ニューヨークの土曜日。

ダイアリー1周年を迎えて、暖かいメッセージを頂いた…忝い。飽きずに読んで頂けると、嬉しいのだが。

さて非常に天気の良い今日は、時差ボケでフラッとしながらも、先ずは顧客カップル、そして友人のジュエリーデザイナーN氏と、5番街の「チップリアーニ」でランチ。この老舗イタリアンには、今を然る事12-3年位前に一度ディナーで訪れた事が有るのだが、その時の印象は甚だスノッブで値段もかなり高く、しかし華やかなお金持ちの男女が集う「クラブ」の様であった…それを思えば、ランチは何とも気が楽である(笑)。

久し振りに会うカップルは、相変わらず元気そうで、TVプロデューサーの旦那さんの方は、自分の20年続いた番組が終わり、今度は同シリーズが「ロザンジェルス・ヴァージョン」になったので、西海岸との行き来が激しくなりそうだとの事。奥さんの方はジュエリー・デザイナーのN氏と、ヴァン・クリーフやティファニーの知り合いの話で盛り上がる…その間宝石音痴の筆者は、唯々食べ続けるのみ(笑)。

しかしこの「チップリアーニ」で食した、「ホウレン草のカネロ二」は最高であった!ここ何年、いや今までで食べたカネロ二の中でも一番では無かっただろうか。何しろ、軽く焦げ目の付いたアツアツチーズがタップリの割りには、クリーミーなのに何とも軽いのだ。アペタイザーに頂いたガスパチョとの相性も良く、時差ぼけのお腹も大満足。デザートは、この店の十八番、「メレンゲ」にしようかとも思ったが、見た目に負けて「ナポレオン」を頂く。しかし、マキシムのナポレオンの様にイチゴが入っておらず、ちょっとガッカリだったが、しかし甘くなくてサッパリしており、ソコソコ。

食事が済むと、ヨーロッパへと旅立つカップルとN氏とは此処で別れて、妻と一度家に帰った後、抜ける様な青空の下、川沿いをテクテク散歩しながら、久し振りにチェルシーへ…「睡蓮」を観る為である。

手を繋いだゲイのカップル、自転車で颯爽と走る美女やジェットスキーに興じるニューヨーカー達を、ウォッチングしながら、そして海鳥の声や海風に当りながらの散歩は、非常に心地良い…ヘルズ・キッチンに住む者の特権だ。

汗ばみながら、「睡蓮」展を開催している21丁目の「GAGOSIAN」に着いた…と思ったら、何と、来週一杯で終了する「晩年のモネ」を観る為に、人々が並んで入場を待っているでは無いか!行列が大嫌いな筆者も仕方無いので並んだが、5分以内で入れたのでホッとした。

さてさて中はと云うと、もう此処はギャラリーでは無い…美術館である。今まで数え切れない位「ガゴシアン」には来ているが、そんな事を感じたのは勿論始めてであった。「睡蓮」は、個人コレクションのみ為らず、パリのマルモッタン美術館やシカゴ美術館、はたまた日本の公立美術館からの物も含めて26点に及ぶ、何とも壮観な展覧だ。

モネの「睡蓮」は、個人的には早い時期の作品が好きなのだが、今回出展中の作品では、具象と抽象の丁度中間位の作品に、少し興味を魅かれた。面白かったのは、筆者が良いなと思った作品は、殆どが「個人コレクション」の物だった事だ…それがどう云う意味なのかは、自分自身良く判らないのだが。それともう一点は、観ながらも借りてきた作品の「保険額」がずっと気になっていた事だ…これは単なる職業病だろうが(笑)。

ガゴシアンを後にし、今度は「PACE」へ「Kiki Smith: Lodestar」を観に行く…余談だが、「PACE」は社名から滔々「WILDENSTEIN」が取れて、体が軽くなった…しかし良く頑張った…目出度し、目出度し。

こちらの展覧会のアーティスト、キキ・スミスは、今ブルックリン美術館でも展覧会を開催している様なので、そちらも早く観に行かなくては為らないのだが、この展覧会では、ガラスに「女の生活」を描いた作品がインスタレーションされていて、或る意味彫刻的に観ても中々面白い。この作家は、恐らくさぞかし変わった女性だろうと思うが、ルイーズ・ブルジョア亡き後「アーティストの女王」の座を継ぐ筆頭では無いだろうか。

そして時間も無くなって来たので、御馴染みの「Sonnabend」へ。此処では、久々に欲しいっ!買いたいっ!と思った作品が有って、ちょっと興奮してしまった…しかいそれが誰かは、秘密である(笑)。

チェルシーを後にすると、買い物嫌いの筆者は、妻の必死の説得で筆者が唯一好んで着るソーホーのブランド「T」へ連れて行かれ、久し振りに会う何時ものゲイの店員連中に、色目を使われる。彼らは何時も筆者に優しく、妻に冷たいのだ…あぁ、モテル男は辛い(笑)。ニッコリ微笑まれながら、また「花柄」のシャツを購入してしまった。

これから夜は、これも久し振りに友人のジャズ・ピアニストと「D」でディナー。遅くなるパターンだが、時差ぼけには丁度良いか…。