「東洋美術週間」、始まる。

やっと、NYも暖かくなって来た…今週末などは、何と19度の予想が出ている程だ。

そんな中、毎朝オフィスまで歩いて行く途中に、或る「楽しみ」が出来た。それは極最近、マンハッタンの街角のサインボードを飾り始めた「ブルガリ」の広告の事なのだが、其処では愛しの「ジュリアン・ムーア」様が、美しいお御足を見せながら「艶然と」微笑んでいる。そして、セール前の朝の「イライラ出勤」の重い足取りは、彼女の姿に因ってほんの少しだけ軽くなった…男とは何と単純な生き物だろうかと、つくづく思う(笑)。

さていよいよ、NYの春を彩る東洋美術の祭典「ASIAN ART WEEK」が始まった。

昨日は先ず昼過ぎに、コロンビア大学日本美術史准教授のマシューと、NYにいらした大阪大学大学院教授の奥平俊六先生と「そばランチ」。その後は、皆で当社で今回出品予定の屏風を観る事に。

奥平先生が現在「祇園祭礼図」の研究をされている事と、マシューもその道の専門家である事から、先ずは「洛中洛外図」屏風を出す。今回売る作品は、残念ながら「右隻」だけなのだが、状態も良く書き込みも中々宜しい。奥平先生にも「いやー、図録で見るよりよっぽど良いねぇ」と仰って頂いたのだが、実はこの屏風には幾箇所か面白い所が有って、例えば三条大橋の袂に「芝居小屋」が在るのだが、其処では面を着けた人物が「三方」(神社で使用する、神様の為の木膳)の上で踊っている。こんな図は今まで見た事が無く、先生方も初見だとの事…このシーンの舞踊が何なのかご存知の方は、是非ご教授下さい。

先生のお話によると、今回のこの作品は絵的には「島根県美本」に近く、時代も少なくとも寛永は有るだろうとの事。洛中洛外図の制作は「模本の連続」であるにしても、所々に作者(集団)の個性が出て面白い…この屏風にも、上に述べた珍しい舞踊場面や非常に大きく書かれた伏見城朝鮮通信使も登場し、観る者を楽しませる。

次に「宇津保物語図」、中屏風六曲一双。恐らく18世紀狩野派の制作に拠る物だが、落款は無い。この「宇津保物語」の絵画作品は、奈良絵本等には類例が有るのだが、屏風の様な大画面に描かれるのは非常に珍しく、筆者もこの作品しか存在を知らない。「宇津保物語」の成立は今でも不明らしいのだが、「源氏物語」の中に「宇津保物語」の記述が出て来る事から、それ以前の成立で有る事(10世紀)は確かで、「竹取物語」と共に日本で最も古い物語で有るらしい。

この屏風には、「遣唐使」清原俊蔭が波斯国(ペルシア)に漂流し、天女や仙人から秘伝の琴を習うシーン(右隻)、そして俊蔭の娘が貧しさの為、北山の森の洞穴(うつほ)で子(仲忠)を育てながら秘琴の技を教えるシーン、後の俊蔭の曾孫、犬宮の入内の様子等(左隻)がフィーチャーされている。特に面白いのは、孔雀に乗って飛んでいる俊蔭(右隻)や、猿や栗鼠等の森の動物達に貢物をされながら、息子に秘琴を教えている俊蔭の娘の姿(左隻)で、何とも云えぬ「お伽草子」的味わいがある。

そして最後に、今回のセールの目玉である「白鷺図」と「吉野山図」の、各本間六曲一双屏風を観賞。

「白鷺図」屏風の方は、現在個人コレクター所蔵であるが、1997年にサザビーズ・ニューヨークで一度売られ、13年振りにマーケットに出て来た作品。この作品は一応「雪舟派」となっているが、時代的には室町は無く、恐らく桃山(もしかしたら江戸初期)位であろう、墨の濃淡を非常に旨く使った、絵も中々巧い作品である。そしてこの屏風の面白い所は、両隻とも「印章を消した痕が在る」事だろう。先生方の意見では、海北系かも知れないとの事だが(東京の下見会では「曾我派」の声も)、買った人が赤外線を当てれば、印章も読めるかも知れない…「お楽しみ」である。

一方「吉野山図」も、非常に珍しいの構図の「山桜満開」屏風。有名な渡辺始興作の同画題の作品等とは、全く趣を異にし古様を漂わせる、如何にも桃山の「大らかさ」を感じさせる作品である。そしてこの作品の大きな特徴は、右隻の第1扇に描かれる「橋」から左隻第6扇まで、画面をずっと見渡して行くと、描かれた景色が「山桜」の描き方に因って、少しずつ山の奥に分け入っている様子が判ることだ。桜の花弁の胡粉による盛上、川に描かれる流水、巌等も好ましい。先生方も気に入られた様子であった…後は、頑張って売るだけである!皆さん、下見会でじっくり実見して下さい。

さて、先生方に大変な勉強をさせて頂いた後は、妻と義父とで柳孝一氏のオープニングへ。狩野派の屏風、男女神像、夢窓疎石の書、其一の軸等を観ながら、大勢の顧客・友人達と談笑。

目くるめく時間を過して柳氏のギャラリーを後にし、顧客且つ親しい友人のCとRのカップルとのディナーへと急ぐ。場所は東京溜池に在る「山王飯店」の姉妹店で、ミッド・タウンの美味しい中華「TANG PAVILION」。ご馳走の数々(特にトンポーロー、エビマヨ、オレンジ・ビーフが旨かった!)と楽しい話題しきりで、時間もアッと云う間に過ぎ、気分が悪くなる程食べ(させられて:笑)、解散。

栄養を付けすぎた体に鞭打って(笑)、さぁ、セット・アップである!!


告知:
今週の金曜日(19日)午前10時半より90分に渡り、日本クラブ主催の「クリスティーズ・日本韓国美術オークション・下見会ツアー」が、ロックフェラーセンターのクリスティーズに於いて開催されます。ツアー・コンダクターは、同社部門長の山口桂氏。当代楽吉左衛門の茶碗を触ったり、歌麿の傑作春画も観れる上、ハイライトの解説付き。参加ご希望の方は、日本クラブ・カルチャーセンター、担当宮澤さん(212−581−2223)迄。