Adieu…, Remember me.

今日は先程まで、チャイナタウンの外れに住む、某有名アメリカ人映画監督兼俳優Eの娘さんのコンドに、査定に行って来たばかりだが、昨晩はイケメン英国俳優、ジュード・ロウ主演の「ハムレット」を、ブロードハースト・シアターで観て来た。

今話題のこの舞台は、3ヶ月間のみの公演で、「ジュード」人気も手伝い中々廉価なチケットが手に入らなかったが、漸く最近ディスカウント・チケットが出てきたので、ずっと興味を持っていた事も有り、早速出かけてみたのだった。

劇場に行ってみると、この劇場は主に「演劇」を上演する舞台らしく、こじんまりとしていて中々良い。ハンサムなジュード・ロウが主演とあって女性客も多いが、ブロードウェイと云っても流石シェイクスピア、観光客らしき姿は余り無く、インテリっぽい人が多い。

ミュージカルを殆ど観ない我々にとっては、ブロードウエイはイヨネスコ作「Exit King!」以来(これもスンバらしい舞台であった!)なので、ちょっと期待に胸を膨らませての出動であったが、一緒に行った女性二人(妻とA姫)は、始まる前から大興奮、「ジュードが客席に下りて来て、私の膝の上で泣き崩れたらどうしよう!」等と、訳の判らん事を言い合っていた…(笑)。

ほぼ満員の中、舞台が始まる。都合3時間超の舞台だが、インターミッション15分を挟んでも、決して長くは感じない。英語でのシェイクスピアを観た事は何回かあるが(因みにピーター・ブルック演出の「真夏の夜の夢」を観た時の衝撃は、今でも忘れられない)、今回の「英国人によるシェイクスピア劇」もやはり同じで、「英国人」ならではの流れる様な、そして時に詰まる様な「英国語」は、非常に耳に心地よい。数日前のダイアリー「Four Weddings」の時にも書いたが、筆者にとっての「英国語」は、愛憎合い半ばするのであるが、「ダズン・マター(doesn't matter)」を「ダッズン・マッタ」と発音したりするのを聞くと、何故か顔が綻んでしまう…。

さて肝心のジュードだが、先ず初めに云わねばならないのは、彼は非常にハンサムだが、「チビで、足が短く、顔がデカイ」という事である(嫉妬では有りません、念の為・・笑)。

それよりもちょっと残念だったのは、声が「一本調子」で「枯れていた」事であった。「一本調子」と云うのは、他の出演者が余りに素晴しい「舞台俳優」で有った為に、シェイクスピア劇独特の「抑揚」や、何と言うか「声色(声の音色)」の様なものが欠落している様に感じられてしまった事で、また声が「枯れていた」のも、嘗て若い頃は舞台で鳴らしたジュードも、最近は映画の仕事をメインにしており、12週間、3時間ほぼ喋りっぱなしのシェイクスピアの舞台が、彼の喉を痛めつけているとしても不思議ではない。

しかしジュードは、これは疑いの余地がないが、かなりの熱演であったし、彼のちょっと思いがけない「外見のダサさ」(前述の彼の容姿、そして「狂った振り」をするために、ずっとシャツの裾を半分出して演じる)は、この「エディプス・コンプレックス」且つ「甘えん坊ちゃん」的なハムレットを演じるには、適役とも思えたのだった。

因みに今日のダイアリーのタイトルは、ハムレットが彼の亡き父王の亡霊に会い、その別れ際、王の亡霊が呪文の様にハムレットに告げるセリフである。この「さらば…私を忘れるな」の一言によって、ハムレットは「破滅」へと歩み出すのである。余談になるが、実は昔から思っているのだが、ショーン・ペンシェイクスピアをやらせたらどうだろう(もうやってたら、ご容赦下さい)?彼ならこの「コンプレックスド・ハムレット」を、完璧に演じる事ができると思うが如何だろうか。

がしかし、より特筆すべきは、脇の役者たちの芸達者振りである。特にハムレットの父を殺し王位に付いた叔父、クローディアス役のケヴィン・マクナリーと、ハムレットの母&王妃、ガートルード役のジェラルディン・ジェイムズが本当に素晴しかった!

彼らは佇んでいるだけでも王と王妃に見え、そのセリフ廻しの美しさといったら無い。流石、である。また劇中のセット、演出もかなり秀逸の出来と云え、これまたマーヴェラスの一言。シンプル、現代的、しかも重厚で、特にハムレットの有名なセリフ「To be or not to be, that is the question」の雪降るシーン、また殺害前の宮廷での芝居のシーンなど、「光と影」を大胆に用いた演出は「美しい」の一言に尽きる。唯一残念だったのはオフィーリア役の女優がイマイチだった事だ…他にも良い女優は居ただろうに…。

最後に、この「ハムレット」を見ていて、ジュード・ロウがあるセリフを口にした時に、ハッと「あぁ、これはハムレットだったのだ!」と思い当たった事があって、それは嘗て或る尊敬していた人に教えて貰い、何年も手帳などに書き留めていた詩句であった。この詩句は、元々シェイクスピア自身作「Sonnets」からの「HAMLET」への引用らしいが、それを紹介して今日は御終い。

Rightly to be great,
Is not to stir without great argument,
But greatly to find quarrel in a straw,
When honor's at the stake.