幽霊と空海。

一昨日、下見会が無事終了した。

美術館館長や学芸員、美術史家、能役者、コレクター、業者、各メディア等、そして東大理学部物理教授やクラシック・ギタリスト迄、多数の方にご来場頂いた…此処に御礼申し上げる。

今回は、少しでも多くの方に日本美術に興味を持って頂きたく、2日間共昼12時から「ギャラリー・トーク」を行ったが、集客はイマイチで有った。

しかし、下見会閉会後に行った、同士K氏が主宰する「谷中政経塾」の為のレクチャーには、20名以上の官僚や金融、メディアの方々が集まり、皆さんに作品やマーケットのお話をしたが、鋭い質問も多く遣り甲斐が有り、此方も大満足。

レクチャー後は、そのメンバーの10名程の有志で会食…民主党党首選や原発問題等を話し合う。日本を離れている身としては、誠に勉強に為ったが、官僚の方々の原発観が、筆者の物とかなり異なる事に、非常に驚きを覚えた事を記して措こう。

そして昨日はと云うと、査定や事務仕事を東京オフィスで終えると、連載している講談社「セオリー」編集部のA氏とランチ。点心を摘まみながら、同じ日に行っていた「杉本文楽」や音楽、次号に書く予定の作品の事等を話す。

打ち合わせを終えると顧客を訪ねて、お茶を頂きながらの四方山話に明け暮れたが、実は昨日は夕方にメイン・イヴェントが有ったのだ。

神田川が増水していて、丸の内線が止まっていると云う信じ難いアナウンスを聞きながら、「かいちやう」と待ち合わせて先ず向かったのは、谷中の全生庵…平井住職からのお誘いで、夏の間だけ公開されている、落語家三遊亭円朝が収集した、「幽霊画」コレクションを見る為で有る。

日が暮れ、雨がそぼ降り、湿気が増し、幽霊達に会うには絶好の条件の下(笑)、平井住職の案内で、展示室に入る。

円山応挙、渡辺省亭や柴田是真等のメジャーな作家から、近代の無名作家迄幽霊画が多数並ぶのは、グロでは有るが壮観で有る。中でも谷文一の、幽霊が中廻しに手を掛けて絵から出て来ようとしている作品が、最も不気味で有った!

或る意味、幽霊画の展示室よりも怖い(笑)、全生庵の真っ暗な廊下と扉を抜け、幽霊達と平井住職にお別れを告げると、かいちやうと連れ立って、今度は東博で開催中の「空海密教美術展」へ。

こういう時に、日頃の行いの良さを自画自賛するのだが、大雨の金曜の夜の東博は、予想通り空いていて、密教黎明期の恐るべき作品群をじっくり観る事が出来た。

この展覧会はもう三回目、と云うかいちやうの提案で、彫刻の方から観る事にする。

何しろ全部スゴいものなので、「欲しいっ!」と思ったモノだけを記すと、フィギュアも買ってしまった、三面の内横の顔の頬が一寸ひしゃげた、東寺の「梵天坐像」、神護寺蔵の「蓮華虚空蔵菩薩坐像」、東寺の「天盖」、そしてこれまた東寺の「女神坐像」。

醍醐寺五大明王像は、観れば観る程作行が軽やかでスタイル抜群だが、不動明王像だけは顔・体型共に他人とは思えなかった(笑)。

絵画・墨蹟の方では、金剛峯寺の「血曼荼羅金剛界」、所々漢字が大きくなる「聾瞽指き」(ろうこしいき:「き」は「火へん」に「帚」)や、象も余りに可愛い西大寺蔵の「帝釈天像」が素晴らしい。

8時閉館迄の1時間半程の。かいちやうの素晴らしい解説付きの観覧は、何ともハッピーでエデュケーショナルで有った。

東博後は、かいちやう行き付けの団子坂下の洋食屋さんで、カニ・クリームコロッケやハンバーグを頂き、美術四方山話。

かいちやうと団子坂で別れた後は、友人のDJ TAMAギロッポンのクラブで開催しているパーティーへ繰り出し、友人達と朝の3時迄踊り明かす。

そして家に帰る頃には、筆者の足は疲れ果て、まるで幽霊の如く、地に足がついていなかったので有った(笑)。