「世界で一番古くて新しいもの」。

皆さんの年越しは、如何でしたか?・・・何しろ「21世紀」になって早9年、そして筆者も今年の3月で「NYに来て」丸10年、時間の経過の速さとは、全く驚き以外の何物でも無い。

タイムズ・スクエアでの恒例のカウント・ダウンは霙混じりの雨の中、それでも信じられない位の人が集まり、「世界最大の年越しパーティー」が「無事」行われた。「無事」と云うのは、その数日前のノースウエスト航空のテロ未遂、前日のタイムズ・スクエアでの不審車騒動等が有ったからで、株価の持ち直しとは反作用的な、新しいDECADE(10年間)の先行き不安感を暗示する様であった。

さて日本人であるからには、日本の事で今年のダイアリーを始めたいと思っていたが、今日のテーマはその意味で「持って来い」である・・・それは「神宮」(伊勢)。

真面目にこのダイアリーを読んでくれている方ならご存知の通り(笑)、筆者は「神道」の家で育った(拙ダイアリー:「母の誕生日に『熊野』を想う」参照)。今でも「祝詞」は諳んじれる位で、子供の頃には祝詞に出てくる「しらひとこくみ」や「昆虫(はふむし)の災」とは何の事なのか、「高津国」とは何処に在るのか等と、不思議に思ったものである。

そんな筆者で有るが、このクリスマスから正月に掛けての休暇中に、読了した本が有る・・・それは稲田美織写真・著「水と森の聖地 伊勢神宮」。著者の稲田氏は、2001年のテロをNYで目撃して以来、世界の「聖地」を撮り続けている写真家で、2013年に行われる「神宮」の「式年遷宮」をドキュメント取材している方だ。

筆者は、この稲田氏とは10年来の知己を得ているのだが、そもそもは昨年逝去された、NY裏千家出張所元所長の山田尚氏のご縁であった。当時山田氏は、美術、音楽、パフォーミング・アーツ、建築等の他分野に渡る若い日本人アーティストを自宅に集め、度々パーティーを催されていた(本当に尊敬できる方であった・・・合掌)。

若いアーティスト達が「腹を空かせて」は、よく氏のお宅に駆けつけたもので、稲田氏も筆者もその内であったのだ。今では中々お目に掛かれないのだが、筆者のオフィスの壁には氏の「余りにも」美しい作品、「心御柱覆屋(しんのみはしらのおおいや)」が掛かっており、オフィスに起ち込める「金と欲に塗れた」邪気を祓ってくれている(拙ダイアリー:「ピンナップされた『愛しの女神さま』」参照)。

本題に入ろう。この本は先ず何しろ、美しい。稲田氏のある種「潔い」写真の数々は、「神宮」が如何に「森」と密接な関係に有るか、そして言葉を替えれば、その「森」が国土の70%を占める世界でも異例な、「森の国」日本と如何に密接であるかを饒舌に語り、そしてその写真は、「何事のおはしますかは知らねども」自然に払わざるを得ない「畏敬」と「感謝」の念を、読者にストレートに感じさせる。

また氏の文章は非常に素直で判り易く、例えば「神宮」は125社の総称であり、「式年遷宮」の時はその125社が同様に遷されると云う事や、「遷宮」の壮大なお祭りはその8年前から始まる、と云った事など、「神宮」に関する基礎知識を読者に導く。「古事記」からの抜粋や例祭の説明等、「神宮」の入門書としても非常に優れた本であると思う。

この本の終わりの方に、著者が引用した印象的な言葉があるのだが、それは建築家フランク・ロイド・ライトの弟子であったアントニオ・レイモンドの言葉で、「伊勢の深い森の中に、世界で一番古くて新しいものが存在する」である。

建物が未だ使用可能であっても、新しく建て続ける事に因り原初の姿を保ち続ける・・・そして次世代に受け渡す。それは自然の「循環」の思想であり、「森と水の国」日本の「根本」であるかも知れない。

日本が「森と水の国」である事を、改めて考えたくなった・・・ささやかな「年頭所感」である。