シュールな現実と、リアルな夢:オスカール大岩の「Open Studio」。

秋のニューヨークは、美しく短い。そんな素晴しい気候の金曜日は、夕方からクイーンズのロング・アイランド・シティに向かった…「OPEN STUDIO」をするアーティスト、オスカール大岩を訪ねる為である。

ニューヨーク在住、日系ブラジル人現代美術家のオスカールとの付き合いは、もう何年にもなる。未だ面識が無かった頃、嘗てのフジテレビ・ギャラリーでの展覧会を観た事もあるが、ニューヨークに来てからの或る時、山下裕二先生と広瀬麻美さんに紹介されたのが、彼と親しくなるきっかけだった。

地下鉄の駅を出てほんの数分歩くと、オスカールのスタジオの在るビルに着く。今年になって移ったこの場所は、前の場所に比べて新しく、セキュリティもかなりしっかりしている様である。ドアマンに場所を聞きスタジオのベルを鳴らすと、オスカールが笑顔で迎えてくれた。

スタジオに入り握手をし、先ずはお互いの近況報告から…話題は当然先日の火事で焼失してしまった、瀬戸内国際芸術祭出展作の「大岩島」の事に為る。作品が焼けて無くなってしまった事も有るが、話している間オスカールが最も心を痛めていたのは、この火災に因って亡くなった90歳のお爺さんの事で、そのお爺さんはオスカールが制作中にも、興味を持って観に来ていたそうだ。またこの火災で隣数件の家屋も焼けてしまい、彼は「作品はまた作れば良いけど、『命』と『家』は…」と、悲しく残念そうであった。筆者は瀬戸内にも行く機会が無く、勿論この「大岩島」も実見していないが、この作品の「メイキング・クリップ」は観ていて、ブラック・ペンと鏡のみを使った、この「幻の」作品の美しさを垣間見る事が出来る(「Building an Island」→http://www.youtube.com/watch?v=zr59vzndrcU&feature=player_embedded)。

さてスタジオには、オスカールの近作が何点か立て掛けてあり、しかし「毎回」このアーティストと会うと思うのだが、決して大柄でなく腕も細く、こんな細身で眼鏡を掛けた大人しそうな男が、良くもこんな巨大な迫力有る作品を作れるものだ、と感心する。本人も「会った事の無い人が、ボクがブラジル人と聞くと、君(筆者)の様に色が黒くて大柄で、マッチョな感じの男を想像するらしいんだよね…会うと吃驚するよ。」と笑っていた(笑)。

さて作品である。新作を幾つか見せて貰ったのだが、どれも凄い迫力と深い暖かさに溢れているのだが、一番気に入った作品は2点…先ず1点は「After Midnight」と題された、カンバス4枚組み(227 x 444cm.)の大作。夜人がベッドに入り夢を見始めると、多種多様なイメージや色、風景が人を襲う。其処には、時には恐怖や狂気、時には静寂や優しさが同居し、オスカールはそれらを大都会や大自然の風景と融合させる。この作品も滝や川の流れ、渦巻などを象徴的・幻想的に、驚くべき迫力を持って描かれた大好きな作品であった。

また「Invisible Sea」(カンバス3枚組み:227 x 333cm.)も素晴しい。マングローブを想像させる、ゴツい機械的な「配管」が水中から伸び、「ソマリア沖の海賊」にヒントを得たと云う小さなタンカー等の船舶が、海上・海底に散らばる。画面半分を占める水中の部分に空からの光が差し込み、其処で揺れ動く遠くのマングローブと、近くの「配管」や船のコントラストが本当に美しい。目を凝らして観ると、水中下部に一隻だけ可愛い黄色い潜水艦が…何と「イエロー・サブマリン」であった!こう云ったファンタスティックな部分も、オスカールの芸術の一端を担っているのである。

この日見せて貰ったオスカールの作品は、他にも例えばリーマン・ショック前後の株価推移の「グラフ」をモチーフとした「Stock Shop」や、ツイスター(竜巻)をイメージした「バベルの塔」等、嘗てオスカール自身が学んだ、そして彼の最重要モティーフで有る「建築(物)」が都会や自然の風景に抱き込まれ、時事問題やパロディ感覚とも融合しつつ、ダイナミックな、それでいて繊細な表現に充ち溢れていた。

そして夜が近づき、オスカールと近い内の再会を約束すると、「幻想的な現実」と「現実的な夢」を描き続ける、このオスカール大岩と云う作家への益々の期待感を胸に、彼のスタジオを後にした。