「地獄の初釜」。

昨日は昼から、小雪の舞い散る寒い日曜日で有ったが、気の置けない友人8人を呼んで、「地獄の初釜」をした。

何のこっちゃと思う方の為に簡単に説明すると、我庵はマンハッタンのウエストサイド、通称「Hell's Kitchen(地獄の台所)と云う地域に在り、その名も「Hell's Palace(地獄宮殿)」と云う。「宮殿」とは、元々武器庫で有ったビルが改造された、ホワイト・キューブな倉庫の一室の様な部屋に、「スワロフスキー・クリスタル」を使用している、デコラティブな20世紀初頭頃のロシア製シャンデリアが「唯一」吊るされている、と云うだけの理由から付いた「渾名」である。

その「地獄宮殿」に於ける、「釜茹で」為らぬ「初釜」なので「地獄の初釜」と云う訳であるが、「初釜」と雖も我が家はご存知の通り「ナンチャッテ」なので、其処の所はご容赦を(笑)。

夕方6時に、我が地獄宮殿に集合。メンバーはジュエリー・デザイナーのN氏、ライター夫妻のM女史とD氏、ジャパン・ソサエティーのY女史、ヘア・デザイナー(&ピザ・ジーニアス)のTOM君とその「可愛い」フィアンセKさん(お医者さんです)、そして今年も相互交流を深めるであろう「マンハッタン二大宮殿」の一、エリザベス宮殿主A姫と彼女のイタリア人の友人で、ワインの輸入業者をしているP氏である。

さて、先ずは食事開始。昨年末から再び目が「三角」になっていた妻が、精魂込めて作った「丹波の黒豆煮」や「鮭の南蛮漬け」、その他買ってきた御節等を前に、皆で「御屠蘇」で乾杯。

こう云っては何だが、気を使わなくて良い人達なので話題も豊富、食事も和気藹々と進んで行ったが、途中METで行われている「SAMURAI」展の話になり、今一度皆様に「刀」と「太刀」の違いや、「吸毛(すいもう)の剣」の話をする。「吸毛の剣」とは「碧巌録」中に出て来る言葉だが、刃を上にして置いた剣に髪の毛一本を落とすと、その髪が刃に触れた瞬間に真っ二つに切れる程の「切れ味の鋭い」剣の事である。

その説明をしている筆者以外の9人の内、こう云っては何だが「ツルツル・ピカピカ」の方が約二名居らしたので(ゴメンなさい!)、ちょっと気を使ってしまったのだが、その内の1人のP氏が「それなら僕は、その剣で切られる心配は無いネ!」と云ってくれたので助かった(笑)。

「Peking Duck House」から調達した北京ダック(こちらでは、「皮」だけでなく「肉」も食す)、お雑煮を頂いた後は、本日のメイン・イベント「地獄の初釜」。

今回は部屋の灯りを落としてキャンドルを燈し、音楽を止め、「夜咄」の趣向でそろそろと始める。我が宮殿には、そもそも質も数も碌な茶道具が無いのだが、今回は昨年亡くなった叔母の遺愛品であった黒棗、水指を使わせて頂いた。

新年に「追善」の様な事で、本来なら「イケナイ事」かも知れないし、これ等の道具も貴要な作品でも何でも無いのだが、「遺愛品」を使う事に拠って「その人を想い出し」て感謝すると云う事は、中々良い事だと思うからだ。

キャンドルの灯りで、立てた屏風の金箔も雰囲気を増し、粛々と妻の点前が進む。3人ずつ交代でお茶を飲んで貰ったのだが、皆真剣で、外国人であるP氏やD氏も「お替り」をされた程で(特に日本酒二種、プロセッコ、白ワインの後の「お茶」は、さぞかし美味しかったに違いない!:笑)、嬉しい事であった。

全員がお茶を頂いた後は、道具を拝見し、色々な質問や会話が飛び交う。プロの方々からすると噴飯物かも知れないが、こう云った素人が集まった「ナンチャッテ」茶会でも、分野の違うインテリが集まると中々鋭い質問等も出て、大層面白い。特に「外国でのお茶」はこう云う「場」が楽しい・・・やはり「一座建立」、メンバーが重要である。

気が付くと、夜半を過ぎていた・・・アッという間の6時間であったが、NYで正月を迎えた我々に取っては、ちょっとした「日本のお正月」気分を味わったのだった。

素晴しい8人のゲストに感謝しつつ、「地獄の初釜」は無事終了。

さぁ、ビジネス再開である。