"Funeral Blues."

昨日の日曜は流石の筆者も疲れが出て、天気も良かったのだが、ダラダラの一日を送ってしまった。

そこで、ケーブル・チャンネルで映画でも観ようと思ったのだが、運悪く工事か何かで調子が悪く(地区的に工事が頻繁に行われている)、仕方なく手持ちのDVDやビデオをゴソゴソ探したが、結局もう何回見ているか判らない程大好きなイギリス映画、「Four Weddings and a Funeral」を観る事にした。

1994年制作、ヒュー・グラント主演のこの映画は所謂「ラヴ・コメディ」だが、それだけに留まらず、当時の英国の若者達の友情やSEX、階級、ゲイ等の文化背景を知るには絶好の、非常に良く出来た極めて「英国的な」作品である。

またこの映画は、筆者がロンドンで研修社員として、今の仕事を始めた直後に公開された事も有り、また「大変な思い」と「欠け甲斐の無い経験」を、英国貴族が社員で居る様な会社で経験したロンドン生活とダブり、涙無くしては見れない作品なのである。

映画中主人公達によって使われる、所謂「英国訛り」や使われる「英国語」は、当時は憎んで憎んで仕方なかったのだが、その後NYでの研修中には、アメリカ人から「お前の英語は、何でイギリス訛りなのだ!」と嫌味を云われる程に為り、逆にアメリカ語になってしまった今となっては、全く懐かしい限りだ。

さてこの映画には、数多くの素晴しいシーンが有るのだが、最も笑えるのが、MR. BEAN扮する新米牧師が、彼にとって初めての結婚式を司る場面。

緊張の余り、新郎新婦の名前を言い間違え(実は筆者の「最初の」結婚式の時も、東京の某有名カトリック教会の神父が、式中に「2度も」筆者の名前を言い間違えた…その神父は大ベテランだったにも関わらず…涙)、その上「Holy Ghost」(精霊)を「Holy Goat」(聖なる山羊)、「Lawful wife」(法律的に認められた妻)を「Awful wife」(最悪妻)と言ってしまう所等、大爆笑モノである。

そして反対に最も涙を誘うのが、本作タイトルにある「A Funeral」である所の、ゲイ・カップルの一人の葬式のシーンである。

デブではあるが知的なゲイ、ガースは、スコットランドでの仲間の結婚式の最中に、心臓発作で倒れ死んでしまう。その葬式のシーンで、パートナーであるマシューが、その棺の前でスピーチをするのだが(余談だが、この映画には「素晴しい英国式スピーチ」が随所に鏤められていて、これも大変勉強になる)、このシーン、今でも涙無くして観る事が出来ない。それはマシューがそのスピーチに引用する、W.H.Audenの詩が余りに素晴しいからなのだ。

この詩のタイトルは「Funeral Blues」、以下に掲げる。


Stop all the clocks, cut off the telephone,               
Prevent the dog from barking with a juicy bone,  
Silence the pianos and with muffled drum             
Bring out the coffin, let the mourners come.            


Let aeroplanes circle moaning overhead              
Scribbling on the sky the message He is Dead.        
Put crepe bows round the white necks of the public doves,
Let the traffic policemen wear black cotton gloves.       


He was my North, my South, my East and West,
My working week and my Sunday rest,
My noon, my midnight, my talk, my song;             
I thought that love would last forever: I was wrong.


The stars are not wanted now; put out every one,
Pack up the moon and dismantle the sun,
Pour away the ocean and sweep up the woods;
For nothing now can ever come to any good.  


全ての時計を止め 電話を切れ
骨に吠え付く犬を止め  
ピアノもドラムも音を止ませよ
棺を出せ そして嘆きの列を通せ


飛行機を空に飛ばし
弔いを書かせよ 「彼は死んだ」と
鳩の白い首に 縮緬の紋章を付け
交通整理の警官には 黒い木綿の手袋を着けさせよ


彼は私の「東西南北」
私の「仕事の毎日」「休みの日曜」
私の「真昼」「真夜中」「おしゃべり」「歌」
「愛」は永遠と思っていたが 取り下げよう


星に何の用も無い 一掃してしまえ
月も太陽も取っ払い
海も森も遠ざけよ
慰めになる物など 今は何一つとして無いのだから


最愛の者の「死」をある種の「怒り」を以て表現するこの作品程、「死」を悼む心の痛みを強烈に表現している詩を、筆者は知らない.…(号泣)。

この映画で思い出す「ロンドンの思い出」は、数限りなくある。でもそれは又の機会に。