男にとっての「この世で最も贅沢な悩み」:「NINE」。

土曜の夜は、友人のアーキテクトS氏が日本から帰国したので、彼の時差ボケ防止の手伝いも有って、A姫、ヘア・デザイナーのMちゃん、そして妻の総勢5人で食事。行ったのはチャイナタウンに在る「GOLDEN BRIDGE」で、ハプニングも色々有ったのだが、目的の「エビマヨ・ハニーコート・ウオールナット乗せ」も食べる事が出来たので、大満足。

その後「ORO CAFE」に移動したのだが、此処からが大変で、深夜3時まで「好き好き光線」は出すべきか否か、男は何故「美形の女」が好きなのか、また「美形の女」が好きで何処がいけないのか、何故西洋人はコミットメントを中々しないのか等々、大激論。「男性群(S氏&筆者)」VS「女性群(3人組み)」の論争は白熱し、汚い言葉も出たりしたが(笑)、結局何時もの様に飲んだくれて終了。この問題の「根」は深い・・・(再笑)。

そんなこんなで疲れ果ててはいたが、今日は昼頃にノソノソと起き出し、考えた末に映画「NINE(ナイン)」を観に行く事にした。

この映画は、1963年のフェデリコ・フェリーニの名作「8 1/2」を下敷きとした、1982年初演のミュージカルの映画化である。当時トニー賞を10部門獲得したこの名作ミュージカルを映画化したのは、振付師出身、「CHICAGO」でアカデミー作品賞を受賞した監督、ロブ・マーシャル。筆者は「ミュージカル嫌い」なので、当然ミュージカル版「NINE」も観ておらず、そもそも「CHICAGO」の監督がフェリーニへのオマージュ等、本当にできるのか?と半信半疑であったのだが、実は出演者の顔触れに魅かれていた事も有り、ある種の期待も有ったのだ。

その配役だが、「8 1/2」でマストロヤンニが演じた主演のマエストロ監督「ルイジ」役には、ダニエル・デイ・ルイス。アヌーク・エーメが演じた、監督の妻役にはマリオン・コティヤール、愛人役にはペネロペ・クルス、主演女優役にニコール・キッドマン、その他ケイト・ハドソンファーギーの綺麗所に加え、ジュディ・デンチソフィア・ローレンの両ベテランが脇を固める。そう、「ヨーロッパの俳優」たちがメインなのである。

結果から云えば、かなり素晴しい作品であった!!何しろダニエル・デイ・ルイスの演技が非常に上手く、異常にカッコイイ。イギリス人の癖に全く「イタリア人」にしか見えない・・・スゴイ演技力である。コミカル且つ苦悩する姿を、「あっさりと」(こう見える所が本当にスゴイのだ)演じる・・・彼は文句無く素晴しい。

またこの映画では、2時間弱の間に「何百人」もの美女を観る事が出来るのだが、妻役のコティヤール、そしてペネロペの2人のズバ抜けた美しさは、「競艶」と呼ぶに相応しく他の何百人の美女達の追随を許さない・・・流石である。ケイト・ハドソンファーギーも役に合ったセクシーさで観客をを魅了するが、唯一ミス・キャストはキッドマンであろう。ルイス、コティヤール、ペネロペ、デンチ、ローレンの「ヨーロッパ人」のアクターの間で、浮いてしまっていた・・・此処だけが残念である。

そしてこの映画がスゴイのは、「配役の妙」だけでは無い。音楽・振り付けは流石マーシャル、で云うまでも無いが、イタリアの1960年代の「チネチッタ」やホテル、街のセット、そしてファッション。「カトリック」をもパロディにする台詞廻し、カラーと白黒を交互に使うカット割り、現在と過去のフラッシュバック等、勿論フェリーニの原作有ってこそだが、筆者としては脚本家として名前の見える、イギリス人監督アンソニー・ミンゲラの力が大きい様に思う。

ミンゲラは2008年に、残念にも癌のため54歳の若さで死去した、筆者の大好きな「イングリッシュ・ペイシェント」でアカデミー監督賞を取った作家である。この作品は脚本のみのクレジットであるが、ロブ・マーシャルがこの作品を彼に捧げている様に、ミンゲラの「遺作」となった。ロブ・マーシャル監督作品にも関わらず、全編に流れる「ヨーロッパの香り」(これはハリウッド映画、特にミュージカル映画では不可能に近い)は、ミンゲラの力に負う所大で、それこそがこの作品を単なる「ミュージカル映画」に留めていない最大の理由の様な気がした。

それにしてもこの作品を観ると、この主人公の「苦悩」が何とも贅沢に思えてくる。「映画」という最高の「夢」が撮れなくなり、妻(コティヤール)、愛人(ペネロペ)、主演女優(キッドマン)、記者(ハドソン)等の美女達に愛され、がしかし自分の奔放さと、カトリック貞操観念の硲で悩むのだが、親友(デンチ)と「思い出の中での」母(ローレン)にサポートされ、最終的に「新作」を撮り始めて映画は終わる・・・何と幸せな「苦悩する」男なのだろう!!

男に取っての「この世で最も贅沢な悩み」・・・是非一度ご覧有れ。