「桑港美術日誌」その弐:災い転じて福と為す。

サンフランシスコでの2日目は、オフィスで雑用の後某業者とランチ、顧客を訪ねた後は時間が空いたので、サンフランシスコ近代美術館(SFMOMA)を見学。

SFMOMAには、「GAP」の創業者であるドナルド・フィッシャーのコレクション展「Calder to Warhol:Introducing the Fisher Collection」を観に行った…筈だったのだが、何とこの間の日曜で終了!仕方が無いのでその図録だけを買い、早々に退却しようとしたのだが、ふと思い常設展を覗いたら、其処にはフリーダ・カーロの名品が!実は最近或る事で、フリーダ・カーロと云う作家との「奇妙な縁」が出来たのだが、この「フリーダとディエゴ・リヴェラ」(1931)を観る事が出来たのも、そのご縁と「フィッシャー・コレクション展」が終わってしまっていたから、とポジティヴに考える事に因って、充分元は取れた(笑)。

SFMOMAを後にすると、今度は「Japanesque」展を観に「デ・ヤング美術館」へ向かう。このデ・ヤング美術館は、日本では余り知られていないかも知れないが、2005年にヘルツォーク&ド・ムーロンに拠って建て替えられた、全米でも5位、全世界でも19位の来場者数を誇る美術館である。

さて素晴しい天気の中、ゴールデン・ゲート・パーク迄車を飛ばして到着、しかしいざ入館してみると、信じられない事態が待っていたのだった…。それは、お目当ての「Japanesque」展は何と別の場所で、しかも2日後からしか始まらないと云うでは無いか!もう「口あんぐり」状態である。何と云う事だ…責任者出て来い!(って、自分なんだけど)と叫んでも仕方が無いので、今開催中で大人気だと云う展覧会「Van Gogh, Gaugin, Cezanne, and Beyond-Post-Impressionist Masterworks from the Musee d'Orsay」を観る事にした。

「オルセー」には少なくとも5、6回は行っているし、「何も『サンフラン』で『オルセー展』観なくても…」と思っていたのだが、豈はからんや、久し振りに観た例えばゴーギャンの「黄色いキリストの自画像」や「牛の居る海景」、スーラの「正面からのモデル」、ゴッホの「星夜」と「詩人」、大好きなエミール・ベルナールやモーリス・ドニの作品、そしてルソーの「戦争」と「蛇使いの女」(しかし、ルソーは田中一村っぽい!)等を、驚くべき、そして新たなる興奮を以って再観したのであった!それに付けてもゴーギャンは、何と素晴しいのだろう…欲しいっ!

結局桑港での最終日は、SFMOMAでの「フリーダ」とデ・ヤング美術館での「ゴーギャン」の様に、「観れなかった為」に「観れた」アートの数々に大満足…「災い転じて福と為す」一日であった。しかしこの「偶然の賜物」も、実際に美術館に行ったから有り付けたのであって、昨今若者に作品の来歴や過去の売却価格等の調査を頼んでも、直ぐ「Google」してしまい、過去のオークション・カタログや、書棚に数限りなく有る文献に当ろうとしない事に因って、「賜物」を「偶然に発見する」機会を自ずから逸している風潮を、改めて考えてしまった。アートには「寄り道」や「勘違い」も、時には必要なのである。

そして昨日の金曜日は、再び早朝5時に起きてホテルを出発。7時半の飛行機に飛び乗り、5時間程のフライト中に、和田京子編著の「古今⇔比べてわかるニッポン美術入門」をかなり集中して読了した。

ユニークな視点と、素晴しい掲載作品の選択で非常に面白かったのだが、ただ一点問題が…。北斎の「喜能会之故真通」、会田誠の「巨大フジ隊員VSキングギドラ」と「Monument for Nothing」が掲載されている頁を読んでいた時、それ迄時折和気藹々と会話したりしていた、隣に座っていたアメリカ人のオバサンの筆者に対する暖かった視線が急激に冷たくなり、その頁に集中出来無くなったのである(笑)。皆さん、公共交通機関でこの本を読んでいて、この「136-141ページ」が来てしまったら、是非とも周囲の眼にご用心下さい…「アート」を知る由も無い人に、凄い眼で睨まれますので(再笑)!

午後4時半の到着後は、旅の疲れを圧してJFKから会社に直行。社内の「ボード・ルーム」で夜7時から開催された、「或る特別な、感動的な『ディナー』」に出席する為だったのだが、その話はまた次回。

その「感動的ディナー」の後は、現在ニューヨーク公演中の山海塾天児牛大氏と、そのダンサー竹内さん、妻とピアニストH女史のディナーに「遅れて」参加。天児氏と「平行と垂直」「日本と西洋」に関しての面白い談義、幾つか持っていた質問(例えば誰かが山海塾の演目をやりたい、と云って来たらどうするか?等)、「文化庁のアート助成改革案」等で盛り上がる。天児氏と云う方は本当に気取らない方で、楽しい時間を過させて頂いた。

出張の疲れも有ったが、素晴しい「2つの」ディナーで大満足…「災い転じて福」な週でした!