「マイケルは本当に死んだのか」、或いは「商業舞台の終焉」。

昨日メトロポリタン美術館からの仕事帰りの車中、マイケル死去のニュースを不意に聞き、我が耳を疑った。

青春時代、マイケルの「Don't stop 'til you get enough(今夜はドント・ストップ)」「Rock with you」、「Off the wall」(アルバムタイトル曲)、ジャクソンズの「Walk right now」、ジャーメイン(因みにこちらでは「ジャメイン」と発音する)の「Let's get serious」がディスコで流行り、勿論マイケルのタイトル曲と同名のファースト・ソロアルバムも、ディスコでの神器となっていた。

このアルバムはクインシー・ジョーンズ・プロデュース、バックミュージシャンもルイス・ジョンソンポール・ジャクソンJR、フュージョン系アーティストなど豪華絢爛、プロ中のプロ揃いで、何とも歯切れの良い固めの音で作られている。一般の人には当然「スリラー」が代表作だと思うが、やはりマイケルの才能の根源は此処にあるだろう。

が、「スリラー」は、マイケルのアーティストとしての、それ以上に20世紀最大・最後のステージ・パフォーマー(商業舞台人)としての地位を確立した作品として、後世に語り継がれるに違いない。しかしこの人物程、ステージ上とステージを降りた後の人格というか、風格が異なるアーティストも珍しいのではないか。

ステージ上のマイケルには、どこかの日本画家などが到底口にすべきでない、本当の意味で「神が降りて」きていたし、そのダンス・歌唱力などはステージ下では考えられない程の力強さを持ち、且つ男性的であった。彼は「King of pop」と呼ばれるが、寧ろ「King of stage」と呼ぶに相応しいと思う。

マイケルの死は、在宅ダウンロード文化真盛りの昨今、年齢国籍性別を問わない、世界中の物凄い数の人間が、一同に「チケットを苦労をして手に入れ、会場に足を運び、ライブを観、熱狂し、感動する」と云った、「20世紀的商業芸術舞台」の終焉とも云えるかも知れない。英国での最後のライブを前にしての死だけに、その思いが強い。今世界にあと何人こういった現象を起こさせるアーティストが存在するであろうか…後はマドンナやストーンズ位ではないか。

そういった事を考えながらも、実はこの死亡ニュースは「Punk'd(ドッキリ)」で、数週間後彼が英国でゲリラ・ライブを敢行するのでは、と密かに期待をする筆者であった。近い内に「年取る事なく、夭折するアーティスト」達について考えたいと思う…ご冥福をお祈りする。

追伸:マイケルが'69年に初舞台を踏んだアポロシアターでは、特別フィルム公開が行われ、多くの人が訪れ、入りきれない事態になっており、謂わば「全世界」が喪に服している。日本だったら、誰が死ぬとこれ位の騒ぎなるだろうか…美空ひばりか?朝から晩までMTVやVH1ではマイケル特集、タイムズ・スクエアやブロードウエイの大画面でもMJ一色である。