「一服の茶」の力。

昨晩は下見会後、アッパー・ウエストサイドに在る、顧客のN夫妻宅でのディナーに参加。

出席者はN夫妻の外、A大学で日本美術史を教えるS教授と、その妻でB美術館日本美術学芸員のA女史、S美術館のL女史、そして義父、妻、筆者の8人。

N夫妻の料理好きは有名で、もう既に何度もご馳走に預かったのだが、昨日も素晴しい料理のオン・パレードで、特にメインの「ロースト・ビーフ」と、デザートの「タピオカ・プディング」が秀逸であった!S教授とはもう何年も付き合いが有るのだが、相変わらず明るくて話も面白く、日本語も完璧。

S教授には、筆者が2年前に「伝運慶」の仏様を高額で売った時にも、オークション前に「鎌倉彫刻」に関するレクチャーをお願いしたのだが、彼のレクチャーは「クリスティーズの行ったレクチャー史上最高」であったと今でも評判である。このS教授の様に、日本美術を楽しく、そして判りやすく語れる米国人の存在は、この地に於いては本当に重要なのである。

美術関係者の集まりでは有ったが、オークション前特有の「生臭い話題」は全く出ず、会話はアート界四方山話から、延いては「娘を嫁に出す、父親の気持ち」迄盛り上がり(笑)、10時過ぎにディナーは終了。

そして連れの2人を帰し、筆者は次なる場所へとタクシーを飛ばす。

次なる場所とは、コロンビア大で日本美術史を教えているマシュー宅。其処には彼の学生達や、カイカイキキの弁護士兼「赤瀬川原平」研究をしているS女史、そして「帰ってきた茶人」千宗屋氏が。

ワインを片手に日本美術雑談の後、そろそろと千氏の茶が始まった。昨晩使われた韓国現代作家作の「高麗写し」と、日本の現代作家による茶碗は、布巾(カイカイキキ製)に包まれ、「建水」に見立てた柳宗理作のステンレス・ボウルにスッポリと入れられて、千氏に拠って「簡易茶箱」の様に持参されたモノ達だ。

お湯が沸くまでの準備の間、マシューは「冷泉家に伝わる香」を再現したと云う「八千代」を焚き、尺八のCDを掛ける。普通は勿論BGM等は掛けないのだが、しかしこの尺八は中々に素晴しい。聞けば何と奏者は、東北大学の泉武夫教授だと云うでは無いか…恐るべし、泉先生!

実は茶が始まる前、日米有名日本美術史家達の「若かりし時の写真」を皆で観たりしていたので、そう云う事になったのだが、泉先生の尺八は何とも素晴しいご趣味である…因みに山下裕二先生は「琴」の名手らしいし、ウチの父親も能と謡を長年やっているので、日本美術史家の「邦楽趣味」は決して侮れない(笑)。

夜も11時過ぎのマンハッタンのアパートメント。湯も沸き、名古屋の美味しいお菓子を食べ、お茶を頂く。気の置けない友人達との一時は、下見会とディナーの疲れを信じられない位に和らげてくれ、夜中前に散会。

「一服の茶」の力に、大感謝の一晩であった。