観ずに死ねるか!:"Art of the Samurai"@MET 。

メトロポリタン美術館の「Art of the Samurai: Japanese Arms and Armor, 1156-1868」の内覧会に行ってきた。

イヤ、何しろ筆舌に尽せない位スゴイ展覧会で、勿論オークションが終わったらカムバックせねばならないが、観終わった取り敢えずの感想は、「驚くべき、最高の現代美術ショウを観た!」である。

展示替えが有るにせよ、カタログ・エントリーでは214点中、実に100点が指定品で、内国宝34、重文60、重美6という凄い内容で、良く文化庁も此れだけの数の文化財を一つの展覧会の為に国外に出したものだ。しかし、驚くのはこの指定品の数では無く(何故なら、この展覧会では、『National Treasure』とか『Important Cultural Property』等の展示カードの文字等、直ぐに見飽きるのだから!)、その内容の凄さにある。

断言するが、この展覧会を観た「日本人を含む」世界のアート・ラヴァーは、日本の武具甲冑が如何に「美しく」「彫刻的」で、「神秘的」且つ「アヴァンギャルド」か驚愕するに違いない。特に現代美術愛好者で、このショウに行って感動しない者は、「モグリ」と呼んで良い(笑)。

先ずは、ウチのカタログと同様に(しかしこちらは重文の)「武装埴輪像」で展覧会は幕を開け、2週間のみ展示される目玉の一つの、岡山県博所蔵の国宝、「赤革威鎧」(あかがわおどし・よろい:12世紀)へと続く。この作品は状態が芳しくないので、輸送だけでも大変だったろうに、しかし「威風」と云う最近忘れかけていた言葉を、肌で感じられる鎧である。

その後は重要な中世の甲冑が続くが、目が離せなくなるのは、やはり桃山ー江戸初期の物であった。その中でも個人蔵の重文、「黒糸威胴丸具足」(くろいとおどし・どうまるぐそく:16世紀)は、全身黒一色で、兜は前立に鬼面、脇立に巨大な鹿角が付いており、此れだけでも凄いが、デザイン上最も驚くのは巨大な金色の「数珠」が襷掛けに胴に掛かっている所である。もう「クール」の一言で、これを着ていた徳川家康の四天王の一人、本多忠勝(彼がこの鎧を着ている肖像画の掛幅[これも重文]も展示されている)とは、何と凄いセンスの持ち主だったのであろう!!因みに筆者は、この兜の「ミニチュア・フィギュア」を購入しました(笑)。

さて「変わり兜」のラインナップも、「必見」も良い所だが、最もショッキング且つ大好きだったのが、福岡市博所蔵の「大中刳兜」(おおなかぐり・かぶと:16世紀)である。これは何しろ観て頂きたい・・・。黒田一成が関ヶ原の合戦で使用したと伝えられるこの黒兜は、鉢は20センチ程であるが、その脇立は銀漆に輝く、その高さ4倍以上に聳え立つシャープな(極めて薄い三日月の様な)角なのである!!こんな兜を被って歩くのも大変(特に風の強い日は・・笑)だろうが、それ以前にこの様なデザインをした「日本の侍」とは、どんな「アーティスト」なのか、何しろ再考せねばなるまい。本当に驚くべき「クリエイティビティ」である!

他にも、蝶や蟹、巨大蟷螂の前立付きの作品、何と取り外し可能な「眼鏡(ゴーグル)付き兜」等、非常にコンテンポラリーで、「GAGOSIAN」で展覧しても良い程の驚きの連続であった(実際展示会場も白壁で、現代美術的に見せようとの意図が感じられた・・勿論大成功である)。

続く刀剣は、最も指定品の多いセクションであるが、最近このダイアリーで云っている様に、「日本の刀剣というのは『実用的』であるが、『美しさ』『宗教性』『精神性』が込められている」と云う事実が疑いなく判る作品群で、素晴しいの一言に尽きる。刀の姿、反り、刃紋の美しさは、もう「一思いに殺して!」と思う程(笑)。

この刀剣の展示も、白壁にシンプルなショウケースを用い、キラリと光る鋭い刃の「連鎖」は、何か新しい、危険な香りのする「ミニマル・アート」を観ているかの様で有った。その他の分野でも、刀装具、陣羽織(これもデザインがスゴイ)や絵画等、息をも吐かせぬ「前代未聞」の展覧会であった。

何しろ日本の武士が、戦国時代という自分の「命と名誉」を賭ける時代に、この様な「デザイン」の武具を多産したと云う事実は、何故か日本人である筆者に、奇妙な「誇り」を感じさせたのだった。さて、内覧後はレセプションに赴き、世界各国からの美術館関係者、コレクター達と歓談したが、皆一様の「驚愕と賞賛」の嵐の中に、今回の担当・主役である小川盛弘氏を見つけ、お祝いのご挨拶をした。小川氏とは、氏がボストン美術館在職中、筆者の父の代からのお付き合いがあったりして、親しくさせて頂いているのだが、昨晩ほど「満足気」で「安堵した」風の、小川氏のご尊顔を拝見したのは初めてであった。

小川氏は常々「日本の刀剣・武具は日本人の誇り、魂である」と云われているが、今回の展覧会を観れば、今でも一部の日本美術史家の中に根強く存在する、「武具甲冑は芸術ではない」と云う理由で、絵画・彫刻・工芸よりも低く見る傾向が、如何にバカバカしいものか判るであろう。武具・甲冑に於いてのみ、日本美術の特性である「用の美」を認めないという者は、日本美術を語る資格が無いのでは無かろうか。

そういった意味で、今回の10年越しの企画を実現させた小川氏に、多大なる敬意を表すると共に、NYに居る現代美術家・日本美術関係者の方に、この展覧会を是非観て頂きたい。必ず「現代」「日本」美術のヒントが有る筈である。