デニス&アンディ:「アメリカン・ポップ・カリスマ」の芸術的邂逅。

昨日はフィリップスのオークションで、ウォーホルの「Men in Her Life」が、6336万2500ドル(約51億3200万円)で売れたそうだ。そしてたった今、サザビーズの「Coca Cola」が、3150万ドルのハンマー・プライスで落札された。しかし昨日も書いたが、今ウォーホルは何と高いのだろう!

フィリップスの現代美術セールは、このウォーホルを含む特別セール「Carte Blanche」が好調だった様で、このセールは元クリスティーズの現代美術部長で現在ディーラーとして活躍している、フィリップ・セガローのキュレーション・セールであった。レギュラー・セールの方は、アップ・ダウンが有った様だが、これで両オークションハウスの現代美術セール(のウォーホル)も、より楽しみになってきた。

さて昨日の晩は、友人カップルC&Rのカップルと久々のディナー。場所は、つい最近FLATIRON地区にオープンしたばかりのイタリアン、「Ciano」。今ニューヨークで最も新しくヒップなイタリアンで、嘗てブーレイに見出され「Cru」のシェフを務めた、Shea Gallanteの評判も上々である。そしてそのお味はと云うと、此処最近行った新しいレストランの中でも「最高に」美味かった!アペタイザーの「ホット・カラマリとオリーヴのサラダ」や「貝柱のソテー」、「ラム・チョップ」や「イタリアン・ソーセージのラグー・パスタ」、デザートのパンナコッタ迄、本当に素晴しく旨い…久々の大ヒットであった!

そして此処からが、今日の話題。「ワイルドで行こう!」と聞いて、直ぐに「Born to be wild」と原題を思い出せる人は、若い世代の余程のロック通か、もう良い年のオトナである。そしてこの曲を聞いて、この曲が或る映画のテーマとして使われ、その監督・主演をしたアーティストの名を云える方には、今日のダイアリーを読む事を許可しよう(笑)。

さて、今回クリスティーズの現代美術オークションには、今年五月に亡くなった、この監督・主演のマルチ・アーティスト、デニス・ホッパーのコレクションが出品される。

彼のコレクションには、デュシャンから始まり、ラウシェンバーグ、ウォーホル、バスキアシュナーベル、へリング、プリンス、オルデンバーグ等の現代美術が集う。コレクション中、例えばデイ・セールで最も興味深い作品は、デュシャンの「Signed Sign」で、この作品はデュシャンが自身の個展後のレセプションを開いた、「グリーン・ホテル」のサインボードを、何とそのレセプションに呼ばれたホッパーが盗って来て(!)、デュシャンに送りつけてサインさせたと云うモノで、云うなればデュシャンとホッパーとの「共作」とも云えるが、キチンとレゾネにも載っている由緒正しい作品である(笑)。

そして、明日の晩の「イヴニング・セール」に出品される高額な作品では、バスキアの1987年作品「Untitled」(500万ー700万ドル)と、1971年制作のウォーホル「Dennis Hopper」(80万ー120万ドル)とが有るのだが、今日の話はウォーホルの方…そう、アンディ・ウォーホルデニス・ホッパーの「邂逅」の話。

このアメリカン・ポップ・カルチャー史を代表する2人のアーティストの物語は、1953年に始まる。当時17歳だったデニス少年は、その年家族と共にサン・ディエゴに移り住むのだが、そこでアーティスト志望のデニスが初めて役に有りついた舞台は、当時既に「ホラー映画」の大スターとして有名だった、ヴィンセント・プライス主演の「ヴェニスの商人」であった(デニス・ホッパーのルーツが「シェイクスピア」と云うのも面白い)。

そしてこの舞台でのプライスとの出会いが、デニスと現代美術との出会いに決定的な役割を果たしたのだが、何故なら、ジャクソン・ポロックやフランツ・クライン等の「大名品」を当時既にコレクションし、ハリウッドの映画・演劇人に取って現代美術の「伝道師」であった共演者プライスが、デニスに「コレクションの扉」を開けた張本人となったからである。

その後デニスは出世作イージー・ライダー」(1969)を監督出演し、「アメリカン・ニュー・シネマのカリスマ」として世に知られる事に為るのだが、その当時のアメリカのアート界には、もう1人の「カリスマ」が存在した…それがアンディ・ウォーホルだったのである。

そして、デニスとアンディと云う2人のアーティストの関係は、アンディがロスでの最初の個展に出展した「32個のスープ缶(キャンベル・スープ)」の内の一点を、画廊から一括購入した某人物からデニスが「たったの」75ドルで手に入れた事から始まる…つまりデニスは、アンディの芸術を最も早く認めた内の一人なのだ!

その後アンディは「ポップ・カルチャーの神」となり、多くのスター達の肖像画作品を発表して行く中で、1971年の「The Last Movie」でのデニスをモデルに制作したのが、この「Dennis Hopper」と云う作品である。来歴を見てみると、この作品はウォーホル財団からロンドンの画商に渡り、その後スイスのコレクターを経て、1998年5月にクリスティーズ・ニューヨークのセールに出品。この時、16万2千ドルでデニス自身が落札したので、実に制作後27年の月日を経て、モデル自身の手に渡った事に為る。

12年間でこの作品の価格は約5倍になった訳だが、アンディ・ウォーホルデニス・ホッパーと云う、この「やんちゃ」なアーティスト達の「芸術的邂逅の記念碑」的なこの作品は、今回幾らで落札されるのだろうか?

最後に1977年のデニスの言葉を紹介して、今日はお仕舞い。

"Like all artists, I want to cheat death a little and contribute something to the next generation"

「全ての芸術家がそうで有る様に、僕は『死』をほんのちょっと弄んで、次の世代に何かを残し伝えたい。」