これぞ「ジャズ」!:JOE SAMPLE TRIO@BLUE NOTE。

昨晩は顧客カップルのご招待で、久々にカーネギーの隣の「Russian Tea Room」に食事をしに行った。

このレストランは偶に行くと、キッチュなセンスのインテリアが意外と好きで、食事もヘビーでは有るが不味く無い。しかし、この店でそれ以上に素晴しいのは、中々綺麗だが余りにも「ロシア人」な、ぶっきら棒で手首に刺青の有るウエイトレスだったり、隣のブースに座っていた、ずっと携帯で電話をしている如何にも「ロシアン・マフィア」風の髭男と、若い長身金髪ロシア美女のカップルだったり、これまた如何にもロシア人親子らしい「整形女」が2人で並んで食べていたりする所だ。スパシーバ、である(笑)。

それはさて置き、本題。日曜の夜は、ゴールデン・グローブ賞のTV番組を途中迄観た後、デザイナーN氏と妻を伴って、ブルー・ノートに「ジョー・サンプル・トリオ」を聴きに行った。

この日の2回目のステージは、彼の今回のNY最終公演だったのだが、着いてみると、その晩は激しい風雨で有った事と、三連休の真ん中だった事も有るのか、店内は満員とは云えない状況。一緒に行ったN氏はもうNYに30年以上住み、音楽通としても知られ、ストーンズのメンバーやユッスー・ンドゥールと友達でも有るのだが、お互い「クルセイダース」時代のジョーしか知らないので、客の入り具合を見てもステージ前は期待半分、不安半分が正直な所であった。

ここで、「ジョー・サンプル」を知らない人の為に、少々彼の事を。テキサス出身で、御年71歳。ハイ・スクール時代に一緒だったスティックス・フーパー(ドラムス)とウイルトン・フェルダー(テナー)、そしてウェイン・ヘンダーソントロンボーン)と共に「Jazz Crusaders」を結成、その後「Crusaders」と為る。ロスに在る伝説のライヴハウス「ROXY」での'74のライヴ盤「Scratch」は、筆者の中高時代の愛聴盤で、「ファンキー」とはこう云うモノなのか!と感動したものである。

その後フージョン・ブームに乗り、ランディ・クロフォードをヴォーカル・フューチャーした「Street Life」を発表、世界的大ヒットとなる。その頃からジョーは、ソロ活動に入り、名盤「Raibow Seeker」や「Carmel」等を発表、当時毎号読んでいた「Keyboard Magazine」に楽譜が載っていたりしたので、良くコピーしたものだ。

ジョーのピアノの素晴しさは、何と云っても「単音の美しさ」と「ファンキーさ」である。が、もうそれこそ20年も彼の演奏を聴いていない者としては、しかも「トリオ」となると、彼のパフォーマンスがどんな変貌を遂げているか、上記した様に期待と不安が入り混じるのも無理ない所で有ろう。

店の照明が落ち、ジョーが入って来る・・・第一印象は「年取ったなぁ」。彼と筆者には25歳に年の差が有るので、筆者が中学生の頃、彼は未だ40ソコソコだった訳で、ジャケ写のイメージと違うのは当たり前だが。ピアノの前に座り、徐にビールを飲む。そして一曲目は「Chain Reaction」、Crusaders時代の名曲である。そして、この一曲で筆者の「不安」は吹っ飛んだ!何と力強いタッチ、単音の美しさ、トリオの為の「コンテンポラリー・ファンキー」なアレンジ・・・素晴しいではないか!

一曲終わった所でトークが入ったのだが、これがまた抜群に面白い・・・が、非常に長い(笑)。酔っているせいも有るが、ジョーは「喋り好き」なのである。そして観客から「Play it!」の声が掛かると、仕方無さそうにピアノに向かい、数曲演奏した後、ジャズ・ファンに取っては、或る「タマラン」ハプニングが起こったのだった。

ジョーのトーク中、さっきからピアノの裏側の席から(ジョーからは顔が見えない)、茶々を入れている、シガナイ感じの白髪のオッサンが居た。そのオッサンは、風貌からすると「煩いジャズ通の酔っ払いオヤジ」にしか見えなかったが、彼の「茶々」は処々でジョーを唸らせていたので、ジョーが滔々そっちの方を向いて彼と話そうとした瞬間、驚きの声を上げた・・・「OH MY GOD...Monty!! Is it really you !?」。

そう、そのオッサンは何と「モンティ・アレキサンダー」だったのだ!!筆者もアルバムを持っているし、ジャズ通の方なら勿論ご存知だろうが、ファンキー且つ超テクニシャンのジャマイカ出身のピアニストである。

2人は抱き合って「突然」の再会を祝し、仲良くピアノの前の椅子に座ると「連弾」を始めた。そして、これが実にスゴかった!!「JAZZ」とは何時誰が参加しても成り立つ音楽である事は承知の上だが、モンティが低音部、ジョーが高音部を担当しての「即興連弾」。その後はジョーのオーダーに拠る、エロール・ガーナーの名曲「MISTY」をこれまた2人でプレイ・・・もう言葉に成らない程素晴しく、観客は(&ブルー・ノートのスタッフも)この老境を迎えた2人のピアニストに、惜しみない拍手と喝采を捧げたのであった。

ニューヨークの夜は、こんなファンタスティックな事が平気で起こる・・・。