「ゲル化」した日、そして「印象派週間」間近。

日曜の夜は、夫婦共々宮殿でノンビリしていたら、作曲家のAちゃんからのメールが。

何と翌日膝の手術を控える「ゲル妻」の為に、「胡桃のケーキ」を焼いてくれたらしく、届けてくれるとの事…何と優しいのだろう(涙)。そして8時半過ぎAちゃんがやって来て、頂いた胡桃のパウンド・ケーキを早速頂く…ウンマイ!胡桃の香ばしさと甘さを抑えたヘルシーな、しっとりとした味、即お替りである!このケーキは勿論妻の為の物だが、筆者1人で完食せぬ様に気を付けねばなるまい(笑)。

そして昨日の月曜日、筆者はお休みを頂き、午後からの妻の膝の手術に備えた。妻は昼過ぎに行われる手術まで絶食、思ったより落ち着いている様に見えるが、初めて「手術」為る物を受ける内心はどうだろうか?筆者も6年前、「ジヌシ」とオサラバする為に、人生初の「メス入れ」を経験したのであるが、その時程、自分の余りの「小心さ」に情けなく感じた事も無い(笑)。

妻の膝の手術をするのは、「Midtown Surgery Center」と云う簡易外科手術専門の病院で、場所は47丁目の1-2番街の間のビルの地下、何とジャパン・ソサエティの3軒隣である。松葉杖で出てきたら、Y女史が何してるの?と鉢合わせしたりして…等と考えたりもした(笑)。今年3月にオープンしたばかりのこの病院は、本当に清潔でスタッフも親切、大変素晴しい。そして肝心の医師達も、有名病院との掛持ちをしている外科医ばかりで安心である。

妻を医師に引き渡すと、1時間程の手術の間手持ち無沙汰なのと、余りの天気の良さに表に出て、先ずはジャパン・ソサエティに足を運び「白隠展」の図録を購入、そして前の公園のベンチで飲み物を飲みながら、馬場あき子著「能 よみがえる情念」を読む…妻の手術中に読むには持って来いの本であった(笑)。

その後、2時過ぎに病院に戻り待っていたが、中々手術終了の連絡が来ない…何と無く焦ってくる。何も無ければ良いが…。そうして更に40分程待つと、綺麗な看護婦さんが「We just finished…Everything went well!」と云いに来てくれ、ホッと一息。局部麻酔と思っていたのが、やはりアメリカ、「全麻」だった為、妻が眠りこけていたらしい。病室に観に行くと、妻の顔からは何時もの不敵さ(冗談、冗談!)は失われ、疲れて心細そうな様子で何とも心許ない…なので此処は暫く己を捨てて、妻の愛する「ゲルギエフ」になって尽くさねば、と心に決めたのであった。そして、その場でいきなりゲルギエフが乗り移り「ゲル化」し「ゲル夫」となった筆者は、此処の看護婦さんたちが皆余りに「美人」で感じが良いので、「此処なら、俺は今すぐ入院しても良い!」と本気で思ったのだった…云って置きますが、僕じゃなくてゲルギエフがそう思ったんですから(笑)。

その後はと云うと、妻は最新式の軽くて丈夫な松葉杖を貰い、無事家に帰還。皆さんからの励ましやお手伝いのメール、電話や差し入れ等、沢山頂戴しました。この場を借りて、ゲル妻共々心より御礼申上げます。本当に有難う御座いました!

そして今日は顧客に会いに行き序でに、「パーク・アヴェニュー・アーモリー」で開催中の「The International Fine Art & Antique Dealers Show」へ。

このショウは、世界の絵画・古美術を展示販売するショウで、所謂「エイジアン・アート・フェア」等とは異なり、西洋甲冑、クリムトの素描や印象派絵画、エジプト等の古代美術、マイセンや銀器、ペルシャ絨毯や日本の屏風や銀器迄、アメリカ・英国・フランス等からの65のディーラー達が中心と為って、ブースを作っている。その中で日本美術は2店、NYの「Erik Thomsen」とSFの「Japonesque」のみ。双方ともデコラティヴな作品を集めての出展で、エリック曰く「日本美術以外の分野からの顧客ゲット」が目的だそうだ。そう云う意味でこのショウにブースを出すのは良いかも知れないが、筆者が行った時の会場は閑散としていて、少々寂しい感じであった。

アーモリーを後にすると、直ぐ近くに居る友人のディーラー、ファーガス・マッカフリーの画廊を訪ねる。ファーガスは元々GAGOSIANに勤務していたが、数年前に独立し、現在は5番街とマディソン街の間に画廊を構えている。そして、此処では「野村仁」の展覧会が開催中…の筈だったのに、この間の土曜で終わっていたのだった!すまん、ファーガス…観れなかった!と云う事で、同じビルの一階下に入っている「Eykyn & McLean」へ。この画廊は、元クリスティーズ印象派・近代絵画部門の部長2人が興した画廊だが、2人とも旧知の仲、特にChris Eykynの方は、もう同期の桜と云っても良い程の仲なのである。

ベルを押すとクリスがにこやかに迎えてくれ、抱き合いお互いの健在振りを慶び合う。インスタレーション中の画廊に入ると、床に所狭しと見覚えの有る「形状」の作品が…全て「ジャコメッティ」では無いか!絵画・彫刻、大小取り混ぜて50点以上は有るだろう…何とも壮観である!

クリスに事情を尋ねると、これらはジャコメッティの甥と結婚した或る夫人の所有物で、今週の金曜から始まる彼のショウで展示されるのだが、今回は販売はせずに展覧会のみだと云う。それにしても保険金額だけでも、総額幾らになるのだろう…考えると気が遠くなるが、そう云う「仕事」も何時の日か「ビジネス」に繋がるのが、この世界。素晴しい図録も作ったそうなので、今週末再訪するのが楽しみである。

ニューヨークは来週から「メイン・セール」週間で、オークション・ハウスでは「印象派・近代絵画」のオークションが開催され(現代美術はその翌週)、街中の画廊でも素晴しい展覧会が催される。忙しい日本美術の仕事の合間にちょっと覗くのも大変勉強になるし、しかもエリックがいみじくも云った様に、これからは他分野とも連繋して新たなる「日本美術ファン」を造って、育てて行かねばならない…頑張らねば!