京都の夜。

昨日は京都に着くと、顧客の所に伺った。

この方はご自分の美術館も持っている、大コレクターである。数週間前にNYで開催された筆者のオークションに参加され、一緒に食事をした時に、ある「京都ならでは」のイベントへの招待を約束してくれたのだが、これが今回筆者が京都に来た最大の理由なのであった。念の為云っておくが、美術を生業とする者にとっては、「遊ぶ」のも立派な仕事なのです。決して言い訳ではありません(笑)。

さてそのイベントとは、「温習会」。これは春の「都をどり」と並び、祇園甲部に所属する舞妓・芸妓総出演の踊りの発表会で、誠にきらびやかな会である。3時半になると顧客氏の美術館を後にし、祇園の「一力」でチケットを引き取る。「一力」の門を潜るのは初めてでは無いが、やはりこの時点から胸が高まり始めるから不思議だ。何を隠そうこの孫一、知る人ぞ知る大の京都(及び「京女」)ファンなのだから…。

「一力」から急いで歌舞練場に向かい、着くと会場は既に、綺麗処と旦那衆で一杯。席に着くと早速踊りが始まった。この日の演目は「貝づくし」「晒三番叟」「隅田川」「熊野」「由縁の月」「俄獅子」の六曲。「温習会」では、三種の日割番組を二日ずつ、計六日間行い、これらの演目は全て地唄義太夫長唄常磐津、上方唄で、踊りは京舞である。この日の為に、多忙の中日々稽古を積んできた舞妓芸妓の晴舞台、孫一堪能させて頂きました。

彼女達の芸のレベルは、例えば踊りや鳴り物だけを生業とするプロに比べれば、物足りないかも知れないが、実際この業界が過去に代々井上八千代や、武原はん(この人は本当に凄かった!80を越えてあんなに色っぽい女性には、未だ会った事が無い)を産んだ事を考えれば、それで十分ヨロシイ。それはともかく舞妓以外にも会場の至る所に、また三味線を弾く芸妓や後見をしていた芸妓に、年齢に関係無く非常に美しい人が居たりして、何とも眼が離せなかった…やはり京都(と京女)は最高である(笑)。

三時間の会が終わり、先斗町の「日吉野」で超新鮮食材料理に舌鼓を打った後は、祇園に戻り「H」へ。この店は、珠に行くと隣に有名歌舞伎役者や元総理が座っていたりする、知る人ぞ知る所謂「一見さんお断り」バーであるのだが、その人気の理由は「祇園で最も綺麗な舞妓芸妓が来る店」であると云う事実と、そのマスターの恐るべき才能なのである。

此処のマスターは70を越えた位の人で、何しろ三味線が上手く、小唄や都々逸、歌舞伎の名台詞等を駆使する天才エンターテイナーで、端的に云えば今時珍しい超「粋」なオジサンなのだ。下ネタも多いのだが、決してイヤラシく無く小エロなだけなので、客と舞妓芸妓双方に大人気。こんな人はもう、全国何処の太鼓持ちにも居ないだろう。客同士も盛り上がり、興が乗ればマスターの三味線と手拍子と共に、芸妓がカウンターで大技「鯱(しゃちほこ)」を披露したりする。実際筆者は昨晩、都合四回(内、2人同時が二回)その芸を観たのだった。

その後夜中過ぎ迄芸妓達と盛り上り、心地好い疲れとこの街への畏敬の念と共に、「H」を後にした。

京都の夜は、実に奥が深い…。