「自主規制」的近況。

5月3日(火:憲法記念日
11:30 品川駅で友人と待ち合わせ、電車を3回乗り換えて、久し振りの箱根へ…先ずは宮ノ下の富士屋ホテルに向かい、神社建築風の高天井メイン・ダイニング「The Fujiya」で、ビーフ・カレーを伝統に則って「フォークのみ」で食べる。食後には名物「アップルパイ・ア・ラ・モード」を注文したが、其れに付けても「食欲」と云う病気が治らない(涙)。その後、庭園の中腹に在るご先祖様の銅像にご挨拶し、最近横浜のお墓へのご無沙汰をお詫びしながら手を合わせる。

13:00 富士屋ホテルからタクシーでポーラ美術館へ向かい、現在開催中の展覧会「Modern Beauty-Art and Fashion in France」を観る。化粧道具やドレス等のファッションと、それを取り巻く文学者やアーティスト達の群像、そして印象派や19世紀絵画との組み合わせが非常に良く出来て居るハイ・ブロウな展覧会で、特に館所蔵の印象派作品のクオリティに改めて驚く。同時開催の館蔵名品展も堪能。

19:00 帰りに乗ったロマンスカーを新宿で降り、友人に別れを告げてJRの改札に入った途端に、ポケットに有る筈の携帯が無い事に気付く。慌ててJRの改札を出て小田急線ホームに駆け戻り、係員にその旨を告げると、電車はホームを出て行って仕舞ったばかり。落胆して事務所に赴くと、色々質問された後、別の強面の駅員さんが箱から取り出したのは、何と僕の携帯…こう云った「小さな奇跡」が、僕に神の存在を再確認させる。


5月4日(水:みどりの日
12:30 都内ホテル「I」内の寿司屋「N」で、重要クライアント夫妻とランチ。最近購入依頼を受けて居た、ヴァイオリンに関する報告等を行う。然しこの日の「I」は、有名百貨店のバザールが行われて居たらしく大混雑で、駐車場に入る為に自家用車が並んで居るのを初めて見た…「バザール」でこんなに人が熱狂するとは、酷い円高と共に誰かさんの「三本の矢」が聞いて呆れる。

17:00 行き付けの一軒家カフェ「L」に行き、美味い珈琲とベイクド・チーズケーキを食べ、マスターと話をしてマッタリとする。僕が35年近く通うこの店の存在は、それこそ「小さな奇跡」だ(→拙ダイアリー:「『秘宝』の様な喫茶店」参照)。

20:00 小説家H氏と、久々のブルー・ノート東京で「ベニー・ゴルソン・クァルテット」を観る。僕は、ゴルソンをテナー・プレイヤーとしてよりコンポーザーとして買って居て、例えば「Whisper Not」や「I Remember Crifford」と云った名曲も多く、今回は特にこの2曲を聴きに行ったと云っても過言では無い。にも関わらず、ゴルソンがこの2曲を演らなかったばかりか、バックのトリオもリゾート・ホテルのロビーで聞く演奏レヴェルの有様。何時もだったら超ムカつく処だが、87歳に為ったゴルソンの元気な姿を見るのはこれが最後かも知れないとの思い、そして嘗てアート・ブレイキーリー・モーガン等とプレイした彼の過去の栄光、偉大なるメロディ・メイカーへの尊敬を以ってして、何とか我慢する(笑)。然し不思議なのは、彼が毎回自分のパートが終わった後に、マウスピース・カヴァーを自分のテナーに放り込む事…音に影響有るんじゃ無いか?

21:30 ブルー・ノート近くの、学生時代から通って居るカフェ「F」でH氏とディナー。政治や芸術等に就て色々と語り合うが、40-50代の男とは何と悩み多き生き物なのだろう…。


5月5日(木:こどもの日)
10:30 東京ステーション・ギャラリーで開催中の、「川端康成コレクション 伝統とモダニズム」展へ。川端のアート好きは有名で、特に大雅・蕪村合作「十便十宜帖」等の古美術には、国宝を含む重要作品も多い。川端が自死した時、骨董屋が未払いの金の代わりに作品を持って帰ろうと自宅に殺到した話は有名だが、今回の展示では草間彌生ピカソ等も展示されて居て、川端の広い趣味が分かる。他の文豪達との往復書簡等も大層興味深い。

13:00 真夏の様な陽気の中代官山に赴き、ヒルサイドフォーラムで開催中の「マグナム・ファースト日本展」を観る。

13:30 その近所のレストラン「I」のテラスで、現代写真系の友人とランチ。「グリルド・シーザーサラダ」が美味い。「I」のオーナーで旧知のT氏も来て居て、ご挨拶…然し、代官山がこんなにも人で溢れる様に為るなんて、「シェ・リュイ」や「トムズ・サンドイッチ」、「ボエム」等に通って居た学生時代には思いもしなかった。

16:00 ランチ後、ダッシュ清澄白河に向かい、現在「小泉明郎展 空気」を開催中の無人島プロダクションで、「キセイノキセキ vol.1」と題された小泉氏と卯城竜太氏のトークを聴く。この「表現の自由」と「規制」をテーマに掲げたトークは、現在都現美で開催中の展覧会「キセイノセイキ」の関連イヴェントだが(そして無人島プロダクションで現在展覧中の小泉作品は、都現美の展覧会から「外された」モノだ)、展覧会を開催して居る癖に屁っ放り腰な都現美、そしてこんなにも素晴らしい作品を作り、それを武器に闘うべきなのに、都現美長谷川祐子氏を「尊重した」小泉氏に、少々ガッカリしたのも事実。が、今回のトークは、客席に居た椹木野衣氏が質疑応答中に発した質問・発言が全てで、この案件は突き詰めなければ意味が無い。流石、である。然し、例えば江戸期でも国芳の「荷宝蔵壁のむだ書き」の様に、天保の改革時に禁止された「役者絵」を自身の作では無く、「蔵の壁に描かれた似顔絵を写した」と云う言い訳を用い、あの絵の上手い国芳がヘタウマに徹して版元と共に出版した勇気有る「レジスタンス」と、それを見て見ぬ振りをして「許した」幕府の両者間の、或る種の「寛容」と「妥協」にも一考の余地が有る気もする。

19:30 座談会途中で再発した座骨神経痛を騙し騙ししながら白金に行き、「I」でVIP顧客とすき焼きを食べる。ご飯を小盛り一杯で止めた、自分のその小さな「規制」(笑)に拍手を送りたい。


5月6日(金)
10:30 オフィスに行き、西洋美術を中心に集める某美術館コレクションに就ての、簡単な戦略打ち合わせをする。

12:30 銀座の「G」でランチ。ここのサラダとハンバーグは最高に美味いが、何時もキッチン・カウンターに居るシェフが、僕のダイエットを邪魔をするのが甚だ迷惑…そして其れに負け続ける俺は、「レザボア・ドッグ(負け犬)」だ(涙)。

14:00 神保町の版画店「H」に、浮世絵版画を観に行く。今巷では国芳が大ブームだが、この店にも外人客が来て居て、熱心に国芳を観て居た。

15:00 もう大分前に買った版画作品を、友人の引っ越し祝い様に額装する為、飯倉の行き付けのフレーム・ショップ「K」に持って行き、そのセンスを信用して居るO氏と、額に就いて打ち合わせ。額も仕事も「センス」が第一…そしてそのセンスを磨き続けるには、「自分の専門外の最高の芸術」を見続け、体験し続ける事が肝要だ。かのゴダールも、センスの無い映画作品を観た時に云ったでは無いか…「この映画には何も映って居ない。何故ならフレームの外のモノが何も映って居ないからだ」と!

16:00 溜まったメールへの返事と一休みを兼ねて「L」に行き、珈琲で一服して居ると外人客が4人入って来たのだが、お店のSちゃんが彼らと意思の疎通が上手く出来無かった様なので、通訳を買って出、序でにメニューに載せるべく英語を考える。35年通い続けて居る「L」に、少しでも恩返しをしたい。

19:00 家に戻り、ポリーニの「ショパン夜想曲集」を聴きながら、或る作品に関しての調べ物をするが、「ポリーニのピアノ」は「ポリーニのピアノ」以外の何物でも無く、詰まりは素晴らし過ぎて、一瞬耳を欹てて仕舞い、本を繰る手が止まって仕舞う…いや、それこそが「風格」の証しなのだ。


5月7日(土)
9:00 3ヶ月に一遍の、恒例の定期検診(血液検査)を主治医の処で…過食中なので結果が怖い。

10:30 近美で開催中の「安田靫彦展」を観る。靫彦程「墨線」に作家自身の性格が出て居る画家も居ないと思うが、グラフィックで軽快な作品はそんな「線」の賜物…そして特に仏画にその精彩を観る。川端康成と同様に、靫彦が古美術の熱心なコレクターだった事は知られて居るが、作品中に描かれた焼物等への彼の真剣で暖かな眼差しは、梅原龍三郎や鳥海青児、或いは前田青邨と共通する、アートを創る者の過去から生き延びて来たアートへの愛と尊敬に溢れる。

13:00 都現美で開催中の展覧会「キセイノセイキ」を、対照的に大混雑の「ピクサー展」の長蛇の列を擦り抜けて観る。「検閲」と「自主規制」をテーマとしたこのMOTとArtists' Guildの協働展は、何しろ必見のハード・コアな展覧会だ。が、都現美には発表されないトーク・イヴェントや、制作者から自らの名前を外したカタログ制作に関して、そして現在展覧会場で何の説明も無い侭、唯作品名と作者名だけが記されたカードが壁に貼られる小泉作品に関して、説明責任が有ると思う。特に小泉作品の展示現状では、「唯の白壁が、小泉明郎の『空気』と云う作品だ」と来場者に思われて仕舞う事必然で、せめて「(半)自主規制」の経緯を説明するキャプションは付けるべきでは無いか?何れにせよ、我々はこのテーマに関してもっと「公に」議論せねばならない。

14:30 都現美を後にして、近くの無人島プロダクションを再訪し、小泉明郎「空気」展を再見。改めて「空気」作品群に感心する。欲しい。その後ヴィンス・ヴォーンを髣髴とさせる小泉氏&藤城女史と話をするが、藤城さんは少々お疲れ気味…踏ん張って欲しい。

16:30 歌舞伎座で「團菊祭五月大歌舞伎」夜の部を観る。今回も相変わらずの海老蔵人気、プラス菊之助の息子寺嶋和史の初舞台人気で、女性が8割の満席。最初の狂言「勢獅子音羽花籠」は、僕の地元神田明神が舞台の華やか&目出度い演し物で、和史君を抱いて登場した菊之助の両脇を2人のお祖父ちゃん、即ち菊五郎吉右衛門が脇を固めたが、当の和史君は何とあの雰囲気の中で寝て登場(笑)。最後は手を振って愛想を振り撒いて居たが、流石大物の風格十分で有る。次のお馴染み「三人吉三巴白浪・大川端庚申塚の場」は、お嬢吉三菊之助とお坊吉三の海老蔵の対峙が見処だったが、矢張り菊之助の芸の方が格上。三演目目の「時今也桔梗旗揚」は松緑が大熱演し、時蔵女形も何時もの様に素晴らしい。久々にグッと来る松緑を観たが、これで後は「華」が有れば…と思うのは僕だけだろうか?そして最後の「男女道成寺」では、菊之助の踊りの上手さと「手」の美しさに、眼を奪われっ放し。然し「道成寺物」は、男が出ない方が絶対的に宜しい…歌舞伎の「道成寺物」では、凡ゆる意味で「京鹿子娘道成寺」の美しさを超える事は出来ないと思う。

21:30 久々の代官山「A」で、Kシェフお薦めの季節の絶品料理、即ち「稚鮎のフリット」「花ズッキーニの栄螺詰め」「桜海老の薄焼きピザ」「白アスパラとミル貝のココット」「ステーク・フリット」等を頂く。そしてトドメは「苺パフェ」…神よ、この哀れな大羊を憐れみ給え(涙)。


Kシェフの「好み」では(笑)、ダイエット効果が最高潮だった痩身の頃の僕よりも、リバウンドした今位の方が良いとの事…「美の発見」とは人それぞれで有るが、「体重の自由」にもそろそろシリアスな「自主規制」を掛けた方が良いかも知れない(再涙)。


*お知らせ*
5/29(日):契約なしで携帯でもPCでも誰でも見れる、フジテレビ・インターネット・ニュースチャンネル「ホウドウキョク」(→http://www.houdoukyoku.jp/)の「ニュースのキモ!Evening」(18:00-20:00)に出演します。

6/6(月):渋谷区のコミュニティFM渋谷のラジオ」(→https://shiburadi.com/)の「代官山のアートストリート」(13:00-14:00)に出演します。