「一流」のプライド。

あー、蒼井優ちゃんに会いたい…。

のっけから申し訳ないが、余りの寒さと多忙さに、こんな事でも思わねばやってられない(笑)。今日もNYはマイナス6度、今週末は雪の予報である。筆者は毎朝毎晩25-30分掛けて、ヘルズ・キッチンの自宅とロックフェラー・センターにあるオフィスを、運動の為歩いて通勤している。自慢じゃないが、会社に行く為にタクシーに乗るのは本当に年数回の事で、友人のY女史の様にタクシー通勤はしない(Yさん、もう乗ってなかったらゴメンナサイ)。が、年のせいか年々きつくなって来た。寒さが堪える…。

「オニ出張」から帰った後は、時差ボケと戦いながら、今週「南方」で見た作品のセール・プロポーザル作りに精を出している。来週頭に先方に着く様にしなければならないので、本当に時間が無いのだが、そこは我が社の優秀なるデザイナー、プロポーザル・ライター、クロス・マーケティングの専門家、プレス、出品条件を考えるビジネス・マネージャー等が、寸暇を惜しんで働いてくれている。

ここに筆者のエスティメイト(査定金額:落札予想価格)が加わり、プロポーザルが完成するのだ。こう云ったチームワークやスピードが、口幅ったいが、我が社の「一流」たる由縁だろう。今回のプロポーザルは、所謂「コンペ」なので皆必死なのだが、これほど由緒有る、また話題性に富んだ素晴しいコレクションも中々無いので、我々も気合充分である。あー、勝てますように!!

ここで、知らない人も多いと思うので、筆者の勤める老舗オークションハウス「クリスティーズ」の事をこの機会に。「クリスティーズ(Christie's)」は、1766年(日本で云えば、明和3年)ロンドンに於いて、ジェームズ・クリスティーに拠り創立された「世界最古」の美術品競売会社である。ご存知の方も多いと思うが、宿命のライバル「サザビーズ」は、当社より数年早い創業だが古書の競売会社であったので、「ファイン・アート」の競売会社としては、クリスティーズが世界最古なのである。

クリスティーズは世界32ヶ国57箇所にオフィスを持ち、オークションを此処ニューヨークを始め、ロンドン(2箇所)、パリ、香港、ジュネーブアムステルダム、ドバイ、ミラノ、チューリッヒの世界10箇所で行っている。筆者の勤める「日本・韓国美術部門」を含む専門分野は87分野に渡り、各部門に専門家が居るのだが、面白い所では「Vintage Cigars」や「Pop Culture」、「Carpet」や「Real Estate」等の部署も有り、売る一点あたりの作品単価は200ドルから2億ドル(約1万8千円から180億円)までと、笑っちゃう程幅広い。売り上げは、今年は残念ながら大幅ダウンしてしまったのだが、昨年度は$5.1 Billion(51億ドル:約4500億円)、名実共に世界のリーディング・アート・カンパニーなのだ。

こう云った意味でクリスティーズは、歴史的・経済的にも、そして何よりも「アートの専門家」として、世界の「一流」企業だ。この「一流」プレッシャーは、社員にもかなりの重責を強いるのだが、社員がこれを乗り切るのに必要なのが、良い意味での「プライド」なのだ。これはある種、当社社員の中にも珠に見かける「貴族」の持つ、「ノブレス・オブリージュNoblesse Oblige)」の様なモノである。

250年間に渡り、アートと云う「裕福な」高額商品を扱っている以上、この会社に「一級品の芸術文化」を後世に伝える責務が生じるのは当然で、それを遂行するには社員一人一人に「誇り」が必要なのである。筆者も新人の頃、良く英国人貴族部長(因みに彼は「ロード」であった…)に「クリスティーズの社員として『誇り』を持て!」と口を酸っぱくして云われたものだ。

これは海外、特にヨーロッパでは、日本等よりも「アート」が「公共性」を持っているという事にも由来するかも知れないが、日本の「老舗」と呼ばれるような店にも、こう云った「誇り」は必ず有るだろうし、それが「一流の老舗」であれば尚更だろう。

さて先日、友人達と鍋をした。野菜と豚肉だけのアッサリ鍋だったが、大好評で筆者を除く3人(男1人、女2人)でワインも4本空き、平日にも関わらず宴は夜中の2時過ぎ迄…冬は鍋である!この日ゲストで来ていたのは、お馴染みE宮殿主のA姫と建築家S氏だったのだが、このお2人は何気に気も酒も強く(笑)、海外生活も長い人達で話題も豊富である。

特にS氏は一流の世界的建築事務所に、パートナーとして勤務している事も有り、話の端々に伺える彼の「プライド」も、例えば「建築」というモノをより公共的に考え、その仕事を後世に残す「責務」と捕らえる、と云った事では無かろうか等と、感じたりもしていたのだった。

良い意味での「一流」のプライドを保つのは、難しい。しかし「歴史」に関われるとなれば、頑張れる。今プロポーザルを作っているこのコレクションも、その道では世界的「超一流」人物のコレクションである。

「一流」が集めた「一流」の美術品の「歴史」の1ページに、足跡を刻む事の出来るこの機会、無駄にする訳には行かない。