春の印象派・近代絵画「イヴニング・セール」:結果速報。

出張から戻った。

然しアメリカも中西部の都市へと行くと、この3日間、空港以外では全くアジア人を見掛けない。ホテルの朝食のレストランや街のスタバ、タクシーの車窓から見る風景の中ですら、で有る。ニューヨークでは有り得ない話なので、こう云った時に自分がマイノリティだと痛感する。

そしてその足でマヨンセと向かったのは、アッパー・イーストサイドからチェルシーの26丁目に移った、Fergus McCaffreyの新ギャラリーのオープニング・エキジビション「Natsuyuki Nakanishi」。

今年79歳に為る中西夏之氏は、高松次郎赤瀬川原平両氏と組んだご存知「ハイ・レッド・センター」等でも著名な戦後美術家で、土方巽山海塾等の舞踏の舞台芸術を手掛けたり、瀧口修造渋澤龍彦等のシュール系詩人共交流したりしたアーティストだが、現在は絵画とインスタレーションを中心に活動されている。

会場に着いてみると、ファーガスの新しいギャラリーは実に素晴らしい!2階迄有る程の広さで吃驚するが、今時チェルシーでこれ程のスペースを路面店ギャラリーとして用意出来るとは、資金面も潤沢に違いない。ガゴシアンを出て以来、一貫して日本戦後美術を扱って来たファーガスだが、「具体」が世界的に陽の目を見た事に因って、この新ギャラリーが実現したのかも知れない。

これからはチェルシーで、日本戦後美術がレギュラー的に観る事が出来るだろう…ファーガス、サンキュー&コングラッツ!

その真新しいギャラリーに集まった、杉本博司氏やギュウチャン夫妻を初めとするNY在住アーティスト達や研究者、日本からのギャラリスト達と挨拶を交わし、やっと中西氏にお会いして話をすると、氏がニューヨークに居らしたのは、何と今回が初めてだとの事…初のNY訪問がチェルシーでのご自身の個展に為ったとは、さぞ感慨一入では無いかと思う。

レセプション後行き付けのイタリアン「B」に行くと、我々が通されたテーブルは、何と日本画家S氏と分子生物学者F先生のお2人のお隣…この夜は、熟く知人友人とのご縁の有る晩で有った。

さて、本題。先週末から春のメイン・セールズのビューイングが始まり、昨日一昨日と各オークション・ハウスも印象派・近代絵画のセールが行われたので、今日はその「イヴニング・セール」の結果を。

先ず火曜日に先陣を切ったクリスティーズ。53点のオファーで(1点出品取り消し)で47点を売却し(89%)、ヴァリューで96%、総額2億8587万9000ドル(約290億円)を売り上げた。この数字は、クリスティーズに取っては2010年以来の高額売上で有る。

トップ・ロットはモネの「睡蓮」で、2704万5000ドル(約27億4700万円)。以下、ピカソの「女の肖像(ドラ・マール)」が2256万5000ドル、モディリアニ「座った赤毛の若い男」の1763万7000ドルと続き、その他ルノワールピカソ2点、カンディンスキージャコメッティ、ミロを含む1000万ドル以上での落札作品は計9点と好調で有った。

そして昨晩のサザビーズ。72点のオファーで51点しか売れず(70.8%)、総額2億1901万ドル(約223億円)を記録。

トップ・ロットはピカソの「救済」で3152万5000ドル(約32億1200万円)、以下マティスの「朝の光景」の1920万5000ドル、モネの「日本の橋」が1584万5000ドルだったが、後1点ジャコメッティを入れても、1000万ドル超の作品は都合4点のみ。

結果を見れば、サザビーズより20点近く少ない出品数で67億円程多く売り上げた、クリスティーズの圧勝と云っても過言では無い。そしてクリスティーズのこの勝利は、質を高く保ち、作品数を限定して出品した事に因るだろう。

が、両オークション・ハウスの各作品の落札結果を見ると、エスティメイト付近での落札が多い…これは、バイヤーが冷静に買っている証なのだと思う。

クリスティーズは来週月曜日の夜、新しいオークション「If I Live I'll See you Tuesday: Contemporary Auction」を開催し、引き続き火曜夜に「現代美術イヴニング・セール」を開催する。サザビーズの「イヴニング」は水曜日の夜。

来週の現代美術ウィークにも更なる期待が持たれて居るが、印象派・近代絵画セールに見えた「冷静感」は、現代美術マーケットにも顕れるのか…それとも、再び価格は伸びて行くのだろうか?