"Warhol but Warhol!":現代美術「イヴニング・セール」の結果。

今朝、驚くべきニュースを聞いた。

昨日ロンドン・ボナムズで開催された、日本漆工芸作品を中心とした個人コレクション・セールで、会場でビッドをしていた或る人物が突然脳梗塞を起して倒れ、病院に運ばれたが死亡してしまったとの事。この事件が起きたのは、オークション終了のほんの数ロット前だったらしく、急ぎオークションは中断されたらしいが、こんな不幸な出来事は、筆者の18年間のキャリアでも初めて耳にした。時と場合に因っては無理な相談では有るが、オークションでは「出来る限り」興奮しない様にせねばならない…亡くなった方のご冥福をお祈りする。

さて今日は、「現代美術イヴニング・セール」の結果の話。先ずは、月曜に開催された「フィリップス」から。

作品数の少ないフィリップスは、レギュラーの「イヴニング」セールでは出品26点中22点売れ(84.6%)、1997万3000ドル(約16億1700万円)を記録。しかし、元クリスティーズ現代美術部門長で、現在ディーラーであるフィリップ・セガローがキュレートしたと云う「Carte Blanche」セールの方は、総額1億1705万5000ドル(約94億8150万円)を売り上げ、両セールを合わせると都合1億3702万8000ドル(約111億円)となり、フィリップス史上一晩での最高売上げ額のセールとなった。このセールでのトップロットは、昨日も記したがウォーホルの「Men in Her Life」で、4000-5000万ドルのエスティメイトに対して、6336万2500ドル(約51億3200万円)で売却…ウォーホル作品としては、オークション史上2番目に高額な作品となった。

次に、火曜日開催の「サザビーズ」。54点の出品中49点売れ(90.7%)、売り上げ総額2億2245万4500ドル(約180億1880万円)。1000万ドル以上で売却された作品は6点、トップロットはこちらもウォーホルの「Coca-Cola[4](Large Coca-Cola)」で、2000-2500万ドルのエスティメイトに対し3536万2500ドル(約28億6400万円)、次がロスコーの「Untitled」で、2248万2500ドル(約18億2100万円)であった。このセールは万遍無く売れた感が有るが、リヒターが2点共1000万ドル以上で売れ、強さを発揮したものの、リザーブ付近で売れた作品も多く、売主との直前の交渉等の苦労が偲ばれる。そして筆者が個人的に大好きだった、素晴しきベーコンの「Figure in Movement」も、700万ー1000万ドルのエスティメイトに対し、流石の1408万2500ドル(約11億4000万円)であった。

そして昨日開催された「クリスティーズ」はと云うと、出品76点中71点売れ(93.4%)ヴァリューでは92%、総額2億7287万3000ドル(約221億270万円)を売り、競合会社に対し5000万ドルの差をつけて「勝利」をモノにした。トップ・ロットは、ワールド・アーティスト・レコードを樹立した、リキテンスタインの「Ohhh…Alright…」で4264万2500ドル(約34億5400万円)、次点がウォーホルの「Big Campbell's Soup Can with Can Opener」で2388万2500ドル(約19億3500万円)であった。1000万ドル以上で売れた作品は、他にクーンズとリヒターの作品で計4点。売れるには売れたが、セール中は苦しい所も有り、1000万ドル付いたロスコーが不落札だったり、ウォーホルの「缶切り付きスープ」も3000万ドルからのエスティメイトに対し、ハンマー・プライスは2000万ドルちょっと…しかし非常に頑張ったセール、と云えるだろう。

そして今週のニューヨーク現代美術市場は、ウォーホルに因って席巻されたと云っても過言では無い。例えば、昨晩のクリスティーズのイヴニング・セールに出たウォーホル作品は、全部で15点有り(全出品作の19.7%)、勿論全品売れた末、総額7038万1500ドル(約57億90万円)を売り上げ、これは何とセール総売上の4分の1以上(25.8%)を占める。

そして此処で、上記3社のイヴニング・セール全体で見てみると、総出品数169点の内ウォーホル作品は23点(13.6%)、「只の一点も」不落札が無く全作品が売れ、総額1億8768万9500ドル(約152億280万円)を叩き出し、これは今週の現代美術イヴニング・セールの総売上、6億3235万5500ドル(約512億2080万円)の約3割(29.7%)にも及ぶのだ!

1人のアーティストの作品が此処まで売れ、「イヴニング」全体の売上げの3割に迄為るというのは、そう有る事では無い…と云うか、現代美術では空前絶後では無いか。

恐るべし、ウォーホル!…な「イヴニング」であった。

追加情報:因みに、今日開催のクリスティーズ「デイ・セール」には、ウォーホル作品が20点出品され、全て落札、890万9500ドル(約7億20160万円)を、ウォーホルは「追加」で稼ぎ出した。