俳優(ワザヲギ)と美術商の関係。

先週の金曜は、このダイアリーにも度々登場している友人のヘア・デザイナー、TOM君のバースデーで(本当に獅子座の友人が多い…)、これまた友人のタレントのA.Y.さんと企んで、ロウワー・イーストサイドの彼のお店から程近い、イタ飯屋で待ち伏せしてのサプライズ・パーティーであった。

フィアンセが10月までNYにやって来ないTOM君の寂しさを紛らわせる為に、筆者は「バービー人形」をプレゼントし、デザイナー仲間の一人はミニチュア「ティッシュ」を贈って、ナンというか絶妙の組み合わせ(笑)に大盛り上がりであった。

さてこのA.Y.さんだが、筆者が彼女に会ったのは結構最近で、実は彼女の旦那さんの方が付き合いが長い。Yさんの旦那さんはアイルランド人で、名前はファーガス。ファーガスは日本の戦後・現代美術が大好きで、且つ物凄い知識量を誇る。現在世界最強と云える現代美術ギャラリー「GAGOSIAN」に勤務後独立、白髪一雄、李禹煥から柳幸典まで取り扱うヤリテ画商である。

彼とはお互い、何処かのギャラリーで紹介されたのだと思うが、それ以来色々な所で顔を合わせるので知り合いになり、過去の地獄宮殿の会にも参加して貰ったりした。彼の外見は知的でクールそのもの、ニヒル(天地茂か…しかし古いね、「ニヒル」も「天地茂」も…笑)で眼光鋭く、一見とっつき難いが美術の話の時だけはアツくなる、ミスター「冷静沈着」なのである。

実は筆者は、この夫婦が「揃っている」所を一度しか見ていない(妻は昨日もこのお2人に会っている)。それは友人のフランス人(最近米国市民権を取ったらしいが)茶人ピエールの誕生会だったが、その時も2人は別々に座っていたので、「揃っている」感じではなかった。

以前からファーガスの奥さんがA.Y.というタレントさんだとは聞いていたのだが、彼女と筆者の唯一の接点と云えば、筆者の弟が大学生の時にロック・バンドをやっていて、彼女と三宅裕司が司会のコンテスト番組「イカすバンド天国(略して「イカ天」)」に出演したと云う事だけ。その上、弟のバンドは赤ランプ3個で即失格したので、Yさんには放映当時の「メチャ明るい芸能人」イメージしかなかった事もあり、「沈着冷静」なファーガスと日々どんな会話や生活を送っているのか、非常に興味深かったのである。

会ってみるとYさんは想像通りの女性で、しかし色々話を聞いているとNYに来てからは結構大変だったらしく、ファーガスと出会ってからは英語とアートの勉強に余念がないそうだ。パーティーの晩も、矢継ぎ早にアートに関する質問をしたり、以前ここでも触れたベーコン展の感想を話したりと、勿論ご本人の興味もあるだろうが、「画商の妻」としてもかなり勉強されている様子が窺えた。

そんな時にフト、僕等夫婦が打ち解けた理由は、お互いの「ストレートさ」と「夫婦関係」が似ているからではないかと思い、それはつまり「俳優(ワザヲギ)と美術商」の関係なのだ。「ワザヲギ」とは、古代日本で帝や神人に対し、その御心を歌舞をもってして慰め、安らかにするという職業で、今の「ハイユウ」の原型である。筆者の妻も元シテ方能楽師で、お能を辞めた後も新劇や舞踏なども経験している(現在はアフリカン・ダンス)ので、ミュージカルにも出演するYさんと同じ「ワザヲギ」であり、ファーガスと筆者は「神人」、もとい「美術商」であるので、この関係性が成り立つのだ。

最近「人を見る眼のない芸能人」の事を此処に記したが、Yさんは全く違って、「眼のある」美術商を選び、その彼の「眼」に選ばれ、新しい事に挑戦し続けている(昨日は妻がアフリカンダンスを初体験させたらしい)。ファーガスも孫一も、仕事に集中して世界を飛び回っていられるのは、もしかしたらこの「ワザヲギ」の成せる業かも知れない、と心密かに感謝するのであった。

ファーガスも、そう思っているに違いない...多分。