MARCUS MILLER-Tutu Revisited@Highline Ballroom.

昨日の夜は、ニューヨークで観る久々のライヴ、「ザ・ファンキー・ベーシスト」、マーカス・ミラーを「Highline Ballroom」へ観に行った。

同行は妻と音楽フリークのジュエリー・デザイナー、N氏。チェルシーの会場に行って見ると、既に相当な人だかりで、チケットは全てソールド・アウト、前売りを買っておいて本当に良かった(笑)。入り口付近からも感じられる異常な熱気で、客の期待感が伺えたが、それもその筈、今回のライヴは「Tutu Revisited」と題され、マーカスが晩年のマイルス・デイヴィスの為に作曲・プロデュースしたアルバム、「Tutu」(1986)の曲を若手ジャズ・ミュージシャンとプレイするからである。

さて筆者に取って「マーカス・ミラー」と云うと、先ずは何と云っても、ルーサー・ヴァンドロスと云うヴォーカリストのソロ・デビューアルバム「Never Too Much」(1981)に入っている、「She's A Super Lady」と云う名曲の、当時弱冠22歳のベース奏者として、である。

思い返せば、当時のジャズ・ファンク系には素晴しい(エレクトリック)ベーシストが揃っていて、ジャコ・バストリアスルイス・ジョンソンスタンリー・クラークアンソニー・ジャクソンラリー・グラハム(ちょっと古いか)等など、もう凄い顔触れであった。その中でも、マーカスは「チョッパー」を武器にファンキー・ベースの旗手として登場、ヴァンドロスのアルバムでも彼のチョッパーは最大限にフィーチャーされ、聴く者の体は動き出し、顎は突き出す事必須のタイトなベースなのである!

「ハイライン・ボールルーム」は超満員、立見も多いざわめきの中、コンサートが始まった。マーカスはトレード・マークの黒ハットを被り、見た目は30年前と何も変わっていない。今回のメンバーはマーカスの他に、フィーチャリング・トランペッターであるChristian Scott、サックスにAlex Han、キーボードがFederico Gonzalez Pena、そしてドラムスLouis Catoの、5人編成である。

演奏が始まると、もう何しろブッ飛んだ!マーカスのフェンダー・ベースから弾き出されるチョッパーや、駆使されるテクニックの数々、ギターの如き流れるようなフレージングやエフェクト、それら全てがスゴイ。しかし実は、このライヴの最も驚くべきはマーカスでは無く、むしろ若い2人のホーン・プレイヤーだったのだ!

先ずペットのクリスチャンだが、弱冠27歳、何とも若きマイルスの様で、素晴しいテクニックとパッション、そして或る種の風格をも感じさせる。こんな若いミュージシャンが平気で出てくるアメリカとは、やはり恐るべき国だ。そしてもう1人、サックスのアレックスだが、彼は何と22歳、こちらも驚くべきプレイヤーである!マーカスとの即興掛合いの場面では、何か父親にテストされている息子の様にも見えたが(笑)、それに必死に応える彼のインプロヴィゼイションは、決して負けて居なかった様に思う。

一点「コイツら、可愛いなぁ」と思ったのは(笑)、自分のソロ・パートでは当然ステージ前面に出て演奏していた彼らも、マーカスやフェデリコのオジサン達のソロになると、ステージの端に仲良く並んで、彼らのプレイを真剣に聴き入る場面が何回か有った事である。彼らに加えて、ドラムスのルイスのプレイも若く力強く、此処が重要なのだが、「オジサン達のサポートと相俟って」、若々しくもクールでファンキーなステージを作り出していた。

一方のマーカスは、ステージの最後の方で突然バリトン・サックスを取り上げ、ジャージーな曲を吹き始める。曲は「Someone to Watch Over Me」で、マーカスのサックスを聴くのは初めてだったのだが、中々上手で、アレックスとの掛合い・間合いも良く、泣かせる演奏。そして観客総立ちの中、昨夜の最後の曲は、期待通りマーカスがマイルスに提供した曲「Tutu」で、メンバー全員のマイルスへの敬意と観客の歓声と拍手に満ち溢れた、素晴しいパフォーマンスであった。

ファンキーな、余りにもファンキーなマーカスのステージは、恐るべき若い才能の発見と共に終了。これでチケット代25ドルは、余りにも安過ぎではないか(笑)…この辺が、ニューヨークと云う土地のスバラシイ所なのだが。

ボールルームを後にし小腹が減った我々は、ミッド・タウン・ウエストに在るキューバン・レストラン、「G」へ直行。此処「G」は、一流ミュージシャンに拠るキューバン・ミュージックを聴きながら、安くて旨いキューバ料理を食す事の出来る、かなりお得な店である。母国ではアイドル的存在らしい、キューバから来ている物凄い腕前のパーカッショニストの演奏を聴きながら、「ココナッツ・チキン」や「グリルド・カラマリ」、「セヴィーチェ」等を頂いた。

仕事後且つ時差ボケも手伝って大層疲れたが、何ともファンキーな一夜であった。


追記:
今朝方、観世流シテ方能楽師、関根祥人氏が急逝された事を知った。

関根祥人師は、妻が内弟子をしていた関根祥六師のご長男で、能楽協会の理事もされていた、若手の実力派筆頭の能楽師であった。当然妻は返し切れないご恩を祥人師から受け、妻を通して何度かお目に掛かった筆者も、何時も親切に応対して頂いた事など、感謝に堪えない。またご子息に先立たれた祥六師を初めとする、残されたご家族の悲しみは如何程かと思うと、胸が抉られる思いである。謹んで関根祥人師のご冥福をお祈りしたい。