「美味しそうな」イタリア素描。

此処の所続いている「時差ボケ」であるが、もう一つだけ良い事が有る…それは、朝早くから行動出来る、と云う事だ。

土曜日は、アサイチで展覧会を観に行った。前日迄が嘘の様な爽やかな朝、素晴しい天気と駆け抜ける風の下、メトロポリタン美術館へと急ぐ。道中の街中も、到着したMETも疎らな人…そう、忘れていたが今週末は「Labor Day」(労働者の日)の連休で有った。

9時半の開館と共に入館し、誰も居ない館内を歩く…貸切も良い所だ。しかし「誰も居ないMET」とは、何と贅沢なのだろうか!今迄何回と無く「アサイチ」のMETに来ているが、此処迄人が少ないのも初めて…「地獄宮殿」とは大違いの、「美の宮殿」独り占めで有った(笑)!

さて「パルミジャニーノ」、「ブロンジーノ」と聞いて、涎が出そうになる貴方は「正常」である…「正常」では有るが、残念ながら「正確」では無い。何故ならそれらは、「チーズ」や「鯛に似た白身魚」では無く、2人共16世紀イタリアの画家だからだ(笑)。人っ子一人居ない石段を上り、廊下を歩いてたどり着いたのは、特別展「An Italian Journey:Drawings from the Tobey Collection:Correggio to Tiepolo」の会場であった。

この展覧会を観ようと思い立ったのは、昨日少し此処に記した「美しき姫君」がその理由である。16-17世紀のイタリア素描を中心とする本展は、珠玉の名品揃いの個人コレクションからの展示で有るが、オールドマスターに無知な筆者が聞いた事の無い、そしてイタリアンのメニューに出て来そうな、「美味しそうな」アーティスト(笑)の作品も勿論有るが、コレッジオ、グイド・レーニプッサン、ティントレット、ティエポロ、カナレット、グァルディ、ピラネージ等など、スゴイ面子の作品が並んでいる。

その中でも、特に素晴しかった個人的トップ3は、第3位:ジャンロレンツォ・ベルニーニ(1698-1680)の「Seated Male Nude Seen from the Right(右側から見られた座る男性のヌード)」、第2位:アグノーロ・ブロンジーノ(1503-72)「Study of a Left Leg and Draping(左足とドレープの習作)」、そして輝く第1位は、アンドレア・デル・サルト(1486-1530)の「Study for the Head of Julius Caesar(ジュリアス・シーザーの頭部習作)」である!

「右側から…」は、赤チョークと白チョークの作品だが、ヴァチカンのシスティーナ礼拝堂に在るミケランジェロの「ノアの泥酔」と同構図で、イギリス王室にも似た習作が存在しているとの事。筋肉表現が本当に素晴しい。「左足」は、所謂「動いている(走っている)人間の左足と、それに纏わり付くドレープ」の習作なのだが、これがまた何とも云えぬ美しさを持っている。黒チョークのみの作だが、陰影とその柔らかな線の美しさは比類ない…欲しい(笑)!

そして1位のフローレンスの画家、デル・サルトが赤チョークで描いた「シーザー」だが、これまた何しろ美しい。「美しい」ばかりで申し訳ないが、「美しい」のだから仕方が無い(笑)。見事なまでに美しく(笑)力強いシーザーの横顔に、惚れ惚れしてしまう。意志の強そうな鼻梁と眼差し、柔らかな頭髪、陰影に因って浮き立つ首の筋肉…これらの全てが、「素描」の凄さと素晴しさを具現している様に思う。

誰も居ない「沈黙のギャラリー」で観た所為も在るかも知れない。が、地味では有るが、西洋絵画の「原点」を観る様な、かなりハイレベルな「美味しい」展覧会であった。流石ナポリタン、もとい、メトロポリタンである(笑)。

鑑賞後は一度家に帰り、窓から真っ青な大空を、ゆっくりと流れる雲を眺めながら昼寝をした後は、ブラック・カルチャー専門家(&ETC)のT君と、ウエスト・ヴィレッジのタパス・バー「R」で食事。旨いタコ、チョリソ、タラ、ミートボール、ラム、マッシュルームサラダ等を頬張りながら、日本で見た「ソウル・パワー」の事などを話す。T君は、相変わらず良い人過ぎる程良い人だったが、色々な意味で彼もターニング・ポイントを迎えている様だ…ニューヨークでも日本でも、地獄夫婦始め皆仲間は応援している…ガンバレT君!

良く食べ良く喋り、秋風の肌寒い中、家に帰るとノックダウン…10時間以上も寝てしまった。

秋眠暁を覚えず、である(笑)。