至高の「メケ・メケ」。

気が付けば5月…今年も早や1/3が終わって仕舞った。どうしてくれるんだ、責任者出て来い!(涙)…と憤慨して居る間に、ジャズ・ピアニストの松岡直也氏が亡くなった。

僕に取っての松岡直也とは、「ジャズ」と云うよりも寧ろ「ラテン」・ピアニストで有った。子供の頃クラシック・ピアノを習って居た僕は、ロックを経てその後興味はジャズ・フュージョンに至り、「ウェザー・リポート」のジョー・ザビヌルや「クルセイダーズ」のジョー・サンプル、「スタッフ」のリチャード・ティー等をコピーして居たが、当時毎号読んで居た「スイング・ジャーナル」や「アドリブ」、「キーボード・マガジン」等の雑誌で松岡を知り、彼のラテン・テイストの洒落た音楽は、例えばモンティ・アレキサンダーやタニア・マリアを、僕のレコード・ラックに呼び寄せて呉れた。

そしてもう1つ忘れて為らないのは、彼の作・編曲家としての才能で、彼は中森明菜の大ヒット曲「ミ・アモーレ」の作曲家としても有名だけれど、僕に取っては今でも赤い三角定規の「太陽がくれた季節」と、ゴールデンハーフの「黄色いさくらんぼ」の編曲者としての松岡直也で有る。

特に「太陽がくれた季節」は、毎週欠かさず見て居た村野武範主演の「飛び出せ!青春」と云う、学園青春物のドラマの主題歌で、村野扮する河野先生の「Let's bigin !」と云う名台詞、穂積ペペや石橋正次、沖正夫(森川正太)や剛達人等の「如何にも不良学生」の顔と共に、深く記憶に刻まれて居る…松岡直也氏のご冥福を心より祈りたい。

そしてもう1つ、ピアニストの話題。ネットで新聞を読んで居たら、こんな記事が…「キース・ジャレットさん、コンサート中に演奏数回中断」。

記事を読むと、大阪フェスティバル・ホールでのソロ公演中、キースは演奏を数回に渡り中断し、ステージを居りて仕舞った為、観客数十人が未明迄抗議…そしてフェスティヴァル・ホールとキョードー東京が謝罪したとの事。

が、残念だがキース・ジャレットとはそう云うミュージシャンで有って、それを覚悟しなければ、彼のコンサート等決して行ってはいけない(拙ダイアリー:「『遺言』の執行」参照)。そしてファンの方には申し訳無いが、キース・ジャレットの音楽は、嘗て筆者がベーシストのダリル・ジョーンズに云われた通り、毎朝「祈り」として聴く「ケルン・コンサート」のCDが有れば、それで十分なのかも知れない(拙ダイアリー:「Conversation about Constitution」参照)。

さて、あっち行ったりこっち行ったりだった先週は、先ずはアーティストの松山智一君、通称「Matzu」のブルックリンのスタジオを訪ねる。

Matzu君は僕の出たG学園の後輩でも有るのだが、最近メキメキと頭角を現して来たアーティスト。元々グラフィック・デザインをやって居た彼の作品は、ポップでカラフルな中にも和と洋、旧と新が混在し、例えば酔っ払って仕舞った高僧「重源」や、胸に「I Love NY」の透かしの入った「多聞天」等、観た者の最初の「誰これ?」反応から、其の後「重源」が誰かを知った時の驚き、そして今度は重源が酔っ払って居る事へのそこはかとない可笑しさ迄、現代と過去とを往復しながら楽しめる。

Matzu君のスタジオでは、絵画や立体の新作も拝見したが、今年の夏香港のハーバーに設置される数メートルにも及ぶ巨大なインスタレーションの話で盛り上がる…この企画は、過去に草間彌生や岳敏君、KAWSやホフマン(巨大アヒル)等が作品を展示した、毎年1人のアーティストが選ばれる企画だそうなので、その栄誉に預かったMatzu君の作品が今から楽しみだ!

そしてお次に控しは、友人達との大カラオケ大会。

カラオケ前には、某現代美術家の娘さんSちゃん&マヨンセと、ハーレムの「邪道な寿司屋」で旨い「ラテン系」ロール寿司をたんまり頂いたが、足りずに追加注文…にも関わらず、カラオケの時間が迫って来た為その追加オーダーキャンセルして迄(笑)、いざコリアン・タウンは38丁目に在るカラオケ屋へ!

この晩の参加者は僕等3人に加え、作曲家Aちゃん、今月東京の有名ライヴハウスでのコンサートも控えるロック・ミュージシャンのMさん、アーティストS氏、建築家J君&デザイナーAちゃんカップルの総勢8名。

結局3時間近くに渡って、昭和歌謡からフォーク、演歌、J-POP、AKB、アニメソング迄数多の歌が歌われたのだが、想像はして居た物の、「歌を忘れたカナリア」マヨンセを除く参加者全員、何しろ皆歌が上手過ぎて驚愕…そしてその中でも、特に印象深かった2人の内の1人がデザイナーのAちゃん。

余りに「その歌」が好き過ぎて、日本を旅行をした時に自ら歩いて見た「浄蓮の滝」、そして自身の脚で越えたと云う「天城峠」を回想しながら歌った「天城越え」では、普段のAちゃんからは想像出来ない程低く、コブシの回った声が響く。

が、今回のカラオケ大会を最終的に持って行っちゃったのはもう1人の歌い手、NYUで教鞭も取るアーティストS氏に拠る「至高の1曲」で有った…そしてその「至高の1曲」とは、丸山明宏(現:美輪明宏)の「メケ・メケ」だ!

この「メケ・メケ」とは、元々シャルル・アズナブール作詞、ジルベール・ベコー作曲のシャンソンで、フランス語の「Mais, qu'est-ce que c'est ?」(発音は、メ・ケスク・セ?:「でも、それが何だって云うんだ?」の意)を、カリブ海に浮かぶフランス領マルティニーク島の原住民が「méqué、méqué」(メケ、メケ)と発音する事を知ったアズナブールが、その音感に惹かれて作詞した物らしい。

オリジナルの歌詞は、女を捨てて船で旅立とうとする男が女の悲しむ姿を見て、海に飛び込み女の元に戻る、と云うロマンティックな物らしいが、美輪明宏はこれを和訳した時に、結局「男」を帰って来させず、訳詞中に「バカヤロー」「あきらめて帰ろ」と有る様に、詞中の「儚い女」をかなり「強気の女」に変えて仕舞って居る。

そう、それも美輪らしいと云えば美輪らしい。が、その歌を朗々と唄い上げた、S氏の素晴らしい歌唱力!彼の声の伸びと抑揚、台詞っぽい歌い方、全てがもう美輪明宏、いや若しかしたら本人以上の上手さで、皆からも「ブラヴォー」の大歓声…ハッキリ云って、「紅白級」で有った!

その後S氏は「メケ・メケ」のアンコール、この晩のオオトリとしての「ヨイトマケの唄」を披露し、鳴り止まぬ拍手喝采の下、カラオケ大会は無事幕を閉じた…が、お陰でそれ以来ずっと「メケ・メケ」が僕の頭から離れない。そして今日は日曜だと云うのに、これから僕は再び「時差付き」国内出張に出掛けねばならない。

でも「メケ・メケ」…それが何だって云うんだ?(泣笑)