カタルーニャ讃歌。

衆院選都知事選も、そして筆者の仕事も酣…。

来歴もクオリティも素晴らしい屏風や鎧を査定したり、出雲名物の「釜揚げ蕎麦」を食べながら乾山の名品の査定をした、出張先の蕎麦屋の綺麗な女将さんがこのダイアリーの読者だと分かり、一緒に記念撮影をしたり、平和を願う書道家T氏と焼き鳥を食べたり。

また、空気や水、そして蕎麦打ち名人の蕎麦の味も美味しい、アルプスの山々に四方を囲まれたクライアント宅を訪ねたり、三宿鮨屋KでかいちやうやコレクターA氏と一緒に居らした現代美術家S氏から、「君はこの仕事に向いちょらん…さっさと出馬せよ!」とのお達しが来たり(笑)…もう胃と身体、頭が幾つ有っても足りない。

そんな中、仕事の合間を縫って行ったのは、現在メゾン・エルメス8Fフォーラムで開催中の「エルメス・エディター 影の色 杉本博司展」。

以前からこのプロジェクトの事は聞いていたが、先ず何しろこの展覧会のチラシと云うか、カードが素晴らしい…杉本デザインのスカーフが、チェルシーの自身の茶室「今冥途」の「床」で、颯爽とたなびいているでは無いか!

そして展覧会も、目の飛び出た顔の小さい現代的なマネキンの首を飾る、グラデーションの美しいスカーフや、アクリル・キューブに閉じ込められたロスコを思わせるポラが並べられ、秒単位で色を変える映像作品や、天井から吊るされたスカーフが端々に写り込んで聳え立つ、アクリル・プリズムも本当に美しい、謂わば「グラデーションの宮殿」で有った。

さて此処からが、今日の本題。火曜の夜は仕事後、高校時代の音楽のT先生と友人のクラシック・ギタリスト益田正洋君と食事をする為に、上野公園内の風情有る料理屋Iに赴いた。

その時に益田君に貰ったニュー・アルバム、「カタルーニャ」を聴きながらこのダイアリーを書いているのだが、このアルバムが何とも素晴らしい!

益田君はジュリアード音楽院のマスター・コースを卒業後(拙ダイアリー:「テロと『アランフェス協奏曲』」参照)、日本で地道な演奏活動をしている才能溢れるギタリストだが、未だ34歳にして何と通算15枚目と為ったこのアルバムは、益田君自身も最近行って来たと云う、スペイン第2の都市バルセロナを擁する「カタルーニャ」地方をテーマとした作品集で有る。

カタルーニャ」と聞いて個人的に思い出すのは、嘗て興奮と尊敬の思いで読み進んだジョージ・オーウェルの「カタロニア讃歌」と、新婚旅行で行ったモンセラットで観た「黒いマリア像」だが、何方もカタロニア地方独特の文化とカタロニア人の独自性と独立性、そしてその精神の強さを代表するに相応しい。

特にバルセロナから約60キロ、「ギザギザした山」と云う意味のモンセラットの「奇岩」光景の中に聳える、ベネディクト派修道院の大聖堂に在る「黒いマリア像」の衝撃は大きく、そのプリミティヴで慈愛に溢れ、且つミステリアスな黒い肌を持つ木彫自体の素晴らしさと共に、この「黒いマリア像」がイスラム侵攻時には秘匿されていた事や、フランコ政権下でカタロニア語が禁止された時も、此処ではカタロニア語でミサが行われていた等の史実に見える、その反骨精神にも多いに共感を覚えるのだ(因みにサッカーの「バルサ」も、同じスピリットを持っている)!

さてこのアルバムは、カサドの「カタルーニャの伝説」やグラナドス作曲、益田正洋編曲の「スペイン舞曲」、アルベニスカタルーニャ奇想曲 組曲」等、全てスペインの作曲家達の作品で構成されているのだが、筆者が特に好きなのはリョベート編「カタルーニャ民謡集」で有る。

何とも哀愁の漂う「哀歌」から始まり、「黒いマリア像」を想起させる最後の「聖母の御子」迄、益田君の感情の籠った演奏は、時には陰鬱に、時には愉快に、そして逞しく生きるカタルロニア人の日常生活を聴く者の目に浮かばせる程、素晴らしい。

冬の夜長、暖かい飲み物を飲みながら「カタルーニャ讃歌」とでも呼びたく為るこのアルバムを聴いて、彼地とその歴史に想いを馳せる…何とも贅沢なひと時を、是非お試し有れ。