帰りのタクシーで考えた事。

ゲル妻の膝は、それなりに順調な快復の兆しが見える。この分で行くと、筆者が下僕「ゲル夫」で居られるのも、後一週間位か…嬉しい様な悲しい様な、である(笑)。

さて昨日の水曜日は、外出が難しいその妻の許しを得て、イースト・ヴィレッジのステキなロフトに住む、アート・ディーラーH氏宅での「活きロブスター・ディナー」に参加。先ずはN氏とクリスティーズで待ち合わせ、地下鉄でダウンタウンへ。H氏宅に着くと、ご夫婦が笑顔でお出迎えして下さった。

このHご夫妻は何ともお似合いのお二人で、その明るさとハッキリした物言いが、大好きである。天井の高い部屋のホワイト・ウォールには、「ミヅマ・アクション」で展覧会予定の期待の新人作家、H夫人の作品美しい作品を含む現代美術が品良く掛かり、既に食卓にはセットがされていた。

昨晩のメンバーはH氏夫妻と日本から来ている古美術商のN氏、アーティストの近藤聡乃(あきの)さん、そして筆者の5人。近藤さんは、制作したアニメーション作品「てんとう虫のおとむらい」(→http://www.youtube.com/watch?v=tFqAc9kRP8g)が、23,000に及ぶ作品の中から「YouTube Play Top 25」に選ばれ、最近グッゲンハイム美術館でも展示された(→ http://www.youtube.com/play)、新進気鋭のアーティストである。

筆者もこの作品を後で拝見したが、何処と無くエロティックで、喩えて云うなら「ビアズリー」の版画を観る様でも有った。モノクロとカラーのコンビネーションやコントラスト、そして場面展開が素晴しく、矛盾した云い方だが「ミニマルなのに装飾的」な、何とも云えぬ味わいの有る作品である。是非ご覧あれ。

紹介したりされたりの後は、早速ディナー開始。H夫人によって、先ずは前菜の「プロシュート・サラダ・ニンジンドレッシング」が運ばれ皆もぐもぐと頂く。ウーム、旨い!実はN氏も近藤さんも筆者も、全く酒を呑まないので、H氏1人が寂しく手酌…H氏、非常に男らしかった(笑)。次には「チーズ・ラビオリ」が出され、これも大変美味。

食事中の話題は、METでの「元展」から始まり、昨今の円高による美術市場、「激論:どっちがスゴイ、村上か奈良か?」、日本の古美術界刷新改革案、文化庁アーティスト海外留学制度の見直し、現代美術と古美術の「下取り」状況の違い等などで盛り上がりながらも、滔々メインの「ロブスター」へ突入!シンプルに茹でたロブスターを、レモンだけで頂くのだが…もう、パラダイスである(笑)!ガツガツと食べ終わった筈だったのだが、夫人から「もう一つ!」と勧められると、一瞬ゲル妻の顔が過ぎったのも束の間、「頂きます!」とまるで小学校の級長クラスの笑顔(意味不明だが)で皿を出した。では自戒を込めて、ここで一句…

忍ぶれど 検査に出にけり 尿酸値 もう一匹と 人の問ふまで    桂屋孫一

N氏共々腹をさすっている所に、今度はお箸がセットされ、炊立ての白飯に梅干、そしてロブスターの味噌汁…美味過ぎる!この期に及んではパラダイスを通り越し、もうヘヴンである(笑)。そして食後は「あの人は今」的に、バブル期に大活躍したコレクターK氏の話等で、景気の良かった頃を懐かしみながら、これまたウンマイ「チョコレート・クッキー」や和菓子をコーヒーと日本茶で頂き、大満足至極。

楽しい時は、何時もアッと云う間に過ぎる物で、昨晩も気が付けば11時過ぎ。家で1人、寂しさの余りソファのクッションを涙で濡らす妻を思い、名残惜しさを圧してH氏宅を後にしタクシーに乗り込んだ。

そしてそのタクシーの中では、何故か食べ終わった後の「ロブスターの残骸」の事ばかりを考えていた…「ロブスターのお弔い」だったのかも知れない(笑)。