「垣間見せる野生」:村治奏一ファースト・ライヴ@DROM。

イースト・ヴィレッジの「DROM」は、嘗て筆者が天才タップ・ダンサー「TAMANGO」を観たクラブである。

此処ではフルーティスト・和笛奏者のカオル・ワタナベがキュレイトする、日本人を中心とした各分野・国籍のアーティストによるパフォーマンスやコラボレーション・ワークの企画、「NAKANAKA」が定期的に開催されており、昨晩の企画は「SOLO GUITAR@DROM」、友人のクラシック・ギタリスト村治奏一君のNYに於けるファースト・オフィシャル・ライヴであった。

奏一君との付き合いは、もう何年にもなる。彼がまだマンハッタン音楽院の学生だった頃、ユニオン・スクエアのレストラン、「TOCQUEVILLE」での筆者の結婚パーティに来てくれたのを覚えているから、6年位だろうか。彼は現在日本とNYを行き来して活動中で、今年はサントリーホールモンテカルロ・シンフォニーと共演したり、地獄宮殿でのソロ演奏(笑)等、大活躍中のギタリストである。KAORUと奏一君が出会ったのも地獄宮殿でのパーティーだった筈なので、人の縁とは不思議なモノだ。

7時過ぎにDROMに到着。連れはエリザベス宮殿主A姫、ライター夫妻のM女史&D氏、そして日本から訪NY中の某作家夫人のHさんと米国留学中の息子さんM君親子で、筆者はご無沙汰の対面。中に入ると早速KAORUが出迎えてくれ、その前日は何と彼にとって「人生最高にハッピーな日」だったと聞き、驚きと喜びで握手する手にも力が入った。

アーティストの知り合いも何人か来ており、紹介したりされたり。テーブルにつくと、妻の居ないのを良い事に、というのは冗談で、まだ10代のM君の「強い要望」に因って注文した(笑)、ガーリック風味のフレンチフライやチキン・サテイ等を頬張る。奏一君も開演前に挨拶に来てくれた。

8時過ぎより、奏一君の演奏が始まった…最初の曲は「Sevilla」。パンフレットを見ると、この日はジャズや映画音楽からのレパートリーも入っている。続いて「A-Train」「Tremolo」「Noctune "Reverie"」を演奏、最初の頃はちょっと緊張気味に感じられたが、しかしその心配も次の曲「Fuoco」で吹っ飛ぶ。

この曲はディアンス作曲の「リブラ・ソナチネ」の第3番で、激しいアルペジオや後半の奇抜なテクニック(ギター本体を叩いたり)が有名なのだが、奏一君のこの演奏は本当に素晴しかった。この曲は地獄宮殿でも演奏され、その時も思ったのだが、抑えつけた感情と繊細な指の動きから生まれる音は、徐々にその趣を変え、奏一君の童顔で小柄な体、ちょっとフェミニンなルックスからは想像できない程の、激しさ・荒々しさを涌き出させる。そして曲の最終部で迎えるカタルシスは、意外とも云える彼の「野生」をしっかりと垣間見せるのだ。

もう一つは、奏一君の演奏中の「眼差し」である。演奏中の彼の眼は、時に彼方を眺め、時に閉じられたりするが、彼が自分の運指や弦をキッと見つめる時に、メガネの奥の眼に一瞬だけ鋭く宿るこの「野生」は、彼のアーティストしてのプライドや苦悩、そして音楽延いては芸術に対する情熱と貪欲さの顕れなのだと、筆者にはヒシヒシと感じられた。

「Fuoco」の演奏に対する大歓声の後は有名曲が続き、「アルハンブラの思い出」そして筆者大好物の「カヴァティーナ」、武満の「オーヴァー・ザ・レインボウ」など計9曲を演奏、アンコールもこなした。その後後半出演のジャズ・ギタリスト、MILES OKAZAKI氏のジャズ・インプロヴィゼイション演奏が有り、最後はこの2人での即興共演。リードする奏一君にMILESのハモリやユニゾンが入り、盛大な拍手を持って彼のNYでのファースト・オフィシャル・ライヴは終了した。

帰り際握手をし、再会を約束。奏一君は国内ツアーのため、今日日本へ旅立った。最近奏一君は日本の芸術、古典芸能にも関心を示し、貪欲に勉強している。

日本で「美味しいモノ」を吸収し、再びNYでの彼のフレッシュなパフォーマンスを期待して止まない。