反重力で行こう!:「Pirate Radio」 を観た。

もうオーバーとマフラー無しでは厳しい寒さのニューヨーク。そして今朝ネットの新聞を見たら、今年の秋の褒章で、現代美術家杉本博司氏が「紫綬褒章」を受章されるとの事。

海外で認められ活躍する氏の功績が、「公」で認められるのは本当に喜ばしい事で、作家のみならず海外で頑張る人に取っては、大きな励みになるのでは無いだろうか。別に「勲章」がと云う事では無く、「公」が認める事に因って色々と「進む」事も有ると思うからだ。今週の金曜日は、杉本氏のPACEでの初個展のオープニングなので、タイミング的にも彩を添える事となった。目出度い!…ところで、杉本氏の茶杓作りはどうなったのだろうか(笑)。

さて先日、家でのんびりとケーブル・テレビを見ていたら、「Pirate Radio」をやっていたので、齧りついて観てしまった。この作品は、去年の公開時に観よう観ようと思っている内に見逃してしまったイギリス映画で、原題は「The Boat That Rocked」であるが、アメリカ・カナダでの公開時にこのタイトルに変更されたらしい(日本でも公開されたのだろうか?)。

監督はリチャード・カーティス。この人は、筆者の大好きな映画「ラブ・アクチュアリー」の監督で、「ブリジット・ジョーンズ」シリーズのライターである。主演は「カポーティ」でアカデミーを獲ったフィリップ・シーモア・ホフマンだが、演技派且つ個性派英国人俳優達が、脇役・チョイ役でガッチリ脇を固めている所が素晴しい。それは「ラブ・アクチュアリー」のロック歌手役だったビル・ナイや、帰ってきた人気DJの役で「ノッティング・ヒル」の同居人だったリース・エヴァンス、更には大臣役のケネス・ブラナーや青年の母親役のエマ・トンプソン等だが、所謂一癖も二癖も有る面子なのである。

時代は1966年、公共放送にて「ロック」「ポップス」音楽の放送が未だ制限されていた当時の英国に(BBCで一日「45分間だけ」放送できた…今ではとても信じられない話だが)、北海沖に浮かぶ一隻の船を改造し、そこに違法ラジオ局を開設し本国に向けて最新の音楽である「ロック」を「24時間」流し続ける、最大2500万人のリスナー数を誇る海賊ラジオ局、「Radio Rock」があった。そこにドラッグで高校を退学となった青年が、ビル・ナイ演じる母親の友人の元で更生する為に(!)、「Radio Rock」にやって来る所からこの話は始まるのだが、ここに住むDJ達の生活振りは何とも羨ましい限りで、初めて「Fワード」を電波に乗せたり女の子を船に呼んだりと、誠に「グルーヴィー」なのである。

この船の中で青年は、童貞を捨てたり「ロック」を通して「人生」を学んで行くのだが、幾つか素晴しいシーンがあって、例えば政治家の圧力で違法放送の中止を迫られ、若者・労働者達聴衆は皆項垂れてその「最期の瞬間」を迎えるのだが、放送終了カウントダウン後の数秒の沈黙後、再びDJの「ロックン・ロール!」の声で放送が再開する所など、思わず「イェーッ!」と一緒に叫んでしまった程だ(単純だね、俺も…)。

また、この映画の最期の方で船が沈没してしまうのだが、青年の父親は逃げようとしない。息子の説得に因って、渋々大量のレコードを持って避難し始めるのだが、途中で海水に満たされた下の船室に落ちてしまう。そこで父子は、散らばってしまったレコードを必死に集めようとするのだが、その海水中で漂うサイケ調の「レコジャケ」と、それを泳いで掴もうとする男達の「スローモーションな画像の美しさ」と云ったら無い。そして、放送中止の命令に背いた事に怒り心頭の大臣は、沈没船のDJ達を見捨てるのだが、リスナー達自らが船を出して彼らを救助する。最期迄DJルームに残ったホフマンが、最後の最後の瞬間に海上に浮かび上がり、腕を突き出し「ロックン・ロール!」と叫ぶシーンは、思わずこちらも「ロックン・ロール!」と再び叫んだ程だった!

そして当然全編を支配する「音楽」も素晴しく、60年代ロックが如何に楽曲的に充実していたかが判る。これも大好きなザ・フー(「My Generation」!)を始め、キンクス、ジミヘン、ホリーズビーチ・ボーイズプロコル・ハルム、キャット・スティーヴンス等、もうコレで体が動かん様な輩は、ハッキリ云ってモグリである。

そこでこの作品を観終わって感じたのは、こんな'60年代の若者のパワーは今の若い日本人には望むらくも無い、と云う事だ。「反体制」で居る事の楽しさや誇りは、或る意味若さの特権で有る筈なのだから、日本の若者たちにも「俺が居たい世界はこんなんじゃない!」と云った、「反重力的パワー」を見せて貰いたいのだが…まぁ無理な相談だろうなぁ(嘆)。