武士(もののふ)の美術。

9月のオークションカタログの校了も束の間、今度は10月23日に予定している特別オークション「ARTS OF SAMURAI」のカタログ制作に突入した。

このオークションは、10月21日より開催のメトロポリタン美術館「Art of the Samurai: Japanese Arms and Armor,1156-1868」展(注:これはサンフランシスコ・アジア美術館で開催されている同タイトルの展覧会とは全くの別物。SFのものは永青文庫所蔵品の展覧会)に合わせてのオークションである。

しかし、このMETの展覧会はモノスゴイ。何と日本から国宝30点、重文・旧重美をあわせると約90点が、海を越えてやって来るのだ。この指定品の数は、過去海外で開催された如何なる日本美術展覧会の中でも最大で、METの小川盛弘氏一世一代の展覧会である証である。そういった意味では、文化庁も頑張った…良くこれだけの指定品を国外に出すのを許可したものだ!作品内容も勿論物凄いのだが、その事はまた後日改めて。

さてウチのセールだが、規模は負けるが、内容はMETに中々負けていない(と思っている)。先ずは簡単なセール内容についてだが、この特別オークションの出品作品には、大きく分けて次の分野がある。刀剣、甲冑(鎧・兜・面包)、鐙や鞍、小道具(鍔・拵など)、侍の書や合戦図屏風、侍が意匠された焼物・漆芸等々…つまりは「SAMURAI」に関わる日本美術全般なのである。

その中でも「大目玉」は、紀州徳川家出光美術館旧蔵の「紺糸妻紅縅甲冑」(17世紀後半:付蟷螂立物・兜早乙女家親作)。この甲冑は非常に豪華絢爛、随所に葵紋の金具が光り、兜の前立に巨大なカマキリ。金具の作も素晴しく、流石紀州徳川家のモノと思わせる出来である。落札予想価格は25万ー30万ドルだが、この価格は甲冑としては史上最高価格。

甲冑はここ数年オークションでも非常に良く売れており、美術館やシリアスな甲冑ファンのみならず、お金持ちのインテリアとしても大人気なので期待が高まる。今回甲冑は20点ほどの出品があり、通常の倍の多さなのだが、当社社屋の吹抜けのアトリウムに、全ての鎧を「戦団・陣地」風に配置しようと考えているので、迫力満点の展示になるに違いない。T・クルーズ呼んで、スモーク焚いて法螺貝でも吹くか…孫一、僭越ながら相手役をさせて頂きます(笑)。

そして最近の人気商品の一つ、兜も素晴しいラインナップ(18点程の出品)で、「変わり兜」や「南蛮兜」2点も出品される。「南蛮」はイタリアのカブートを改造したモノで、信長や伊達政宗(「伊達男」の語源)も飛びつきそうな超洒落モノ。また刀剣では、鎌倉時代(13世紀)「長光」の太刀(落札予想価格:20万ドル)が最重要作品で、その他30振程の刀が出品される。METの展覧会にも長光の国宝太刀が来るが、ウチの長光もそれに引けを取らない。他分野のサムライ・アートとしては、秀吉の消息文や坂本龍馬の書、柿右衛門の侍像、剣を携える「埴輪」(これがサムライの起源かも?)、現代漆匠の作品なのだが、どう見ても本物の刀剣にしか見えないという恐るべき技巧の漆芸作品などなど、各種取り揃えております。

付け加えると、今度のカタログ制作の為に、大英博物館で30年以上日本刀を扱ってきたヴィクター・ハリス氏が、強力助っ人として訪紐育中。彼と働くのはホントウに楽しくて、大変勉強になる。今日も(土曜日ではあるが)筆者は、一日ヴィクターと鎧の組み立て作業を共にした。彼は「イカニモ」という英国人なのだが、ティータイム中の会話で彼の誕生日が8月3日と判り、またもや獅子座のオヂサンの登場に驚くばかり…。

今日はこれから「獅子座同士」で食事予定である。