「能」ある生活/最新版。

・「千手」@横浜能楽堂 シテ:櫻間右陣(金春流

一ノ谷の合戦で敗れた平重衡は、捕らえられ鎌倉に送られる。そこで千手という女が遣わされ、出家の願いは聞き届けられなかったと重衡に告げ、重衡は琵琶を、千手は箏を弾き、短い夜を共に過ごすが、翌朝重衡は京都へと処刑されに送られる。初めて観る曲だったが、束の間の悲恋を思わせるこの能を、右陣師は静かに美しく舞った。嗚呼、切ない…。

・「松風」@観世能楽堂 シテ:大島輝久(喜多流

在原行平に執着する姉妹、ご存知世阿弥作と言われる「松風村雨」の能。行平形見の狩衣を着、烏帽子を付けて狂乱し、仕舞いには松の木を行平と思い込む…末恐ろしい女の執着である。「立ち別れ いなばの山の 峰に生ふる 待つとし聞かば いま帰り来ん」…行平とはなんと罪深い男なのだろう!大倉源次郎師の鼓と亀井広忠師の大鼓、そして現代美術家杉本博司氏所蔵の小面を掛けた大島師の、恋慕慕情溢れる舞が素晴らしかった。

・「道成寺」@観世能楽堂 シテ:谷本健吾(観世流

如何なる能の中でも、恐らくは最も回数を観ている曲。サスペンス満点のストーリーは、アイの「心得え候らえ」と云う恐ろしい警告の台詞から乱拍子を経て、狂乱の舞、鐘入りと息をも吐かせない…筈なのだが、今回は残念ながら鼓に迫力が無く、拠って乱拍子との掛け合いも気迫に欠け、鐘入りのタイミングも良く無く、今回の小書も個人的には余り好きで無かったりして、残念な事が多かった。次回を期待したい。

・「夜討曾我」@観世能楽堂 シテ:角幸二郎・坂口貴信(観世流

初めて観た曾我兄弟の仇討ち物だが、仇討ちが終わった後の話である所が面白い。演出も非常にアクロバティックで、大人数を相手に兄弟が次々と敵を倒していく様は、時代劇のチャンバラシーンを観ている様だった。能初心者には、「勧進帳」や「道成寺」と共にオススメの曲だと思う。

・「實盛」@矢来能楽堂 シテ:中所宣夫(観世流

「朝長」「頼政」と共に「三修羅物」の一つであるこの能は、非常に難しいとされる。それは通常の修羅物と異なり、最初から主人公が亡霊だと云う事が観客に分かっている事と、老体の役なのに動きが多い為だ。しかしシテの中所師は気迫満点、しかも枯れた味わいを見事に見せた素晴らしい舞台だった。

最近僕の生活は能付いていて、お能の文章を幾つか公の場で書いた。今週末の「日経フィナンシャル」もお能に関する内容なので、乞うご期待。

 

ーお知らせー

*11月1日発売婦人画報12月号内に、「極私的名作鑑賞マニュアル」が掲載されました(→https://www.fujingaho.jp/culture/art/a45748339/art-yamaguchikatsura-231116/)。今回は大阪(藤田美術館中之島美術館)を席巻中の奇想アーティスト、長沢芦雪を取り上げています。是非ご一読下さい。

*10/24発売のバイリンガル・アートマガジン「On Beat」で、インタビュー新連載「世界の日本美術コレクター」が始まりました(→https://onbeat.co.jp/)。第一回は公私共に長いお付き合いの、全米大長寿法廷ドラマ番組の脚本家であり、写真家でもある世界的川瀬巴水コレクター。是非ご一読を。

*「Nikkei Financial」内に連載中のコラム「美意識を磨く」に、「『能』ある人生」(→https://financial.nikkei.com/article/DGXZQOUB103LO0Q3A011C2000000)が掲載されました。お能を観た事のない方必読のガイドです。ご一読を!

*9月1日発売婦人画報10月号内に、「極私的名作鑑賞マニュアル」が掲載されました(→https://www.fujingaho.jp/culture/art/a44895535/art-yamaguchikatsura-230921/)。今回は現代美術家杉本博司氏の「本歌取り」を取り上げました。ご一読を!

能楽誌「観世」(檜書店:昭和4年創刊)9-10月号の巻頭随筆に、拙稿「No Noh, No Life」が掲載されて居ます(→https://hinoki-shoten.shop-pro.jp/?pid=176721152)。能に興味ある方は、是非ご一読を。

芸術新潮9月号内、「千宗屋の飲みたい茶碗、点てたい茶碗」第百四回に、以前扱った「本手瀬戸唐津茶碗」が取り上げられて居ます。この茶碗を扱ったのは、もう16年も前の事…千氏との思い出と共に、懐かしく拝見しました。是非ご一読下さい!

*「Nikkei Financial」内「知の旅、美の道〜Journey to Liberal Arts」での連載コラムに、「Something to Sell?」(→https://financial.nikkei.com/article/DGXZQOUB0719K0X00C23A8000000)が掲載されました。「断捨離」と家に眠る宝探しに纏わるお話です。ご一読を!

*「Nikkei Financial」内「知の旅、美の道〜Journey to Liberal Arts」での連載コラムに、「あなたの眼を磨く23年後半のオススメ展覧会」(→https://financial.nikkei.com/article/DGXZQOUB194XX0Z10C23A6000000)が掲載されました。

*7月1日発売の婦人画報8月号内に、「極私的名作鑑賞マニュアル」が掲載されました(→https://www.fujingaho.jp/culture/art/a44512395/art-yamaguchikatsura-230720/)。今回は無頼の「ネオ日本画」アーティスト、天明屋尚の作品を取り上げました。

毎日新聞2月4日朝刊の書評欄「今週の本棚」で、社会学者の橋爪大三郎先生に拙著「死ぬまでに知っておきたい日本美術」が選ばれ、大変嬉しい書評を頂きました(→https://mainichi.jp/articles/20230204/ddm/015/070/005000c)。有難うございます!

*拙著「死ぬまでに知っておきたい日本美術」が、Yahooニュース(→https://news.yahoo.co.jp/articles/540878cae903be3340dd7c6ea5bc83b207dae2f3)で取り上げられました。ご一読ください!

*「青春と読書」2022年12月号に於いて、政治学者・音楽評論家・慶應大教授、そして小中高と同級生の片山杜秀氏に、暖かい書評を書いて頂きました(→http://seidoku.shueisha.co.jp/2212/read12.html)。有難うございます!

*拙著4冊目「死ぬまでに知っておきたい日本美術」(https://www.shueisha.co.jp/books/items/contents.html?isbn=978-4-08-721242-6)が、集英社新書より刊行されました!少しでも日本美術に親しんで貰いたく書いた、分かり易い新書です。是非ご一読を!

*拙著第3弾「若冲のひみつー奇想の絵師はなぜ海外で人気があるのか」が、PHP新書より発売になりました(→https://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-84915-7)。若冲をビジネスサイドから見た本ですが、図版も多く、江戸文学・文化研究者のロバート・キャンベル先生との対談も収録されている、読み易い本です。ご興味のある方はご一読下さい。

*拙著第2弾「美意識の磨き方ーオークション・スペシャリストが教えるアートの見方」が、平凡社新書より発売されました(→https://www.heibonsha.co.jp/smp/book/b512842.html)。諧謔味溢れる推薦帯は、現代美術家杉本博司氏が書いて下さいました。是非ご一読下さい。

*拙著「美意識の値段」が集英社新書から発売となりました(→https://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/1008-b/)。帯は平野啓一郎氏と福岡伸一先生が書いて下さいました。是非ご一読下さい!

*僕が出演した「プロフェッショナル 仕事の流儀」が、NHKオンデマンドで2023年3月28日迄視聴出来ます。見逃した方は是非(→https://www.nhk-ondemand.jp/goods/G2017078195SA000/)!