては如何でしょうか?お問い合わせは、サントリー美術館メンバーズ事務局(03-3479-8600)迄。

藤田美術館の公式サイト内「Art Talk」で、藤田清館長と対談しています。是非ご一読下さい(→http://fujita-museum.or.jp/topics/2018/12/17/351/)。

*僕が嘗て扱い、現在フリア美術館所蔵の名物茶壺「千種」に関する物語が、『「千種」物語 二つの海を渡った唐物茶壺」として本に為っています(→http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000033551943&Action_id=121&Sza_id=E1)。非常に面白い、歴史を超えた茶壺の旅のお話を、是非ご一読下さい!(因みに、その「千種」に関する僕のダイアリーはこちら→http://d.hatena.ne.jp/art-alien/20090724/1248459874、今から思えば、これも藤田美術館旧蔵で有った…)

主婦と生活社の書籍「時間を、整える」(→http://www.shufu.co.jp/books/detail/978-4-391-64148-6)に、僕の「インターステラー理論」が取材されて居ます。ご興味のある方は御笑覧下さい。

*僕が一昨年出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで今月一杯視聴出来ます。見逃した方は是非(→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/)!

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。 

「象」も「虎」も「美人」も…皆幸福な「里帰り」。

皆様、4ヶ月間のご無沙汰です…桂屋孫一で御座います(玉置宏調で:笑)。

昨年10月に仕事上の立場が変わってから多忙を極めて仕舞い、3月に漸く「はてなブログ」への移行を終えて更新して以来、何と4ヶ月振りのダイアリー。

今回は、僕のキャリアでも非常に重要な「里帰り」仕事に就いて…そう、先日出光美術館がクリスティーズを介して「プライヴェート・セール」での購入を発表した、「プライス・コレクション」の事だ。

事の始まりは、今から約2年半前…カリフォルニア州コロナ・デル・マーレのプライス夫妻宅を訪ねた時に、「コレクションの半分を売却したいので、売り先を探して欲しい」との依頼を受けた時の事(この時の様子は、NHKの番組でどうぞ)。

その時夫妻から、1.買い手は日本の公的な場所で、将来江戸絵画研究の日米の架け橋と為る事(夫妻のコレクションの半分は、既にロサンジェルス郡立美術館に寄贈されて居る)、2.コレクションを散逸させる事無く、纏めて購入出来る事、3.コレクションを恒久的に保存・研究するに値する場所、との条件下での売却依頼を受けた僕は、相当なプレッシャーに押し潰されそうだったが、或る意味「こんな有名、且つ重要な在外日本美術コレクションの代理人と為った事を幸運に思わねば、ジョーさんとエツコさんに申し訳ない」と覚悟を決めたので有った。

さて、僕がジョーさんに初めて会ったのは1998年。その昔バブルの時代、高級自動車を扱って財を築いた麻布自動車のオーナーさんが持っていた、肉筆浮世絵専門の美術館麻布美術工芸館のコレクションが売りに出た時の、クリスティーズ・ニューヨークでの下見会の時だった様に思う。

下見会期中の或る日の午後、会場で出会ったジョーさんは、今回出光美術館が購入したコレクション中に有る、或る肉筆浮世絵を真剣に眺めて居て、 僕が挨拶をすると微笑みながら「会場の電気を消してくれないか?」と徐ろに僕に頼んだのだった。

当時入社して未だ間も無かった僕は、他のお客さんも居る会場でそんなリクエストをされた事自体初めてだったのだが、大コレクターとして名高いプライス氏のリクエストと来れば、聞かない訳にいかない…。

早速僕は会場の電気を消したり点けたり、調光したりしたが、その最中もジョーさんは立ったりしゃがんだり、近付いたり離れたりしながら作品を眺め続け、「日本の絵画は、『光』の変化でこんなに見え方が変わるんだ!」と僕に教えてくれた。

そして「OK, thank you !」と云う言葉で、僕はその場所を退いたのだが、その3時間位経った閉会間近に再びその場所を訪れると、ジョーさんは未だそこに立って居て、同じ絵を眺めて居た。そしてその姿は「コレクター」と云う人種の1つ真骨頂として、未だに僕の心にずっと残って居る。

そんなジョーさんと、優しくざっくばらんな奥様のエツコさんからの期待に僕が今回何とか応えられたのは、飽く迄も「人の縁」と「タイミング」、そして「作品の持つ力」のお陰と云う他は無い。

話は変わるが、美術品のディールで最も面白く重要な点は、「美術品はお金だけでは買えない」と云う事だと思う。確かに「オークション」は或る意味フェアで、最高金額を出せば、誰でもその作品を手に入れる事が出来る。だが「プライヴェート・セール」(オークションには出品せずに、クリスティーズ代理人と為って相対で取引をする)ではそうは行かない。

が、時に「名品の神」は悪戯を起こし、その意思に拠って名品の方が持ち主を選ぶが如く「移動」をする。そして其処には、必ず「運」「縁」「タイミング」が必ず存在し、詳しくは記さないが、今回のディールに於いても僕はそれを目の当たりにしたのだった。

そんなこんなで、若冲の「鳥獣花木図屏風」や応挙の「虎図」、湖龍斎の「雪中美人図」等を含む、夫妻が愛した190点に及ぶプライス・コレクションは、夫妻の想いを携えて海を越え、里帰りを果たして出光美術館の所蔵と為り、新天地で大切に保管・研究される事と相成った。

この素晴らしい結末に関わった全ての方々に喝采を捧げると共に、来年9月に出光美術館で開催予定の「帰国展」、そして出光佐千子新館長の手腕に期待しながら、今日にダイアリーはお終い。

目出度し、目出度し。

 

ーお知らせー

藤田美術館の公式サイト内「Art Talk」で、藤田清館長と対談しています。是非ご一読下さい(→http://fujita-museum.or.jp/topics/2018/12/17/351/)。

*僕が嘗て扱い、現在フリア美術館所蔵の名物茶壺「千種」に関する物語が、『「千種」物語 二つの海を渡った唐物茶壺」として本に為っています(→http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000033551943&Action_id=121&Sza_id=E1)。非常に面白い、歴史を超えた茶壺の旅のお話を、是非ご一読下さい!(因みに、その「千種」に関する僕のダイアリーはこちら→http://d.hatena.ne.jp/art-alien/20090724/1248459874、今から思えば、これも藤田美術館旧蔵で有った…)

主婦と生活社の書籍「時間を、整える」(→http://www.shufu.co.jp/books/detail/978-4-391-64148-6)に、僕の「インターステラー理論」が取材されて居ます。ご興味のある方は御笑覧下さい。

*僕が一昨年出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで今月一杯視聴出来ます。見逃した方は是非(→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/)!

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。 

守護天使「ウンベルト」との再会。

ご無沙汰致しました…。

この「トウキョウ・アート・ダイアリー」も、「はてなダイアリー」から「はてなブログ」へと晴れて移行した。

これからも宜しくお願い申し上げ奉りまする。

と云う事で、久々の更新はこれも久々のロンドン出張の事を。

4、5年振りに訪れたロンドンは、ヒースロー空港からの車窓で見る風景も、常宿で有る極めてロンドン的なホテルの、玄関に立つ燕尾服と山高帽で装ったドアマンも、素晴らしい出来のエッグベネディクトも、ガタガタするリフト(エレベーター)も僕の記憶の中のそれとは違わずに、僕を旧い友人の様に迎え入れて呉れた。

さて今回の出張の目的は、印象派・近代絵画オークションにアテンドする事だったが、目玉は個人コレクションからのモネの「睡蓮」とセザンヌの「静物」(→https://www.christies.com/lotfinder/Lot/paul-cezanne-1839-1906-nature-morte-de-peches-6190577-details.aspxで、そのセザンヌが僕的には今季の白眉だった。

結果、セザンヌは2120万3750英ポンド(約31億2000万円)で売れ、今季のクリスティーズ・ロンドンの印象派・近代絵画のセール・トータルは、シニャック(→https://www.christies.com/lotfinder/Lot/paul-signac-1863-1935-le-port-au-soleil-6190915-details.aspxやカイユボット(→https://www.christies.com/lotfinder/Lot/gustave-caillebotte-1848-1894-chemin-montant-6190917-details.aspxのアーティスト・レコードを含む、1億6542万4503英ポンド(約243億円)を売り上げ、サザビーズの1億907万4925ポンド(約160億円)に大きく水を開けて終了。

が、今日のダイアリーの主題は其処では無く、タイトル通り僕の嘗ての「守護天使」との再会の事だ。

彼の名前はウンベルト…当年取って82歳の、元イタリア選抜ラグビー選手。今を去る事27年前、僕がクリスティーズ・ロンドンにトレイニーとして入った時に、「19世紀コンチネンタル絵画」部門にイタリアン・クライアント・サービスとして居た社員だ。

さてその年、僕はトレイニーとして印象派・近代絵画、版画、中国美術、そして今はもう存在しない「19世紀コンチネンタル絵画」の各部門に3ヶ月ずつ在籍し、来る日も来る日も作品を額から外してカタログしたり、焼物の状態を調べたりして居た。

その「19世紀コンチネンタル絵画」部門は、印象派以外の19世紀ヨーロッパ絵画、即ちミレーやコロー等のバルビゾン派の画家や、北欧或いはスペイン等の画家達の作品を扱う部署で、見た事も聞いた事も無い画家の名前や画中の当世風俗、そして何よりも最低レヴェルの英語力と、それにイラつく短気な貴族の上司が、僕を毎日毎晩悩ませて居た。

そして僕が毎日の様に、その上司に怒鳴りつけられて居た時に、「守護天使」の如く庇ってくれ、慰めてくれたのがウンベルトで、当時殆ど鬱化して居て、何度辞めようかと思って居た僕が今此処に立って居られるのは、彼のお陰だと云っても過言では無い。

僕がロンドンでのトレイニーを卒業した数年後にクリスティーズを辞め、その後サザビーズに移った末に業界を引退してかなり経つウンベルトが、最近僕のロンドンの同僚にスーパーで偶然出会った時に僕の話と為り、その同僚に連絡先を託したのだった。

そうして僕は、ロンドン滞在最終日のランチタイムに、ウンベルトと再会する事に為った。

カフェに先に来て居たウンベルトは、僕を見つけるて立ち上がると破顔一笑し、昔の様に「カツーラ!」と「ツ」にアクセントを付けてイタリア人らしく叫び、今でもガッチリとした身体で僕をハグした。

その後の食事は、お互いの今迄と家族や共通の知人の話、昔話等で彩られ、僕等の間で交わされたジョークも相変わらずだったが、これは27年前と比べた時の、僕の英語力の偉大なる進歩も一役買った筈だ(笑)。

そんな楽しい時間もアッと云う間に過ぎ、別れの時が来た。

僕等は店を出ると握手をし、イタリア式にキスをしハグをして、「また逢う日迄、元気で(Be well, until next time)…」と云った瞬間、僕の眼に何故か涙が溢れた。

ウンベルトにバレない様に眼を拭い、彼の顔を見ると、彼の眼も潤んで居る様に見えたのだが、それは僕らの年齢では感じざるを得ない、「一期一会」の思いそのもので有ったに違いない。

帰りの機内で僕は、携帯に残したウンベルトと肩を組んで撮った写真を眺めた。

人は、それがほんの一瞬でも誰かのお陰で今の生活が有り、人生が有る…何時も忘れがちな、そんな当たり前の事を思い出させて呉れた、ロンドンと守護天使との再会だった。

Be well, Umberto, until next time.


ーお知らせー

*3/2に朝日カルチャーセンター新宿校で開催されたレクチャーが、無事終了致しました。ご参加頂いた皆様、有難うございました!4/7迄東京都美術館で開催中の「奇想の系譜展」、是非ご覧下さい!

*来たる3/9(土)、文化放送で11:00~13:00に放送されます「なかじましんや 土曜の穴」(→http://www.joqr.co.jp/ana/に生出演します。お時間のある方は是非!

藤田美術館の公式サイト内「Art Talk」で、藤田清館長と対談しています。是非ご一読下さい(→http://fujita-museum.or.jp/topics/2018/12/17/351/)。

*僕が嘗て扱い、現在フリア美術館所蔵の名物茶壺「千種」に関する物語が、『「千種」物語 二つの海を渡った唐物茶壺」として本に為っています(→http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000033551943&Action_id=121&Sza_id=E1)。非常に面白い、歴史を超えた茶壺の旅のお話を、是非ご一読下さい!(因みに、その「千種」に関する僕のダイアリーはこちら→http://d.hatena.ne.jp/art-alien/20090724/1248459874、今から思えば、これも藤田美術館旧蔵で有った…)

主婦と生活社の書籍「時間を、整える」(→http://www.shufu.co.jp/books/detail/978-4-391-64148-6)に、僕の「インターステラー理論」が取材されて居ます。ご興味のある方は御笑覧下さい。

*僕が昨年出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで今月一杯視聴出来ます。見逃した方は是非(→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/)!

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

謹賀新年、或いは「龍安寺」に里帰りした襖絵。

新年明けまして、お目出度う御座りまする。本年も宜しくお願い奉り候。


気が付けばこのダイアリー、何と2ヶ月半も更新せず…僕に取って、こんなに長い期間の非更新は初めてなのだが、これは単に10月に起こった青天の霹靂の人事異動の所為で有る。

なので、新年を迎えた今日は、昨年のラスト2ヶ月の総括を。

先ずは11月のニューヨーク・セール…大物では唯一ゴッホが売れなかったが、ホッパーとホックニーに其々「アメリカ絵画」と「現存作家」の世界新記録価格が出たりして、メインセール・ウィークの売り上げは競合他社との差も歴然。そして相変わらず世界のアート界に漂う、マネーの多さを証明した。

続く香港セールでは、アジアで売られた最も高額(約67億6千万円)なアートと為った、宋時代の詩人蘇軾作の「木石図」が有ったが、その反面アジア現代美術は苦戦。然し日本人顧客に関して云えば、買い手・売り手とも活発で、東洋美術マーケットに於ける日本の重要性は増して来て居るし、一点で5、60億円の作品が存在する以上、一昨年の藤田美術館セールを鑑みても、東洋美術のアート市場は現代美術や印象派と比べても、決して引けを取らないマーケットに為って来て居ると思う。

だが、僕個人の今年最後の仕事として特筆すべきは、矢張り123年振りに襖絵9枚(芭蕉図)を、プライヴェート・セールで京都の古刹龍安寺に戻した事だろう(→https://www.sankei.com/photo/story/news/181221/sty1812210010-n1.html:記事には「持ち主が持ちかけ」と有るが、実際は僕がお寺に戻したいから売ってくれと頼んだのだけれど…)。

実は僕は2008年のオークションで、別の襖絵6面(群仙図・唐子図)を龍安寺さんに買って頂いて居るのだが(拙ダイアリー:「里帰りする『襖絵』」参照)、人生で2回も同じお寺さんから流出した襖絵を戻すなんて、もう「ご縁」としか思えない。

さてこの計15面を含む龍安寺の襖絵は、仏教美術品に良く有る様に、明治期の廃仏毀釈時に流出し、その時は九州の炭鉱王が引き取ったのだが、その後海外に流出、現在も数点がメトロポリタン美術館やシアトル美術館に収蔵されて居る。

そして今回のこの「芭蕉図」も長く英国に有り、前からそれを知って居た僕は、何とか元の場所に戻したいと思って居たが、一寸油断をした隙に何時の間にか日本在住コレクターの元に移って仕舞って居て、が、それから持ち主との数年間の交渉の末、漸く売って頂ける事と為ったので有る。

今回の仕事はお寺さんにも大層お喜び頂いたのと、僕自身も偶々京都での大学の講義日程と合った事も有って、今回襖絵が132年振りにお寺に里帰りする「その日」に立ち会う事が出来て、本当に嬉しかった!

最近新しい職務に可成りウンザリして居た僕としては、今迄遣って来たこの様な仕事に未だ携わるチャンスが有る事だけが救いなのだが、「美術品とその『美術史に触れる』と云う仕事だけが、僕に取って最も遣り甲斐の有る仕事なのだ…」と改めて、そして熟く思う新年なので有った(笑)。


ではでは、この辺で此処2ヶ月半の「藝活」状況を箇条書きで記して置こう。


ー展覧会ー
・「ルーベンス展ーバロックの誕生」@国立西洋美術館
・「フィリップス・コレクション展」@三菱一号館美術館
・市村しげの「Resonance」@Cassina Ixc.
・「新素材研究所ー新素材 x 旧素材ー」@建築倉庫ミュージアム
舘鼻則孝「Beyond the Vanishing Point」@Kosaku Kanechika
・Stefan Bruggemann「Ha ha what does this represent? WHat do you represent?」@Kotaro Nukaga
森村泰昌「『私』の年代記 1985-2018」@ShugoArts
・リチャード・タトル「8, or Hachi」@小山登美夫ギャラリー
・「新・桃山の茶陶」@根津美術館
・「雅展」第十回「みやび」@瀬津雅陶堂
・齋木克裕「朝食の前に夢を語るように」@Sprout Curation
・「中国近代絵画の巨匠 斉白石」@東博
・「高麗青磁ーヒスイのきらめき」@大阪市立東洋陶磁美術館
・「Michael Borremans / Mark Manders」@ギャラリー小柳
・「田根剛 未来の記憶」@ギャラリー間
・「Sadamasa Motonaga」@Fergus McCafrey, NYC
・「Alexander Archipenko: Space Encircled」@Eykyn Maclean, NYC
・多田圭佑「エデンの東」@Maho Kubota Gallery
Chim↑Pom「グランドオープン」@Anomaly
・「Love & Peace:ロバート・インディアナ追悼展@ヒルサイドフォーラム
・川島秀明「Youth」@小山登美夫ギャラリー
・「桑山忠明」@Taka Ishii gallery
・小野祐次「逆も真なりー絵画頌」@ShugoArts
・「コレクション展」@京都国立近代美術館
・「バブル・ラップ」@熊本市現代美術館
・「扇の国、日本」@サントリー美術館


ー映画ー
・「ボヘミアン・ラプソディー
・「わたしはマリア・カラス
・「名探偵登場


ーCDー
横山幸雄・黒木雪音・藤田真央「パデレフスキ:ピアノ名曲集」
・平井麻奈美「願い」
村治佳織「Cinema」
・ヴィキングル・オラフソン「フィリップ・グラス:ピアノ・ワークス」


ーアートフェア・オークションー
・「蒐集衆商」@スパイラル
・「Harajuku Auction: Pop-life / Pop-ism」@The Flat
・「目白コレクション」


ー音楽会・舞台ー
・ヴィクトリア・ムローヴァすみだトリフォニーホール
マウリツィオ・ポリーニサントリー・ホール
・能「利休ー江之浦」@江之浦測候所・石舞台
・能「天正遣欧使節」@MOA美術館・能楽堂
・「Mugen∞能」@観世能楽堂
・「歌舞伎座百三十年 吉例顔見世大歌舞伎 夜の部(法界坊)」@歌舞伎座
・「豊饒の海」@紀伊国屋サザンシアター
マリインスキー・バレエ東京文化会館
・イーヴォ・ポゴレリッチ@サントリー・ホール
・浜松シティ・フィルハーモニー「第8回定期演奏会エルガー「チェロ協奏曲」)@浜松福祉交流センター
・「Skylight」@新国立劇場
・「貴信の會」@観世能楽堂
・「十二月大歌舞伎 夜の部(阿古屋)」@歌舞伎座


ー茶会ー
・千宗屋「南蛮茶会」@MOA美術館・一白庵
・随縁茶会@武者小路千家東京道場
森万里子「現代茶人の茶席」@根津美術館


ーレクチャー・授業ー
・「ラ・ココット」講演会@エノテカ・ピンキオーリ名古屋
・京都造形芸術大美術工芸学科基礎美術コース、1・2年生授業@京都造形芸術大学


いやぁ、やっと更新できました(笑)…が、各藝術の内容や感想に関しては、少しずつアップして行く予定なので、次回のダイアリーがアップされた後も、偶に気にして見直して頂ければ幸甚で有る。

然し、今年の年末は忙しかった…クリスマスは昨年程は嫌いじゃなかったが(笑)、恒例の作家・写真家・ジャズ評論家との忘年会「男4人会」や、アート関係者が集う「玉蘭会」も盛況、そして現代美術家S氏とは連夜の熱唱、何時もの様に除夜の鐘も「Z」で。

正月休み明けからは直ぐ海外出張が待っているので、確り休みまする。


ーお知らせー
*1月19日(土)、朝日新聞「be」の「フロントランナー」(→https://www.asahi.com/articles/DA3S13852214.html)に、取材して頂きました。ご一読下さい。

*雑誌「pen」468号(2月15日号)「今こそ知りたい!アートの値段。」(→https://www.pen-online.jp/magazine/pen/468-art)にインタビューが掲載されて居ます。ご一読下さい。

*3月2日(土)18:30〜20:00、朝日カルチャーセンター新宿にて「『奇想の絵師』とプライス・コレクションー奇想の系譜展によせて」と題されたレクチャーを開催します。詳しくは以下参照下さい(→https://www.asahiculture.jp/shinjuku/course/266a6245-940d-c189-3223-5bc5c54de32e)。

藤田美術館の公式サイト内「Art Talk」で、藤田清館長と対談しています。是非ご一読下さい(→http://fujita-museum.or.jp/topics/2018/12/17/351/)!

*日本美術専門誌「國華」の会員誌、「國華 清話会会報」第三十二号に、僕と小林忠先生の対談が掲載されて居ます。ご一読下さい。

*「目の眼」第508号に、僕のインタビューが掲載されています。ご笑覧下さい(→https://menomeonline.com/about/latest/)。

*僕が嘗て扱い、現在フリア美術館所蔵の名物茶壺「千種」に関する物語が、『「千種」物語 二つの海を渡った唐物茶壺」として本に為っています(→http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000033551943&Action_id=121&Sza_id=E1)。非常に面白い、歴史を超えた茶壺の旅のお話を、是非ご一読下さい!(因みに、その「千種」に関する僕のダイアリーはこちら→http://d.hatena.ne.jp/art-alien/20090724/1248459874、今から思えば、これも藤田美術館旧蔵で有った…)

主婦と生活社の書籍「時間を、整える」(→http://www.shufu.co.jp/books/detail/978-4-391-64148-6)に、僕の「インターステラー理論」が取材されて居ます。ご興味のある方は御笑覧下さい。

*僕が昨年出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで視聴出来ます。見逃した方は是非(→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/)!

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

教えて、ゴン太くん。

先ずは、最近の2つのアートの話題に就いて。

然し何故日本のメディアは、某オークション会社に於けるバンクシーの「茶番劇」に此処迄騙され、間抜け極まり無い報道を続けるのだろう?

ヴィデオを見れば、あの作品が裁断された時、オークションハウスの社員は誰一人として驚いたり叫んだりして居ない。そもそもあんな仕掛けが作品中に有るのを、スペシャリストがカタログをする時に見つけない訳が無いし、もしカタログをする際にフレームを外したりの精査をして居ないとすれば、そのスペシャリストもオークションハウスもプロとして失格。そしてあんな事が実際に「事故」として起きたら、損害賠償額はとんでも無い事に為るだろう。

まぁ僕としては、この「完璧なるヤラセ」を白々とメディアに流す売り手やオークションハウスの神経も、買い手のその後の態度も白けるのみ。序でに、こんな茶番を許したで有ろうバンクシーの評価も僕の中ではダダ下がりだし、それをさも大事件の様に報道する日本のメディアもまた然り。

以上は飽く迄も僕の「想像」だけれど、「次回」この作品がオークションに登場する時の落札価格は楽しみだ…この「事件」がもし本当の「アクシデント」だったら、値は相当上がるだろうから。

もう一つは、芸大内に出来たアートショップの件。この件に関して、例えば「アーティストが作品の売り方を学生時代から考える等、ケシカラン!」的な意見も聞くが、そんな事ありません。世界的に見れば、学生の頃から絵を売っている有名画家は勿論居るだろうし、音楽家だって然り。

芸術の販路に合わせて作品を作るのは一考を要するが、大学にアートショップが在って、其処で売る事の何が悪いのかと思う。売りながらでも技術や思想は成長するだろうし、売らなくても進歩のない奴はないのだから、売りたい人は画廊ででも学校ででも売れば宜しい。

また「職業としての芸術家」と考えると、音楽家に比べて画家や彫刻家は将来の不安がより切実だと思うから、絶対に学生の頃から「生活」を考えた方が良い。それを否定する美術業界の人は、責任取ってあげないと。

そして僕の骨折の方はと云うと、未だ痛みや腫れは有る物の、やっと靴を履ける位には為り、松葉杖無しでも足を引き摺りながら歩ける様に為ったので、仕事も藝術活動も再開…「骨折り損」的仕事はさて置き、「嗚呼、藝術と触れ合えるのは、何て幸せな事なのだろう!」と云う訳で、復帰後の「藝活」報告を。


ー音楽・舞台ー
アリス=紗良・オット東京文化会館:今年出たアルバム「NIGHT FALL」収録曲を中心とした、僕は初めて聴く日系ドイツ人ピアニストのソロ・ピアノ・リサイタル。曲はフランス人作曲家特集とも云える内容で、前半はドビュッシー「ベルガマスク組曲」、ショパン夜想曲の1、2、13番、そして「バライチ」(バラード1番)。後半はドビュッシー「夢想」から始まり、サティのお馴染み曲「グノシエンヌ」1番、「ジムノペディ」1番&3番、そして最後はラヴェル「夜のガスパール」だったが、このピアニストは音数の少ない静かな曲よりも、多い曲の方が得意らしい。特に最後に「夜のガスパール」が良かった。アンコールは「亡き王女のためのパヴァーヌ」、会場では日本美術史家のH先生に又又お会いする。

・「歌舞伎座百三十年 秀山祭九月大歌舞伎」夜の部@歌舞伎座:夜の部の演し物は、幸四郎の踊り「松寿操り三番叟」、近松原作・吉右衛門の「俊寛」、そして玉三郎の新作舞踊「幽玄」…幸四郎の踊りは未だ未だ、大播磨の俊寛は相変わらずの熱演だったが、問題は最後の大和屋の「幽玄」だ。能の三曲、「羽衣」「石橋」「道成寺」を「鼓童」の太鼓に合わせて舞う企画だが、実際大和屋は殆ど舞って居ないに等しい。そしてこの演目はそもそも大和屋の自主公演でのモノらしいのだが、「新作歌舞伎舞踊」との謳い文句に誘われてこの日来た者の眼には、三流の能を観に来たに等しかった。先ず鼓童の演奏は決して悪くないが、冗長で飽きる。舞台の演出も歌舞伎座で演るのに、何であんなに能っぽくしなければ為らないのか理解できない。この場で何度も云って居るが、何故「新しい芸術」「新しい舞踊」を創らずに、脳や歌舞伎のマイナーチェンジしか出来ないのだろう?…この「幽玄」も、ハッキリ云って「1+1=0.5」に為って仕舞って居て、「道成寺」も「京鹿子娘道成寺」も超えて居ない。どっちつかずは止めて、真の「新しい芸術」待ち望むのは欲張り過ぎるのだろうか?

マウリツィオ・ポリーニサントリーホール:噂では来日公演は今年が最後、と云うポリーニ。人生でもう何回ライヴを聴いたか分からないが(拙ダイアリー:「カーネギーで溢れた涙」参照)、現存するピアニストの中で真の感動を呼ぶ、数少ないピアニストの1人に違いない。さて今回のプログラムは前半がシューマンで、後半がショパン。開演が結構遅れて心配したが、やっと出て来て始まったシューマンアラベスクは硬くて、大丈夫かぁ?と心配全開。後半のショパン・プログラムでやっと彼の演奏は落ち着き、最後の「ピアノ・ソナタ第3番」やアンコールの「子守歌 作品57」等は涙が出た。コンサート後は、偶然会場で会った小説家氏と食事…20世紀最後の、ヨーロッパの歴史の様なピアニストを肴にイタリアンを頂く。「執事」の様に背を丸めて登場し、椅子に座りいきなり弾き始めると「貴族」と化すポリーニ。その演奏をもう1日だけ聴きに行こうと思って居る。

・「ららら♪クラシック コンサート vol.3 魅惑のチェロ特集」@サントリーホール:大学時代の友人高橋克典が司会を務める、NHKで放映中の番組のライヴ版コンサート。今回は若手チェリスト5人(北村陽、新倉瞳、辻本玲、上野通明、宮田大)が集まり、チェロの名曲を弾く。彼らの腕もさる事ながら、楽器も5人中3人が貸与されたストラディヴァリウス(ストラドのチェロは、ヴァイオリンに比べて圧倒的に数が少なく、世界に35挺しか確認されて居らず、価格も同じストラドで同じ位のクオリティのヴァイオリンに比べると、かなり高額らしい)で、それも聞き所。フォーレの「夢のあとに」やピアソラの「アヴェ・マリア」等、僕の大好きな曲も演奏され、満足のひと時でした。

・コリア・ブラッハー「プライヴェート・リサイタル」@ペニンシュラ・ホテル:僕の顧客が持っているストラドを貸与されて居る、元ベルリンフィルコンマス、コリア・ブラッハーが顧客の為に演奏するプライヴェート・コンサート。然し今回ブラッハーは、昨年から使って居る1730年製のグァルネリを使用して、ベートーヴェン、フランク、ワイル、そしてガーシュウィンを演奏。少人数でのこの贅沢なコンサートは、その後の食事と共に溜息しか出ない…至福、至福。

・「能楽喜多流 第十三回 燦ノ会」@十四世喜多六平太記念能楽堂:今回は「物狂」が或る意味テーマらしく、林望先生の解説から始まり、「高野物狂」「籠太鼓」のお仕舞と狂言の後、愈々喜多流ホープ大島輝久師がシテを務める、能「花筺」。世阿弥作のこの曲は切々として居ても、僕には何と云うか捉え所の無い曲なのだが、大島師の謡は朗々として居て、舞も観阿弥が創作したと云われる「李夫人の曲舞」と呼ばれる箇所が特に美しい。席が埋まって居ないのが少々寂しかったが、喜多流は今後何か手を考えねばならなく為るかも知れない…型も良いし、能楽堂も立派なんだけど。


ー展覧会ー
・「マルセル・デュシャンと日本美術」@東博:開催決定から楽しみにして居た展覧会のオープニングへ…で、結果は失望のどん底だった。来日したデュシャン作品は充実して居ると思われ、そのファンには良いのだろうが、肝心の「…と日本美術」の部分が情けない。展覧会の最後に取って付けた様に有った日本美術セクションは、デュシャンとの関連もハッキリせず、モヤモヤ。こんな事なら「デュシャンと利休」の方が分かり易かったろうし、よりその互換性も明確だったに違いない。残念極まる展覧会だった。

・「京都 大報恩寺 快慶・定慶のみほとけ」@東博:上記展覧会との同時開催展。此方は東博実力発揮の展覧会で(笑)、鎌倉慶派の真髄を伝える。中でも快慶の「十大弟子像」は素晴らしく、「こう云う人居るよなぁ」的写実の極み…写実と崇敬の念を同時に顕すのは、大変な技量が必要とされるのが良く分かる。

・「2017年度日本陶磁協会賞記念展」@壷中居:昨年の受賞者は、協会賞に青磁の伊藤秀人氏、金賞には備前の金重有邦氏…そのお二人の受賞記念展と授賞式が、壷中居で開催された。有邦さんとはお互い親子二代お付き合いで、僕自身彼の作陶の大ファンで有るので、我が事の様に嬉しい。茶碗や茶入、水指等の展示が有ったが、何れも有邦さんの実直な人柄が出て居る物ばかりで、授賞式では有邦さんらしい、ユーモアたっぷりのスピーチも。その後の記念ディナー@中華「H」では、漆芸家M氏夫妻やコレクターI氏とのテーブルで楽しくディナー。有邦さんへの祝辞コーナーでは司会のN氏に急に当てられ、序でに僕の最近の昇進に関するアナウンスも皆さんにされて仕舞い、恐縮頻り。有邦さん、本当に御目出度う御座います!

・「フェルメール展」:上野の森美術館で始まった、「日本人大好き」フェルメールを何と8点(大阪展を入れれば9点)を同時に観れる展覧会のオープニングへ、顧客ご夫妻と。今回のご招待は「元同僚」で、今はこの展覧会に最大の協力をしたアムステルダム国立美術館館長のご配慮が大きく、8点のフェルメールが集まった一部屋で過ごした甘美な時間を感謝したい。が、ちょっと残念だったのは、フェルメール以外の作品が如何にも取って付けた感じのクオリティに見えた事で、それだったら例えばもっと高額な入場料を取って、ニューヨークのフリック・コレクションの様な洋館(庭園美術館とか?)で、フェルメールのみを見せた方が良かったのではないかと思う…が、何だかんだ云って、「牛乳を注ぐ女」はモノ凄い作品だと再確認する。石原さとみちゃんのイヤホン解説にうっとりした展覧会後は、オランダ大使館に移動し、記念パーティーに出席。本展を監修をされたS先生等と歓談したり、オランダ料理に舌鼓を打ったり。何とも贅沢な1日でした!

・「京都・醍醐寺 真言密教の宇宙」@サントリー美術館醍醐寺には有名な作品が多く、今迄観た事の有る作品が多いのも事実だが、然し例えば光背化仏すらも超魅力的な「薬師如来及び両脇侍像」や、昔から大好きな剽軽とも云える「五大明王像」、「虚空蔵菩薩立像」や「五大尊像」、「絵因果経」迄見飽きない処か、新たな発見に満ちた作品ばかり。何度も訪れたい展覧会だ。

・「特別展 仏像の姿〜微笑む・飾る・踊る」@三井記念美術館:NYに長く居る者に取って、東京は日本美術の展覧会を観る上では「羨望」の場所で、今回の様に最高品質の仏教美術の展覧会が都内3箇所で同時に観れるなんて…その意味では本当に帰国して良かったと思ふ。さてこの展覧会の冒頭は、冒頭から見覚えの有る作品が並ぶが、然しクオリティは須らく高い。中でも特に気に入ったのは四天王寺の「阿弥陀如来及び両脇侍像」で、脇侍の美しくもファンキーなダンス・スタイル(笑)に驚く。そして修復作品コーナーに展示されて居る「不動明王及び二童子像」…こちらも慶派の宗慶作と思われる素晴らしい作品で、特に不動明王像は鎌倉期の風を館内で感じる程。是非ご覧頂きたい。

・「信長とクアトロ・ラガッツィ 桃山の夢と幻+杉本博司天正遣欧使節が見たヨーロッパ」@MOA美術館:何と長い展覧会名なのだろうか(笑)!が、流石MOA美術館のリニューアル記念展+ニューヨーク・ジャパン・ソサエティで開催された杉本の展覧会「Gates if Paradise」の複合展で、作品内容も本当に凄い。仕事柄南蛮美術は幾つも扱って来たし、最近も某外国美術館に「南蛮屏風」一双や日本・世界地図屏風」一双を収めた僕だが、本展のラインナップは九博で開催された「大航海時代の日本美術」を髣髴とさせる位に素晴らしい南蛮系の展示に驚く。それに加え、杉本の新作展も欧州の歴史臭がプンプンする内容で、特に「ヴィラ・ファルネーゼの螺旋階段I&II」や「地図の部屋」は垂涎の作品だ!そして杉本氏が関わるイヴェントは天候が何時も荒れるのだが、その原因と思われる「雷神像」が上記三井記念美術館の展覧会に貸し出されて居たのを観たので「もしかしたら?」と思ったが甘く、レセプションの日は「矢張り」雨だった(笑)。

・「カタストロフと美術のちから」@森美術館:MOAからダッシュで帰京し、森美術館へ。参加アーティストもオノ・ヨーコやチンポム、池田学やアイ・ウェイウェイ宮本隆司やトーマス・ヒルシュホーン等多彩で見応え十分だが、中々にハードコアな展覧会で、もう一回ゆっくりと観ねばならない。レセプションではチンポムの卯城君に、「人間レストラン」の話を聞く…楽しみ楽しみ。

須田悦弘「ミテクレマチス」@ヴァンジ彫刻庭園美術館:繊細な木彫作品で知られる、須田氏の展覧会。作品以外に僕が知って居る須田氏は、忘年会でブルーハーツを熱唱する姿だけなので(笑)、今回の展示で「公開制作」されると聞き、興味津々。その制作風景を拝見すると、氏が使われる彫刻刀は、思ったより普通のモノで、これであの繊細な作品を作っているのは凄い。そして展覧会は相変わらず作品を見逃しそうだったが、自然の中の美術館の展示に凄く合って居て宜しい。今月末迄開催しているので、ドライブでどうぞ!

・「藤田嗣治 本の仕事 文字を装う絵の世界」@ベルナール・ビュッフェ美術館:ここ数ヶ月で3本目の藤田展。藤田の仕事の多彩さは、その才能の証でも有ると思う。恐らくこの人は描く事が好きで好きでしょうがない人で、仕事の大小なんか関係ないんだろうと思う。愛らしい作品群に癒されます。

・「アレックス・カッツ&フランチェスコ・クレメンテ」@テラダ・アート・コンプレックス:能研究者のR君を連れて訪れたのは、寺田で開催中のGaleria Javier Lopez & Fer Francesの展覧会。この2人の作家には目新しい事も無いが、カッツの小型の花の絵やポートレイトがやたら良くて、初めてカッツを欲しいと思った自分に驚いた…ので、価格を聞いてみたら想像以上に相当高くて、更に驚いたのだった(笑)。

Chim↑Pom「Ningen Restaurant」@旧歌舞伎町ブックセンタービル:「人間こそがメインディッシュ」と云うコンセプトの凄い企画で、未だ行ってない人は28ま日迄に行って欲しい。作品展示もライヴも身体パフォーマンス・イベントも有るが、レストランと銘打ったが故に、死刑囚の食「ラスト・サパー」も食べられる。このイベント開催前に、関係者に「『人間国宝』を連れて来て、対談でも企画してよ!」と頼まれたのだが、力及ばず…無念だ(財前五郎風に)。パーティーでは、来月「Anomaly」に正式合併する山本現代の裕子さんやURANOのむつみさん、著名キュレーター、美術メディアの方々等、百花狂乱の宴(笑)だったが、帰りには近所の本家「人間レストラン」でもう一杯。然し、面白かったなぁー。


ーその他ー
・「中金堂再建 落慶慶讃法要」@法相宗大本山 興福寺:320年振りに行われた、興福寺の中金堂落慶法要…僕が伺った日は「南都麟山会厳修 落慶慶讃四箇法要」で有った。もう何と云うか、この21世紀の今これが行われる日本は本当に素晴らしい。近鉄特急でバッタリ会った、人間国宝能楽小鼓方の大倉源次郎師と共に向かった、朝10時から2時間掛けて行われた法要の中身は濃く、「入場・惣礼」から始まり、南都楽所に拠る舞楽「振鉾三節」、千宗屋師に拠る「献茶」、薬師寺東大寺法隆寺に拠る「散華・梵音・錫杖」、味方玄師が舞う舞囃子「菊慈童」等々、全てが僕を遠い過去へと誘い、前日前々日とクラシック音楽漬けだった僕の耳は、声明や舞楽、謡や囃子でリフレッシュされ、完全なる異文化音楽の比較を堪能したのだった。嗚呼、本当に伺って良かった…。

・「興福寺中金堂落慶慶讃茶会」@興福寺 本坊静観寮・興福寺会館:この日の濃茶席は、藤田美術館蔵の「伎楽迦楼羅面」をメインに、床には砧青磁浮牡丹花入と「南都隣山」に就き、「法隆寺金堂天蓋付属金銅透彫幡残欠」が掛けられ、皆を驚愕させる。そしてこの日の主茶碗は、実際に観ると驚く程見込みの深い彫三島茶碗「あらがき」、その他名品揃い。また藤田館長、千宗屋若宗匠には、骨折した足の為の椅子を用意して頂いたので、濃茶も大変美味しく頂けました。そのお心遣いに感謝感激し、その後は奥で色々とお道具を拝見して、更なる感動。藤田さんの興福寺千体仏は、日本一の千体仏でした!

・「オークション&プライヴェート・セール下見会」@クリスティーズ・ジャパン:今回の下見会には、来月NY印象派のオークションに掛かる、嘗てオークションに出品された事の無いウブなゴッホの1887年作品、「蝶の居る庭の片隅」(→https://www.christies.com/features/Van-Gogh-Coin-de-jardin-avec-papillons-9423-1.aspx)と、歌麿の大名品錦絵「歌撰戀之部 物思恋」の2点オンリー。ミニマルな展覧会だったが好評で、「林忠正印の有るこの歌麿を、当時ゴッホも観たかも知れない!」と勝手に興奮するジャポニズム展覧だった。

・「2018 東美アートフェア」@東京美術倶楽部:他人事ながら、行ってみたら思いの外賑わって居て、嬉しい。素晴らしい男女神像や、李朝文房具、粉引徳利等の名品も多く、会場で偶然出会った仲の良い現代美術家のS君&現代陶芸家K君と一緒に観て廻ったのも、新鮮で楽しかった!而も買わずに済んだしね…(笑)。


職種が追加されて、メールは増えるわ、自分の専門分野の作品探しの時間はなくなるわ…もう既にやってられない感満載だが、引き受けた以上はやりたい事をやって仕舞おう。

種を蒔く。オークションを開催する。オークションの公共性を日本でも広める。エッジを際立たせる。ヤラセや茶番を排除する。過去と未来を行き来する。僕に出来るかな?

ゴン太くん、教えて…(笑)


ーお知らせー
*僕が嘗て扱い、現在フリア美術館所蔵の名物茶壺「千種」に関する物語が、『「千種」物語 二つの海を渡った唐物茶壺」として本に為っています(→http://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000033551943&Action_id=121&Sza_id=E1)。非常に面白い、歴史を超えた茶壺の旅のお話を、是非ご一読下さい!(因みに、その「千種」に関する僕のダイアリーはこちら→http://d.hatena.ne.jp/art-alien/20090724/1248459874、今から思えば、これも藤田美術館旧蔵で有った…)

*ウェッブ版「美術手帖」に、ショート・インタビュー(→https://bijutsutecho.com/magazine/interview/18611)が掲載されて居ます。是非ご覧下さい。

主婦と生活社の書籍「時間を、整える」(→http://www.shufu.co.jp/books/detail/978-4-391-64148-6)に、僕の「インターステラー理論」が取材されて居ます。ご興味のある方は御笑覧下さい。

*僕が昨年出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで視聴出来ます。見逃した方は是非!→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

骨折り損の…。

「有言不実行」の代名詞で有る安倍晋三が勝って仕舞い、「言論の自由」の真の意味も知らない新潮45の様な雑誌が平気で出版される(新潮45があの杉田擁護論文掲載を「言論の自由を守る為」と言い訳するなら、現代社会で適用されて居る「差別用語規制」を全撤廃する運動を、直ちに立ち上げるべきだ…悔しかったらやってみろ!)、見栄とカネの日本…「終わってる感」有り過ぎで、最近帰国した事を後悔し始めて居るが、いやいやアメリカも同じ。

「淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし」を信じたいが、これ如何に…然し日本と云う国は、首相然り何かの会長然り、何故ここ迄「任期」を設けたくないのだろうか?

そんな中現代美術家杉本博司氏が、日本美術史に興味の有る方なら垂涎且つロマンティック極まりないプロジェクトを遂行する為の、クラウド・ファンディングを行なっている。そのプロジェクトとは、「杉本博司と探す!安土城図屏風プロジェクト」(→https://www.makuake.com/project/sugimotohiroshi)。

この「安土城図屏風」は、僕も死ぬ迄に是非共観てみたい屏風なのだが(拙ダイアリー:「OMEN:前兆」前・後編参照→http://d.hatena.ne.jp/art-alien/20110930/1317403774)、若しかしたら夢が叶うかも知れない!何卒皆さんのご支援を、お願い致します!


と云う事で、今日も先ずは恒例のアート覚書から…。


ー展覧会ー
・「没後50年 藤田嗣治展」@東京都美術館:藤田が死んで50年と聞くと、所謂「近代絵画」の時代も遠く為った気がする。その50年を記念しての大回顧展だが、流石見処が多い。作品は初期から晩年迄満遍無く出品されて居るが、僕が最も気に為ったのは矢張り初期作品。例えば芸大在学中の作品「婦人像」は、岡田三郎助風で美しいし、グリやブラックを彷彿とさせるパリ到着後直ぐのキュビズム作品は、今迄の僕の藤田像を一変させる。そして、お馴染みの白バック作品に至る迄の作風の変遷とその道程は、アーティストの苦悩と成功の道の典型と云えると思う。然し村上隆と云う作家は本当に藤田に似ている…「日本に愛されたい」と云う意味で。

・「Hyper Landscape 超えてゆく風景 梅沢和木 X TAKU OBATA」@ワタリウム美術館:梅ラボとブレイクダンサーでも有るOBATAのコラボ展。梅ラボ作品は相変わらず凄まじい情報量だが、その中でもMIHO MUSEUM所蔵の曾我蕭白の「虹」の作品、「富士・三保松原図屏風」をモティーフにした「彼方クロニクル此方」が迫力満点でスゴい。またKUBOTAの作品は古典的な楠一木造りの彫刻で、何故か「HIPHOP神像」(笑)とでも呼びたく為る。この情報過多の展覧会では、或る意味観覧者が眼の遣り場に困ると云うか、視点が定まらない気がするのだが、実際自分の眼が止まった箇所が「自分に与えられた情報」と考えれば、作品自体が情報を選択して鑑賞者に与えて居るとも云えると思う。必見の展覧会だ!

・「禅僧の交流 墨蹟と水墨画を楽しむ」@根津美術館:室町期の墨蹟と水墨画を中心とするシブい展覧会だが、雪舟、雪村、周文、芸愛等名品揃いで学びが多い。然し日本と云う国は、長い間本当に中国に憧れて居たんだなぁと思う。戦後のアメリカ愛が廃れた今日この頃、今度こそ日本人は日本愛へと向かうだろうか…?


ー音楽会ー
・「ロイヤル・ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団辻井伸行 特別演奏会」@サントリーホール:日本とスウェーデンの外交150年記念のコンサート。この日の曲目は、ムンクテル「交響的絵画『砕ける波』」、ベートーヴェン「ピアノ・コンチェルト5番『皇帝』」、そしてチャイコフスキー交響曲第5番」。さてこのオーケストラは上手いのだが、如何せん音がデカい…そしてそれは辻井の弾く「皇帝」でも同様で、辻井もオケも演奏が良かっただけに、其処だけが残念だった。


以上…と云う事で、今回はたったこれしか藝術報告が無いのだが、それには理由がある…人生初の「骨折」をしたからだ。

それは今を去る事9月頭…某現代美術家のお宅を訪ね、自らの手料理をご馳走に為り、帰り際に茶室に案内された時の事だった。その茶室は玄関から石が敷かれて居るのだが、話が盛り上がりながら歩いて居る最中右足を見事に右側に踏み外し、足の甲を痛めて仕舞った。そしてその日は脚を引摺って帰ったのだが、みるみる内に腫れ上がり、翌朝病院に行くと足の甲の右側の骨折が発覚…何てこった(涙)。

という事で、腫れた足を固めた松葉杖生活が始まり、会社へも顧客の所へも行けず、家でメールと電話、作品調査等の仕事をするが、夜は何処へも行けず暇なので、此処ぞとばかり私的「DVDフェス」を開催。なので、此処からはその「私的フェス」で観たDVDの話を。


・「座頭市」:2003年ヴェネチア映画祭銀獅子賞の、北野たけし監督版。子母沢寛の原作の素晴らしさ、そして勝新太郎の名演を超える事は出来なかろうとタカを括って居たのだが、豈図らんや、エンターテイメント性抜群で、どんでん返し的ラストには爽快感さえ覚える。面白かった!

・「蜘蛛巣城」:「今迄何度観たか?」な黒澤明の1957年の大名作だが、実際何度観ても素晴らしい。ご存知の通り本作はシェイクスピアの「マクベス」を基にした話だが、その後の同様な企画の映画・舞台の何れも本作を凌ぐ事は出来ずに居て、それは何故なら原作からの「藝術的翻訳」が表面的で無く、素晴らしいからだ。そして劇中、美術品は「本物」を使い(山田五十鈴の抱える「根来瓶子」を見よ!)、矢も実際に射る…全ての面で「本物」の持つ凄さを再確認した。

「乱」:黒澤作品をもう一本…1985年、黒澤最後の時代劇映画だ。英国アカデミー賞外国語映画賞、全米映画批評家協会賞作品賞、米アカデミー賞衣装デザイン賞等を獲った本作は、「リア王」と毛利元就の「三子教訓状」がテーマの大作で、「蜘蛛巣城」に勝るとも劣らぬシェイクスピアの芸術的翻訳も上首尾。僕は何時も黒澤の映画に出て来る役柄に「黒澤本人」を見るのだが、本作でも仲代達矢演じる主人公秀虎は間違い無く黒澤の分身で有り、それが余りにも露骨であるが故に、より黒澤的な作品に為って居ると思う。配役の中では原田美枝子のエロティシズムが凄く、原田や風吹ジュン、田中裕子や高橋恵子秋吉久美子樋口可南子等の色香漂う「大人の女優」が最近居なくなったなぁと、熟く思う。そしてそれは男優にも云える事で、本作での隆大介、或いは夏八木勲等の「面魂」の有る役者をもっと見たい。

TVシリーズ探偵物語」全27話:1979-1980年放映の、松田優作主演ドラマ。小鷹信光に拠るコミカルでハードボイルドな原案、SHOGUNに拠るテーマ曲「Bad City」、挿入歌に使われた中島みゆきの「アザミ嬢のララバイ」やアリスの「遠くで汽笛を聞きながら」等の音楽、「工藤ちゃ〜ん」と出て来る成田三樹夫や、後に甲斐よしひろ夫人と為った超可愛い竹田かほり等の個性派俳優陣、ヴィスコンティを語る骨董屋や、僕も散々行った懐かしい原宿のカフェバー「Zest」を根城とする情報屋等のキャラ、その全てがカッコ良く面白い。然し今回一番ビックリしたのは、第1話「聖女が街にやって来た」内で、我が母校のG学園の中高校舎、チャペル内部、小学校のグランド迄ふんだんにロケに使われて居た事だった!クスリ系・下ネタ系・差別系のセリフも多く、今ならとてもゴールデンで放映出来る内容では無いのだが、当時でもカトリック系お坊ちゃん校(僕はカトリックでもお坊ちゃんでも無いが)が良く貸したものだと思う…而も「修道女」の出て来る第1話でだ!(笑)

・「野獣死すべし」:久し振りに観た、村川透監督の1980年角川映画作品。大藪春彦の原作も昔読んだが、ホボホボ違う作品と云っても良いだろうが、全編に流れるショパンと奇妙なアート感、田邊エージェンシー夫人と為ったアンニュイな小林麻美、そして良くモノマネをした、忘れもしないワシントン・アーヴィングの「リップ・ヴァン・ウィンクル」の挿話(「何だ、浦島太郎じゃん…」と当時思った:笑)等、当時斬新だった映像記憶が蘇る。「戦争カメラマン」と云う職業も、この映画で当時初めて知ったのだが、「戦争狂気」を考えたのも、本作と「ディアハンター」だった事を思い出す。

・「遊戯シリーズ」三部作:上と同じ松田優作主演の3作、即ち「最も危険な遊戯」「殺人遊戯」「死亡遊戯」。殺し屋モノなのだが、超ハードボイルドな第3作目を除き、前作2作にはコミカルなシーンも有って、これは「探偵物語」にも出て来るのだが、劇中台詞で「人間の証明」や草刈正雄を持ち出しての他の角川映画へのオマージュや、ダジャレっぽいジョークも多数出て来るのも面白い。

・「蘇る金狼」:角川1979年、村川透監督作品。然し、此処まで松田優作を観続けると流石にワンパターンだが、ヤクに溺れる風吹ジュンの色気、劇中主人公が乗るカウンタック等のスーパーカーは、時代感抜群で格好良い。ラストは「野獣死すべし」と同様に主人公が襲われるのだが(死んだかどうか分からないが)、「バブルっぽい『無常感』」が泣かせる。

・「心中天網島」:ご存知近松門左衛門原作の、ATG1969年篠田正浩監督作品。脚本は篠田、富岡多恵子、そして何と音楽を担当した武満徹!何よりも岩下志麻の美しさが白眉だが、それに付けても本作はATGらしい実験溢れる映画で、黒子が劇中に登場する所や、現代からいきなり江戸時代へと移行する所、勘亭流っぽい書や浮世絵が多用されるセット等、見処も多い。モノクロームの画面も美しい…大画面で観たい一作だ。

・「豪姫」:1992年勅使河原宏作品、主演は豪姫を宮沢りえ古田織部仲代達矢が演じる。勅使河原の大名作「利休」の或る意味後日譚だが、残念ながら作品としての出来は遠く及ばない…残念。

・「他人の顔」:引き続き、勅使河原宏監督の1966年度作品。主演は仲代達矢京マチ子平幹二朗、原作は安部公房。僕は今でも安部公房ノーベル文学賞に値する作家だと思って居るが、「砂の女」共々、勅使河原テイストにピッタリ来る原作だと思う。そして劇中流れる、武満徹に拠る「ワルツ」(→https://www.youtube.com/watch?v=6GTlkrwz9Cg)の旋律も秀逸で、恐らくは武満の映画音楽の中でも最も美しい曲の一つと云って良いだろう。今平野啓一郎氏が提唱して居る「分人主義」を感じさせる処も興味深いし、脚本、構成や映像、美しい生田悦子、そして室内インテリア等の美術もかなり良く、大好きな映画だ。

・「落とし穴」:もう一本勅使河原作品で、これも安部公房原作の1962年作品。こちらは音楽は武満では無く、一柳慧高橋悠治、主演は井川比佐志と田中邦衛佐藤慶佐々木すみ江等。不条理劇の極みの様な作品だが、殺された主人公が幽霊と為って出て来る処等は或る種ユーモラスで、機知を感じる…流石、安部公房。映画としてはまぁまぁ。

・「Nobuyuki Tsujii in 13th Van Cliburn International Piano Competition」:音楽ドキュメンタリー監督ピーター・ローゼンに拠る、2009年にフォートワースで開催された、第13回ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールのドキュメント・フィルム。辻井伸行を含むファイナリストを中心に、コンクール・スケジュールに沿って撮られた非常に良く出来た作品で、本作を見るとコンテスタント達の性格の違い、心理状況等が手に取る様に判る。そんな中でも、辻井のショパンのピアノ協奏曲の演奏と、受賞者発表の最後の最後に辻井の名が呼ばれ、壇上でクライバーンが辻井を優しく抱擁するシーンは、涙無くして観れない。そして、辻井より上手いピアニストは世界に幾らでも居るだろうが、彼が奏でる音楽が「音楽自体が、人間に対する神からのギフト」で有るが判る…人間がピアノを弾く限り。

・「サクリファイス」:もう何回か観た、アンドレイ・タルコフスキー監督の1986年作品。遺作で有る。カンヌで賞を幾つか獲った名作だが、果たして妥当だっただろうか?確かに美しい作品だし、テーマとしても名作には違いないだろう…が、結果として遺作に為ったとしても、このテーマを54歳と云う若さで映画にするのは、如何にも早過ぎたのでは無かろうか?「死を予感させる」作品…これも結果論で観る度にそう思って仕舞うのだが、55歳の僕には深さがイマイチなのだ。

「太陽」アレクサンドル・ソクーロフ監督の2005年度作品で、サンクトペルブルグ国際映画祭グランプリ。はてさて、こんな形で昭和天皇を描いた作品が嘗て有っただろうか?コミカルで、気さくで、心細く、神経質で、チャップリンに似てると称される天皇。然し「人間宣言」とは実際そう云う事な訳で、微笑ましいと思う。そして本作を観ると、劇中の全てが「史実」かどうかはもうどうでも良くて、只々本作に最後に、皇后役の桃井かおりイッセー尾形扮する天皇を引っ張るシーンが何とも可愛く、これが「史実」で有って欲しいと思った僕は不敬罪だろうか?最後に云って置くが、僕は自他共に認める愛国者で、而も「天皇制」賛成派ですから…念の為(笑)。

・「タイマーズスペシャルエディション」:CDとカップリングされた、忌野清志郎のそっくりさん(笑)率いる覆面バンドのライブDVD。久し振りにこのDVDを引っ張り出して来たのには理由が有って、それは某作家氏が、彼等が「夜ヒット」に出た際のYoutubeを僕に送って来たからだった。何しろこの時のタイマーズはファンの間では伝説に為って居て、それは彼等の「原発賛成音頭」が某FM局で放送禁止に為った事への抗議として、「偽善者」と云うナンバーをリハーサル時とは全く異なる、そのFM局を貶しめす歌詞と放送禁止用語連発して、「生放送」で生演奏したからだ!さて、今観返してもタイマーズは本当にカッコ良い…曲も「タイマーズのテーマ」から「偽善者」、「メルトダウン」「イモ」等、心スッキリする曲ばかり。今時こんな気骨の有るロッカーも居ない…嗚呼、清志郎が生きてたらなぁ(涙)。

・「愛と哀しみのボレロ」:久し振りに観たクロード・ルルーシュ監督の1981年度作品だが、本当に素晴らしい!「縒り縄方式」の脚本、ヌレエフやグレン・ミラーカラヤンをモデルにした役柄、ジェラルディン・チャップリン等の俳優陣、そして何よりも本作最後にジョルジュ・ドンに拠って踊られるベジャール振付の「ボレロ」…この映画でベジャールを知った僕は、この後日本で行われた「ボレロ」の公演を観に走ったのだった。全てが優美で深い、3世代を跨ぐ大河ロマン作品の極み…こう云う壮大な映画は、今の日本では絶対に撮れないに違いない。


こんなDVDを観て居る間に、仕事の方は色々進展・変化が有り、僕の会社でのポジションも激変を遂げたのだが、文字通り「骨折り損のくたびれ儲け」に為らなければ良いが(笑)。


ーお知らせー

主婦と生活社の書籍「時間を、整える」(→http://www.shufu.co.jp/books/detail/978-4-391-64148-6)に、僕の「インターステラー理論」が取材されて居ます。ご興味のある方は御笑覧下さい。

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*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。

最後は「南洲遺訓」で。

8月も気が付けば、もう後1週間弱…と言う訳で、今回は今月経験した「藝術覚書」を。


ーアートー
・棚田康司「全裸と布」@ミズマ・アート・ギャラリー:棚田康司の新作展はキリスト教彫刻、或いは日本の神像を思わせる程、何故か知らねど「神聖さ」をも感じさせる一木造りの女性裸体木彫群。大作も良いが、彩色された女神像群の様に見える女性のバストアップの彫刻シリーズが魅力的…ウーム、欲しいっ!

・「ルーブル美術館展 肖像芸術ー人は人をどう表現してきたか」@国立新美術館:僕は個人的に西洋肖像画に興味が強くて、古くはハンス・メムリンクラファエロ、ベラスケスやアングルから、ベーコン、フロイド迄大好きな画家も多いが、本展には絵画のみならず立体作品も有って楽しい。その中でも、例えばブルボン・ヴァンドームの凄惨且つ美しい石彫「ブルボン公爵夫人」や、アングルの「オルレアン公」、ゴヤの「メングラーナ男爵」やラメの「ナポレオン1世像」等が僕のハートを鷲掴み(笑)。

・「Audio Architecture:音のアーキテクチャ展」@21_21 Design Sight:コーネリウスこと小山田圭吾が作曲した新曲を、9人のアーティストが「翻訳」するのだが、音楽を「構造体」として解析する体験型の展覧会。展覧会自体は少々僕には難しかったが、然しコーネリウスはカッコイイ。

・「特別展 金剛宗家の能面と能装束」@三井記念美術館三井記念美術館美術館には、金剛家旧蔵の能面54面が収蔵されて居るが、その中の白眉は秀吉が所持したと云う、龍右衛門作の「花の小面」。そして本展では同じく金剛家蔵のこれも秀吉所持、「雪の小面」が展示される。秀吉は龍右衛門作の小面「雪月花」3面所持したと云われるが、「月」は行方不明…が、こう云った機会に現れるかも知れない。然し金剛宗家の面のコレクションには、使われてこその「色気」の有る作品が多いが、「雪の小面」以外にも、日光作の「父ノ尉」や龍右衛門「金春小面」、河内作「孫次郎」や檜垣本「深曲」、満照の「蝉丸」や越智「痩男」等、素晴らしい作ばかり…必見の展覧会だ!

・アニメサザエさん展「お祭りサザエさん」@長谷川町子美術館:猛暑の中桜新町まで足を運び、「サザエさん」研究家とご一緒した初の長谷川町子美術館来訪…そして驚くべき展覧会&イヴェントを其処で体験した(笑)。さてお馴染みテレビアニメの「サザエさん」、その冒頭でサザエさんが全国各地を旅して居るのを、ご存知の方も多いのでは無いか?本展は、その中でサザエさんが経験したお祭りやイヴェントを紹介する展覧会だが、何しろレクチャー有り、希少ハガキの当たる大興奮のジャンケン大会有り、サザエさんグッズが貰える射的や輪投げ、そして何と自分の作った家をサザエさんの住む「あさひが丘」に建てられると云う、「花沢不動産あさひが丘分譲」(笑)等、もうファンには堪らない企画ばかりだが、ファンで無くとも十分楽しめた!帰りには近所の通称サザエさんカフェ、「Lien de Sazaesan」で一服。コーヒーと、オモシロメニューの中から「波平さん焼き(小倉)」を頂く。ホッコリとした良い午後でした。

・「藤田嗣治」@Galerie Tamenaga Tokyo :藤田没後50年、そして本画廊の開廊50周年を記念しての展覧会。作家と交流の有った画廊初代が収集した油彩・素描等、女性像を中心とした40点が展示されるが、豈図らんやー番僕の胸を打ったのは、1939年作の「空の上の空中戦」だった。藤田の戦争画は近美でも展示されたのを観て居るが、この美しい「戦争画」には藤田の美的センスが溢れる。小品の多い展覧会だが、藤田の日常の「息」が感じられる展覧会だと思う。都美館も早く行かねば!

・「Defacement」@The Club:ニューヨーク・ベースのアマンダ・シュミットをゲスト・キュレーターニ迎えた本展は、12人の作家作品でアートに「新たな意味」を付加する。展示作の内僕が特に気に入ったのは、実はリヒターやウォーホルでは無くベティ・トンプキンズで、ラファエロやベラスケスの名作を汚し、改変するそのアゲレッシヴネスに興味を持った。汚しても美しく有るアートは素晴らしい。

・「桑田卓郎展 湯呑とコップ」@柿傳ギャラリー:Kosaku Kanechika所属のアーティスト、桑田卓郎の展覧会。メタリックを基調とした新感覚の作品群は新鮮で、然し「良いなぁ」と思った作品は既に完売(涙)…が、「非売品」の青白磁の茶碗が美しく、欲しく為る。売ってくれないかぁ?


ー舞台ー
・「歌舞伎座百三十周年 八月納涼歌舞伎 第二部」@歌舞伎座:真夏の三部制の第2部、目玉は猿之助演出・脚本の、「再伊勢参 YJKT (またいくの こりないめんめん、と読むらしい:笑)東海道中膝栗毛」。去年公演された作品の第2弾だが、流石猿之助の脚本は面白く、現代テイストを加えながらも確り歌舞伎に為って居て、かなり面白い!役者も猿之助幸四郎が頑張り、中車は遣り過ぎ感が否めないが、團子と染五郎がそれをカバー…新作歌舞伎の中では、出色の出来と思いました。

・「コーラスライン」@シアター・オーブ:天才振付師+演出家マイケル・ベネットと作曲家マーヴィン・ハムリッシュに拠る、この驚くべきミュージカル「コーラスライン」をニューヨークで初めて観たのは僕の学生時代、ニューヨークにレギュラーに行き始めた80年代前半だったと思う。僕はこの舞台。そして数年後に公開されたリチャード・アッテンボロー監督の映画版に拠って、こう云うミュージカルを作れるアメリカと云う国を理解し、心から好きに為ったと云っても過言では無い。今回久し振りにこの舞台を観て、個性の尊重と差別の撤廃を叫び、地味なラインダンサーにライトを当てた革新的なこの舞台が、今から40年以上前に初演された事、そしてオフ・オフ・ブロードウェイから始まって、「Cats」に抜かれる迄の最長ロングラン記録を立てた事が、如何にスゴい事か再確認した。そして素晴らしい芸術は、何度観ても素晴らしいし飽きない、と云う事も。ダンスや歌のレヴェルは高いし、「One」を始めとする音楽もキャッチーで素晴らしい。そしてこれは脚本の勝利で有り、普遍性の勝利でも有る。嗚呼、泣ける…また映画版が観たくなった。

・「亀井俊雄五十回忌追善 葛野流十五世宗家継承披露 第十回広忠の会」@観世能楽堂:昨年より葛野流大鼓宗家を継承した、亀井広忠師の会。時間の経った今回が継承記念会と為ったのは、シテ方五流派宗家の出演を実現する為だったとの事で、番組を見ても万全の体制だと云う事が良く分かる豪華な出演者、そして演目だった。先ずは梅若実・大槻文蔵・観世銕之丞の三師に拠る、刀を差し白式尉の面を付けない、珍しい「翁 弓矢立合」。千歳には片山九郎右衛門、三番叟は野村萬斎両師と云う超豪華版だったが、亀井師もオリンピックの決まった萬斎師も気合十分で、この曲は「翁」と云うよりは「三番叟」で有った。次は金春宗家による「高砂」…僕が八十一世金春憲和師の舞を観るのは初めてだったが、未だこれからか。その後は辰巳満次郎師と櫻間右陣師の一調ニ番と、宝生宗家の舞囃子「安宅」…和英宗家は貫禄が出て来た。その後は金剛宗家と梅若実師の一調、友枝昭世師の舞囃子「融」、梅若万三郎+観世喜正両師の「江口」を経て、トリはこの日のメイン・イヴェント、観世宗家の「道成寺」だ!観世宗家の迫力ある舞、宝生欣也師のワキ(近年益々亡きお父様に似て来た)、坂口貴信師の鐘後見もカッコ良かったが、然し何度観てもこの「道成寺」はそのサスペンス感、物語とモティーフ、緊張感、乱拍子、其れ等全てが魅力的な、謂わば「能のディズニーランド」(笑)。「コーラスライン」と同様に、脚本と演出の素晴らしい「エヴァーグリーン」は、何度経験しても素晴らしい。広忠師も新宗家として、そして観客も大満足だったで有ろう、濃厚な公演でした。

・益田正洋ギター・リサイタル「Torroba!」@近江楽堂:友人のクラシック・ギタリスト、益田君のリサイタルへ。今回はドミンゴも愛したと云うスペインの近代作曲家、フェデリコ・モレーノ=トローバの曲を中心とするラインナップ。美しい旋律と情熱的なリズムは、益田君のギターに合って居て、程良い大きさのホールに響く。特に最後の2曲、若書きの「ノクトゥルノ」と「ソナチネ」は特に良かった。これらも収録された、今出て居る益田君のCD「モレーノ=トローバ作品集」も必聴だ!

・「佳名会」@観世能楽堂:前日に個人会「広忠の会」を開催した、亀井広忠師のお弟子さん達に拠る素人会だが、大鼓以外はシテ方から囃子方迄プロなのだから贅沢とも云えるし、プロと素人とが一緒に演れる事も、能は矢張り素晴らしい古典芸能だ。今回は広忠師の弟子で、能楽と日本庭園の若き研究者R君が、何と観世銕之丞師の舞囃子「通盛」で打つとの事で、これは見逃せぬ!と拝見。R君の黒紋付姿は様に為って居て、大鼓も確り音が出て居り中々だった。出番後広忠師の弟君の小鼓D宗家から、「孫一さんは大鼓に向いて居ると思われるので、来年この会に出られるのを楽しみにしております」とのメールを受け取った…有難きお言葉ですが、熟考させて頂きます(笑)。

・JAPON dance project 2018 + 新国立劇場バレエ団「夏ノ夜ノ夢」@新国立劇場:友人が舞台美術を担当したダンス公演を観に。原作はお馴染みシェイクスピアだが、僕に取って今も忘れられない「(真)夏の夜の夢」は、ピーター・ブルック演出のモノで、その昔セゾン劇場で観た「テンペスト」と共に、彼の才能を推して知るべし作品だった。さて今回はモダン・ダンス的バレエ作品に為って居るのだが、前半は例えばピナ・バウシュを思わせる振り付けも少々古臭く感じ、尺が長過ぎるとも感じる。休憩後の後半は一転した展開と為り面白かったが、バレエが無ければ山海塾風でも有り、僕にはシェイクスピアを題材とした意味も今一つ分から無かった(僕の理解不足かも知れないが…)。ウーム…あれなら全体で1時間位の構成の方が、ピリッとしたと思うし、態態「シェイクスピア」を謳わず、オリジナルで良かったのでは?観るべき箇所も有ったので、「古典の広げ過ぎた新解釈」よりオリジナルの作品を観てみたい、と云うのが正直な感想。美術の方は、光の反射と映り込みを意識したシンプルな作りで好感が持てた。


ーその他ー
・大美正札会@大阪美術倶楽部:僕は東京美術倶楽部の正札会にはもう何回も行って居て、「正札会」と云う位だから、大阪発祥のモノだと勝手に思って居たのだが、何と大阪では今回が初めてとの事!4000点が並んだ姿は壮観だが、観るのも大変。ひとつ「いい茶碗だなぁ…」と思った高麗茶碗が、聞くとT商店の出品だったのは宜なるかな…僕の眼も利いて来たかなぁ?(笑)

金足農業高校@第100回全国高校野球選手権大会:今回の金足農高の大活躍は、僕の母が秋田出身と云う事も有って、僕を久方振りにテレビでの高校野球観戦へと向かわせた。第一回大会以来103年振りの秋田勢の決勝進出は、其れ迄の秋田県出身者だけの彼等の頑張りと共に、日本国中を応援させるに相応しい感動を伴ったが、結果は惨敗。相手の大阪桐蔭のメンバーを見れば、セミプロ対アマチュアみたいなモノで、そもそもの戦力と選手層が大きく違うし、当然エース吉田投手の疲れも有っただろうが、残念至極で有った。さて、そんな試合後には色々と批判や意見が上がって来て、その1つは吉田投手が1人で800球以上投げた事に対する批判だ。或る解説者や元政治家は「彼の野球人生をダメにして仕舞う」「それを防ぐ為には、100球限度制度を設けるべきだ」等、アホ臭い事を平気で云って居るのだが、果たしてそうだろうか?先ず「100球限度制度」は選手層の厚い学校だけに云える事で、大阪桐蔭みたく他校に行けばエース級が3人位居るチームと異なり、金農にみたいに2番手ピッチャーすら儘ならぬチームにすれば、エースが100球投げた後に滅多打ちされる事、必然…つまり、先ずは高校間の選手戦力の格差を廃し、元来の地元選手中心に戻す事が先決では無いか。また、優勝し二度目の春夏連覇をした大阪桐蔭よりも、負けた金足農の方に取材や報道が多いのは可笑しい、と云う批判も可笑しい。全国からセミプロ級選手を揃え、春夏連覇を二度もしそうなチームを、田舎の地元出身者だけの公立農業高校が決勝で倒そうとした事、負けても其処迄来た事の方が、読者視聴者には感動的だからだ。何でそんな単純な事を素直に考えられないのか、全く分からん。そして最後にもう一言…吉田投手が「炎天下で投げ過ぎて、彼の野球人生が終わって仕舞ったらどうする?」と云う愚問に就てだ。先ず彼がインタビューで語った様に、「どんな天候や状況でも故障しない様に、練習して来た」んだろうし、こんな事を云う人は一度しか無い人生、「ぶっ壊れても良いから遣り通したい」と思った事が無いに違いないし、人生一度でもスポットライトを浴びた事が無かったに違いない。「100球制度」を設けても全投手が田中将大に為れるとは限らないし、最後まで自分が遣り通したと云う実感を人生で得る事も無い。壊れる人は壊れるし、壊れない人は壊れない…これは人生に於ける如何なる仕事でも一緒で、一番大事な事は「最後迄遣り通す事」では無かろうか?

茶杓作り@K大学AO入試:今年も僕が客員教授をして居る美大の、夏のAO入試に立ち会った。この「茶杓作り」の試験も今年で3年目に為るが、毎年18歳の子供達が作る茶杓と、その制作姿勢に驚かされる。茶杓師の指導の下、2日間で茶杓本体と筒を竹から削り出し、銘を考えて筒に墨書する。そして最後は茶室で我等教師が講評した後、実際に自分の茶杓を使って茶を掬い、隣の学生に一服点てて上げると云う「試験」なのだが、もう殆ど「体験講座」に近い。そして、その過程でも子供達の個性が茶杓や銘に如実に見えて非常に面白く、今年も中国や韓国からの留学生も居たにも関わらず、本来ライヴァルで有る所の受験生達は、初日はお互い余り口も利かずに居ても、2日目の朝とも為ると謂わば「工房」の様相を呈し始めるのが面白い。僕も今年も3本目の茶杓を作ったのだが、濃いお茶の好きな僕は、一度に大量の茶を掬える様に櫂先を大きくするので、今回も銘は「パワーシャベル」とした(笑)。


「ボランティアの師匠」と呼ばれる尾畠春夫さんが、行方不明の二歳男児発見した件に僕は大感動!この人は73歳だそうで、何と山根元日本ボクシング協会会長と同い年…同じ73歳でもこんなに違うのか!と思わざるを得ないが、この人の「人」としての凄さは、僕に宮沢賢治の「雨ニモマケズ」と以下に掲げる「南洲遺訓」を思い出させる。


命モイラズ、名モイラズ、
官位モ金モイラヌ人ハ、始末二困ルモノ也
此ノ始末二困ル人ナラデハ、
困難ヲ共ニシテ国家ノ大業ハ成シ得ラレヌ也。


そして僕は、こんな政治家が一人も居ない今の日本に絶望する…今更「薩長同盟」を語る時代錯誤総理と石破氏の討論会ですら、早々に実現しなさそうな、今の日本に。


ーお知らせー
主婦と生活社の書籍「時間を、整える」(→http://www.shufu.co.jp/books/detail/978-4-391-64148-6)に、僕の「インターステラー理論」が取材されて居ます。ご興味のある方は御笑覧下さい。

*僕が昨年出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで視聴出来ます。見逃した方は是非!→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/

*山口桂三郎著「浮世絵の歴史:美人画・役者絵の世界」(→http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062924337)が、「講談社学術文庫」の一冊として復刊されました。ご興味の有る方は、是非ご一読下さい。